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砂漠の国

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「では、私がペツッド山の麓までお送りしましょう。」

 そう、申し出てくれたのはマイヤー大佐だった。どうやらソッコーでユリイを嫁にして自国に戻るらしい。

「なんか。艶々だな。マイヤー大佐……。」

「一晩中ハッスルしたらしいよ?処女相手に鬼畜だよね。」

「ユリイ嬢は処女か……。」

「ライリー、そこ??ユリイ、かわいそうに……。」

「かわいそうって、うさちゃんのせいじゃない……。」

「元を辿ればエイデンのせいだもん!」

「う……。」

「まあまあ。ほら、うさ公、入んな。出発するぞ。」

 バツが悪くなったのかエイデンがそそくさと私を抱えてライリーのだっこ紐の中へ入れた。なんでもマイヤー大佐の嫁取りが上手くいったということで飛行船を使って国に帰るらしい。飛行船って王家の結婚式でしかお目見えしないものでめちゃくちゃ珍しいものらしい。ミルバ神お墨付きの娘を貰ったんだと大々的に宣伝するんだってさ!どうやって飛ぶかというと目隠しした大魔鳥を30匹使って部屋のような天幕付きの座席を引っ張り上げるそうだ。すげぇ。

「座席ついてるから自分で座るよ。」

「大丈夫か?滑って落ちんなよ?死なねぇけど、飛べねぇからな。」

 ちびっこな私を心配してライリーがそういってくれるけど、景色見たいしさぁ。

「黒兎様!!」

 ライリーに助けてもらいながら椅子に座ったらミルバとアスラン王子がこちらにやってきた。

「今回の事、感謝します。ユリイも幸せになる方法を考えてくださってありがとうございます。」

 18歳に戻ったミルバがアスラン王子に腰を抱かれている。

「さっそく年齢も戻してもらえたんだね!アスラン王子、ミルバとお幸せにね。」

「マイヤー大佐がね、君の熱意に許してやると言ってくれました。ミルバが幼くなったって呪いも幻影ですかって言われてしまって……セイランが色々とバカやって正直、怒ってたんです。でも、時にはバカやってでも大事なものを守らないといけないんだって学びました。マイヤー大佐に渡したくなくて幻影を使いましたって頭を下げて謝ってミルバを元に戻せました。」

「そっか。」

 クールに物事を運んできたアスラン王子がアレを自分がやったというのはよっぽどだったに違いない。ミルバ、愛されててよかったね。


「黒兎様、感謝します。あのままでは国民も私の周りの者たちも不幸にするところでした。ユリイも私たちの大切な幼馴染だったというのにかわいそうなことをしていましたしね。周りが見えていなかった私はまだまだ王太子としての修行が足りませんでした。」

「修業はもう一人のバカに沢山させたらいいよ。」

「バカって俺の事かよ。」

「お、セイラン。」

「……ま、なんというか。ありがとな。困ったことがあったらなんでも言ってくれ。協力するから。」

「私もです。」

 双子が並んで私にそう告げた。うん。セイランもすっきりした顔をしていて何よりだ。


「ところで、歌会の時にユリイの後ろにいたとんでもない美少女って黒兎様の知り合い?」

 げっ。とセイランを見ると顔が真っ赤だった……まさか。

「ああ、あれは俺の嫁だ。」

 小さな声だったのに聞こえていたのかセイランのその問いに答えたのはライリーだった。

「え。そ、そうなん……ですか?」

「そうそう、リアムの想い人でもあるね?」

「ええっ。」

 エイデンの発言にその場の人が驚いた。おいおい。もちろんライリーの嫁でもなければリアムの想い人ってことでもないぞ。

「英雄ライリー様の嫁であのセルドリアム殿下の想い人……。」

 訂正しようかと思ったが、ガクリと膝を折って打ちひしがれているセイランを見てやめる。「即失恋。オメ。」というエイデンの冷たい声が聞こえた。

「そろそろ上昇します!!」

 準備が整ったようでそう、声がかかった。

「あ、ユリイにも声かけとくかな。」

「ユリイ嬢はマイヤー大佐の隣でかろうじて座っている状態だぞ?」

 ライリーの声で前を見るとマイヤー大佐にしなだれかかるようになって眠るユリイ。ありゃ、無理だな。ついたら声かけるか。

「では旅の幸運を。」

 アスラン王子がそういって席を離れて行き、マイヤー大佐に声をかけると飛行船を降りて行った。
 バサリバサリと羽音が聞こえて船が浮いた。

「黒兎様、セルドリアム殿下、有難うございます!」

 視線を下げるとミルバとアスラン王子、セイランの後ろでサチャが叫んでいた。

 うん。元気になってよかった。

 パタパタと手を振るとみんなも振り返してくれた。

 ぐんと王城から飛行船が離れていく。王宮のバルコニーからは王様とお妃さまも見ていたようだ。

 砂漠やオアシスが小さくなる。

 前に座るマイヤー大佐が愛おしそうにユリイを見ていて。ああ、よかったな。と思った。
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