腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

2階席で食堂イベント全裸待機①

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 両開きの食堂のドアを豪快に開け放つ。

 まだ授業が終わったばかりのため、食堂には4限をサボったと思われる不良生徒しかいない。
 それでも少ない視線がほぼ全て俺に向けられる。
 まぁでも我慢できる。これならまだ大丈夫。

 馬鹿みたいに広い食堂をまっすぐ突っ切り、2階へ上がる階段へと向かう。
 そういえば、マリモはどこに座るんだろう。そんなこと、読んでいた本に書いていただろうか?
 うーん、思い出せない。
 中央あたりに座るのではと予想して、その場所が一番見やすい席に腰掛けた。

 そうこうしているうちに、少しずつ人が増えてくる。
 俺が上にいることに気付いた生徒たちがきゃあきゃあと手を振ってくれるから、適当に振り返しておいた。
 我ながらいい場所に座った気がする。階段からも遠いし、たとえ気付かれたとしてもここまでは流石に来ないだろう。
 巻き込まれは回避できそうだ。


「お待たせ~! えぇ席取ったなあ!」
「うるさい。響くから静かにしろって」
「今から食堂イベやで!? これが静かになんかできますかいな奥さんっ!!」


 すでにテンションが天井を振り切っているらしい陽希さん。
 俺の正面の席に座ったが、じっとしていられないらしくそわそわと落ち着かない。
 その視線は1階席に釘付けだ。


「蒼葉くんさっき振り~。あれ? 城ヶ崎くんは一緒とちゃうの?」


 陽希の後ろから、ナギがひょっこり顔を出す。
 陽希とナギが従兄弟、そしてさっき会った桜花ちゃんとナギが又従兄弟らしい。
 世間って狭いと心から思った瞬間だった。金持ちの親戚は金持ちってことですね。
 そんな親戚関係の3人は、学年も同じなのでよく一緒にいる。
 力関係的には、完全にお姉ちゃん2人と弟。もちろん陽希が弟ね。お姉ちゃん2人に頭の上がらない弟の図を思い描いてくれれば良い。

 ところで陽希、ナギとくっついてくれたりしねぇかな。桜花ちゃんでもいいけど、桜花ちゃんは見た目めちゃくちゃ可愛いけど、どっちかと言うとタチっぽいからなぁ。
 まぁどちらにしろ近親相姦良きだと思うぜ。


「蒼葉く~ん? どしたん?」
「何もないよ。蓮には2階席なら行かねぇって振られた」
「そうやった!! 蒼葉! あの朝の一匹狼くんとの見つめ合いは何なん!? 状況をkwsk!」
「言ったろ。何にもないって」


 茶色いキラキラおめめで見つめられるが、ないものはない。ってか俺と蓮にみんな何を期待しているんだ、まったく。
 この話はこれで終わらせようと、1階席へ視線を投げかけたその時──。


「あらぁ、蒼葉くんと城ヶ崎くん。教室で見つめ合った後、2人きりで屋上でおサボりかぁ」
「え、ナギ!?」


 ナギがまさか、陽希をサポートするだなんて!
 いつもならうるさいって一喝して俺のことフォローしてくれるのに。なぜ今日に限ってそんなことを!?

 ナギの言葉を聞いた陽希は、水を得た魚のように目をギラつかせる。うわー最悪。
 いつも言ってるけど本当に何もないんだって。いや本当に。


「何してたん?? 2人で、誰も入られへん屋上で、一体何をしてたん?? ゆうてみ? あ・お・ばっ!」


 身を乗り出して、心底楽しそうに詰め寄ってくる陽希。

 頼むからその王子スマイルやめてくれないか。下だけじゃなくて周りからも視線が集まってきたって。
 本当、こんなにオープンな腐男子なのに、各所に滲み出る王子感が調子狂うんだよなぁ。


「本当に。マジで何もないって。教室のあの写真は、蓮の隣に来るであろうマリモと仲良くしてくれないかって交渉してたんだよ」
「おっ? で、してくれたんか?」
「してくれると思うか? 眼中にすら入れなかったよ」


 それはもう、さすがにマリモが可哀想かもしれないって思うくらいにな。
 陽希は目に見えて落胆する。


「せやんなぁ。城ヶ崎くんがしてくれるわけないわなぁ。あー王道展開が……。しかも蒼葉ら2人でサボったってことは、その後のこと知らんのやろ?」
「グルチャでライブされてた内容しか知らねー」


 相も変わらず元気に動いていた腐男子のグループチャット。
 アンチ系だったあのマリモは、その後かなりクラスでやりたい放題したらしい。そんなマリモの所業を、取り巻き1号である里中くんが口添えをして、なんとかギリギリクラス崩壊せずに保っている様子。
 ……いや、待って。早くない?
 クラス崩壊危機になるの、早くない?


「まぁ仕方ないか。うちのクラス、里中くんの親衛隊員多かったもんな……」
「里中くんって、あの爽やかくん?」
「そ。彼は王道通り取り巻き1号になってくれたぜ」
「そんなん見たらわかるわ! 送られてくる写真によぉ映っとった!!」


 確かに、ことあるごとに里中くんは映り込んでいた。
 取り巻きになった里中くんの気持ちまでは理解出来ないが、あのマリモの世話は大変そうだとは思う。好きな人のためならなんとやら、ってやつだろうか?
 そんなことを考えていると、さっきまでハイテンションだった陽希が、急に頭を抱えた。


「あぁでもなんで俺は王道くんと他クラなんや……。俺も同クラになりたかった……」
「俺だってなりたくてなったんじゃねぇし。巻き込まれだけはごめんだからな。つか、替われるもんなら喜んで替わってやりたい」
「それはさすがに無理やから……」


 そう言って身を乗り出した陽希は、俺の肩にぽんと手を置く。
 そして、その綺麗な茶色い瞳で、まっすぐと俺を見つめてくる。俺も見つめ返す。
 どこからかきゃああと歓声のようなものが聞こえてきた気がする。フラッシュも感じる。この学園の人はほんとに……。


「これからは逃げんと、よろしく頼むで蒼葉!!」
「それは無理」
「なんでや!?」


 口をあんぐり開けて、信じられないという表情をする陽希。
 俺は肩に置かれた手を払い落とす。


「言ったろ? 俺は巻き込まれたくないの。静かに、遠くから見ていたいの」
「えー、絶対えぇと思うで。蒼葉の巻き込まれ総受けルートっ!」
「すっげぇ不吉なフラグ建てるな!」


 何が俺の巻き込まれ総受けルートだ。ありえねぇ。そんなの絶対ありえねえ。
 全力で回避してやるからな。だからその弛んだ顔やめろ。
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