待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ

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「みんな無事かー」
 副団長が声をかけるとメンバーは返事の代わりに腕を上げた。
 俺は設置したテントにみんなを誘導すると怪我がないか一通り確認する。
 他のみんなはアンダーウェアに塗り込んだ薬とバリアが効いていて打撲や擦り傷程度で済んでいた。
 しかし、さすがに猛毒のバジリスクを一人で相手していたシオンは無事ではなかった。

「タオ……治療してくれ」
 そう言ってシオンが服をまくると防ぎきれなかった毒にただれた患部が見えた。
「とりあえず、服を着替えよう。見えてなくても毒がついているかもしれない」
 俺はハサミを使って患部に当たらないように細心の注意を払いながら服を取り去った。
 鍛え抜かれた体は男の俺が見てもほれぼれする。
 こんなのもイケメンなんだからさぁ。

「薬を塗るから動かないでよ」
 先に治癒魔法をかけ皮膚を再生すると、念のため解毒作用のあるクリームを全体に塗った。
「ちょ……タオ、自分でできる」
「なに言ってんだよ、隙間なく塗らないと後でただれてくるかもしれないんだぞ」
 俺が一生懸命塗っているとシオンがそんなことを言う。
 こそばゆいのかもしれないが、ちゃんとしないと小さな毒を残せばそこから広がる可能性だってあるのだ。

「シオンが自分で塗るなら、こっちを手伝ってくれよ、タオ」
 おどけたように副団長が言うと『そうだ、そうだ』と先輩たちも言い出した。
 あっちはお互いに塗るように言っていたんだけど。手が足りないのかな。
 そう思って足を向けようとしたらシオンが俺の腕をつかんだ。
「お前は俺のバディだろ」
「そうだけど」
「だったら俺だけ塗ってろ」
「……」
 さっきまで嫌がっていたくせに。

 俺が黙って薬を塗りだすとみんながこちらを見てニヤニヤしていた。
 そうだよな。シオンってちょっと子供っぽいところがあるんだよ。
 命にかかわることなんだから、くすぐったくても我慢しないと。
 さすがにパンツの中は無理だと言われて、それは自分で塗ってもらったけれど、そんなシオンの姿を見てみんなはゲラゲラと笑っていた。

 そうして倒した魔獣は穴を掘って入れてから焼き払った。こうしないと毒が危険だからね。
 燃やすと効果が切れる毒でよかった。

「さあ、バジリスクの処理も終わったし、国に帰るぞ」
 副団長の声に、わあ! とみんなが声を上げて喜ぶ。
 地元の騎士団の人たちとも合流して喜び合った。
 厄介な魔獣を倒した高揚感もあって町に入ると酒場で前祝だと騒いだ。
 どこへ行ってもみんなが労って食事を奢ってくれた。

「みんな、よく聞け! 国王からバジリスク討伐成功の褒章が出るぞ!」
 知らせを受けた副団長がみんなに伝えると、雄たけびのような歓喜の声が上がった。
「やったー!」
「やっぱり最優秀功労賞はシオンだな!」
「いや、タオのサポートがあってこそだろ」
 出来上がってしまったみんなが笑いながらシオンに酒を勧めていた。
「こら、タオ、そっちは酒だ」
「え? う、うん」
 お酒に手を伸ばした俺にシオンがジュースをよこしてくる。
 そんなことだけ厳しいシオンに俺は二十歳まで酒は飲まないよう言われていた。
 今日こそ目を盗んでちょっと飲んでみようと思っていたのに……。

「おーおー、亭主きどりかぁ、まったくシオンは困ったやつだ」
「タオが嫁なら危なっかしくて過保護にもなるだろ」
「それも、そうか」
 ぎゃははは、と先輩たちが笑う。
 お酒が入るとまたこの話題だ。どうもシオンが俺に構うのが面白いらしく、夫婦扱いしてくるのだ。
 まあ、実際バディとして息が合っているってことだと思うと嫌ではないけどね。
 こんなこと言われてシオンは不快に思わないのかなぁってシオンを見る。
 するとこちらはもう出来上がっているようで顔を赤くして俺を眺めていた。
「俺もタオが嫁がいい」
 そんなことを言い出す酔っ払い。
「嫁は……一生懸命探しているんだから、もうちょっと待っててよ」
 はあ、シオンってこう見えてお酒に弱いんだよね……。
 自分がそうだから俺にも頑なに飲ませようとしないんだ。
「俺はタオが嫁になって欲しいんだ」
 そのまま抱き着いてくるシオンに、またみんながゲラゲラと笑った。
 まったく困ったもんだと思いながら、一番の功労者のシオンを褒めてやりたい気持ちでいっぱいだった。


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