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095話:うるさい乗客
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みどり村への帰途。
なんだか穏やかだ。
天気もいいし、馬車の上でゴロリと寝ころびたい気分だ。
ユーコが独占して無ければ確実にやってたね。
くそぅ。
護衛の傭兵たちも気のいい連中だし、あからさまな監視も付いてきてないみたいだから気兼ねなくサボれる。
どうせ傭兵たちは帰った後、伯爵に報告をするように指示されているんだろうけどね。
そこら辺は抜かりなく魔素抜き干し肉での買収は完了済みよ。
俺のおサボリとかはお目こぼしいただく。
これでニャンコ様がいなければもっと羽を伸ばせるんだけどなぁ。
『あのぉ~。』
フブキの上でなんだけど、眠くなってきた。
『すいませぇ~ん。』
このままフブキの上で一眠り
『シンさぁ~ん・・・』
五月蠅いなぁもう。
小声でも傭兵たちに聞こえちゃうかもしれないだろうが!
「ちょっと辛そうなんで様子を見ます。」
御者ににそう伝えると、馬車は道の端へ。
俺はしかたなく馬車の中へ入った。
『大人しく寝てろよ、仮病人。』
もちろん日本語で。
まぁ、たぶん伯爵はこいつの仮病に気が付いているだろうし、護衛に聞かれたところで、なんだけどね。
『そんなこと言われたって、さすがにキツイですよぉ。何日も薄暗い中でジッとしてるなんて。』
馬車の中は、移動中眠れるようにと明かり取りの窓が塞がれていて光が入らない。
窓自体が無く外の様子も見ることができない。
窓があったら、襲撃者から誰が乗っているのか分かっちゃうからね、町の外へ出るための馬車には窓が無いのだ。
街中を移動するための馬車には大きな窓が付いていて周囲の様子を見られたり、住人たちからも見れるようになっているんだけどね。
座席も横たわれるように改造されているから、同乗できなくなっている。
たとえできたとしてもお断りだけどな。
ということで、こいつ一人が暗い中病人を演じているわけだ。
”自業自得”って言葉を送ろう。
最初こそ殊勝におとなしくしていたけれど、領都から離れるにしたがって我がままになってきやがる。
これはあれだな、みどり村についたらスローク先生に厳しくご指導いただくとしよう。
スロークブートキャンプで、肥え太った甘ったるい精神をダイエットさせなきゃ伯爵には認められそうにないぞ。
『護衛はサンサテまでなんだから、あと一日くらい我慢しろよ、コッチはお前が仮病だったってバラしてもいいんだからな。』
『もうぅ、どこかにポイしちゃえばぁ。』
天井の上から物騒な小声が聞こえてきた。
『そんなぁ、頑張りますから見捨てないでください。』
めんどくさいなぁ、
『サンサテまで我慢出来たらな。』
それだけ言って馬車を降りた。
もう知らん。
暖かな日差し。
程よい、というには少し・・・だいぶ揺れがきついが、まどろむには問題無い。
ユーコは馬車の屋根の上で大きなあくびをすると、うつらうつらと舟をこぎ出した。
猫の習性、というわけではないが、夜は眠りたくなかった。
記憶から消してしまいたい、ある人の夢を見るから。
暗い部屋の中で無表情に、冷淡に告げられた一言が、この世界に来てだいぶたつ立つのに、いまだにユーコを苦しめていた。
明るく暖かな日差しの下では、不思議と見ることが無い夢。
ネットでたまたま見かけた3人の少女達に焦がれることで現実から目を背け、自分の殻に閉じこもることで何とか自分を保っていた優子を、葵が強引に外の世界へと連れ出した。
この世界へと連れてこられたのは、二人暮らしを始めてそれほど立っていない時だった。
ユーコがシンのアイテムで姿を猫獣人に変えたのは、過去の自分を捨てるためだった。
もちろん猫は好きだし、自由な姿には憧れがあった。
が、一番の理由は、人間ですらなくなれば思い出さなくても済むのではないか、と思ったからだ。
本当は名前も変えたかったが、そうすると葵との仲も変わってしまいそうな気がしてできなかった。
結果は・・・残念ながら忘れることまではできなかった。
しかし、この姿でいることで夜寝なくても、その睡眠不足を日中に取っていても、大っぴらにクレームをつけてくる相手もいないということに気が付いた。
寝不足で眼の下にクマを作ることも無いし、我ながらベストチョイスだと満足している。
この世界に来て、一番最初にアオイと再会できたのは運命というしかない。
そんなアオイが苦しみ、悩んだ原因のどうしようもないダメなおっさんが、また村を出ることになった時、ユーコは自らお目付け役を買って出た。
このどうしようもないおっさんが、また問題を起こしてアオイを悩ませないように。
見た目だけは若く、それなりに良いのが問題だ。
シンが一度死んだ後のアオイを見ていると、ひょっとしたら、なんて感じてしまうことがあったが、そうではないと分かって安心した。
そんなこともあったので、煮え切らないユーシンにじれったく思いつつも、自分ですらひょっとしたら、なんて感じてしまうくらいだからしかたないか、と同情もしてしまった。
全てはあのオッサンが悪い。
結局ユーキを通じてユーシンを炊きつけたわけだけれど、うまくいって良かった。
後はもう、のんびりと子供たちの相手をしながらアオイの幸せを見ていられたらそれでいい・・・そう思っていたのに。
まさか、どうして、よりによって、である。
問題のオッサンが、もう二度と見ることができないと諦めていた”プチメタ”のライブ映像を持っているとは。
モヤモヤする!
あぁ、見たい。
ライブ見たい~。
他の人なら、普通に「見せて~」と言える・・・と、思う。
よりにもよって、あのオッサンはユーコの”現”攻撃対象なのに。
と、日中もモヤモヤしてあまり寝付けず、屋根の上を陣取ってうつらうつらとしているのだ。
残念なことに、ようやく浅くとも寝入りそうになったところで、変態レインが駄々をこねだすのだ。
『もうぅ、どこかにポイしちゃえばぁ。』
無意識に日本語で出たのは、ユーコの心からの一言だったからだ。
行きに比べるとだいぶグレードは落ちたけれど、それでも町では伯爵の計らいで(つまり代金向こう持ちで)それなりの宿でご宿泊。
うん、俺にはこれくらいでも十分豪華だよ。
派手な装飾は無いものの、小物に至るまで安物は使ってないってのが良く分かる。
部屋ごとに風呂、は流石に無いけど、体をふいたりする専用の湯場があって、頼むと無料でたっぷりのお湯を貰える。
しかも、湯場には排水溝があって、その湯はそのままジャーッと流せる。
頭からぶっかけてもOKって、この世界ではなかなか無いだけにすごくうれしい。
やっぱり、村の宿では最低でもシャワー完備にしたいよね。
ゴテゴテ豪華で、自分じゃドアも開けにくいような宿より機能美に優れた宿の方がいいと思うんだよね、うんうん、快適だ。
「絶対差別ぅ。」
余計なのがいなければ。
「いや、でも、護衛の人たちと一緒になるよりはいいんじゃないですか?」
何でこの二人と同室なんだよ。
「枯れ果ててるシンさんはまだしもぉ、ハーレムとか言ってる変態男と同室は絶対猫獣人に対する差別だと思うぅ。」
なんか聞き捨てならない単語があったんだが?
確かに学生時代、顔面偏差値の低さと体形から早々に恋愛関連から離脱したヘタレではあったと思う。
社会人になってからは、聞きたくないのに聞かされるオバ様たちやテレビから流れる旦那へのディスリですっかり結婚願望がすり減り、それでも周りから結婚は、子供は、的な攻撃に何とかしないといかんのか、と思いかけた時に父親が他界した。
俺がまだアラサーだった頃だ。
そして知った家系的な早死に遺伝子。
曾祖父、祖父、父、叔父と60前にみんなポックリ逝ってることを知って、強力な早死に遺伝子はここで止めた方がいいと全てを諦めたんだった。
そうだな、確かに枯れてる自覚はある。
が、果ててはいないぞ。
・・・いないのか?
あれ?
いや、もう〇十年前から代わって無いと思うんだが。
やめよう、うっかり暗黒面に落ちてしまいそうだ。
**
サンサテまでと聞いていたけれど、傭兵達は森の街道に差し掛かるまでついてきた。
俺たちの食事目当てなのは一目瞭然だったけど、帰れというのもなんなのでね。
名残惜しそうに護衛の傭兵たちは引き返していった。
「おかえりなさい、シンさん。」
料金所で出迎えてくれたのは、たしかヘリオという青年だ。
へリアだったっけ?
生き返り後、紆余曲折を経てようやくみどり村に戻った俺を、アオイのグーパンが一発KO。
そんな俺を救護所まで搬送してくれたらしいってことで何度か会話した事があるんだけど、料金所に配属されたのか。
初めて訪れる人の警戒心を和らげる策で、村へ向かう最初の料金所はヒトだけで運営している。
この先の宿泊所とか警備の巡回とかも、村に近づくほどに魔者や魔獣の比率を高めていって、少しずつ慣れさせようって言う目論見である。
「今日はそこそこ人の通りが多いので、できれば・・・。」
言いずらそうにフブキをチラリと。
あ、了解で~す。
「ちょっと確かめたいこともあるから、街道はずれて通るよ。
悪いんだけど、馬車を村まで輸送お願いできるかな。」
そう言って、俺は馬車のドアを開けた。
「ぎゃ!いきなり開けないでくださいよ!眼が・・・」
まぁ、ずっと薄暗い中にいたからな。
しかし、それを気遣ってやる義理は無いのだ。
本当に、何度適当に捨ててこようかと思ったことか。
「どうした?自由だぞ、存分に日に当たれよ。」
出来ればそのまま灰にでもなってくれ。
「体伸ばせるっていいですねぇ。」
なんてのんきに言っていやがる。
「これって、相当高級な馬車ですよね?」
馬車を預かるために料金所から出てきたヘリオが、触れていいものかとビビりながら聞いてきた。
「傷とかつけちゃったら・・・。」
あぁ、弁償とか言われても払えるような代物じゃないか。
「心配するな、責任はすべてアイツが持つから。」
と言って、久しぶりに動かせる体にはしゃぐレインを指さした。
「はぁ・・・。」
納得しておけ、ヘリオ青年。
馬車をおっかなびっくり扱う彼を残して、俺はレインと共に森へ。
あ!
忘れるところだった、
「ニャンコ様はどうする?」
屋根の上のユーコに声をかけた。
「変態とはとっととおさらばぁ~。」
という返事が返ってきたので、二人で街道を外れ魔獣を探すことにした。
意外なことに、レインはアサシンだった。
てっきり魔法戦士系の何かだと思っていた。
ゲームも違えばスタイルも変わるもので、エイルヴァーンのアサシンはクリティカルヒットの確率を大幅に上げる補助的なスキルが多いが、明確に戦闘系の職業に分類される。
対してレインのプレイしていたダンジョンズオンラインのアサシンは、元々がTRPGなだけに偽装、擬態、毒物や罠、諜報などのスキルが充実した、盗賊系進化の一つと言った分類になる。
まぁ、PCゲーム化されるときにだいぶ戦闘系に調整されたみたいだけど、いちおうスキルなどはTRPGの時にあった物はすべてそろっているという。
重体患者を装っていた偽装も、そう言ったスキルの一つなのだそうだ。
武器の制限も若干緩く補正されていて、ロングソード系くらいまでなら使えるというので、毒や罠を使わずに武器を使った直接攻撃だけでどれくらい戦えるのかを確かめてみた。
思っていたよりだいぶ強い。
ついには、苦労しつつもグレイウルフを一人で仕留めてしまった。
なんだよもぉ~、下手したら今の俺より強いんじゃね?
フブキに頼ってばかりいないでレベルアップ頑張らなきゃなぁ。
あぁ、俺のやる気スイッチは何処にあるんだろう。
「何とか勝てたけど・・・何なんですかこの森、こんなのが普通にいるって、異常でしょう?」
肩で息をしながら愚痴を漏らすレイン。
この程度で値を上げるとは、やっぱりスロークブートキャンプで鍛え直さなきゃいかんな。
ん?
俺の”警戒”に、記憶にある動きをする魔獣が引っかかった。
これは、仕上げにちょうどいい相手だぞ。
彼の性根を少しだけ鍛えておこうじゃないか。
「レイン、この先にいる相手で今日は終わりにしよう。」
そう言って指さした方角。
たるんだ根性を鍛え直すのにうってつけだと思うんだよ、うん。
「やっとですか・・・腕試しのはずなのにスパルタなんだもんなぁ。」
愚痴りつつも、これで最後と元気を取り戻したレインは器用にくるくると回転させたナイフを逆手に構えて、俺が指さした先に小さく見える黒い人型の魔獣へ向けて飛び出した。
程なく、
グギァアアアアアア!
という聞きたくない鳴き声が。
頑張れ、レイン。
一匹一匹は弱いんだ、いつかは終わるぞ。
そう、俺が最後に指名した相手は、恐怖の物量攻撃、黒いウジャウジャこと、ヴォーライルさんだった。
俺たちが以前遭遇した時は、ユーキが空いていた枠にヴォーライルを封印して、”撤退”の鳴き声を使わせられてようやく終えられたんだよな。
懐かしい思い出だ。
「シ、シンさぁああ~ん!助けてぇ~。」
おいおい、まだ20匹程度しか倒してないじゃないか、ギブアップが早すぎだろう。
「君ならやれる、めざせ100匹。」
「人でなしぃ~。」
なんだか穏やかだ。
天気もいいし、馬車の上でゴロリと寝ころびたい気分だ。
ユーコが独占して無ければ確実にやってたね。
くそぅ。
護衛の傭兵たちも気のいい連中だし、あからさまな監視も付いてきてないみたいだから気兼ねなくサボれる。
どうせ傭兵たちは帰った後、伯爵に報告をするように指示されているんだろうけどね。
そこら辺は抜かりなく魔素抜き干し肉での買収は完了済みよ。
俺のおサボリとかはお目こぼしいただく。
これでニャンコ様がいなければもっと羽を伸ばせるんだけどなぁ。
『あのぉ~。』
フブキの上でなんだけど、眠くなってきた。
『すいませぇ~ん。』
このままフブキの上で一眠り
『シンさぁ~ん・・・』
五月蠅いなぁもう。
小声でも傭兵たちに聞こえちゃうかもしれないだろうが!
「ちょっと辛そうなんで様子を見ます。」
御者ににそう伝えると、馬車は道の端へ。
俺はしかたなく馬車の中へ入った。
『大人しく寝てろよ、仮病人。』
もちろん日本語で。
まぁ、たぶん伯爵はこいつの仮病に気が付いているだろうし、護衛に聞かれたところで、なんだけどね。
『そんなこと言われたって、さすがにキツイですよぉ。何日も薄暗い中でジッとしてるなんて。』
馬車の中は、移動中眠れるようにと明かり取りの窓が塞がれていて光が入らない。
窓自体が無く外の様子も見ることができない。
窓があったら、襲撃者から誰が乗っているのか分かっちゃうからね、町の外へ出るための馬車には窓が無いのだ。
街中を移動するための馬車には大きな窓が付いていて周囲の様子を見られたり、住人たちからも見れるようになっているんだけどね。
座席も横たわれるように改造されているから、同乗できなくなっている。
たとえできたとしてもお断りだけどな。
ということで、こいつ一人が暗い中病人を演じているわけだ。
”自業自得”って言葉を送ろう。
最初こそ殊勝におとなしくしていたけれど、領都から離れるにしたがって我がままになってきやがる。
これはあれだな、みどり村についたらスローク先生に厳しくご指導いただくとしよう。
スロークブートキャンプで、肥え太った甘ったるい精神をダイエットさせなきゃ伯爵には認められそうにないぞ。
『護衛はサンサテまでなんだから、あと一日くらい我慢しろよ、コッチはお前が仮病だったってバラしてもいいんだからな。』
『もうぅ、どこかにポイしちゃえばぁ。』
天井の上から物騒な小声が聞こえてきた。
『そんなぁ、頑張りますから見捨てないでください。』
めんどくさいなぁ、
『サンサテまで我慢出来たらな。』
それだけ言って馬車を降りた。
もう知らん。
暖かな日差し。
程よい、というには少し・・・だいぶ揺れがきついが、まどろむには問題無い。
ユーコは馬車の屋根の上で大きなあくびをすると、うつらうつらと舟をこぎ出した。
猫の習性、というわけではないが、夜は眠りたくなかった。
記憶から消してしまいたい、ある人の夢を見るから。
暗い部屋の中で無表情に、冷淡に告げられた一言が、この世界に来てだいぶたつ立つのに、いまだにユーコを苦しめていた。
明るく暖かな日差しの下では、不思議と見ることが無い夢。
ネットでたまたま見かけた3人の少女達に焦がれることで現実から目を背け、自分の殻に閉じこもることで何とか自分を保っていた優子を、葵が強引に外の世界へと連れ出した。
この世界へと連れてこられたのは、二人暮らしを始めてそれほど立っていない時だった。
ユーコがシンのアイテムで姿を猫獣人に変えたのは、過去の自分を捨てるためだった。
もちろん猫は好きだし、自由な姿には憧れがあった。
が、一番の理由は、人間ですらなくなれば思い出さなくても済むのではないか、と思ったからだ。
本当は名前も変えたかったが、そうすると葵との仲も変わってしまいそうな気がしてできなかった。
結果は・・・残念ながら忘れることまではできなかった。
しかし、この姿でいることで夜寝なくても、その睡眠不足を日中に取っていても、大っぴらにクレームをつけてくる相手もいないということに気が付いた。
寝不足で眼の下にクマを作ることも無いし、我ながらベストチョイスだと満足している。
この世界に来て、一番最初にアオイと再会できたのは運命というしかない。
そんなアオイが苦しみ、悩んだ原因のどうしようもないダメなおっさんが、また村を出ることになった時、ユーコは自らお目付け役を買って出た。
このどうしようもないおっさんが、また問題を起こしてアオイを悩ませないように。
見た目だけは若く、それなりに良いのが問題だ。
シンが一度死んだ後のアオイを見ていると、ひょっとしたら、なんて感じてしまうことがあったが、そうではないと分かって安心した。
そんなこともあったので、煮え切らないユーシンにじれったく思いつつも、自分ですらひょっとしたら、なんて感じてしまうくらいだからしかたないか、と同情もしてしまった。
全てはあのオッサンが悪い。
結局ユーキを通じてユーシンを炊きつけたわけだけれど、うまくいって良かった。
後はもう、のんびりと子供たちの相手をしながらアオイの幸せを見ていられたらそれでいい・・・そう思っていたのに。
まさか、どうして、よりによって、である。
問題のオッサンが、もう二度と見ることができないと諦めていた”プチメタ”のライブ映像を持っているとは。
モヤモヤする!
あぁ、見たい。
ライブ見たい~。
他の人なら、普通に「見せて~」と言える・・・と、思う。
よりにもよって、あのオッサンはユーコの”現”攻撃対象なのに。
と、日中もモヤモヤしてあまり寝付けず、屋根の上を陣取ってうつらうつらとしているのだ。
残念なことに、ようやく浅くとも寝入りそうになったところで、変態レインが駄々をこねだすのだ。
『もうぅ、どこかにポイしちゃえばぁ。』
無意識に日本語で出たのは、ユーコの心からの一言だったからだ。
行きに比べるとだいぶグレードは落ちたけれど、それでも町では伯爵の計らいで(つまり代金向こう持ちで)それなりの宿でご宿泊。
うん、俺にはこれくらいでも十分豪華だよ。
派手な装飾は無いものの、小物に至るまで安物は使ってないってのが良く分かる。
部屋ごとに風呂、は流石に無いけど、体をふいたりする専用の湯場があって、頼むと無料でたっぷりのお湯を貰える。
しかも、湯場には排水溝があって、その湯はそのままジャーッと流せる。
頭からぶっかけてもOKって、この世界ではなかなか無いだけにすごくうれしい。
やっぱり、村の宿では最低でもシャワー完備にしたいよね。
ゴテゴテ豪華で、自分じゃドアも開けにくいような宿より機能美に優れた宿の方がいいと思うんだよね、うんうん、快適だ。
「絶対差別ぅ。」
余計なのがいなければ。
「いや、でも、護衛の人たちと一緒になるよりはいいんじゃないですか?」
何でこの二人と同室なんだよ。
「枯れ果ててるシンさんはまだしもぉ、ハーレムとか言ってる変態男と同室は絶対猫獣人に対する差別だと思うぅ。」
なんか聞き捨てならない単語があったんだが?
確かに学生時代、顔面偏差値の低さと体形から早々に恋愛関連から離脱したヘタレではあったと思う。
社会人になってからは、聞きたくないのに聞かされるオバ様たちやテレビから流れる旦那へのディスリですっかり結婚願望がすり減り、それでも周りから結婚は、子供は、的な攻撃に何とかしないといかんのか、と思いかけた時に父親が他界した。
俺がまだアラサーだった頃だ。
そして知った家系的な早死に遺伝子。
曾祖父、祖父、父、叔父と60前にみんなポックリ逝ってることを知って、強力な早死に遺伝子はここで止めた方がいいと全てを諦めたんだった。
そうだな、確かに枯れてる自覚はある。
が、果ててはいないぞ。
・・・いないのか?
あれ?
いや、もう〇十年前から代わって無いと思うんだが。
やめよう、うっかり暗黒面に落ちてしまいそうだ。
**
サンサテまでと聞いていたけれど、傭兵達は森の街道に差し掛かるまでついてきた。
俺たちの食事目当てなのは一目瞭然だったけど、帰れというのもなんなのでね。
名残惜しそうに護衛の傭兵たちは引き返していった。
「おかえりなさい、シンさん。」
料金所で出迎えてくれたのは、たしかヘリオという青年だ。
へリアだったっけ?
生き返り後、紆余曲折を経てようやくみどり村に戻った俺を、アオイのグーパンが一発KO。
そんな俺を救護所まで搬送してくれたらしいってことで何度か会話した事があるんだけど、料金所に配属されたのか。
初めて訪れる人の警戒心を和らげる策で、村へ向かう最初の料金所はヒトだけで運営している。
この先の宿泊所とか警備の巡回とかも、村に近づくほどに魔者や魔獣の比率を高めていって、少しずつ慣れさせようって言う目論見である。
「今日はそこそこ人の通りが多いので、できれば・・・。」
言いずらそうにフブキをチラリと。
あ、了解で~す。
「ちょっと確かめたいこともあるから、街道はずれて通るよ。
悪いんだけど、馬車を村まで輸送お願いできるかな。」
そう言って、俺は馬車のドアを開けた。
「ぎゃ!いきなり開けないでくださいよ!眼が・・・」
まぁ、ずっと薄暗い中にいたからな。
しかし、それを気遣ってやる義理は無いのだ。
本当に、何度適当に捨ててこようかと思ったことか。
「どうした?自由だぞ、存分に日に当たれよ。」
出来ればそのまま灰にでもなってくれ。
「体伸ばせるっていいですねぇ。」
なんてのんきに言っていやがる。
「これって、相当高級な馬車ですよね?」
馬車を預かるために料金所から出てきたヘリオが、触れていいものかとビビりながら聞いてきた。
「傷とかつけちゃったら・・・。」
あぁ、弁償とか言われても払えるような代物じゃないか。
「心配するな、責任はすべてアイツが持つから。」
と言って、久しぶりに動かせる体にはしゃぐレインを指さした。
「はぁ・・・。」
納得しておけ、ヘリオ青年。
馬車をおっかなびっくり扱う彼を残して、俺はレインと共に森へ。
あ!
忘れるところだった、
「ニャンコ様はどうする?」
屋根の上のユーコに声をかけた。
「変態とはとっととおさらばぁ~。」
という返事が返ってきたので、二人で街道を外れ魔獣を探すことにした。
意外なことに、レインはアサシンだった。
てっきり魔法戦士系の何かだと思っていた。
ゲームも違えばスタイルも変わるもので、エイルヴァーンのアサシンはクリティカルヒットの確率を大幅に上げる補助的なスキルが多いが、明確に戦闘系の職業に分類される。
対してレインのプレイしていたダンジョンズオンラインのアサシンは、元々がTRPGなだけに偽装、擬態、毒物や罠、諜報などのスキルが充実した、盗賊系進化の一つと言った分類になる。
まぁ、PCゲーム化されるときにだいぶ戦闘系に調整されたみたいだけど、いちおうスキルなどはTRPGの時にあった物はすべてそろっているという。
重体患者を装っていた偽装も、そう言ったスキルの一つなのだそうだ。
武器の制限も若干緩く補正されていて、ロングソード系くらいまでなら使えるというので、毒や罠を使わずに武器を使った直接攻撃だけでどれくらい戦えるのかを確かめてみた。
思っていたよりだいぶ強い。
ついには、苦労しつつもグレイウルフを一人で仕留めてしまった。
なんだよもぉ~、下手したら今の俺より強いんじゃね?
フブキに頼ってばかりいないでレベルアップ頑張らなきゃなぁ。
あぁ、俺のやる気スイッチは何処にあるんだろう。
「何とか勝てたけど・・・何なんですかこの森、こんなのが普通にいるって、異常でしょう?」
肩で息をしながら愚痴を漏らすレイン。
この程度で値を上げるとは、やっぱりスロークブートキャンプで鍛え直さなきゃいかんな。
ん?
俺の”警戒”に、記憶にある動きをする魔獣が引っかかった。
これは、仕上げにちょうどいい相手だぞ。
彼の性根を少しだけ鍛えておこうじゃないか。
「レイン、この先にいる相手で今日は終わりにしよう。」
そう言って指さした方角。
たるんだ根性を鍛え直すのにうってつけだと思うんだよ、うん。
「やっとですか・・・腕試しのはずなのにスパルタなんだもんなぁ。」
愚痴りつつも、これで最後と元気を取り戻したレインは器用にくるくると回転させたナイフを逆手に構えて、俺が指さした先に小さく見える黒い人型の魔獣へ向けて飛び出した。
程なく、
グギァアアアアアア!
という聞きたくない鳴き声が。
頑張れ、レイン。
一匹一匹は弱いんだ、いつかは終わるぞ。
そう、俺が最後に指名した相手は、恐怖の物量攻撃、黒いウジャウジャこと、ヴォーライルさんだった。
俺たちが以前遭遇した時は、ユーキが空いていた枠にヴォーライルを封印して、”撤退”の鳴き声を使わせられてようやく終えられたんだよな。
懐かしい思い出だ。
「シ、シンさぁああ~ん!助けてぇ~。」
おいおい、まだ20匹程度しか倒してないじゃないか、ギブアップが早すぎだろう。
「君ならやれる、めざせ100匹。」
「人でなしぃ~。」
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