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066話:森の中の家
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魔導地図に導かれるまま進んだ先には、手入れの行き届いた大きな庭と家があった。
(これ、隠ぺいの魔法とかそう言うのだよな?)
一歩の差で、目の前の光景がガラリと変わった。
この世界でゲーム由来ではない魔法は初体験だ。
きれいに手入れされた広い庭には、様々な草花が植えられている。
その奥にはいかにもファンタジー系の漫画やアニメに出てきそうな木造りの家が。
年代物の平屋にはテラスがあって、軒下にはいろいろな草や花がぶら下がっている。
それだけでも十分感涙物の光景なのだが、さらにテンションが上がる姿が目に入った。
小さな、身長1mほどの草の塊でできた人形が何体も、トコトコと動き回っては植えられた草花の手入れらしきことをしていたのだ。
「ふぁんたじぃだ・・・。」
ポツリとウシオがつぶやいた。
ゴーレムってやつなんだろうか、おぼつかなく見える足取りがなんとも可愛らしい。
ボーっと木の葉のゴーレムを見ていると、家のドアが開いて女性が現れた。
「いまさら探しに来るはずも無いと思っていたけれど。」
厳しい表情でそう言うと、一気に周囲の空気が変わった。
ゴーレムたちが動きを止め、いっせいにこちらへ向きを変える。
鳥肌が立つような寒気を感じた。
「待ってください!敵意はありません。」
ウシオが両手をピンと真上に上げて、無抵抗の意思を表現した。
それはちょっと短絡的では?と思いつつ俺もそれにならった。
「この森で迷ってしまっていて、ここにきてしまったのは偶然なんです。」
必死に弁解するウシオ。
う~ん、嘘ではないけど、こんな森の奥深くに隠れて暮らす女性・・・普通じゃないよね。
"常識"さんも、ありえないと言っている。
まだ信頼に足る"常識"さんではないけれど。
でもまぁ、偶然でここに入れるわけが無いって、言われそうな気はしたけれど、こっちとしてはそう言うしかないよね。
だって、ここを見つけたのは間違いなく偶然だし。
チートアイテム使ってだけど。
「視覚操作と魔物除けだけでは足りなかったのね。」
ん?視覚操作に魔物除けだと?
それ、すごい興味あります。
「こんな深い森の中に迷い込むとは思えないけれど。」
ごもっともです。
でも、そんな場所に住んでいるあなたは何者なんでしょうか。
なんてことは絶対言わない。
一応空気読める系だと自負しておりますので。
いざ戦いになったらどう動こうか、バレないように周囲を確認する。
葉っぱゴーレムがどれくらい強いのかは分からないけれど、いかんせん数が多い。
戦いになったらフブキ以外の騎乗モンスターも呼び出すべきか?なんて思考を巡らせる。
「あぁあのですね、少し離れた場所に大きな洞窟があるんですけど、僕は、そこにいました、一人で。
いきなり真っ暗な洞窟の中で気が付いて・・・そのですね。
死に物狂いで何とか生きてこれたんですけど、こちらの、シンさんに助けてもらって、外に出ることができたんです。
なのでその・・・僕はここがどこか知らないんです。」
いや、そういうことじゃないんだけどな。
ただ、ウシオの必死さは伝わったようだ、女性は少し考えるそぶりを見せると、
「いつからそこにいたのかしら?」
そう聞いてきた。
「へ?いつから?その、真っ暗な中で時間の感覚も無くて・・・。」
「たぶん半年くらいか、俺も彼と似たような境遇でね、この森の中で気が付いた。
秋になる前だったと思う。
それからいろいろあって、偶然洞窟を発見したんだ。
迂回しようとしたんだけどね、脇に開いた小さな穴が草に覆われていて見落とした。
で、落ちた。」
隣でフブキがうなだれてしまった。
(いや、もう気にすんなって。)
「落ちた穴からは出られなかったんで、さ迷ってるうちに彼に助けられて、協力して脱出してきたところなんだ。」
まぁ、信じてくれなくてもいいさ。
信じてくれないならとっととお暇しますよ、と。
「そう、やっぱりあの時の異変は彼の仕業なのね。」
(ん?異変と彼だって?ちょっと待て、話が変わったぞ、ここでお暇するわけにはいかなくなった。)
「俺も彼も、この世界の人間ではありません。」
そう告げると、ウシオがびっくりした顔でこちらを見てきた。
うん、ここは言うべきだと思う、賭けだけど。
異変とは、俺たちがこの世界に来たことか魔物の氾濫のことを、彼とは、クソ悪魔のことを言っているのではないのか?と思ったからだ。
女性は考え込んでいる。
信じなくても、興味を持ってくれればいい。
そして、俺はどうやら賭けに勝ったようだ。
「まぁいいでしょう、王と関係ありそうには見えないし、とりあえずは歓迎しましょう。」
そう言うと、一気に緊張感が消えた。
人形たちも元の動きに戻っている。
(王?彼ってのはクソ悪魔のことじゃなかったのか?)
「いらっしゃい、私は家の外には出られないの、中で話を聞かせて。」
そう言うと、女性は家の中へ入っていった。
せっかくお招きいただいたので家の中へ。
(おぉ、魔女の家っぽい。)
ドライフラワーとでもいうのか、色とりどりの花が瓶に詰められていたり、天井から乾燥された草花がぶら下がっている。
棚には乳鉢のようなものや粉の入った瓶、木箱などが詰まっている。
丸いテーブルに小さな椅子が4つ、そのうち2つに座るように促されたので従うと、女性はガラス製のポットから木のカップに透明な液体を注いで二人に出してくれた。
「さて、あなたたちは何者?」
女性も椅子に座り、同じ飲み物に口をつけた。
エルフだ。
そう思ってしまったのは、先の尖った耳がチラリと見えたからだ。
美女だってのもあるけどね。
10人見たら、10人が美女だと感じるだろう。
ハリウッド女優のようなタイプの美女、という表現が一番近いか。
長いストレートのプラチナブロンドに、堀の深い顔立ち、透き通るような白い肌ってやつだ。
ちなみに、最近ラノベやアニメ界で勢力を拡大しているエロフ系ではない。
元祖エルフ、スレンダーで森の淑女と言った感じの、王道なエルフ女性だ。
と、余計なことを考えてる場合じゃないな。
「え~、自分達でも、よくわかってないんですよ、そもそも、異世界人って、信じます?」
ひどい会話だとはわかっている、語彙力の無さはレベルダウンで知識が下がってるせいだからってことにしても、どこまで話していいのか、どこまで理解してもらえるのか、どこまで信じてもらえそうか、と3つ同時に探りながらの会話だ。
今の俺には荷が重い。
「そう・・・あの人はまた、なにか起こそうとしているのね・・・。」
そう言うと、女性は悲痛そうに目を閉じてしまった。
そのまま沈黙・・・・
(ぬぅ・・・何か言うべきか?)
沈黙が耐えられぬ。
隣のウシオに助けを求めようと視線を移すと、彼は真っすぐ窓の外を見ていた。
(おい!)
窓の外には、牛?
よく知っている種類とは違うけど、牛っぽい何かが見える。
(あぁ、畜産関係でしたね、だからってこの雰囲気でそれはどうよ?
空気読め!ってかタスケテ。)
「えぇと、あの人というのがどなたのことかは分からないんですが、我々は元の世界で普通に生活していただけなのに、悪魔という存在?に突然拉致されて、自由にしろとこの世界に放り込まれまして。」
沈黙に耐えられないし、異世界の牛にくぎ付けのウシオは当てになりそうもないのでとりあえずこの世界に来ることになったいきさつとかを話すことにした。
たぶん、この人ならほとんどの話を受け入れてもらえそうな気がする。
もちろん襲撃のこととかの激しめのお話はオールカットで。
あ、後俺の封印した黒歴史もカットで。
促してようやく、ウシオも自分の境遇を話し始めた。
女性の目から涙がポロリと・・・。
「辛かったのね。」
そう言って、ウシオの手を握る美女。
牛のことも忘れてドギマギするウシオ。
そんなやり取りをしつつ魔導地図というアイテムで森からの脱出を図っていたところ、違和感に気が付いてここにきてしまったことを伝えた。
「驚きました。これほどの物があなた方の世界では普通に手に入るものなのですか?」
魔導地図を目にした彼女は、信じられないものを見るように地図を見つめている。
「あ~、なんていうんですかね、これは、う~ん、どういえば伝わるだろう・・・。」
テレビゲームなんて言っても伝わるはずがないし、これが現実のものではないといっても、ならなぜあるんだってことになるし。
「僕たちの世界では、物語の主人公や登場人物になれる遊びがあるんです、これらはその物語に出てくる魔法の道具なんです。」
お、ウシオ君ナイス。
「どうやら、我々はみんな同じタイミングで何かしらその遊び、ゲームをやっていたんです。
この世界に巻き込んだ悪魔の話だと、ゲームをしていた者を適当に選んだって事みたいです。」
うん、これでゲームってキーワードも使える、ウシオグッジョブだ。
「僕は隠れる事しか出来ないような不便な力しか使えないんですけどね、シンさんに出会えなければ一生あの中でした。」
頭をかきながら情けなさそうに言うウシオ。
いやいや、君は十分に勇敢だよ、俺、君がいなかったらトカゲにやられてたし。
そう思ったけど口には出さない。
さっき牛に首ったけで助けてくれなかったことはこれで不問にしてやろう。
その後も辺りが暗くなるまでいろいろなことを話した。
後半はクソ悪魔への愚痴ばかりになっちゃった気もするけれど。
で、その話の中で確認できたこと。
彼女はクソ悪魔のことを知らなかった。
ただ、直接は知らないだけでひょっとすると同じ悪魔なのかも、と言う存在については心当たりがあるらしい。
詳しく知りたかったけど、そういった話をしたときの彼女の表情で、あっさりと諦めて話題を変えた。
悲しさ、苦しさ、無念さと後悔。
一瞬の表情でこれらを理解できたことは、後にも先にもないだろう。
続けられるはずがない。
話題を変えるならやはりこれだろう、と言うことで聞いてみた。
結果、残念ながら彼女は、この世界で言うエルフでは無いと言う。
いや、と言うことは、やはりこの世界にはエルフがいるんだね、これは大収穫だ。
彼女は、「その祖先と言えなくもないかしら。」と訳ありげに微笑んだ。
むむ、先祖?
上位種とかいうのならハイエルフだけど、先祖?
う~ん、俺のファンタジー知識では思い浮かぶものが無いなぁ。
エンシェントエルフ、なんて聞いたことないしなぁ。
なんて考えているうちに日もだいぶ傾いてきた。
ということで、夕食をごちそうになることになった。
豆や葉、芋が中心の食事だったけど、久しぶりに落ち着いた雰囲気で美味しく頂いた。
(ん?
美味しい?
あれ?
エグみが無い!?)
あらかた平らげてからそのことに気が付いて、愕然と美女(ノエル)を凝視してしまった。
「苦手なものでもあったかしら。」
突然凝視した俺に不快感を示さず、不思議そうに見つめ返されてしまった。
「いえ、とても美味しかったです。
エグみが全くなかったんです・・・まさか、魔素抜きをご存じなんですか?」
そう、この世界ですべてに含まれ、エグみの原因でもある魔素は、現状俺とスローク意外に対処できないはずだった。
「そう・・・まだ外では対処できていないのね。」
そう答えたノエルさん、やっぱり原因と対処法を知っている。
「はい、エグみの原因が魔素だってことも、食材から魔素を抜く方法も、私と村の仲間以外にはまだ知られていないと思っていました。」
会話の中で、敬意を表すに値すると感じてからは彼女に対して敬語と、一人称を”私”に変えた。
「普段通りでいいのよ。」と気を使ってはくれたけれど、尊敬できる相手にため口というのはどうもしっくりこないのだ。
しかし、魔素抜きがこの世界の人々でも再現可能なら、世界中の食事情が大きく変わることになる。
というか、村の金策が瓦解することになる。
「世紀の大発見だ、なんてぬか喜びでしたね。」
うぬぼれていた、当然、魔道具を作れるような組織ならたどり着いてもおかしくないのかもしれない。
やべぇな、これ、他の金策を緊急で考えなければ。
「いいえ、貴方の発見は世紀の大発見で間違いないわ。」
優しく語りかけてきたノエルさん。
慰めのお言葉感謝です。
「実はね、私の家には魔素が入ってこれないの。
庭にもごく微量の魔素しか存在していないのよ。
庭で採れたものだけで作っているから、魔素の影響を受けていない、それだけなのよ。」
衝撃の事実だった。
(魔素が無い空間が再現可能なのか?ぶっちゃけそっちの方がスンゲェ~んですけど。
だって俺らの魔素抜き、もろゲームのチート頼みだし。)
「魔道具とか、そう言ったものですか?それとも、そう言った魔導印があるんですか?」
いかん、自分が止められない。
その技術があれば、もっと大規模に魔素抜き食材を作れるとか思ったら聞かずにはいられない。
「私の家位なら問題ないけれど、魔素の無い空間を作るということは、追い出された分、周囲に魔素の濃い空間ができるということでもあるの。
だから多用することはできないし、維持するには相当な力が必要なのよ。」
そう諭すように答えてくれたノエルさん。
(なるほどなるほど、つまり、それさえクリアできれば利用できるってことだな、良いことを知った。
こいつは、ジャパニーズドゲザでも何でもして教えを請わねば。
スマン、村のみんな、当分帰れないけど、俺いないくらいなんでもないよね。
ね!)
好奇心と知的欲求、それを包み込む程の大儲けへの期待を胸に、許可してもらうまで一歩も動きません、なんて気持ちで師事をお願いした。
ノエルさんはあっさり許してくれた。
なんか一人で熱くなっていた自分がハズい。
その日はそのままこの部屋に泊まらせていただくことになった。
貯蔵庫から毛布を取り出して床にごろ寝。
この機能にも興味を示してくれていたっけ。
あ、いちおう簡易拠点を出すのは控えたよ。
小さい小屋と言っても、お庭を壊しちゃいけないし。
毛布にくるまって横になると、すぐに睡魔が襲ってきた。
隣ではすでにウシオがイビキをかいている。
野〇のび太かよ。
**
食欲をそそる匂いで目覚めた。
ノエルさんはすでに起きていて、朝食の準備をしてくれていた。
あぁ、なんかいいな、こういうの。
向こうの世界含めて彼女いない歴生まれた時からだったし、家系的に早死にの一族だったから、彼女をつくろうと努力したことも無かったけど・・・しとけばよかったかな、なんて思えてしまう。
まぁ、したところでできたとは思えないが。
朝食なんていつも、出勤途中にコンビニで買うパンかおにぎりだったし。
村では俺が作ってたし。
マスターが来てからは食堂行って食べる毎日。
朝食作る音と臭いで目覚めるなんて、子供の頃以来だ。
(あ、そうか、6畳一間、簡易キッチン付きに家族4人で暮らしてたから経験した事があるんだ。
今はそんな家庭無いだろうから、母親が朝食作る音で目覚めるなんて、知らないんだろうな、なんかかわいそう・・・いやいや、下手したら今時はそんなん差別だとか女性蔑視だとか言われかねないのか、うん、ひとり身で良かった。)
挨拶して皿を出したりと朝食の準備をお手伝いしているとウシオも起きてきた。
朝食を食べながら、ウシオが親、俺が子に見えなくもない見た目だけど、実際は真逆で俺はアラフィフだって言ったら、「お二人ともお若いのねぇ。」なんて帰ってきた。
(え?
ノエルさんって一体・・・いや、聞きませんよ、女性に年齢聞くのはダメなんだよね?
あ、それも女性差別になるの?それとも、聞いても問題無しとされちゃってる男性差別になるの?
いやいや、ノエルさんは差別だなんて言いそうもないけれど、エルフ(祖先)ですもんね、そう言うことですよね?)
朝食後には、ウシオが家畜を見せてほしいと願い出て早々に家を出ていった。
室内には二人。
かなり確信に近いことも知っていそうだけど、どこまで話すべきか悩んでいた。
と、
「あなた方をこの世界に呼び込んだのは、細身の白い悪魔ね?」
何か察したのか、ノエルさんの方から話を振ってくれた。
「はい。それと、黒くて丸い悪魔とも会いました。」
俺自身が一度死んで、その先でうずくまる黒くて丸い悪魔に出会ったこと、その時の会話など、できる限り自分の解釈を省いて話した。
「そうなのね・・・おそらく、という程度だけれど。」
そう前置きをしたうえで、彼女の知りえる情報と、俺が提供した情報をすり合わせ、そこからノエルさんが出した推測を話してくれた。
(これ、隠ぺいの魔法とかそう言うのだよな?)
一歩の差で、目の前の光景がガラリと変わった。
この世界でゲーム由来ではない魔法は初体験だ。
きれいに手入れされた広い庭には、様々な草花が植えられている。
その奥にはいかにもファンタジー系の漫画やアニメに出てきそうな木造りの家が。
年代物の平屋にはテラスがあって、軒下にはいろいろな草や花がぶら下がっている。
それだけでも十分感涙物の光景なのだが、さらにテンションが上がる姿が目に入った。
小さな、身長1mほどの草の塊でできた人形が何体も、トコトコと動き回っては植えられた草花の手入れらしきことをしていたのだ。
「ふぁんたじぃだ・・・。」
ポツリとウシオがつぶやいた。
ゴーレムってやつなんだろうか、おぼつかなく見える足取りがなんとも可愛らしい。
ボーっと木の葉のゴーレムを見ていると、家のドアが開いて女性が現れた。
「いまさら探しに来るはずも無いと思っていたけれど。」
厳しい表情でそう言うと、一気に周囲の空気が変わった。
ゴーレムたちが動きを止め、いっせいにこちらへ向きを変える。
鳥肌が立つような寒気を感じた。
「待ってください!敵意はありません。」
ウシオが両手をピンと真上に上げて、無抵抗の意思を表現した。
それはちょっと短絡的では?と思いつつ俺もそれにならった。
「この森で迷ってしまっていて、ここにきてしまったのは偶然なんです。」
必死に弁解するウシオ。
う~ん、嘘ではないけど、こんな森の奥深くに隠れて暮らす女性・・・普通じゃないよね。
"常識"さんも、ありえないと言っている。
まだ信頼に足る"常識"さんではないけれど。
でもまぁ、偶然でここに入れるわけが無いって、言われそうな気はしたけれど、こっちとしてはそう言うしかないよね。
だって、ここを見つけたのは間違いなく偶然だし。
チートアイテム使ってだけど。
「視覚操作と魔物除けだけでは足りなかったのね。」
ん?視覚操作に魔物除けだと?
それ、すごい興味あります。
「こんな深い森の中に迷い込むとは思えないけれど。」
ごもっともです。
でも、そんな場所に住んでいるあなたは何者なんでしょうか。
なんてことは絶対言わない。
一応空気読める系だと自負しておりますので。
いざ戦いになったらどう動こうか、バレないように周囲を確認する。
葉っぱゴーレムがどれくらい強いのかは分からないけれど、いかんせん数が多い。
戦いになったらフブキ以外の騎乗モンスターも呼び出すべきか?なんて思考を巡らせる。
「あぁあのですね、少し離れた場所に大きな洞窟があるんですけど、僕は、そこにいました、一人で。
いきなり真っ暗な洞窟の中で気が付いて・・・そのですね。
死に物狂いで何とか生きてこれたんですけど、こちらの、シンさんに助けてもらって、外に出ることができたんです。
なのでその・・・僕はここがどこか知らないんです。」
いや、そういうことじゃないんだけどな。
ただ、ウシオの必死さは伝わったようだ、女性は少し考えるそぶりを見せると、
「いつからそこにいたのかしら?」
そう聞いてきた。
「へ?いつから?その、真っ暗な中で時間の感覚も無くて・・・。」
「たぶん半年くらいか、俺も彼と似たような境遇でね、この森の中で気が付いた。
秋になる前だったと思う。
それからいろいろあって、偶然洞窟を発見したんだ。
迂回しようとしたんだけどね、脇に開いた小さな穴が草に覆われていて見落とした。
で、落ちた。」
隣でフブキがうなだれてしまった。
(いや、もう気にすんなって。)
「落ちた穴からは出られなかったんで、さ迷ってるうちに彼に助けられて、協力して脱出してきたところなんだ。」
まぁ、信じてくれなくてもいいさ。
信じてくれないならとっととお暇しますよ、と。
「そう、やっぱりあの時の異変は彼の仕業なのね。」
(ん?異変と彼だって?ちょっと待て、話が変わったぞ、ここでお暇するわけにはいかなくなった。)
「俺も彼も、この世界の人間ではありません。」
そう告げると、ウシオがびっくりした顔でこちらを見てきた。
うん、ここは言うべきだと思う、賭けだけど。
異変とは、俺たちがこの世界に来たことか魔物の氾濫のことを、彼とは、クソ悪魔のことを言っているのではないのか?と思ったからだ。
女性は考え込んでいる。
信じなくても、興味を持ってくれればいい。
そして、俺はどうやら賭けに勝ったようだ。
「まぁいいでしょう、王と関係ありそうには見えないし、とりあえずは歓迎しましょう。」
そう言うと、一気に緊張感が消えた。
人形たちも元の動きに戻っている。
(王?彼ってのはクソ悪魔のことじゃなかったのか?)
「いらっしゃい、私は家の外には出られないの、中で話を聞かせて。」
そう言うと、女性は家の中へ入っていった。
せっかくお招きいただいたので家の中へ。
(おぉ、魔女の家っぽい。)
ドライフラワーとでもいうのか、色とりどりの花が瓶に詰められていたり、天井から乾燥された草花がぶら下がっている。
棚には乳鉢のようなものや粉の入った瓶、木箱などが詰まっている。
丸いテーブルに小さな椅子が4つ、そのうち2つに座るように促されたので従うと、女性はガラス製のポットから木のカップに透明な液体を注いで二人に出してくれた。
「さて、あなたたちは何者?」
女性も椅子に座り、同じ飲み物に口をつけた。
エルフだ。
そう思ってしまったのは、先の尖った耳がチラリと見えたからだ。
美女だってのもあるけどね。
10人見たら、10人が美女だと感じるだろう。
ハリウッド女優のようなタイプの美女、という表現が一番近いか。
長いストレートのプラチナブロンドに、堀の深い顔立ち、透き通るような白い肌ってやつだ。
ちなみに、最近ラノベやアニメ界で勢力を拡大しているエロフ系ではない。
元祖エルフ、スレンダーで森の淑女と言った感じの、王道なエルフ女性だ。
と、余計なことを考えてる場合じゃないな。
「え~、自分達でも、よくわかってないんですよ、そもそも、異世界人って、信じます?」
ひどい会話だとはわかっている、語彙力の無さはレベルダウンで知識が下がってるせいだからってことにしても、どこまで話していいのか、どこまで理解してもらえるのか、どこまで信じてもらえそうか、と3つ同時に探りながらの会話だ。
今の俺には荷が重い。
「そう・・・あの人はまた、なにか起こそうとしているのね・・・。」
そう言うと、女性は悲痛そうに目を閉じてしまった。
そのまま沈黙・・・・
(ぬぅ・・・何か言うべきか?)
沈黙が耐えられぬ。
隣のウシオに助けを求めようと視線を移すと、彼は真っすぐ窓の外を見ていた。
(おい!)
窓の外には、牛?
よく知っている種類とは違うけど、牛っぽい何かが見える。
(あぁ、畜産関係でしたね、だからってこの雰囲気でそれはどうよ?
空気読め!ってかタスケテ。)
「えぇと、あの人というのがどなたのことかは分からないんですが、我々は元の世界で普通に生活していただけなのに、悪魔という存在?に突然拉致されて、自由にしろとこの世界に放り込まれまして。」
沈黙に耐えられないし、異世界の牛にくぎ付けのウシオは当てになりそうもないのでとりあえずこの世界に来ることになったいきさつとかを話すことにした。
たぶん、この人ならほとんどの話を受け入れてもらえそうな気がする。
もちろん襲撃のこととかの激しめのお話はオールカットで。
あ、後俺の封印した黒歴史もカットで。
促してようやく、ウシオも自分の境遇を話し始めた。
女性の目から涙がポロリと・・・。
「辛かったのね。」
そう言って、ウシオの手を握る美女。
牛のことも忘れてドギマギするウシオ。
そんなやり取りをしつつ魔導地図というアイテムで森からの脱出を図っていたところ、違和感に気が付いてここにきてしまったことを伝えた。
「驚きました。これほどの物があなた方の世界では普通に手に入るものなのですか?」
魔導地図を目にした彼女は、信じられないものを見るように地図を見つめている。
「あ~、なんていうんですかね、これは、う~ん、どういえば伝わるだろう・・・。」
テレビゲームなんて言っても伝わるはずがないし、これが現実のものではないといっても、ならなぜあるんだってことになるし。
「僕たちの世界では、物語の主人公や登場人物になれる遊びがあるんです、これらはその物語に出てくる魔法の道具なんです。」
お、ウシオ君ナイス。
「どうやら、我々はみんな同じタイミングで何かしらその遊び、ゲームをやっていたんです。
この世界に巻き込んだ悪魔の話だと、ゲームをしていた者を適当に選んだって事みたいです。」
うん、これでゲームってキーワードも使える、ウシオグッジョブだ。
「僕は隠れる事しか出来ないような不便な力しか使えないんですけどね、シンさんに出会えなければ一生あの中でした。」
頭をかきながら情けなさそうに言うウシオ。
いやいや、君は十分に勇敢だよ、俺、君がいなかったらトカゲにやられてたし。
そう思ったけど口には出さない。
さっき牛に首ったけで助けてくれなかったことはこれで不問にしてやろう。
その後も辺りが暗くなるまでいろいろなことを話した。
後半はクソ悪魔への愚痴ばかりになっちゃった気もするけれど。
で、その話の中で確認できたこと。
彼女はクソ悪魔のことを知らなかった。
ただ、直接は知らないだけでひょっとすると同じ悪魔なのかも、と言う存在については心当たりがあるらしい。
詳しく知りたかったけど、そういった話をしたときの彼女の表情で、あっさりと諦めて話題を変えた。
悲しさ、苦しさ、無念さと後悔。
一瞬の表情でこれらを理解できたことは、後にも先にもないだろう。
続けられるはずがない。
話題を変えるならやはりこれだろう、と言うことで聞いてみた。
結果、残念ながら彼女は、この世界で言うエルフでは無いと言う。
いや、と言うことは、やはりこの世界にはエルフがいるんだね、これは大収穫だ。
彼女は、「その祖先と言えなくもないかしら。」と訳ありげに微笑んだ。
むむ、先祖?
上位種とかいうのならハイエルフだけど、先祖?
う~ん、俺のファンタジー知識では思い浮かぶものが無いなぁ。
エンシェントエルフ、なんて聞いたことないしなぁ。
なんて考えているうちに日もだいぶ傾いてきた。
ということで、夕食をごちそうになることになった。
豆や葉、芋が中心の食事だったけど、久しぶりに落ち着いた雰囲気で美味しく頂いた。
(ん?
美味しい?
あれ?
エグみが無い!?)
あらかた平らげてからそのことに気が付いて、愕然と美女(ノエル)を凝視してしまった。
「苦手なものでもあったかしら。」
突然凝視した俺に不快感を示さず、不思議そうに見つめ返されてしまった。
「いえ、とても美味しかったです。
エグみが全くなかったんです・・・まさか、魔素抜きをご存じなんですか?」
そう、この世界ですべてに含まれ、エグみの原因でもある魔素は、現状俺とスローク意外に対処できないはずだった。
「そう・・・まだ外では対処できていないのね。」
そう答えたノエルさん、やっぱり原因と対処法を知っている。
「はい、エグみの原因が魔素だってことも、食材から魔素を抜く方法も、私と村の仲間以外にはまだ知られていないと思っていました。」
会話の中で、敬意を表すに値すると感じてからは彼女に対して敬語と、一人称を”私”に変えた。
「普段通りでいいのよ。」と気を使ってはくれたけれど、尊敬できる相手にため口というのはどうもしっくりこないのだ。
しかし、魔素抜きがこの世界の人々でも再現可能なら、世界中の食事情が大きく変わることになる。
というか、村の金策が瓦解することになる。
「世紀の大発見だ、なんてぬか喜びでしたね。」
うぬぼれていた、当然、魔道具を作れるような組織ならたどり着いてもおかしくないのかもしれない。
やべぇな、これ、他の金策を緊急で考えなければ。
「いいえ、貴方の発見は世紀の大発見で間違いないわ。」
優しく語りかけてきたノエルさん。
慰めのお言葉感謝です。
「実はね、私の家には魔素が入ってこれないの。
庭にもごく微量の魔素しか存在していないのよ。
庭で採れたものだけで作っているから、魔素の影響を受けていない、それだけなのよ。」
衝撃の事実だった。
(魔素が無い空間が再現可能なのか?ぶっちゃけそっちの方がスンゲェ~んですけど。
だって俺らの魔素抜き、もろゲームのチート頼みだし。)
「魔道具とか、そう言ったものですか?それとも、そう言った魔導印があるんですか?」
いかん、自分が止められない。
その技術があれば、もっと大規模に魔素抜き食材を作れるとか思ったら聞かずにはいられない。
「私の家位なら問題ないけれど、魔素の無い空間を作るということは、追い出された分、周囲に魔素の濃い空間ができるということでもあるの。
だから多用することはできないし、維持するには相当な力が必要なのよ。」
そう諭すように答えてくれたノエルさん。
(なるほどなるほど、つまり、それさえクリアできれば利用できるってことだな、良いことを知った。
こいつは、ジャパニーズドゲザでも何でもして教えを請わねば。
スマン、村のみんな、当分帰れないけど、俺いないくらいなんでもないよね。
ね!)
好奇心と知的欲求、それを包み込む程の大儲けへの期待を胸に、許可してもらうまで一歩も動きません、なんて気持ちで師事をお願いした。
ノエルさんはあっさり許してくれた。
なんか一人で熱くなっていた自分がハズい。
その日はそのままこの部屋に泊まらせていただくことになった。
貯蔵庫から毛布を取り出して床にごろ寝。
この機能にも興味を示してくれていたっけ。
あ、いちおう簡易拠点を出すのは控えたよ。
小さい小屋と言っても、お庭を壊しちゃいけないし。
毛布にくるまって横になると、すぐに睡魔が襲ってきた。
隣ではすでにウシオがイビキをかいている。
野〇のび太かよ。
**
食欲をそそる匂いで目覚めた。
ノエルさんはすでに起きていて、朝食の準備をしてくれていた。
あぁ、なんかいいな、こういうの。
向こうの世界含めて彼女いない歴生まれた時からだったし、家系的に早死にの一族だったから、彼女をつくろうと努力したことも無かったけど・・・しとけばよかったかな、なんて思えてしまう。
まぁ、したところでできたとは思えないが。
朝食なんていつも、出勤途中にコンビニで買うパンかおにぎりだったし。
村では俺が作ってたし。
マスターが来てからは食堂行って食べる毎日。
朝食作る音と臭いで目覚めるなんて、子供の頃以来だ。
(あ、そうか、6畳一間、簡易キッチン付きに家族4人で暮らしてたから経験した事があるんだ。
今はそんな家庭無いだろうから、母親が朝食作る音で目覚めるなんて、知らないんだろうな、なんかかわいそう・・・いやいや、下手したら今時はそんなん差別だとか女性蔑視だとか言われかねないのか、うん、ひとり身で良かった。)
挨拶して皿を出したりと朝食の準備をお手伝いしているとウシオも起きてきた。
朝食を食べながら、ウシオが親、俺が子に見えなくもない見た目だけど、実際は真逆で俺はアラフィフだって言ったら、「お二人ともお若いのねぇ。」なんて帰ってきた。
(え?
ノエルさんって一体・・・いや、聞きませんよ、女性に年齢聞くのはダメなんだよね?
あ、それも女性差別になるの?それとも、聞いても問題無しとされちゃってる男性差別になるの?
いやいや、ノエルさんは差別だなんて言いそうもないけれど、エルフ(祖先)ですもんね、そう言うことですよね?)
朝食後には、ウシオが家畜を見せてほしいと願い出て早々に家を出ていった。
室内には二人。
かなり確信に近いことも知っていそうだけど、どこまで話すべきか悩んでいた。
と、
「あなた方をこの世界に呼び込んだのは、細身の白い悪魔ね?」
何か察したのか、ノエルさんの方から話を振ってくれた。
「はい。それと、黒くて丸い悪魔とも会いました。」
俺自身が一度死んで、その先でうずくまる黒くて丸い悪魔に出会ったこと、その時の会話など、できる限り自分の解釈を省いて話した。
「そうなのね・・・おそらく、という程度だけれど。」
そう前置きをしたうえで、彼女の知りえる情報と、俺が提供した情報をすり合わせ、そこからノエルさんが出した推測を話してくれた。
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