腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

さようなら、俺の静かな学園ライフ②

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 HRまであと2分を切った時だった。
 廊下からドタバタと妙な音が聞こえたかと思えば、物凄い勢いで教室の引き戸が開け放たれた。


「みんな、おっはよー!!!」


 騒音並みのボリュームで、挨拶をするマリモ。
 対して教室内は水を打ったように静まり返っていた。みんな、マリモを凝視して固まっている。
 そんな中、落ち着いた優しい声で返事をする者が1人。


「おはよう、朔」
「颯!! 今日もよろしくな!!」
「こちらこそ」


 返事をしてくれた里中くんに、嬉しそうに駆け寄ったマリモ。
 やっぱり、もうこの2人でくっつけば話は早いのでは?
 そうしてくれると俺の妄想も捗るし、学園も綺麗に治まるし、ほんと最高なんだけど。……まぁ、里中くんの親衛隊以外は、だけれども。


「巧もおはよう!!」
「うえ!? ったあ! ……あ、おはよう、朔」
「ちょ、大丈夫か!?」


 スマホに気を取られていたらしい取り巻き2号の柊くん。
 いつの間にか目の前に来ていたマリモに驚いて、机に足を強打していた。痛そう。

 にしても、ツンデレ属性で女王様気質があるのはこれまでの1年で知っていたが、まさかそんなドジっ子まで。
 お相手は柊くんでも良さそうですね!
 でもそうなると、必然的にマリモは左側だな。
 
 なんて、脳内では色々と考えられますが、まぁ、人生そう上手くは行きませんよね。
 分かっています。


「なあ!! お前、学園の女神サマなんだってな!!」
「………………………………………………へ?」


 あまりに突然過ぎて、反応ができなかった。
 顔を上げると、目の前には黒いモジャモジャ。
 マリモは蓮の椅子に後ろ向きに座って、完全に俺をロックオンしていた。

 うそん。


「女神サマだって呼ばれるだけあるよな!! 髪白いのとか、その青い瞳とか、まるでお人形さんみたいだし、神々しい感じがする!! なぁそれ地毛??」


 触れようとしたのか手を伸ばしてきたから、それを躱してそっぽを向いてやった。
 怒ったと思って離れてくれることを期待したのだが、マリモはほぼノーダメージらしい。


「触られんの嫌だったか!? ごめんな! でもほんと綺麗だぞ!! 地毛なのか!? 瞳の色も本物!?」


 しばらく無言を決め込んでいたが、めげずに何度も尋ねてくる。
 さすが王道転入生。全く空気読んでくれない。


「なあなあ!!」


 だんだん鬱陶しくなってきた。
 少しくらいは人の迷惑とか、ちょっと失礼だとか思わないのか。思わないんだよな。キャラはまじで王道だもんな。


「……地毛だし本物」
「へえ~!! すげぇなあ!! 超綺麗だぞ!!」


 覗き込みながら、感心したようにそんなことを言うマリモ。

 いや、なんなんだお前。
 極厚瓶底眼鏡で目は見えないが、すんげえ見てくる。舐め回すような視線を感じるぞ。
 綺麗綺麗って何回言う気だ。
 回数もさながら、大声で言われると恥ずかしいんだよ。
 まぁ? 褒められて悪い気はしないけどさ。

 ってかそもそも、なんで急に俺を認識した?
 昨日までは蓮一筋で俺なんて眼中になかったじゃねぇか。


「女神サマって、名前なんて言うんだ!?」
「……」


 来た。
 それはまだ誰にも聞いてなかったんだな。

 俺は、頭をフル回転させて逃げ切る方法を考える。
 が、完全にロックオンされているこの状況。
 ここまで来てしまうと、蓮くらいのスルースキルがないと逃げ切るなんて不可能だと思う。
 《女神様》というキャラを持っている俺にとって、声をかけてくる人を無視し続けるのは、さすがにイメージにそぐわない。
 別にイメージぶち壊してもいいんだけどさ。そもそも俺が望んだものじゃないし。
 ただなぁ。その理由がマリモなのはいただけない。せめて違う時にしたい。

 となれば仕方ない。さすがに腹を括るか。


「藤咲、だ」
「藤咲か!! 下の名前は!?」


 やっぱり逃げきれなかった。
 最後の抵抗してみたのに。


「……蒼葉」
「藤咲蒼葉か!! 瞳の色に合ってて、ぴったりな名前だな!!」


 唯一見えるマリモの口元が、人良さそうにニカッと歯を見せて笑う。

 瞳の色と合ってていい名前、とか嬉しいことを言ってくれる。
 決してナルシストだとか言う訳では無いが、自分の容姿は気に入っている。だから、容姿を褒められるのは素直に嬉しい。

 あぁでもついに名前を知られてしまった。
 さようなら、静かな俺の学園ライフ。

 俺の名前を復唱しながら、幼い子どものように嬉しそうに足をじたばたさせるマリモ。
 十分褒めてもらったし、これ以上の余計な詮索から逃れるため席を立とうとした俺。
 しかし、見逃してはくれなかった。
 腕を引かれて、バランスを崩して椅子に逆戻りする。

 それにしても、本当にずっと語尾に"!"が付いてる気がする。
 元気通り越して騒音なんだけど。
 里中くん、もしくは柊くん、注意してくれマジで。
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