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閑話-0-
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豪華、という言葉では表せないほど贅を尽くされた広間。
中央の床には、10mを超える大きな黒い円が描かれている。
真っ黒、というより、まだらに色の薄いところもあるそれは、肉眼では判別できないほど微細な模様の集合体だ。
円の周りには、黒いローブで全身を包んだ10の人影と、王冠を頭に乗せた姿の男が。
その男がこの一段のリーダーであり、王であった。
王が、手に持った錫杖を掲げると、10人の黒ローブからうなり声のような音が漏れだした。
ただの唸り声、というよりは微かに抑揚やリズムを感じる。
王が錫杖を目の前の床に打ち付けると、右隣の黒ローブが小刻みに震えだし、膝をつくように崩折れた。
一瞬、床の黒い円が光ったように思えた。
2度、3度と錫杖が打ち付けられるたびに、黒ローブが倒れ、その瞬間だけ、円が光る。
5度目を超えた時、初めて王が苛立ったような反応をした。
6度、7度と続くが、円の反応は変わらず、代わりに王の苛立ちは強くなった。
とうとう十度、黒ローブは皆倒れ、広い空間に立つのは王ただ一人。
「我が盟友、最古の十師の魂をも拒むか! Ձↂ∑␢ℑℑℐㆡⱲⱡⲁⳢⴀ !」
「応えよ! Ձↂ∑␢ℑℑℐㆡⱲⱡⲁⳢⴀ !!」
錫杖を頭上に掲げて、再び先程の雑音を叫ぶ。
雑音にしか聞こえないそれは、どうやら相手の名前らしい。
「「なぜ私を?」」
音ではなく、頭の中に直接伝えられた返事は、酷く冷たかった。
「貴様以外に誰がおるというのだ!」
激高する王。
錫杖の先を円の中心に向け、血走る相貌で錫杖が指す場所を睨みつける。
「貴様が取り込んだのだ!貴様以外に消せるものはおるまい。」
目を剝き、口からは唾が飛ぶ。
今にも掴みかからんとするほどの態度で、姿を見せない声の主に叫んだ。
「「無理ですね。」」
頭に響く声はにべもない。
あざ笑うかのような印象を与える口調で王の、命令にしか聞こえない”願い”を拒絶した。
「「だいたい、不老を望んだのはあなたでしょう?とても喜んでいたじゃあないですか。
その後、次々と起こる変化を無視し続けてきたのも、逃げ出したのもあなたです。
私でありませんので、責任転嫁はおやめください。」」
いつの間に現れたのか、魔法陣の中心には白い影が。
声がしたときからそこにいたのは知っている。
認識できなかっただけなのだと、王は知識として分かっていた。
だからこそ、認識できない相手に向かって”願い”を告げていたのだ。
「「すでに浸透しきった魔素を無くすなど不可能ですよ。」」
王の知る様子とはまるで違う。
淡々と告げる白い影に、苛立ちを濃くする王。
これは、姿を現しはしたが相手にすらされていないということだ。
「我が民100万の魂では足りぬと申すか!」
激昂する王は、錫杖を白い影に突き付けながら喚く。
「かつて与えた贄のような愚民どもとは違う!古より国に仕え、わが血脈でもある臣民の魂ぞ!」
整っていたであろう顔が狂気に歪み、血走った眼が、白い影を射抜くように見据える。
が、白い影は意にも返さない。
「「100万?」」
白い影がおどけるように両手を広げた。
「「ザンネンながら、あなたの民はそんなにいません。
せいぜい10万がいいところですね。」」
「じゅうまん、だと?」
錫杖を取り落とし、膝をつく男。
「「すでに、元あなたの民90万は魔物に食されたか、変り果てました。
残る方々も数日のうちには・・・聞こえるでしょう?残されたあなたの民の声が。」」
聞こえるはずがない。
この広間には、大規模術式のため外部からの干渉を完全に遮断してある。
にもかかわらず、王の耳には、阿鼻叫喚が絶えず聞こえていた。
人々の恐怖と怒りの怨嗟は、数か月前から聞こえ続けていた。
それらから逃げるためにこの広場に入ったのに防ぐことができず、さすがの王もついに悪魔召還を行ったのだ。
震える手で頭をかきむしる。
頭皮が裂け、血が流れ出るもの構わずにかきむしる。
「なんでもいい・・・何とかしてくれ。」
ふり絞ったのは、隣にいても聞き取れないような声だった。
「「しかたありません。10万の魂で、できる限りのご提案をさせていただきましょう。」」
”提案”とやらをベラベラとしゃべる白い影の言葉は、何一つ頭に入ってこなかった。
王は理解できぬまま契約を交わした。
焦点が定まらないままに、判別不可能なほど崩れたサインを書き込む。
それすらも理解できているのかどうか。
白い影にとってはどうでも良いことだ。
契約書にサインするという行為は、ただの儀式にすぎない。
悪魔が用意した”提案”に、契約者が同意したと認識するためだけの儀式。
文字である必要すらない。
王が書き終えると、その瞬間、彼を悩ませ続けて来た阿鼻叫喚がピタリと収まった。
王はその場に倒れると、数か月ぶりの睡眠に沈んだ。
「「おやすみなさいませ王よ。
こちらの準備が整いましたら再びお目にかかりましょう。
長い年月をかけて、ゆっくりと苦しんでいただけることでしょう。」」
中央の床には、10mを超える大きな黒い円が描かれている。
真っ黒、というより、まだらに色の薄いところもあるそれは、肉眼では判別できないほど微細な模様の集合体だ。
円の周りには、黒いローブで全身を包んだ10の人影と、王冠を頭に乗せた姿の男が。
その男がこの一段のリーダーであり、王であった。
王が、手に持った錫杖を掲げると、10人の黒ローブからうなり声のような音が漏れだした。
ただの唸り声、というよりは微かに抑揚やリズムを感じる。
王が錫杖を目の前の床に打ち付けると、右隣の黒ローブが小刻みに震えだし、膝をつくように崩折れた。
一瞬、床の黒い円が光ったように思えた。
2度、3度と錫杖が打ち付けられるたびに、黒ローブが倒れ、その瞬間だけ、円が光る。
5度目を超えた時、初めて王が苛立ったような反応をした。
6度、7度と続くが、円の反応は変わらず、代わりに王の苛立ちは強くなった。
とうとう十度、黒ローブは皆倒れ、広い空間に立つのは王ただ一人。
「我が盟友、最古の十師の魂をも拒むか! Ձↂ∑␢ℑℑℐㆡⱲⱡⲁⳢⴀ !」
「応えよ! Ձↂ∑␢ℑℑℐㆡⱲⱡⲁⳢⴀ !!」
錫杖を頭上に掲げて、再び先程の雑音を叫ぶ。
雑音にしか聞こえないそれは、どうやら相手の名前らしい。
「「なぜ私を?」」
音ではなく、頭の中に直接伝えられた返事は、酷く冷たかった。
「貴様以外に誰がおるというのだ!」
激高する王。
錫杖の先を円の中心に向け、血走る相貌で錫杖が指す場所を睨みつける。
「貴様が取り込んだのだ!貴様以外に消せるものはおるまい。」
目を剝き、口からは唾が飛ぶ。
今にも掴みかからんとするほどの態度で、姿を見せない声の主に叫んだ。
「「無理ですね。」」
頭に響く声はにべもない。
あざ笑うかのような印象を与える口調で王の、命令にしか聞こえない”願い”を拒絶した。
「「だいたい、不老を望んだのはあなたでしょう?とても喜んでいたじゃあないですか。
その後、次々と起こる変化を無視し続けてきたのも、逃げ出したのもあなたです。
私でありませんので、責任転嫁はおやめください。」」
いつの間に現れたのか、魔法陣の中心には白い影が。
声がしたときからそこにいたのは知っている。
認識できなかっただけなのだと、王は知識として分かっていた。
だからこそ、認識できない相手に向かって”願い”を告げていたのだ。
「「すでに浸透しきった魔素を無くすなど不可能ですよ。」」
王の知る様子とはまるで違う。
淡々と告げる白い影に、苛立ちを濃くする王。
これは、姿を現しはしたが相手にすらされていないということだ。
「我が民100万の魂では足りぬと申すか!」
激昂する王は、錫杖を白い影に突き付けながら喚く。
「かつて与えた贄のような愚民どもとは違う!古より国に仕え、わが血脈でもある臣民の魂ぞ!」
整っていたであろう顔が狂気に歪み、血走った眼が、白い影を射抜くように見据える。
が、白い影は意にも返さない。
「「100万?」」
白い影がおどけるように両手を広げた。
「「ザンネンながら、あなたの民はそんなにいません。
せいぜい10万がいいところですね。」」
「じゅうまん、だと?」
錫杖を取り落とし、膝をつく男。
「「すでに、元あなたの民90万は魔物に食されたか、変り果てました。
残る方々も数日のうちには・・・聞こえるでしょう?残されたあなたの民の声が。」」
聞こえるはずがない。
この広間には、大規模術式のため外部からの干渉を完全に遮断してある。
にもかかわらず、王の耳には、阿鼻叫喚が絶えず聞こえていた。
人々の恐怖と怒りの怨嗟は、数か月前から聞こえ続けていた。
それらから逃げるためにこの広場に入ったのに防ぐことができず、さすがの王もついに悪魔召還を行ったのだ。
震える手で頭をかきむしる。
頭皮が裂け、血が流れ出るもの構わずにかきむしる。
「なんでもいい・・・何とかしてくれ。」
ふり絞ったのは、隣にいても聞き取れないような声だった。
「「しかたありません。10万の魂で、できる限りのご提案をさせていただきましょう。」」
”提案”とやらをベラベラとしゃべる白い影の言葉は、何一つ頭に入ってこなかった。
王は理解できぬまま契約を交わした。
焦点が定まらないままに、判別不可能なほど崩れたサインを書き込む。
それすらも理解できているのかどうか。
白い影にとってはどうでも良いことだ。
契約書にサインするという行為は、ただの儀式にすぎない。
悪魔が用意した”提案”に、契約者が同意したと認識するためだけの儀式。
文字である必要すらない。
王が書き終えると、その瞬間、彼を悩ませ続けて来た阿鼻叫喚がピタリと収まった。
王はその場に倒れると、数か月ぶりの睡眠に沈んだ。
「「おやすみなさいませ王よ。
こちらの準備が整いましたら再びお目にかかりましょう。
長い年月をかけて、ゆっくりと苦しんでいただけることでしょう。」」
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