冥府への案内人

伊駒辰葉

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三章

水の中を泳ぐように

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「そりゃ、そんだけ飲めば酔うわ! アホ!」
「え、何で俺が怒られるんだ?」

 和也が急に喚いた理由が判らずず、順はうろたえながら訊ねた。和也が苛々と頭をかいて順の手をさりげなく払う。手の中からペニスの感触が消えたことに拗ねて順は唇を尖らせた。

「いいか? 基本的に木村の身体は薬物は受け入れない。これは判ってるな?」

 何故、そんなことを和也が知っているのだろう。そう思いかけて順はああ、と心の中で呟いた。そういえばうっかり忘れていたが和也は監視者なのだ。その程度の知識はあっても何の不思議もない。

「だがそれはあくまでも一般的な摂取に対する反応だ。つまり、フツーに飲む分の薬物はお前の身体は拒絶しちまうわけ。で、全く効かないって現象が起こる」
「うん」

 何となく釈然としないものを感じつつも順は素直に頷いた。

「で、だ。そんな無茶苦茶な飲み方すりゃあな。身体が拒絶出来なくなってストレートに染み込んじまうんだよ。極端に言えば、ある時点を境に急激に身体が異物に反応するようになるんだ」
「へえ」

 そうなのか、と呑気に思いながら順はまた頷いた。すると和也が急に眉を吊り上げる。

「判んないのか! 危ないんだよ! その状態は!」
「何で?」

 感覚がアルコールのために鈍っている順はのんびりと首を傾げた。怒られているのは何となくは理解出来るが、いつもの迫力を和也に感じない。

「どうもおかしいと思ってたんだ……ちょっとこっち来い!」

 そう言って和也がベッドを飛び降りる。次いで順は強く手を引かれて半ば倒れるようにしてベッドを降りた。よろけた順を和也が無造作に腕に抱える。横抱きにされたところでさすがに順も焦り始めた。

「ちょ、ちょっと待て。何を」
「やかましい! アルコールをたたき出すんだよ!」

 怒鳴りながら和也がバスルームのドアを蹴飛ばす。乱暴にバスルームに放り込まれた順はよろけてタイルにへたり込んだ。身構える間もなく頭からシャワーで水を被せられる。

「冷たいってば!」
「うっせえ! 今度そんな飲み方してみろ! 次は川に放り込んでやる!」

 怒鳴り返した和也が順の目の前に膝をつく。シャワーの水流で乱暴に顔を叩かれ、順は手で頭をかばった。夏とはいえ、真水はとても冷たく感じられる。

「止せ! この、いいかげんに」

 怒りの声を上げた順は、不意に唇に温かなものを感じて息を飲んだ。順と同じようにシャワーに打たれながら和也が唇を合わせたのだ。思わず呻いて避けようとした順の身体を和也がしっかりと腕に抱く。

 やがてシャワーの水流は温かくなり始めた。冷え切った身体に温かなシャワーが降り注ぐ。じん、と身体に熱が染み渡り、順はため息をついて身震いした。微かに震えた順の身体を和也が強く抱きしめる。

「え」

 水流にかき消されそうなほどに小さな和也の呟きに思わず声を上げる。だが何を言ったのかを問おうとした順は急に襲ってきた快感に声を飲み込んだ。和也が手でペニスを扱き始めたのだ。

「くっ……んはっ!」

 仰け反った順の首筋に和也が唇を落とす。掠れた順の声はバスルームに強く響いた。数回ほど扱かれただけであっけなく達してしまう。だが順が達しても和也は手を止めなかった。

 柔らかく不思議な快感が次々にこみ上げてくる。順は和也に弄られるままに何度も達した。だが何故か和也は順に快感を与えるだけで自分は挿入しようとしない。快楽に囚われつつも順は和也に問い掛けた。

「ど……して? 何で、俺ばっかり……」
「あー。心配しなくても後でちゃんとしてやるよ。先に抜かなきゃオレが安心できねえの」

 まるで子供に言い聞かせるように告げて和也が手に軽く力をこめる。根元から先端に向かって擦られて順は思わず小さな悲鳴を上げた。それと共にペニスがびくりと震え、先端から精液とは違う、透明な液体が迸る。だがそのことに順自身は気付かなかった。されるがままに何度も達してしまう。

 不意に和也が手を止める。順はぼんやりと和也を見つめて首を傾げた。シャワーの湯はまだ止まっていない。まるで雨のように二人の上に降り注いでいる。

「ほら。今度はお前がしろよ。……あ、噛むなよっ。絶対に!」

 そう言いながら和也が順の目の前に膝立ちになる。順はこくんと頷いて和也の股間に顔を寄せた。湯に濡れたペニスはそそり立っている。順は舌を伸ばしてペニスの先に触れた。軽く鈴口をなぞってから静かにペニスを口に含む。

「イっちまってもいいからな、べつに。どうせ湯で全部流れるしよ」
「ん」

 ペニスを咥えたまま頷き、順はゆっくりと頭を動かし始めた。舌先で裏側をなぞりながら唇で上下にペニスを擦る。膨れた亀頭の下にある溝の部分を唇の輪で軽く締める。そのまま口の中の空気を押し出して亀頭を吸う。すると和也が微かに呻いて順の頭を押さえた。

「やらしいやつだな。口の動きがすげえいいぞ」

 ため息混じりに言いながら和也は順の濡れた髪を指で梳いた。順はうっとりと目を閉じ、舌と口での愛撫を続けた。男のものを口に入れているということに嫌悪感はなかった。ただ、快楽が欲しい。それだけの思いで順は熱心にペニスを唇で擦った。

「そろそろ出るかな。全部飲めよ」

 そう告げて和也が急に順の頭を押さえる。順は喉の奥に急に入ってきたペニスに驚き、思わずむせかけた。だが懸命に衝動を堪えてなるべく抵抗しないように身体から力を抜く。

 唐突に全身が熱くなる。喉の奥に射精されたと同時に順は呻きを漏らして射精した。口に飛び込んできた精液を夢中で飲み下す。和也の精液を嚥下するたびに順のペニスからは白い精液が迸った。

「おら。なにぼんやりしてんだよ。とっととケツ向けろ」

 乱暴に順を引き剥がして和也が言う。順はのろのろと和也に背を向けて、濡れたシャツをめくってみせた。

「これでいい?」
「身体の力抜けよ」

 タイルの壁に順を押さえつけ、和也が低い声で告げる。順は言われた通りに全身から力を抜いた。壁にすがって目を閉じる。順の尻を撫で、乳首を弄りながら和也が喉の奥で笑った。

「一回でこんだけ反応するようになっちまったか。ひくひくしてんぞ」

 嘲るように嗤いながら和也が肛門に指を挿入する。その瞬間、順はびくりと震えて掠れた声を漏らした。

「あ、う……凄い……」
「すげえいいか? ま、そりゃそーか」

 低い笑い声がバスルームに響く。指で腸内を弄られるたびに強い快感が腹の底からこみあげる。

「うぅん! あっ、あぁっ! いいっ!」

 順は欲望に任せて震える手で自分のペニスを握った。精液に汚れたペニスを夢中で扱く。だがどうしても射精には至らない。順は涙に濡れた目で和也を見つめ、腰をひくつかせた。和也はわざと腸の浅い部分にだけ刺激を送っているのだ。しかもつつくように腸壁を弄るだけで強くは刺激してこない。焦れったさに我慢が出来なくなり、順はねだった。

「お、ねがい、もっと」
「もっと、なんだ? はっきり言わなきゃわかんねえだろ」

 意地悪く言いながら和也が指を引く。異物が体外に出て行く感触に震えながら順は弱々しくかぶりを振った。

「もっと、もっと、奥に」
「奥に突っ込んで欲しいのか?」

 嘲笑を浮かべて告げる和也に順は何度も頷いた。和也はだが指をそのまま抜いてしまう。あっ、と切ない声を上げて順は嫌がって頭を振った。

「どうだ? むずむずすんだろ」
「あくっ……んっ! ふっ……んんっ」

 和也は指先で焦らすように順の肛門の周囲を弄った。指の腹でしきりに撫でられる度に順のペニスはじれったさにひくついた。

「入れて欲しいか? して欲しけりゃ、犯してくださいって言ってみな」

 指先のほんの先端だけを肛門に入れて和也が嗤う。順はたまらず悲鳴混じりにねだった。

「いれて! お、犯して、くださいっ!」
「よーし、いい子だ。おら、これが欲しかったんだろ」

 指よりも太いものがあてがわれる。順は夢中で何度も頷いた。次の瞬間、和也のペニスが深々と腸内に潜り込んでくる。

「あぁっ! いい……だめ、もう……あぅああん!」

 順は嬌声を放って手で自身のペニスを強く握った。一気に外に向かって流れようとした精液が手の力で押し留められる。順は無意識のうちに自分を焦らし始めていた。先走りと精液の混ざったものがペニスの先から流れて落ちる。

「お。セーブできるようになったのか。じゃあ、オレが出すまで手を離すなよ」

 肩越しに順の股間を覗きこんでから和也が言う。順は頷いて手に力をこめた。痛いくらいに握ったペニスは強く脈打っている。

 和也の動きは容赦がなかった。順の腰をつかんだかと思うといきなり強い抽送を始める。腸の奥を何度も突かれて順はあられのない声を上げた。

「うはあっ! んっ……あふぁあっ!」

 握っているにも関わらずペニスの先端から白いものが垂れる。順は深い快楽に囚われながら腰を振り始めた。和也が腰を出すのに合わせて引く。引くのに合わせて出す。無意識に和也とは逆の動きをしながら順は快楽をひたすら貪った。

「よし、出すぞ」

 荒い息を吐きながら和也が強く腰を押し出す。その瞬間、腸内に熱いものが飛び込んできた。順は目を見張って仰け反り、ペニスから手を離した。

「あっ! いいっ! いくぅっ! んはぁっ……くぅはぁああんぅ!」

 高く鳴く順のペニスから精液が断続的に迸る。タイルを白く汚しながら順は何度も射精した。
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