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065話:出会い
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俺は、壁から突然現れた手によって狭い窪みへと引っ張り込まれていた。
強い力ではなかったけれど、なんでだか逆らわずに従ったほうが良い気がしたからだ。
すぐ後ろにはオオトカゲがいる。
足音どころか、荒い息遣いまで聞こえる。
このまま背中からガブリ、だけは御免こうむりたい。
が、どうやらオオトカゲはこちらを見つけることができずにいるようだ。
しばらく辺りをウロウロと見回していたが、諦めたのか引き返していった。
何かのゲームの力なのは明らかだ。
オオトカゲが去る様子を耳で感じながら息を潜める。
手の主が助けてくれたのは間違いない。
オオトカゲが去ってしばらくしてから、ようやく一息つくと、掴まれていた手首が放された。
「ありがとう、助かりました。」
ようやく感謝の言葉を伝えられた。
何かの能力で隠れられているのなら、まずは相手に合わせてジッと静かにしていようようと考えたからだ。
恩人である相手は、壮年の渋いイケオジだった。
が、目からはとめどなく涙が出続けている。
「う・・・ぐ、ひっく・・・やっと・・・やっとひとに・・・ぐすっ・・・」
よく見れば、白い簡素な服・・・
恩人の彼は、この世界に引きずり込まれてからずっと一人でこの洞窟で過ごしてきたようだった。
**
引き込まれた窪みは上へと続いていて、その先が少し広い場所になっている、というので念のため移動した。
人に出会えたという事実をかみしめるように、静かに泣きじゃくるイケオジ。
声を押し殺して泣く姿は、何となく様になっている。
彼が落ち着くのを待ってからじっくりと話を聞くと、彼は魔物から逃げ隠れ、染み出る水滴で水分を取り、小さな虫のようなものを食べてなんとか生き延びて来たらしい。
感謝の気持ちとして、エイルヴァーン特製卵粥を取り出して進呈した。
これなら消化にいいし、水分も取れる。
あっという間に平らげて、再び泣きじゃくる彼。
またしばらく落ち着くのを待つことになった。
その後ゆっくりと話し合う。
彼は 坂塚 大輔。
36歳で、畜産業を営む両親とともに牛や豚、羊などを育てていたという。
プレイしていたゲームは、レトロゲームのスパイランナー。
ビルの中で敵から逃げ、隠れ、屋上にたどり着くと、ヘリがやってきて面クリアーというシンプルで、攻撃手段の一切ない超高難易度が売りのシビアなゲーム。
でも、そのおかげでここで生き残れてきたらしい。
一度”隠れる”という行動をとると、目の前に魔物がいても、動かない限り絶対に気づかれないらしいのだ。
「ただまぁ、あくまでも隠れるだけなんですよね、これ。」
そう言ってガックリとうつむく坂塚君。
「気づかれていなくても、魔物が振り回した腕が当たれば普通に怪我するし、おまけに隠れている間は動けないし。」
そう言って大きなため息を吐いた。
「隠れる場所を間違えると、相手の何気ない動きでも怪我しちゃったりで、ホント、生きた心地がしなかったんですよ。」
そう言う彼は、今まで何度も大ケガをしてきたという。
ゲーム要素のおかげか、隠れる行為を取っている間は異常なほどの回復力を発揮して、バキバキに砕けた骨も数十分で回復してしまうらしい。
これまではそうやって、何度も命の危機を脱してきたという。
真っ暗闇でも活動できたのは、最初から持っていた唯一のアイテム、サングラスのおかげだった。
「これかけると、全く光が無いところでもちゃんと見えるんですよ。」
こんな場所で生きてきただけに、普段の行動は自然とルーティーン化していて、水分や食料確保のための移動ルートも確立している。
今いる広場はあまり魔物が入ってこず、隠れるための岩影も豊富なため1日のほとんどをここで過ごしているんだそうだ。
水飲み場は危険な場所が多くていつも命がけ、今日もやっとのことでここまで戻ると、下の方から強烈な(彼にとっては)光を感じて、恐る恐る様子を見に行った先で俺を発見、すぐに追われていることに気が付いて助けてくれたんだそうだ。
(すまんね、助かったよ。)
しかし・・・見える範囲だけでも無数の傷痕が痛々しく見える。
「ほんどに・・・ここで・・・誰にも会うごどなぐ・・・じぬんだって・・・ぐすっ」
また泣き出してしまった。
どうやら、出口らしき場所は見つけているらしい。
ただ、出口手前に広い空間があって、そこには常に先ほどのオオトカゲが数匹たむろしていて、何度か挑戦したけどどうしても抜けることができなかったのだそうだ。
なるほど、広い空間ね。
なら何も問題ない。
「任せて、広ささえあれば十分戦えるから、一緒に脱出しましょう。」
と、バッチリな作り笑顔で伝えた。
うん、まぁ、フブキちゃんに頼ることになるけどさ。
FRP製の小舟にでも乗った気でいてくれ。
また泣き出しちゃった坂塚君を放っておいて、俺は彼にあいそうな装備を探すことにした。
ゲームでは戦えない仕様だったというけど、だとしても初期装備だった、ただの白い服じゃあ心もとない。
ゲームのキャラは黒いスーツにサングラス姿、ということ。
俺も何となく覚えている。
芸人さんが工場長に扮してレトロゲームを攻略するというネット番組で見た記憶がある。
でもあれ、たしかカセットに書かれたイラストには拳銃構えた姿が描かれてるんだよな。
工場長が「詐欺だこれ~」とか言ってた。
えぇと・・・あ、これこれ、MODの着せ替えツールを導入した時にサンプルとしてついてきた礼服一式、防御効果はないからミスリルシャツも進呈だ。
「どうも、ゲームを模倣した方が能力が強くなるみたいなんだよね。」
そう説明して、ひたすら恐縮する坂塚君に手渡した。
ついでに拳銃も。
もちろん、MODで見た目だけを変えた物で、実際のアイテムはスリングショット、いわゆるパチンコだ。
坂塚君の案内で狭い通路を移動する。
いや、坂塚君にとってはいつもの通り道なのかもだけどね、慣れない上に装備をつけてる俺にとってはちょっと・・・かなりキツイかった。
ひーひー言いながらやっとのことで目的地へ到着。
岩陰に潜んで慎重に広間の中の様子をうかがう。
たしかに4匹のオオトカゲがいる。
しかもデカい。
さっき追いかけられたオオトカゲとは比較にならないほど。
どれも頭からしっぽの先まで3mを超える大物だ。
「坂塚さんはここで隠れていてください。
これだけの広さがあれば魔物の仲間を呼び出せるので、ちょっと行って始末してきます。」
安心させるために、さも簡単そうに言ってはみたものの、どれくらいの強さか分からない、気を引き締めなければ。
マジックミサイルを3倍まで強化したうえ、しっかりと狙いをつける。
フブキを呼び出すと同時に飛び出すと、間髪入れずにマジックミサイルを発射。
狙いは一番近い個体に2発、他は各1発づつ。
全弾命中したが、結局1匹も倒れず。
3倍2発でも倒れないのはちょっとショックだ。
当たり所が良ければ、デモンエイプだって一発で始末できる3倍化なのに。
確かにあの時よりレベルはだいぶ低いし、命中した位置が急所ではなかったかもしれないけれど。
フブキが冷気のブレスを吐き、2匹が直撃を受けた。
ブレスの届かなかった2匹を剣で牽制しつつ、バインドで近い方の個体を縛る。
が、トカゲを縛るツタはあっけなく引きちぎられた。
飛び掛かってくるトカゲに切りつける。
重い手ごたえ。
与えたダメージは少なくないが、致命傷には程遠い。
魔素100%のくせに重いじゃないか。
もう一匹が迫ってくる。
牽制でノーマルのマジックミサイルを5発集中させると、先に切りつけた方にとどめを刺すために剣を振り上げた。
その時、何かが体当たりしてきた。
バランスを崩して倒れたが、とっさに体を回転させて距離を取った。
ん?
小さめのトカゲが増えている?
どこから湧いて出た?
(・・・ウソ・・・。)
とどめを刺そうとしたやつ、尻尾が無い?
トカゲのしっぽ切りどころか、尻尾がトカゲになりやがった!
こいつが本体並みに強かったらお手上げだった。
さすがにそんなことは無く、尻尾トカゲは軽く切り伏せることができたが、その間にマジックミサイルで牽制しておいた方がつっこんできた。
剣を振り上げて右前足を切り落とすと、そのまま右回転、遠心力を利用した一撃を顔面に叩きこんでとどめを刺した。
しっぽの無い方は、すでに逃げの体制だ。
アーストーンで足を串刺し、飛び上がりからの強撃で一丁上がり。
すぐにフブキの加勢に向かう。
フブキは最初に2発のマジックミサイルで深手を与えていた一匹を始末していた。
が、残ったもう1匹が厄介だった。
ひときわ大きい最後の一匹は、口から無数の細かいトゲのようなブレスを吐いてフブキを苦しめていた。
すぐに駆けつけて、横からトカゲの腹に、剣を深々と突き刺す。
暴れるトカゲに転がされ、顔を上げた目の前には、今まさにブレスを吐こうとするトカゲの口があった。
ヤバイ。
そう思ったとき、トカゲの顔が急に横を向き、ブレスがそれた。
坂塚君が体当たりをして方向をそらせたと気が付いた時には、坂塚君は邪魔されて怒ったオオトカゲに吹っ飛ばされていた。
マズイ。
「フブキ!」
一言で俺の意図を察したフブキは坂塚君の元へ、彼は任せた。
俺はオオトカゲの首元めがけて剣を叩きつける。
ゴリッとした手ごたえと共に鮮血が噴き出す。
不可解だ。
魔素100%じゃなかったっけ?
何で血が飛び散るんだ?と思っていたら、飛び散った血が砂粒のような粒子になって消えていった。
んな細かいところまで再現すんなよ。
頭上に剣を振り上げると、そのままトカゲの脳天に剣を突き立てた。
**
「任せろなんて言っておきながら助けられちゃいましたね。」
すぐ泣く彼は実に勇敢だった。
間一髪、岩に叩きつけられる直前の彼をフブキが間に入って守っていた。
ポーションで吹っ飛ばされた傷を治療すると、へたり込む坂塚君を助け起こして、フブキに乗せた。
騒ぎを聞きつけて他の魔物が出てきたらマズイ、さっさと洞窟を出よう。
再び通路は細くなり、曲がりくねる中を進むと広い空間に出た。
明るい。
天井はなく、森と空が見える。
登れそうな場所を見つけてよじ登ると、そこは、最初に見つけた大穴だった。
さんざん動き回されて、落ちた穴のすぐ横に出てきたわけだ。
なんかムカつく。
もう同じ過ちは繰り返さないぞ、とばかりに魔導地図を見ながら真っすぐ北を目指すことにした。
道中は坂塚君とこれまでのあれこれを話しながらのんびりと。
急ぐとろくなことが起こらないことは学習した。
村の話、特に、今頃は畜産もできるようになってるだろうなんて話をしたときは目を輝かせていた。
「そんなすごい村で僕なんかがやっていけるのかって思っていたんですけど、牛や豚相手なら任せてください。」
目を輝かせる彼の呼び方はウシオに決定した。
SNSで使っていたという牛男が由来だ。
襲撃の件も隠さずに話したよ。
俺が一度死んだことも含めて。
悪魔とのやり取りは、まだ真実なのか確信が持てないので伏せたけれど。
どうも、クソ悪魔と丸悪魔の話に矛盾を感じて整理しきれていない。
整理する余裕もなかったしね。
村についてゆっくり出来たら考えよう。
「いやぁ、それにしても、まさか自分がこんな渋いオジサンになってるなんて思いもしなかったですよ。
なんか、違和感があるなぁとは感じてましたけど。」
隠れていると回復速度が異常に早くなるという能力はあっても、傷の痕までは治っていなかった。
かなりの大怪我も度々あったそうで、その痕があまりにも痛々しかった。
生き返って貯蔵庫内が復活(出戻り?)していたので、キャラメイクをやり直せる鏡台を使ってもらうことにした。
オジサン姿はいやかもしれないしね。
それで初めて自分の姿を知ったようで、その姿がいたく気に入って傷跡を消すだけにしたようだ。
まぁ、確かにハリウッドスターみたいだもんね。
ゲームの箱に描かれていたイメージイラストに似ていると言っていたから、そうなんだろう。
一応念のため、拉致直前の6時間に他のゲームをやっていなかったか聞いてみたら、往年の名作、セフィウスをやっていたという。
見下ろし型の2Dシューティングゲーム、これもレトロゲームだ。
宇宙船でエイリアンの敵基地を攻撃していく系のゲームだったよな・・・宇宙船って、再現しようがないんじゃないのか?
他にも再現しようがないゲームプレイしていた人も巻き込まれてるのかな・・・。
そんなことを考えながら森を北へ。
ん?
魔導地図がおかしい。
左手に家が表示されている。
でも、どう見ても何もない。
っていうか、こんなところに家?
「どうしました?」
立ち止まって左側を凝視する俺に、不思議そうに近寄って魔導地図をのぞき込むウシオ。
「なにもないよね。」
目線は外さず聞いてみた。
「ですね。この地図が間違ってるってことは無いですよね。」
彼にも見えないようだ。
一応、調べてみようか。
厄介ごとのにおいがするけど、無視するわけにもいかない。
慎重に近づく。
なぜだかワクワクしていたりする。
「魔法か何かで隠蔽されてるってことでしょうか、なんか、王道ですよね。」
ウシオもムネドキを抑えられないようだ。
洞窟探索でいろいろとマヒしてるのかもしれない。
慎重に、地図で家が描かれている場所に向かって進む。
家が描かれていた場所に一歩踏み込むと、突然目の前の光景が変わった。
「家だ。」
ウシオの、そのまんまな感想が聞こえた。
強い力ではなかったけれど、なんでだか逆らわずに従ったほうが良い気がしたからだ。
すぐ後ろにはオオトカゲがいる。
足音どころか、荒い息遣いまで聞こえる。
このまま背中からガブリ、だけは御免こうむりたい。
が、どうやらオオトカゲはこちらを見つけることができずにいるようだ。
しばらく辺りをウロウロと見回していたが、諦めたのか引き返していった。
何かのゲームの力なのは明らかだ。
オオトカゲが去る様子を耳で感じながら息を潜める。
手の主が助けてくれたのは間違いない。
オオトカゲが去ってしばらくしてから、ようやく一息つくと、掴まれていた手首が放された。
「ありがとう、助かりました。」
ようやく感謝の言葉を伝えられた。
何かの能力で隠れられているのなら、まずは相手に合わせてジッと静かにしていようようと考えたからだ。
恩人である相手は、壮年の渋いイケオジだった。
が、目からはとめどなく涙が出続けている。
「う・・・ぐ、ひっく・・・やっと・・・やっとひとに・・・ぐすっ・・・」
よく見れば、白い簡素な服・・・
恩人の彼は、この世界に引きずり込まれてからずっと一人でこの洞窟で過ごしてきたようだった。
**
引き込まれた窪みは上へと続いていて、その先が少し広い場所になっている、というので念のため移動した。
人に出会えたという事実をかみしめるように、静かに泣きじゃくるイケオジ。
声を押し殺して泣く姿は、何となく様になっている。
彼が落ち着くのを待ってからじっくりと話を聞くと、彼は魔物から逃げ隠れ、染み出る水滴で水分を取り、小さな虫のようなものを食べてなんとか生き延びて来たらしい。
感謝の気持ちとして、エイルヴァーン特製卵粥を取り出して進呈した。
これなら消化にいいし、水分も取れる。
あっという間に平らげて、再び泣きじゃくる彼。
またしばらく落ち着くのを待つことになった。
その後ゆっくりと話し合う。
彼は 坂塚 大輔。
36歳で、畜産業を営む両親とともに牛や豚、羊などを育てていたという。
プレイしていたゲームは、レトロゲームのスパイランナー。
ビルの中で敵から逃げ、隠れ、屋上にたどり着くと、ヘリがやってきて面クリアーというシンプルで、攻撃手段の一切ない超高難易度が売りのシビアなゲーム。
でも、そのおかげでここで生き残れてきたらしい。
一度”隠れる”という行動をとると、目の前に魔物がいても、動かない限り絶対に気づかれないらしいのだ。
「ただまぁ、あくまでも隠れるだけなんですよね、これ。」
そう言ってガックリとうつむく坂塚君。
「気づかれていなくても、魔物が振り回した腕が当たれば普通に怪我するし、おまけに隠れている間は動けないし。」
そう言って大きなため息を吐いた。
「隠れる場所を間違えると、相手の何気ない動きでも怪我しちゃったりで、ホント、生きた心地がしなかったんですよ。」
そう言う彼は、今まで何度も大ケガをしてきたという。
ゲーム要素のおかげか、隠れる行為を取っている間は異常なほどの回復力を発揮して、バキバキに砕けた骨も数十分で回復してしまうらしい。
これまではそうやって、何度も命の危機を脱してきたという。
真っ暗闇でも活動できたのは、最初から持っていた唯一のアイテム、サングラスのおかげだった。
「これかけると、全く光が無いところでもちゃんと見えるんですよ。」
こんな場所で生きてきただけに、普段の行動は自然とルーティーン化していて、水分や食料確保のための移動ルートも確立している。
今いる広場はあまり魔物が入ってこず、隠れるための岩影も豊富なため1日のほとんどをここで過ごしているんだそうだ。
水飲み場は危険な場所が多くていつも命がけ、今日もやっとのことでここまで戻ると、下の方から強烈な(彼にとっては)光を感じて、恐る恐る様子を見に行った先で俺を発見、すぐに追われていることに気が付いて助けてくれたんだそうだ。
(すまんね、助かったよ。)
しかし・・・見える範囲だけでも無数の傷痕が痛々しく見える。
「ほんどに・・・ここで・・・誰にも会うごどなぐ・・・じぬんだって・・・ぐすっ」
また泣き出してしまった。
どうやら、出口らしき場所は見つけているらしい。
ただ、出口手前に広い空間があって、そこには常に先ほどのオオトカゲが数匹たむろしていて、何度か挑戦したけどどうしても抜けることができなかったのだそうだ。
なるほど、広い空間ね。
なら何も問題ない。
「任せて、広ささえあれば十分戦えるから、一緒に脱出しましょう。」
と、バッチリな作り笑顔で伝えた。
うん、まぁ、フブキちゃんに頼ることになるけどさ。
FRP製の小舟にでも乗った気でいてくれ。
また泣き出しちゃった坂塚君を放っておいて、俺は彼にあいそうな装備を探すことにした。
ゲームでは戦えない仕様だったというけど、だとしても初期装備だった、ただの白い服じゃあ心もとない。
ゲームのキャラは黒いスーツにサングラス姿、ということ。
俺も何となく覚えている。
芸人さんが工場長に扮してレトロゲームを攻略するというネット番組で見た記憶がある。
でもあれ、たしかカセットに書かれたイラストには拳銃構えた姿が描かれてるんだよな。
工場長が「詐欺だこれ~」とか言ってた。
えぇと・・・あ、これこれ、MODの着せ替えツールを導入した時にサンプルとしてついてきた礼服一式、防御効果はないからミスリルシャツも進呈だ。
「どうも、ゲームを模倣した方が能力が強くなるみたいなんだよね。」
そう説明して、ひたすら恐縮する坂塚君に手渡した。
ついでに拳銃も。
もちろん、MODで見た目だけを変えた物で、実際のアイテムはスリングショット、いわゆるパチンコだ。
坂塚君の案内で狭い通路を移動する。
いや、坂塚君にとってはいつもの通り道なのかもだけどね、慣れない上に装備をつけてる俺にとってはちょっと・・・かなりキツイかった。
ひーひー言いながらやっとのことで目的地へ到着。
岩陰に潜んで慎重に広間の中の様子をうかがう。
たしかに4匹のオオトカゲがいる。
しかもデカい。
さっき追いかけられたオオトカゲとは比較にならないほど。
どれも頭からしっぽの先まで3mを超える大物だ。
「坂塚さんはここで隠れていてください。
これだけの広さがあれば魔物の仲間を呼び出せるので、ちょっと行って始末してきます。」
安心させるために、さも簡単そうに言ってはみたものの、どれくらいの強さか分からない、気を引き締めなければ。
マジックミサイルを3倍まで強化したうえ、しっかりと狙いをつける。
フブキを呼び出すと同時に飛び出すと、間髪入れずにマジックミサイルを発射。
狙いは一番近い個体に2発、他は各1発づつ。
全弾命中したが、結局1匹も倒れず。
3倍2発でも倒れないのはちょっとショックだ。
当たり所が良ければ、デモンエイプだって一発で始末できる3倍化なのに。
確かにあの時よりレベルはだいぶ低いし、命中した位置が急所ではなかったかもしれないけれど。
フブキが冷気のブレスを吐き、2匹が直撃を受けた。
ブレスの届かなかった2匹を剣で牽制しつつ、バインドで近い方の個体を縛る。
が、トカゲを縛るツタはあっけなく引きちぎられた。
飛び掛かってくるトカゲに切りつける。
重い手ごたえ。
与えたダメージは少なくないが、致命傷には程遠い。
魔素100%のくせに重いじゃないか。
もう一匹が迫ってくる。
牽制でノーマルのマジックミサイルを5発集中させると、先に切りつけた方にとどめを刺すために剣を振り上げた。
その時、何かが体当たりしてきた。
バランスを崩して倒れたが、とっさに体を回転させて距離を取った。
ん?
小さめのトカゲが増えている?
どこから湧いて出た?
(・・・ウソ・・・。)
とどめを刺そうとしたやつ、尻尾が無い?
トカゲのしっぽ切りどころか、尻尾がトカゲになりやがった!
こいつが本体並みに強かったらお手上げだった。
さすがにそんなことは無く、尻尾トカゲは軽く切り伏せることができたが、その間にマジックミサイルで牽制しておいた方がつっこんできた。
剣を振り上げて右前足を切り落とすと、そのまま右回転、遠心力を利用した一撃を顔面に叩きこんでとどめを刺した。
しっぽの無い方は、すでに逃げの体制だ。
アーストーンで足を串刺し、飛び上がりからの強撃で一丁上がり。
すぐにフブキの加勢に向かう。
フブキは最初に2発のマジックミサイルで深手を与えていた一匹を始末していた。
が、残ったもう1匹が厄介だった。
ひときわ大きい最後の一匹は、口から無数の細かいトゲのようなブレスを吐いてフブキを苦しめていた。
すぐに駆けつけて、横からトカゲの腹に、剣を深々と突き刺す。
暴れるトカゲに転がされ、顔を上げた目の前には、今まさにブレスを吐こうとするトカゲの口があった。
ヤバイ。
そう思ったとき、トカゲの顔が急に横を向き、ブレスがそれた。
坂塚君が体当たりをして方向をそらせたと気が付いた時には、坂塚君は邪魔されて怒ったオオトカゲに吹っ飛ばされていた。
マズイ。
「フブキ!」
一言で俺の意図を察したフブキは坂塚君の元へ、彼は任せた。
俺はオオトカゲの首元めがけて剣を叩きつける。
ゴリッとした手ごたえと共に鮮血が噴き出す。
不可解だ。
魔素100%じゃなかったっけ?
何で血が飛び散るんだ?と思っていたら、飛び散った血が砂粒のような粒子になって消えていった。
んな細かいところまで再現すんなよ。
頭上に剣を振り上げると、そのままトカゲの脳天に剣を突き立てた。
**
「任せろなんて言っておきながら助けられちゃいましたね。」
すぐ泣く彼は実に勇敢だった。
間一髪、岩に叩きつけられる直前の彼をフブキが間に入って守っていた。
ポーションで吹っ飛ばされた傷を治療すると、へたり込む坂塚君を助け起こして、フブキに乗せた。
騒ぎを聞きつけて他の魔物が出てきたらマズイ、さっさと洞窟を出よう。
再び通路は細くなり、曲がりくねる中を進むと広い空間に出た。
明るい。
天井はなく、森と空が見える。
登れそうな場所を見つけてよじ登ると、そこは、最初に見つけた大穴だった。
さんざん動き回されて、落ちた穴のすぐ横に出てきたわけだ。
なんかムカつく。
もう同じ過ちは繰り返さないぞ、とばかりに魔導地図を見ながら真っすぐ北を目指すことにした。
道中は坂塚君とこれまでのあれこれを話しながらのんびりと。
急ぐとろくなことが起こらないことは学習した。
村の話、特に、今頃は畜産もできるようになってるだろうなんて話をしたときは目を輝かせていた。
「そんなすごい村で僕なんかがやっていけるのかって思っていたんですけど、牛や豚相手なら任せてください。」
目を輝かせる彼の呼び方はウシオに決定した。
SNSで使っていたという牛男が由来だ。
襲撃の件も隠さずに話したよ。
俺が一度死んだことも含めて。
悪魔とのやり取りは、まだ真実なのか確信が持てないので伏せたけれど。
どうも、クソ悪魔と丸悪魔の話に矛盾を感じて整理しきれていない。
整理する余裕もなかったしね。
村についてゆっくり出来たら考えよう。
「いやぁ、それにしても、まさか自分がこんな渋いオジサンになってるなんて思いもしなかったですよ。
なんか、違和感があるなぁとは感じてましたけど。」
隠れていると回復速度が異常に早くなるという能力はあっても、傷の痕までは治っていなかった。
かなりの大怪我も度々あったそうで、その痕があまりにも痛々しかった。
生き返って貯蔵庫内が復活(出戻り?)していたので、キャラメイクをやり直せる鏡台を使ってもらうことにした。
オジサン姿はいやかもしれないしね。
それで初めて自分の姿を知ったようで、その姿がいたく気に入って傷跡を消すだけにしたようだ。
まぁ、確かにハリウッドスターみたいだもんね。
ゲームの箱に描かれていたイメージイラストに似ていると言っていたから、そうなんだろう。
一応念のため、拉致直前の6時間に他のゲームをやっていなかったか聞いてみたら、往年の名作、セフィウスをやっていたという。
見下ろし型の2Dシューティングゲーム、これもレトロゲームだ。
宇宙船でエイリアンの敵基地を攻撃していく系のゲームだったよな・・・宇宙船って、再現しようがないんじゃないのか?
他にも再現しようがないゲームプレイしていた人も巻き込まれてるのかな・・・。
そんなことを考えながら森を北へ。
ん?
魔導地図がおかしい。
左手に家が表示されている。
でも、どう見ても何もない。
っていうか、こんなところに家?
「どうしました?」
立ち止まって左側を凝視する俺に、不思議そうに近寄って魔導地図をのぞき込むウシオ。
「なにもないよね。」
目線は外さず聞いてみた。
「ですね。この地図が間違ってるってことは無いですよね。」
彼にも見えないようだ。
一応、調べてみようか。
厄介ごとのにおいがするけど、無視するわけにもいかない。
慎重に近づく。
なぜだかワクワクしていたりする。
「魔法か何かで隠蔽されてるってことでしょうか、なんか、王道ですよね。」
ウシオもムネドキを抑えられないようだ。
洞窟探索でいろいろとマヒしてるのかもしれない。
慎重に、地図で家が描かれている場所に向かって進む。
家が描かれていた場所に一歩踏み込むと、突然目の前の光景が変わった。
「家だ。」
ウシオの、そのまんまな感想が聞こえた。
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そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
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