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全能の神は反省する

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「ああは言っていたけれど、本当にラウ……なんとかさんて、ライリーやエイデンの事治せる方法知ってるの?」

 城に向かう途中でイーサンにそう問うとイーサンの眉間にはしわが寄って行った。ゼス神はもうひと眠りするといってベットに消えていった。「惰眠、ムフフ。」とか言っていた。竜人生を楽しんでいる。

「ーー治すのは無理だろう。一時的、とゼス様は仰った。確かにラウカーバン殿は最古の竜で物知りだが、とてもーー変わったお方である。」

「めっちゃ長生きなのねーー偏屈なの?」

「ムム。そうではない……ともいえん…うーむ。」

「ーーイーサンが今までそれを口にしなかったってことはラウカーバンさんに期待してなかったってことだよね?」

「最古の竜ラウカーバン殿は……色々とこじれているのだ。」

「こじれてる?」

「ラウカーバン殿はこの地上に初めてゼス神がお創りになった人類である。ゼス神がお創りになったこともあり、強くて、美しく、素晴らしい竜人である。それ以降様々な人類が作られてもラウカーバン殿は至高の男であった。誰もが彼を求め、彼の子供を欲しがった。しかし、それ故に傲慢になり、あまりにも移り気なラウカーバン殿を見てレナ様がお怒りになり、今の竜人の「番」という制約を竜族に植え付けたのだ。」

「え、それってもしかして「番」にしか欲情しないってやつ?」

「ウム。」

「だから竜族は増えないんだね。」

「まあ、しかし、寿命も長い。生きているうちに番に出会えたら幸運である。レナ様の気が向いた時には子供も授けてもらえる時もある。」

「長いっていうもんじゃないじゃん。いくつなのよ、ラウカーバンさん。」

「数千であろうか……。ラウカーバン様は特別だからな。一部の者を除けば竜人の平均寿命は500年ほどだ。但し、番を持った竜人は寿命が縮む。他族の「番」であればその寿命を分け与える形となる。」

「それって、「番」が見つかると寿命が縮まるってこと?見つからない方がいいんじゃないの??」

「何を言う。愛する者に出会える奇跡に比べれば寿命など。それに、番に会えぬまま生き長らえる方が辛い。ラウカーバン様がいい手本だ。大抵は100歳までには番に出会え200~300歳くらいで命を全うする。ラウカーバン殿の孤独は計り知れない。」

「そんなにレナ神のご機嫌を損ねたってこと?」

「……パオラは鋭くて困る。まあゼス神が初めて作ったという事もあって姿かたちや性格がゼス神に重なる部分も多くてな。やんちゃだったゼス神のとばっちりを受けたのがラウカーバン殿かもしれない。」

「……。」

「城の奥深くにラウカーバン殿がいるから長に挨拶をしたら我と行こう。いきなりゼス神と会わせてはどうなるか分からん。」

「そ、それはイーサンに任せる。」

「と、ところでパオラ……その、城までその、抱いて行ってもいいか?」

 手をワキワキさせた大男が私に向かって真っ赤になって言う。竜人姿のくせに可愛いじゃないか。しかし、ボディタッチがあるとニョキニョキしてしまうじゃないのか?

「……ダメか?」

 応えない私にしょぼんとして言うイーサンにちょっとキュンとしてしまう。

「手ならいいよ?」

 イーサンに向けて手を出すとイーサンがバッと顔を上げて太陽みたいに笑う。そして私の手を壊れ物に触れるようにそろそろと掴んだ。

「キモうさみたいに不死身じゃないけど、壊れたりしないよ。」

 笑ってキュッと手を握るとイーサンの顔がみるみる赤くなった。

「我が番は質が悪い。」

 ぼそりと言ったその言葉は周りをキョロキョロとしながら見て歩く私には届いていなかった。

 イーサンのお屋敷があった岩壁から草原を渡って歩いていると目の前に石壁に囲まれた建物が見えてきた。

「あれが城だ。竜人はほとんどがあの城壁の中で暮らしている。長はラウカーバン殿の妹の子孫にあたる。因みに我の従姉でもある。」

「ふーん。因みに同族での「番」っているの?」

「ここだけの話だがな、パオラ。女はこの里に生まれる男に番がいるのだ。どちらにしても「番」を持てば短命になるのは同じだがな。外で番を求めなければならないのは「力の強い」「美しい」男だけである。」

「それってレナ神の「呪い」じゃないの?」

「我は口に出しては言えん。」

 要するにゼス神みたいに(レナ神的)色男に生まれると外で苦労して「番」を探さなくてはならないシステムになっているのか。なんか、かわいそうだな。レナ神は男前にそうとうな偏見を持ってるに違いない。今朝見たゼス神は超美男子だったからなぁ。きっとモテまくっていたに違いない。てか、ゼス神は退屈しのぎに竜人を作ったけど管理はレナ神に任せてそのうち飽きちゃってほったらかしにしたんじゃないか?なんて迷惑な。

 石壁に近づくとイーサンが何やらブツブツと呪文のようなものを唱える。するとガタガタと石壁が左右に開いて私とイーサンを迎え入れてくれた。

 石壁の中に入ると所狭しと建物がひしめき合っていた。地面が石畳に変わり、多くの竜族が暮らしているのが分かる。多いといっても1000人いるかどうかくらいらしい。竜族が珍しいのが分かる。

 その中央の一番幾層にも重なった高い塔が「城」であるらしい。中に入ると螺旋状に続く階段がある。中央に丸く大きな空間があるのは竜の姿で上まで一気に上がれるようにしてあるのかもしれない。

「イーサンだけならすぐ上がれたのにごめんね?」

 上を見上げてイーサンに言うとイーサンの手がピクリと動いた。私がいるためにイーサンも上まで歩きになったのなら申し訳ない。

「乗せてやりたいが、パオラが酔ってしまうしな……それに……こういうのも悪くない……。」

 プイっとイーサンが私から顔を背けて歩く。耳まで真っ赤だ。どうやら照れているらしい。にぎにぎと手を動かすとビクリ、ビクリとイーサンの手が反応する。大の男のその反応についつい面白くなってしまう。

「やっぱり、我が番は質(たち)が悪い……。」

 二度目のイーサンの呟きも私の耳に入ることは無かった。
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