GAMEなら何でもいいってわけじゃないよね  五十路のオッサンゲーマーは異世界で何かする

なかのしま

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130話:C・UC

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 「助かった、他にも来てくれているのか?」
 ハイポーションを一気に飲み込んでからカムイに感謝を伝えたスローク。
 肩の傷は無視できないほどに深い。
 カムイの到着が一瞬でも遅れていたら、スロークの戦線復帰は絶望的となっていただろう。
 「申し訳ありません、他はまだ間に合っていないようです。
 龍たちの出動を許可いただければすぐにでも。」
 「いや、流石に龍はマズいだろうな・・・。」
 テルグリナからの距離を考えれば、この短時間で駆け付けたカムイのほうが異常なのだ。
 (確か、ヘルナイトの愛馬は”神速の戦馬”って説明だったな。)
 「すまないが、建設中の南側街道を頼む、カイトたちもいるし、ユーシンとオヤカタ達だけでは守りながら戦うのは困難だろう。
 村から距離もあるし、君ならば安心できる。
 自分も治療が済み次第、村の中へ救援に向かう。」
 すぐにでも駆けつけたかったが、手負いの身ではかえって足手まといになる。
 それほどの相手だと、身をもって実感したばかりだった。
 「承知しました。」
 一礼すると、カムイの姿が歪み、掻き消えた。
 「神速ね・・・彼一人で解決しそうだな。」
 
    **
 
 「あ~、何?こいつら。」
 頭まですっぽりかぶった全身黒タイツに髑髏マークのベルトを付けただけ、という変態じみた格好の不審者。
 目に入った瞬間バッサリと切り捨てた。
 その亡骸を、歌劇場設営スタッフと同じプレートを首から下げたケモミミ少年が足でツンツンと触っている。
 「敵ってことでしょ、そのためにスタッフのフリしてたんだし。」
 額に小さな角が2本、ケモミミ少年と同じプレートを首から下げた少女が答えた。
 「いやいや、それは分かるんだけどさ、この全身タイツって、初代ライダーのザコ戦闘員でしょ?」
 「知らないって、そんな古いの・・・ってかさ、キチセってそう言うの見てたんだぁ。」
 ニヤニヤとキチセの顔を覗き込む少女、ヒスイ。
 「な!ちが・・・ゲームで見たことあるだけだよ!」
 顔を真っ赤にして否定したキチセ。
 「そんなことより、ミサさんたちの方は大丈夫なのかよ。」
 そっぽを向いて話を変えようとするキチセ。
 「モッチのロンさ。
 黒子ちゃんたちをつけてるから、何かあったらすぐわかるよ。」
 得意げに言うヒスイは、いつの間にか髑髏のような炎が燃えるランタンを持っていた。
 「頼りになんの?あれ。」
 「キチセよりずっとね。」
 「うっせーわ。」
 「あっ、ミサちゃんたちの方にも湧いて出たみたいだよ。」
 炎の揺らぎで、ヒスイが黒子と呼んだ小さな黒い霊魂、ダークブロットからのメッセージを受け取ることができる。
 ダークブロットは、レベルアップによってゴーストに続いて使役した低級アンデッドだ。
 戦闘力は皆無だが、遠距離の監視ができる。
 ゲームでは、ある種のモンスターは一定以上のダメージを受けると逃げ回るようになり、その追跡用と言ってもいい扱いのモンスターだった。
 「いくぞ!」
 ふざけるのはもう終わりだと言わんばかりに駆け出したキチセと、後に続くヒスイ。
 その時、ライアーのメッセージを届けるためにインプが二人と合流した。
 
 「なんなのよ、あんたたちはぁ!」
 ステージ上でコンサートの稽古中、突然現れた黒装束の男たちにユーセリアが吠えた。
 「最近の客はマナーがなってないわね、公演前に忍び込むなんて、痛い眼でも見たいのかしら?」
 バキボキと指を鳴らしながらマチルダも前へ出る。
 「ちょ、マズいよ姉御、ママ・・・こいつ等なんか変だって。」
 「そうよ・・・あのチンピラたちとはなんか違うよ?」
 団員の娘たちを守ろうとするユーセリアとマチルダを必死に止めようとするマリアたち。
 かつて囚われていた興行団でも、欲望のままに手を出そうとするチンピラから娘たちを守るのは二人の役割だった。
 しかし、あの時とは違う。
 頭まですっぽりと覆った黒い全身タイツにベルト、という奇怪な姿の男たちは、素人目にもわかるほどの殺気を放っていた。
 「だい、じょうぶ・・・私が、みんなを守るから。」
 震える声で何とか声を振り絞ったミサ。
 その手には、スロークから渡された拳銃が握られていた。
 かつて、複数のデモンエイプを従えて村を襲ったワタリビトたち。
 そいつらが残した武器を、護身のためにミサに与え、訓練も施していた。
 もちろんヒトを撃ったことなどない。
 それでも、勇気を振り絞って前へ出た。
 大切な家族を守るために。
 しかし、その勇気はあっけなく打ち砕かれた。
 黒装束たちは、いつの間にかミサの持つ拳銃よりはるかに凶悪な銃火器を手にしていた。
 不審者たちの情報を知らされていなかったミサは、壊滅したはずの興行団が復讐に来たのではないかと思っていた。
 しかし、これはどうみてもワタリビトの力にしか思えない。
 (やだ・・・やっとみんなで歌えるようになったのに・・・やっと、安心してうちこめるようになったのに。)
 ミサは、両手でかまえていた拳銃を下げた。
 心折れたからではない。
 震える声で歌い始めた。
 その様子を見た侵入者達から笑い声が聞こえた。
 「哀れな、気でもふれたか。」
 侵入者の1人が、嘲るように言い放つ。
 と、腕に装着された銃でミサを撃った。
 バチンッ
 「なっ!」
 侵入者たちから驚愕の声が上がる。
 寸分狂わずミサの顔に向けて放たれた弾丸は、ステージの直前で弾かれた。
 ミサがステージに立ち歌い踊る。
 その一連の行動によって、ステージ上はゲーム”シンデレラアイドル”の空間として認識される。
 そのゲームには、魔物や不審者に襲撃されるようなイベントは存在せず、ゲーム空間と化したステージ上にはいかなる攻撃も効果を失ってしまう。
 わかってはいても、恐怖で体は震え、声もかすんでまともに歌えてはいなかった。
 が、それでも止まらない限り、この無敵空間は維持される。
 この世界へと引きずり込んだ悪魔によって、戦闘とは無関係のゲームをプレイしていた者たちでも生き残ることができるように配慮された、最低限の措置だった。
 「結界か・・・小賢しい真似を。」
 「どこまで持つか、観物だな。」
 一斉に放たれる様々な種類の弾丸や砲弾。
 ステージの中まで届かなくとも、凄まじい銃声や炸裂音がミサを襲う。
 もはや音程すら取れず、動きもダンスとは程遠い・・・それでも鉄壁の守りは崩れない。
 後にシンが、「あれだけはヤツのいいかげんな仕事に感謝しよう。」と本気で評価したシステムの穴だった。
 一度発動してしまえば、例え歌もダンスも形にならなくなっても、ミサが放棄しない限り効果を発揮し続ける。
 恐怖を振り払うため目をきつく閉じ、炸裂音に負けないように声を張り上げた。
 もう、自分でもなんと叫んでいるのかすらわからないほど、無我夢中だった。
 だから、ユーセリア、姉御の分厚く硬い胸と、筋肉でガチガチの腕で抱きしめられるまで、戦いが終わっていることに気が付かなかった。
 「よく頑張った!さすがよ、ミサちゃん。」
 その声でようやく安心したミサは、全身から力が抜けるようにユーセリアに身を預けると、声を上げて泣き出してしまった。
 「自慢の娘だよ、あんたは。」
 マチルダもミサの頑張りをねぎらった。
 他のメンバー達はすっかり腰を抜かしてへたり込んだり泣いている中、さすがの二人だった。
 
 「なんか、すげぇ消化不良なんだけど。」
 ステージの上で抱き合う三人を見上げながら不平を漏らすキチセ。
 意気揚々と乗り込んだにも関わらず、敵は結界を破ることに躍起になっていてキチセたちには気づかず、爆音の中いとも簡単に殲滅に成功してしまった。
 「不貞腐れないの、誰も怪我しなかったんだから、ミサさんが頑張ったってことでしょ。
 あんたのヘマで間に合わなかったんだから仕方ないじゃない。
 ミサさんに感謝!」
  キチセとヒスイが、護衛にも関わらずミサ達から離れていた理由・・・それは、スタッフに扮していたにもかかわらず、キチセが舞台装置に躓いて壊してしまい、代わりの装置を取りに離れていたためだったのだ。
 「・・・マジ感謝。」
 
    **
 
 「あらあら、皆さんお疲れみたいですね。」
 ナナオ。
 コンの七番目の尾、という理由で付けられた名。
 「お前の匂いのせいだろう、患者まで眠らせてどうする。」
 ツグオ。
 コンの2番目の尾、という理由で付けられた名。
 二人は、マナの診療所をサポートするために派遣されたキュウビ、コンの尾が変化したモンスターだ。
 妖艶な美女の姿を持つナナオは、状態異常を起こす多数の”香り”パフュームを操る。
 その力で、診療所でマナのサポートをしつつ二人目の医師として活動していた。
 直接傷を癒したり病を治療することはできないが、痛みを和らげたり疲れを癒す、自己治癒力を高めるなどといった”香り”で、医師を演じてきた。
 精悍な中年男性の姿を持つツグオは優れた戦士だ。
 診療所では、用心棒兼看護師として二人の医師をサポートしてきた。
 そのツグオの”超感覚”が危機を察知し、それに呼応したナナオが、全力で”睡眠の香り”を放ったのだ。
 「これでは先生まで巻き込んでいるのではないか?」
 「あら、それはそれでもいいのじゃなくて?」
 呆れるツグオに、妖艶に答えるナナオの表情は歓喜に歪んでいた。
 ナナオの本性は戦いにこそあった。
 全力で放った睡眠の香りに包まれながら、意識を保つ気配が五つ。
 二つはナナオとツグオ。
 三つのうち、最低でも二つは敵。
 マナも睡眠に落ちていれば、敵は三。
 久しぶりに殺せる。
 ナナオの心は邪悪な歓喜に満ちていた。
 「酷いのね、いきなりだったから、ゲランさんが倒れて腰を打っちゃったじゃない。」
 チッ。
 ごく小さな舌打ちを、ツグオだけは聞き逃さなかった。
 (敵は二体か・・・俺の出番は無さそうだな。)
 マナに向けてにこやかに詫びるナナオが、内心獲物が減ったと苛立っているのを察したツグオは早々に戦いを諦めた。
 マナが譲ってくれないことも理解していたからだ。
 「場所を変えましょう、ここじゃ暴れにくいでしょ。」
 そう言うと、サッサと裏庭へと向かうマナ。
 診療所の裏庭は、入院患者の気分転換や運動不足解消のため、テニスコート程度の芝生で敷き詰められた運動場になっていた。
 プライバシーに配慮して、外から覗かれないように垣根で覆われており都合が良い。
 マナに続いてナナオが裏庭へと向かうと、敵の気配も後を追った。
 (やはりターゲットはマナ先生か。)
 見た目で最も強く見えるツグオをスルーしたということは、そういうことなのだろう。
 実際に、純粋な戦闘力ではマナもナナオもツグオには敵わないのだが、この診療所で働く以上は、戦闘力など何の役にも立たないのだと心の底から思い知らされていた。
 黙々と眠りこける侵入者を縛りあげ倉庫に放り込む。
 ライアーからの情報を受け取るも、"マシンライダー"が何なのか分からない。
 とりあえずカードだけ回収することにした。
 二人のサポートに行こうものなら、ナナオは間違いなくネチネチと不満をぶつけてくるだろう。
 マナは表面上普段と変わらないだろうが、気配などの感知に優れたツグオには内心が透けて見えてしまう。
 ツグオにとっては、ある意味ナナオよりもキツかった。
 (まぁ、死にそうになったら行けばいいだろう。)
 
 「レァイディアー・・・」
 右こぶしを引き、技に入ろうとする敵にマナはブレードを叩き込んで妨害すると、そのまま鋭く体を回転させて無数の斬撃を浴びせた。
 「本当に面倒なのね、ゲームの設定なんだろうけれど実戦向きじゃないでしょ?」
 マナが相手している敵は、ナナオの香りで落ちた他の敵兵とは違った、鎧とフルフェイスの兜を装備していた。
 鬼兵オーガニオだ。
 確かに鎧部分は硬いが、それでも高速振動により切れ味を増したブレードを防ぐことはできなかった。
 放出した魔素を固めて実体化させていた以前とは異なり、アオイが作ったミスリル製のブレードを装着、それに魔素を流すことで消耗を減らし、ゲーム本来の威力を再現できるようになっていた。
 「く・・・化け物・・・め・・・。」
 切り裂いた部位から鬼兵オーガニオのスーツがボロボロと崩れて剥がれ落ちてゆく。
 「どうする?大人しくするなら捕虜ってことで手当てくらいはするけど。」
 もとより命を奪うつもりは無かったが、強制的に意識を奪って捕虜にするよりは自ら白旗を上げてほしかった。
 そんなマナの想いも空しく、スーツが砕け散り生身となった敵がマナを睨みつけると、次の瞬間、血の泡を吹いて痙攣をはじめ、マナが対処するより早く事切れた。
 「そう・・・そこまでするのね・・・。」
 強制的に意識を奪ってしまっていれば。
 自分の甘さを痛感したマナは、ナナオの方をチラッと見てため息を吐いた。
 
 マシンライダーシリーズで1作目から3作目までの敵モブキャラとして登場したのが、黒い全身タイツの戦闘員ゴーリオで、ゲームにおいては最も多く出る”C"コモンの装着カードだった。
 武装も無く最弱の設定。
 装着すると、ド素人でも熟練した兵士とまともに戦えるレベルになる。
 
 30作、マシンライダー 霊騎レイスナイトに登場する鬼兵オーガニオは、警察が創設した武装組織の正式兵装という設定。
 ”C"コモンの一段階上位、”UC”アンコモンの装着カードで、ショートソードサイズの剣、アクティブブレードと、拳銃のリングガンを装備している。
 装着すると、ド素人でも熟練した兵士と素手で互角以上に戦えるレベルになる。
 そのマスクには、ガスマスクとしての機能も備わっていて、作中でも毒ガス漂う中、怪我した市民を救出する姿が描かれていた。
 
 ナナオの相手も鬼兵オーガニオ、そのマスクには設定どおり防毒機能があり、”睡眠の香り”同様、全ての香りが通用しなかった。
 逆に鬼兵オーガニオのリングガンによって離れた場所からの攻撃で少なからず手傷を負っていた。
 自分の攻撃は一切通じず、相手の攻撃によってダメージが増えていくという、どう考えても絶望的な状況なのだが、ナナオは焦るどころか、むしろ嬉々としてこの状況を楽しんでいた。
 香りを使わず、直接戦うなど初めての経験。
 いや、かつて一度だけ・・・今の主、シンと戦った時・・・かすかに残る記憶にあった。
 「貴様・・・やはり化け物の類か。」
 リングガンを撃ち付くし、チャージ状態に入った鬼兵オーガニオの目の前で、妖艶な美女が変わってゆく。
 その姿に驚愕していた。
 「哀れね、この毛並みを美しいと思えないなんて。」
 狐の獣人のような姿に変化したナナオは、一気に鬼兵オーガニオに迫ると抜き手で首を狙った。
 ガッ
 かろうじて反応した鬼兵オーガニオ
 首は守ったものの、肩当てが弾け飛んだ。
 鬼兵オーガニオのアクティブブレードとナナオの手刀が激しくぶつかり合う。
 拮抗した戦いは、1分ほどでケリがついた。
 鬼兵オーガニオがガクリと膝をつき、震え出したのだ。
 「あら、もう終わりなのね・・・ザンネン。」
 「グ・・・ガフ・・・」
 マスクから苦痛の声が漏れる。
 「そんなもので私の香りを防ぐなんて無理ってことよ・・・多少時間はかかったけれど。」
 久しぶりの、この世界では初めての戦いで興奮気味なナナオは、もがき苦しむ鬼兵オーガニオの首に手刀を叩き込むと、あっさりと首を刈り取った。
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