待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ

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 バジリスクを倒したことは国中に瞬く間に広まり、王都に戻るときは沿道に立つ街の人に労われながら凱旋した。
 そして数日後には祝賀パーティが開かれることになった。
 それほどまでにあのバジリスクは大物であり、砂漠の脅威だったのである。
 まあ、倒してみてびっくりの大きさってのが一番だったと思うけどね。

「これまでの事例から考えても王は褒賞の一つとして願い事を聞いてくれるんじゃないか」
「そんなの、あるんですか?」
 副団長がそんなことを言い出してみんなで心浮かれた。
「以前、団長が大暴れしていた岩ドラゴンを倒した時も褒賞と願い事って言うのがあったぞ」
「ん? それって一人だけ叶えてもらえるんですか?」
「ま、一番功績があった者ひとりにってのが通例だな」
「なーんだ、じゃあシオンだけかぁ」
 それじゃあ仕方ないな、なんてみんなが愚痴る。
 あのバジリスクを一人で倒しちゃったんだから、それも納得だよね。
「団長はなんて願ったんですか?」
「それは、ほら。七不思議のひとつだろ」
「あ……まさか」
「あのゴリラがなんで美人の伯爵令嬢と結婚できたかって、俺ずっと不思議に思ってたんすよ!」
 誰かの発言を聞いて、俺はわっと心を躍らせた。
「シオン、お願い事を聞いてもらえるかもしれないよ?」
「なに言ってるんだ。俺が倒したっていってもお前がいたからできたことだ。お前だって願いを聞いてもらえる権利はあるんじゃないか」
「命を懸けて前線で戦ったのはシオンだもん。お願い事を聞いてもらえよ」
 そう言って俺はシオンに笑いかけた。
 俺には一つ考えていたことがあった。

 茶色の髪でぱっちりの目。身長は女性としては少し高めの百七十五センチ。貧乳……。
 実はこの条件がばっちりと合っている女性がいたのだ。
 それはホルダー子爵令嬢のレミレル様である。
 実はシオンは非番の時に街で男に絡まれているレミレル様を助けたことがあるらしい。
 シオンが隠していたようで、それを知ったのはついこないだのことなのだけれど、レミレル様は以前からシオンに熱烈な手紙を何十通も送っているのだ。間違いなく恋文。
 しかし、それに返信しないどころかシオンは告白も断っていると聞いた。

 なぜか。俺はピンと来たね。

 俺たち平民では子爵家の女性など雲の上の存在なのだ。きっとシオンも苦渋の決断でお断りしたのだろう。
 きっとそのショックで『嫁はタオでいい』なんて言い出したんだ。
 うんうん、わかるよ。身分差なんて生まれはどうしようもないからな。

 しかし、しかしだ。団長も元は平民。なのに今は伯爵令嬢と結婚して爵位を継ぐ予定だ。
 これは、もしかしてもしかするのではないか。
 これがうまくいけばシオンの婚活は終わり、まさにハッピーエンドが迎えられるはずだ。

 いよいよ功労賞がもらえるという情報が入り、シオンはバディとして一緒に王から褒賞を受けようと言ってくれたけど、俺はそれを頑なに断った。
 俺に相談する必要もない。レミレル様とこれで結ばれるのだからシオンが願いを聞いてもらうべきだ。

 正装したシオンはそれはそれは輝いていて、まさにパーティの主役だった。
 会場にはレミレル様も来ていて、目もハートになっている。そうしてパーティも終盤になって、俺たちは王の前に集まった。

 黒騎士と呼ばれる第八部隊が勲章をもらうために一列に並ぶとなかなかの迫力だ。
 王から受け取った勲章を小姓たちがそれぞれ胸に着けてくれた。

 キラキラと輝くバッチ……。
 勲章はバジリスク討伐に出た俺たちだけだが、褒賞は第八部隊に贈られる。これでいっそう部隊の結束は固くなりそうだ。

「次に第八部隊バジリスク討伐隊の褒美の品書きを発表する」
 その声に会場内は静まり返った。なにがもらえるのかと、みんな知りたいのだろう。
 大臣が前に出て目録を読み始める。家畜とか、宝石とか、設備とか……いろいろもらえるようだ。これには砂漠で多大な被害を受けて困っていた商人たちからのお礼の品も含まれていた。
 俺たちはそれを聞いてニヤニヤしてしまった。

「そして、最も貢献した者として、シオン=ワーグナーに一つだけ願いを叶える権利を与える」
 最後に大臣はそう付け加えた。やっぱりな展開に一同が息をのんだ。
 命がけの死闘に勝ったのだから、そのくらいはシオンに権利がある。
 シオンがレミレル様をもらい受けたいと言うだろうと、俺は一世一代のプロポーズを見守っていた。

「シオンよ、申してみよ」
 前に出たシオンは王に跪く。シオンは大きな声でそれに答えた。

「私は私が決めた相手との婚姻を望みます」

 決めた相手って、レミレル様だろ? なんでそんな回りくどい言い方……。
 不思議そうにする俺の脇を隣にいたレオがつついた。
 あ、俺、呆けて口が開いてたわ。
 慌てて口を閉じて真面目な顔に戻すと、王が『承知した』とだけ言った。

 会場はそのミステリアスなシオンの言葉に沸いた。
 当然ながら相手は誰だと国中の注目になった。

 俺ははっきり言わなかったシオンを不思議に思いながらも、なにか考えがあるのかな、と呑気に考えていた。


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