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063話:第一回みどり村会議
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みどり村では、住民が増えたこともあって定期的に集会を行うことになった。
代表としてソンチョーが、
防衛担当としてスローク、
村全体の開発担当としてクリフト、
食品衛生担当としてマスター、
医療衛生担当としてマナ、
商人代表としてカブロとノブロフ、
職人代表としてギリョウとケンズ、
ハンター代表としてマルクとカストール、
飲食業代表としてクブロフとノイマーナ、
傭兵代表としてリゲルとゲルト、
ゴブリン代表としてンダバとハゾル、
オーク代表としてパラミドとパナ
総勢19名が参加して、村の運営や問題点の解決案を話し合う。
その第一回目の集会でソンチョーから一つの提案が出た。
「学校を作りたい?」
移住者の一斉受け入れ以後、外からの来訪者の受け入れはストップしている。
まずは村の中を安定させるためだ。
ほとんどの移住者がサンサテから出たことも無いような一般人だし、一応移住のための条件として読み書きできることとしてはいたけれど、あくまでグループに一人以上いればOKとしていたので、想定以上に読み書きができない人が多かった。
生活に必要な単語程度はみんな読めるけれど、文章を読み解いたり書いたりってことまではできないって人がほとんど、広場を含めて各所に掲示してある村のルールも、ちゃんと理解していない人が結構いるようなのだ。
「確かになぁ、今後のことを考えてもちゃんと読み書き計算くらいは習得してほしいとは思うけど、うまくいくか?みんな仕事持ちだし。」
その疑問に、多くの者が同意の声を上げた。
子供が多いならまだしも、移住者はほとんど単身者か、妻帯者でも夫だけ、いわば単身赴任して来ている。
危険な森の奥深くへ移住するんだから当然だと言えるだろう。
そういったわけで、学校を作ったとしても進んで学ぼうとしないのではないか、といった意見が商人や職人たちから上がった。
「俺たちも、冬の間は周辺調査でロクに稼げていないしな、新たに増えた連中も貯えをしてきたわけじゃない、まずは稼ぐことを優先しないと干上がる者も出てくるだろう。」
ハンターたちからしたら、読み書きも計算もさほど重要ではないと思うものも少なくないのだろう。
彼らにとって重要なのは、獲物の生態や急所、解体の技術だ。
文字も、求められる獲物の名前と数字程度が分かれば十分だった。
「ま、誰か一人出来れば十分だしな。」
傭兵たちも似たようなもので、チームの誰か一人が読み書きできれば仕事探しもできるし、単独の者は町や村の広場に掲げられた”討伐”、”狩猟”、”護衛”、”従軍”の単語さえ知っていれば何とかなる。
「でも、装備品とかをそろえたり、自分の稼ぎを正確に把握するためにも簡単な計算くらいは身に着けておいてもいいんじゃないかな。」
と、多くの否定的な意見にソンチョーはなんとか食らいつこうとする。
「ん~、あまり気にする者はいないからな、その日の稼ぎはその日の酒場で使う。
まぁ、多少ちょろまかされたりしてないとは言い切れんかもしれないが、気にするやつはいないだろうなぁ。」
とはマルクの反応。
(宵越しの金は持たねぇって、江戸時代の職人かよ。)
「俺らも似たようなもんだな、まぁ、材料の割り出しに加工にと簡単な計算程度は必要になるが、その程度なら身につけとるし。」
と、現職の職人、ケンズからの反応もいまいち。
「私としては、学校と言うものについては賛成です。ただ、今はまだ時期尚早と言ったように思うのです。」
発言してきたのは商人のノブロフだ。
「私共商人にとって読み書き計算は必須、丁稚として入った下働には最初にそう言った教育を行うのですが、これがなかなか難しく手間なのです。」
「そうですねぇ、私のような行商は、商隊に一人二人達者なものがいれば何とか回りますが、それでも苦労します。」
と、ノブロフに続いてカブロもやや肯定的に感じているようだが、やはり今では無いといった雰囲気だ。
飲食業のクブロフ達も似たようなもので、会計もその都度、料理か酒かで金額が違うだけなので、計算が出来なくてもなんとか立ち回っている。
「ソンチョー様の授業はとても分かりやすくて、皆感謝しております。」
控えめながらも賛同してくれたのはパラミド、続くようにンダバが、
「確かに、ソンチョー様の授業は素晴らしかったですな。
おかげでシン様から承った資材の仕分け作業も順調だし、算数と共にご教授いただいた作表技術のおかげで間違いも起こっていません。」
このンダバの言葉で、商人のみならずハンターや職人も雰囲気がガラリと変わった。
この村ではすでに、オークやゴブリンまでが読み書き計算を使いこなしている。
少なからぬ衝撃を受けた瞬間だった。
「まぁ、学校はもっと住人が増えてから考えるってことでいいんじゃ無いか?」
と、スロークがこの件を閉めようとした時、一番反対していたカストールから意外な反応が返ってきた。
「いや、出来るだけ早く始めよう。」
「え?」
180度路線変更したカストールだが、立ち上がり両手を腰に当てて、一人納得したようにうなずいている。
「あ、急にすまん。
実はな、冬の間ゴブリンのハンターたちに指導したりしたんだが、彼らの知性の高さに驚かされっぱなしだったんだ。
なるほど、ソンチョー殿から教えを受けていたんだな。」
カストールは大物狙いを得意とするハンターで、冬の間は周辺調査の他に村からの依頼と言う形でゴブリンたちへの指導も行っていた。
彼らは教えたことをすぐに習得し、さらには自分たち流に改良して見せるほどの優れた弟子だった。
しかも、矢じりや罠などといった装備品をなんとも効率的に準備し使う。
今までゴブリンは野蛮で原始的だと思ってきた分を差し引いても、その優秀さに舌を巻くしか無かった。
「そういやぁ、街道の護衛についた連中も優秀だったな。」
と、移住団の護衛としてやってきてそのまま移住を決めたゲルトにも思い当たる節があった。
その理由がソンチョーの授業によるのだとすれば、これは受けないわけにはいかない。
「むぅ・・・確かに、うちに来てるゴブリンも驚くほど優秀だ。
勤勉で真面目だからかと思っていたが、その土台が学校とやらか。」
と、ギリョウまでもがうなりだした。
こうして、暗雲立ち込めていた学校計画が正式に採用されることとなった。
**
マナから提案された衛生管理に関する内容は、ワタリビトからすればごく当たり前の内容だった。
手洗いとうがいの推奨。
コップなどの食器を使いまわさないこと。
この世界ではまだ、衛生管理などへの認識は極めて薄い。
食事の前にわざわざ手洗いなどしないし、屋外には水をためておく大きな瓶が置かれているだけだし、共同の水飲み場にはカップが野ざらしで置かれていて、みんながそれを使いまわす。
そんなことが当たり前だった。
この世界ではまだ経験していないようだが、コップ使いまわしが原因で感染症が広まり、多くの人々の命が失われたという事実がある。
その歴史を知るマナは、まずそこから改善しなければと衛生管理の項目の一つに加えたかった。
「しかしなぁ、俺たちは昔から、同じ盃を使うことで互いを信頼し合うって証(あかし)にしてきたんだが。」
「状況によっては死体から水袋を奪うこともある。俺たちにとっては死活問題だしな。」
ハンターのマルクが渋り、傭兵のゲルトがマルクに追随した。
命がけで危険な魔獣と対峙するハンターには、チームを組む仲間との信頼関係を確認し合うような行為が多い。
その中で最も良くされる行為が、一つのカップでチームみんなが酒を飲むという行為なのだ。
戦場に立つ傭兵は、最小限の装備で乱戦に挑まねばならず、負け戦ともなれば悲惨な状況に耐えなければならない。
死体から水や食料を奪うなどはごく当たり前の行為だった。
「戦場は例外として仕方ないだろうよ、俺らが良く受ける護衛任務ではそれほど悲惨な状況になることは無いからな、気を付けるとしよう。」
同じ傭兵でも、カブロの商隊護衛を受けることの多いリゲルは反応が違った。
「猟に出ている間の仲間内でって事なら、まだ許容はできるけど、出来ればしてほしくない行為ね。
戦場では・・・命を優先にするために仕方ないことね、でも忘れないで、飲み口が汚れていたりしたものはできるだけ避けてちょうだい。
あと、カップは最低限使った後、ちゃん洗うことだけは徹底してほしいのだけれど。」
マナも、古くから受け継がれてきた伝統や命がけの状況まで否定するつもりはないから、妥協点を提示することにした。
「まぁ、その程度なら気を付けられるだろうな。」
マルクもゲルトも、マナには散々世話になっている。
というか、多くの職人やハンター、傭兵から商人たち同様、彼女に惚れていた。
マルクも一応ハンターの代表として言うことは言い、伝統も守ったから顔も立ったのであっさりと引いた。
自分は伝統なんかよりもマナの推奨を守るつもりでいる。
ゲルトもここではおとなしく引き下がった。
元より、この村に移住することを決めたのだ、もう戦場に出ることは無いだろう。
「水道ができてから井戸で水を飲むこともあまりなくなったしな、俺らも賛成しよう。」
元より回し飲みと言う習慣の無い商人や、わざわざ井戸に行かなくてもよくなった職人たち、飲食業者たちも賛同し、マナの発案は一部訂正後に全会一致で採用された。
**
「エグみの無いこの村の食材の件なんだが、いつ頃出してもらえるんだろうか。」
おずおずと声を上げたクブロフ。
本来は無口で料理だけが取り柄のクブロフだが、集会に参加する以上これだけは絶対に言って来いと、ベリッサから何度も言われてきたのだ。
(全く、なんで俺がこんな場所にいるんだ?こういうことならあいつが来ればいいのに。)
と、無茶ぶりを強要した妻に心の中で毒づいた。
(息子も調理場で修業を始めようかってときから無駄にデカくなって厨房に入れなくなるし、爺さんの代から続いた食堂は売られちまうし、あげくこんな、飲食業界の代表なんて。)
胃がキリキリと痛む気がする。
「まだしばらくは現状維持になります、作物の収穫が進めば下ろせるようになると思うんですが、農地の開拓もこれからになりますので、当面は干し肉とミード酒がメインになります。
生肉に関してはハンターの皆さん次第ですが、少しずつ出せるようになると思います。」
と、ソンチョーからの返答に続き、マスターが立ち上がった。
「生肉の方ですが、出荷の目途が立った段階で取り扱いや調理法の講習を行おうと思います。
皆さん干し肉かボイル以外で生肉からの調理は経験が無いと思いますので。」
クブロフはホッと胸をなでおろした。
店の準備のため先行して村に来ていたが、ベリッサからしっかり料理を勉強ておけと宿題を出されていた。
よし、やってやるぞとマスターの食堂に足を運んで一口、心意気は脆くも砕かれてしまった。
あんな見事な味を自分ごときが盗もうなど、なんと愚かなことだろうと。
そんな彼の泣きごとを、移住してきたベリッサは一喝、あんた意外に誰ができるんだと、本来ベリッサが来るはずだったこの場へと彼を送り出したのだ。
とりあえず宿題は果たせた。
生肉を取り扱えるようになる時期は近い、一応調理法も学ぶチャンスを得たのだ、ベリッサもこれくらいで納得してくれるだろう。
**
最後に議題として挙がったのは、商人のノブロフからだった。
「大変立派ではあるのですが、道はこれほど必要なのでしょうか?」
現在、みどり村の道は細くても幅10m、メインストリートとも呼ぶべき森の街道から守護神像のある広場までの道は、幅が20mもある。
今のみどり村には完全に不釣り合いだし、そのスペースを自分達の店に使えれば、なんて思うのだ。
「その件は私がご説明します。」
そう言ってクリフトが立ち上がった。
「今後守護神像の加護の力が増すことを想定して、現在村の整備計画は1万人規模を想定して作っています。」
その一言で、商人や職人たちは愕然とした。
対照的にポカンとしているのはハンターと飲食業だ。
領都などを知る商人、職人や傭兵と違い、サンサテくらいしか知らないハンターたちはピンと来ていない。
この国では、長さの単位はセイロンと言う。
金貨1枚の直径を基準にしたものとされているが、1セイロンは金貨の直径よりも若干長く、財務局が金をケチって、昔より金貨が小さくなっている、なんて噂がまことしやかに流れている。
ちなみに、1セイロンは2.7cmに相当する。
ソンチョーの家から持ち出された工具の中には定規やメジャー、差し金、ノギスなどの長さを測るための工具があるが、それらはみんなメートル法で作られている。
当然ワタリビトたちが使う長さの単位もメートル法で、クリフトの引いた図面も同じである。
メインストリートの道幅をこの国の単位に当てはめると、740.740740・・・セイロンになる。
非常に面倒なので、ワタリビト達は普段からメートルを使っており、ギリョウたちも道具類に興味を持ったところからメートルでの作業に挑戦しだしていた。
話は戻るが、1万人規模となると、彼らが暮らしていたカルケール伯爵領の領都並の人口になる。
それを見越しての区割りなど、本来ならバカバカしい夢物語だ。
この村でなければ。
理解できたものたちが胸を熱くし、第一回の集会は無事終えることとなった。
**
学校構想は早々に開始されることとなった。
とはいえ、住人の生活もある、今はまだ、みんな仕事を持った成人ばかりが暮らす村だからだ。
まずは午後と夜の二回、希望者が集まってソンチョーが授業を行う、学校というよりも寺子屋的な感じでのスタートになった。
授業は5日間は全く同じ内容を繰り返し、2日間休むというスケジュール。
5日間で計10回行う同じ授業のうち、一回でも参加していければ取りこぼしなく学ぶことができるし、2回目、3回目と復習だってできる。
仕事の合間を縫ってでも参加しやすいようにと言う配慮だ。
倉庫用にと新たに建造された広めの小屋を教室代わりに使って始まった授業は、予想に反して大盛況だった。
ソンチョーの思いとは若干ズレがあったようだが。
彼らの学習意欲は、このままではゴブリンやオークに後れを取ることになる、という不安や焦りから発生したものだったのだ。
結果良ければすべてよし。
カテキョーチートの効果だけでなく、ポスドクと言う立場から大学で授業の補佐をしたり、家庭教師のアルバイトをしていたソンチョーの教え方も手慣れていてうまかったこともあって、参加者はみるみる成果を上げていった。
学校の本格運用まではまだ長い道のりだが、確かな手ごたえを感じるソンチョーだった。
代表としてソンチョーが、
防衛担当としてスローク、
村全体の開発担当としてクリフト、
食品衛生担当としてマスター、
医療衛生担当としてマナ、
商人代表としてカブロとノブロフ、
職人代表としてギリョウとケンズ、
ハンター代表としてマルクとカストール、
飲食業代表としてクブロフとノイマーナ、
傭兵代表としてリゲルとゲルト、
ゴブリン代表としてンダバとハゾル、
オーク代表としてパラミドとパナ
総勢19名が参加して、村の運営や問題点の解決案を話し合う。
その第一回目の集会でソンチョーから一つの提案が出た。
「学校を作りたい?」
移住者の一斉受け入れ以後、外からの来訪者の受け入れはストップしている。
まずは村の中を安定させるためだ。
ほとんどの移住者がサンサテから出たことも無いような一般人だし、一応移住のための条件として読み書きできることとしてはいたけれど、あくまでグループに一人以上いればOKとしていたので、想定以上に読み書きができない人が多かった。
生活に必要な単語程度はみんな読めるけれど、文章を読み解いたり書いたりってことまではできないって人がほとんど、広場を含めて各所に掲示してある村のルールも、ちゃんと理解していない人が結構いるようなのだ。
「確かになぁ、今後のことを考えてもちゃんと読み書き計算くらいは習得してほしいとは思うけど、うまくいくか?みんな仕事持ちだし。」
その疑問に、多くの者が同意の声を上げた。
子供が多いならまだしも、移住者はほとんど単身者か、妻帯者でも夫だけ、いわば単身赴任して来ている。
危険な森の奥深くへ移住するんだから当然だと言えるだろう。
そういったわけで、学校を作ったとしても進んで学ぼうとしないのではないか、といった意見が商人や職人たちから上がった。
「俺たちも、冬の間は周辺調査でロクに稼げていないしな、新たに増えた連中も貯えをしてきたわけじゃない、まずは稼ぐことを優先しないと干上がる者も出てくるだろう。」
ハンターたちからしたら、読み書きも計算もさほど重要ではないと思うものも少なくないのだろう。
彼らにとって重要なのは、獲物の生態や急所、解体の技術だ。
文字も、求められる獲物の名前と数字程度が分かれば十分だった。
「ま、誰か一人出来れば十分だしな。」
傭兵たちも似たようなもので、チームの誰か一人が読み書きできれば仕事探しもできるし、単独の者は町や村の広場に掲げられた”討伐”、”狩猟”、”護衛”、”従軍”の単語さえ知っていれば何とかなる。
「でも、装備品とかをそろえたり、自分の稼ぎを正確に把握するためにも簡単な計算くらいは身に着けておいてもいいんじゃないかな。」
と、多くの否定的な意見にソンチョーはなんとか食らいつこうとする。
「ん~、あまり気にする者はいないからな、その日の稼ぎはその日の酒場で使う。
まぁ、多少ちょろまかされたりしてないとは言い切れんかもしれないが、気にするやつはいないだろうなぁ。」
とはマルクの反応。
(宵越しの金は持たねぇって、江戸時代の職人かよ。)
「俺らも似たようなもんだな、まぁ、材料の割り出しに加工にと簡単な計算程度は必要になるが、その程度なら身につけとるし。」
と、現職の職人、ケンズからの反応もいまいち。
「私としては、学校と言うものについては賛成です。ただ、今はまだ時期尚早と言ったように思うのです。」
発言してきたのは商人のノブロフだ。
「私共商人にとって読み書き計算は必須、丁稚として入った下働には最初にそう言った教育を行うのですが、これがなかなか難しく手間なのです。」
「そうですねぇ、私のような行商は、商隊に一人二人達者なものがいれば何とか回りますが、それでも苦労します。」
と、ノブロフに続いてカブロもやや肯定的に感じているようだが、やはり今では無いといった雰囲気だ。
飲食業のクブロフ達も似たようなもので、会計もその都度、料理か酒かで金額が違うだけなので、計算が出来なくてもなんとか立ち回っている。
「ソンチョー様の授業はとても分かりやすくて、皆感謝しております。」
控えめながらも賛同してくれたのはパラミド、続くようにンダバが、
「確かに、ソンチョー様の授業は素晴らしかったですな。
おかげでシン様から承った資材の仕分け作業も順調だし、算数と共にご教授いただいた作表技術のおかげで間違いも起こっていません。」
このンダバの言葉で、商人のみならずハンターや職人も雰囲気がガラリと変わった。
この村ではすでに、オークやゴブリンまでが読み書き計算を使いこなしている。
少なからぬ衝撃を受けた瞬間だった。
「まぁ、学校はもっと住人が増えてから考えるってことでいいんじゃ無いか?」
と、スロークがこの件を閉めようとした時、一番反対していたカストールから意外な反応が返ってきた。
「いや、出来るだけ早く始めよう。」
「え?」
180度路線変更したカストールだが、立ち上がり両手を腰に当てて、一人納得したようにうなずいている。
「あ、急にすまん。
実はな、冬の間ゴブリンのハンターたちに指導したりしたんだが、彼らの知性の高さに驚かされっぱなしだったんだ。
なるほど、ソンチョー殿から教えを受けていたんだな。」
カストールは大物狙いを得意とするハンターで、冬の間は周辺調査の他に村からの依頼と言う形でゴブリンたちへの指導も行っていた。
彼らは教えたことをすぐに習得し、さらには自分たち流に改良して見せるほどの優れた弟子だった。
しかも、矢じりや罠などといった装備品をなんとも効率的に準備し使う。
今までゴブリンは野蛮で原始的だと思ってきた分を差し引いても、その優秀さに舌を巻くしか無かった。
「そういやぁ、街道の護衛についた連中も優秀だったな。」
と、移住団の護衛としてやってきてそのまま移住を決めたゲルトにも思い当たる節があった。
その理由がソンチョーの授業によるのだとすれば、これは受けないわけにはいかない。
「むぅ・・・確かに、うちに来てるゴブリンも驚くほど優秀だ。
勤勉で真面目だからかと思っていたが、その土台が学校とやらか。」
と、ギリョウまでもがうなりだした。
こうして、暗雲立ち込めていた学校計画が正式に採用されることとなった。
**
マナから提案された衛生管理に関する内容は、ワタリビトからすればごく当たり前の内容だった。
手洗いとうがいの推奨。
コップなどの食器を使いまわさないこと。
この世界ではまだ、衛生管理などへの認識は極めて薄い。
食事の前にわざわざ手洗いなどしないし、屋外には水をためておく大きな瓶が置かれているだけだし、共同の水飲み場にはカップが野ざらしで置かれていて、みんながそれを使いまわす。
そんなことが当たり前だった。
この世界ではまだ経験していないようだが、コップ使いまわしが原因で感染症が広まり、多くの人々の命が失われたという事実がある。
その歴史を知るマナは、まずそこから改善しなければと衛生管理の項目の一つに加えたかった。
「しかしなぁ、俺たちは昔から、同じ盃を使うことで互いを信頼し合うって証(あかし)にしてきたんだが。」
「状況によっては死体から水袋を奪うこともある。俺たちにとっては死活問題だしな。」
ハンターのマルクが渋り、傭兵のゲルトがマルクに追随した。
命がけで危険な魔獣と対峙するハンターには、チームを組む仲間との信頼関係を確認し合うような行為が多い。
その中で最も良くされる行為が、一つのカップでチームみんなが酒を飲むという行為なのだ。
戦場に立つ傭兵は、最小限の装備で乱戦に挑まねばならず、負け戦ともなれば悲惨な状況に耐えなければならない。
死体から水や食料を奪うなどはごく当たり前の行為だった。
「戦場は例外として仕方ないだろうよ、俺らが良く受ける護衛任務ではそれほど悲惨な状況になることは無いからな、気を付けるとしよう。」
同じ傭兵でも、カブロの商隊護衛を受けることの多いリゲルは反応が違った。
「猟に出ている間の仲間内でって事なら、まだ許容はできるけど、出来ればしてほしくない行為ね。
戦場では・・・命を優先にするために仕方ないことね、でも忘れないで、飲み口が汚れていたりしたものはできるだけ避けてちょうだい。
あと、カップは最低限使った後、ちゃん洗うことだけは徹底してほしいのだけれど。」
マナも、古くから受け継がれてきた伝統や命がけの状況まで否定するつもりはないから、妥協点を提示することにした。
「まぁ、その程度なら気を付けられるだろうな。」
マルクもゲルトも、マナには散々世話になっている。
というか、多くの職人やハンター、傭兵から商人たち同様、彼女に惚れていた。
マルクも一応ハンターの代表として言うことは言い、伝統も守ったから顔も立ったのであっさりと引いた。
自分は伝統なんかよりもマナの推奨を守るつもりでいる。
ゲルトもここではおとなしく引き下がった。
元より、この村に移住することを決めたのだ、もう戦場に出ることは無いだろう。
「水道ができてから井戸で水を飲むこともあまりなくなったしな、俺らも賛成しよう。」
元より回し飲みと言う習慣の無い商人や、わざわざ井戸に行かなくてもよくなった職人たち、飲食業者たちも賛同し、マナの発案は一部訂正後に全会一致で採用された。
**
「エグみの無いこの村の食材の件なんだが、いつ頃出してもらえるんだろうか。」
おずおずと声を上げたクブロフ。
本来は無口で料理だけが取り柄のクブロフだが、集会に参加する以上これだけは絶対に言って来いと、ベリッサから何度も言われてきたのだ。
(全く、なんで俺がこんな場所にいるんだ?こういうことならあいつが来ればいいのに。)
と、無茶ぶりを強要した妻に心の中で毒づいた。
(息子も調理場で修業を始めようかってときから無駄にデカくなって厨房に入れなくなるし、爺さんの代から続いた食堂は売られちまうし、あげくこんな、飲食業界の代表なんて。)
胃がキリキリと痛む気がする。
「まだしばらくは現状維持になります、作物の収穫が進めば下ろせるようになると思うんですが、農地の開拓もこれからになりますので、当面は干し肉とミード酒がメインになります。
生肉に関してはハンターの皆さん次第ですが、少しずつ出せるようになると思います。」
と、ソンチョーからの返答に続き、マスターが立ち上がった。
「生肉の方ですが、出荷の目途が立った段階で取り扱いや調理法の講習を行おうと思います。
皆さん干し肉かボイル以外で生肉からの調理は経験が無いと思いますので。」
クブロフはホッと胸をなでおろした。
店の準備のため先行して村に来ていたが、ベリッサからしっかり料理を勉強ておけと宿題を出されていた。
よし、やってやるぞとマスターの食堂に足を運んで一口、心意気は脆くも砕かれてしまった。
あんな見事な味を自分ごときが盗もうなど、なんと愚かなことだろうと。
そんな彼の泣きごとを、移住してきたベリッサは一喝、あんた意外に誰ができるんだと、本来ベリッサが来るはずだったこの場へと彼を送り出したのだ。
とりあえず宿題は果たせた。
生肉を取り扱えるようになる時期は近い、一応調理法も学ぶチャンスを得たのだ、ベリッサもこれくらいで納得してくれるだろう。
**
最後に議題として挙がったのは、商人のノブロフからだった。
「大変立派ではあるのですが、道はこれほど必要なのでしょうか?」
現在、みどり村の道は細くても幅10m、メインストリートとも呼ぶべき森の街道から守護神像のある広場までの道は、幅が20mもある。
今のみどり村には完全に不釣り合いだし、そのスペースを自分達の店に使えれば、なんて思うのだ。
「その件は私がご説明します。」
そう言ってクリフトが立ち上がった。
「今後守護神像の加護の力が増すことを想定して、現在村の整備計画は1万人規模を想定して作っています。」
その一言で、商人や職人たちは愕然とした。
対照的にポカンとしているのはハンターと飲食業だ。
領都などを知る商人、職人や傭兵と違い、サンサテくらいしか知らないハンターたちはピンと来ていない。
この国では、長さの単位はセイロンと言う。
金貨1枚の直径を基準にしたものとされているが、1セイロンは金貨の直径よりも若干長く、財務局が金をケチって、昔より金貨が小さくなっている、なんて噂がまことしやかに流れている。
ちなみに、1セイロンは2.7cmに相当する。
ソンチョーの家から持ち出された工具の中には定規やメジャー、差し金、ノギスなどの長さを測るための工具があるが、それらはみんなメートル法で作られている。
当然ワタリビトたちが使う長さの単位もメートル法で、クリフトの引いた図面も同じである。
メインストリートの道幅をこの国の単位に当てはめると、740.740740・・・セイロンになる。
非常に面倒なので、ワタリビト達は普段からメートルを使っており、ギリョウたちも道具類に興味を持ったところからメートルでの作業に挑戦しだしていた。
話は戻るが、1万人規模となると、彼らが暮らしていたカルケール伯爵領の領都並の人口になる。
それを見越しての区割りなど、本来ならバカバカしい夢物語だ。
この村でなければ。
理解できたものたちが胸を熱くし、第一回の集会は無事終えることとなった。
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学校構想は早々に開始されることとなった。
とはいえ、住人の生活もある、今はまだ、みんな仕事を持った成人ばかりが暮らす村だからだ。
まずは午後と夜の二回、希望者が集まってソンチョーが授業を行う、学校というよりも寺子屋的な感じでのスタートになった。
授業は5日間は全く同じ内容を繰り返し、2日間休むというスケジュール。
5日間で計10回行う同じ授業のうち、一回でも参加していければ取りこぼしなく学ぶことができるし、2回目、3回目と復習だってできる。
仕事の合間を縫ってでも参加しやすいようにと言う配慮だ。
倉庫用にと新たに建造された広めの小屋を教室代わりに使って始まった授業は、予想に反して大盛況だった。
ソンチョーの思いとは若干ズレがあったようだが。
彼らの学習意欲は、このままではゴブリンやオークに後れを取ることになる、という不安や焦りから発生したものだったのだ。
結果良ければすべてよし。
カテキョーチートの効果だけでなく、ポスドクと言う立場から大学で授業の補佐をしたり、家庭教師のアルバイトをしていたソンチョーの教え方も手慣れていてうまかったこともあって、参加者はみるみる成果を上げていった。
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それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
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