腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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May

GW初日の朝の出来事

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 何だかんだありつつ、陽希と矢尾くんを含む4人で寮まで帰ってきて、部屋に着くや否やシャワーを浴びて爆睡した翌日。
 部屋を出ようとドアを開けて、思わずその姿勢のまま固まった。


「おはようございます。《女神様》」
「おはようございます……。え?」


 柔和な笑みを浮かべる副会長さんに、条件反射で挨拶を返す。

 でも、え? 副会長さん? そもそもなんでここにいるわけ?


「すみませんね、待ち伏せのような真似をして。まだ寝ているようであれば、休みの日ですしチャイムで起こしてしまうのは忍びなかったので。貴方は夜型で、遅刻常習犯だと伺っていましたしね」
「はぁ……。……で、何のご用ですか?」
「あの子の──蓮の荷物を取りに来ました」
「は? 蓮?」
「はい。貴方の部屋に置いて出てきたとあの子が言ってましたので。恐れ入りますが、持ってきていただけますか?」
「はぁ……」


 有無を言わさない笑顔に促されるまま、俺は蓮の荷物を取りに部屋へ入った。と言っても、一昨日着ていた服くらいだけど。


「相変わらず、物を持たない子ですねぇ」


 服の入った紙袋を渡すと、副会長さんは呆れ笑いのような表情でそう呟く。


「朝早くからありがとうございました。良いゴールデンウィークを過ごしてくださいね」
「え? あ、はい。副会長さんも」


 踵を返そうとしていた副会長さんが、ぴたりとその足を止める。眼鏡を押し上げ、少し考えるような素振りを見せた後、身体ごとこちらへと向き直った。
 
 ……なんですか?


「確か昨日から、澪のことは名前で呼ぶようになったのですよね? 年下の椛たちだけでなく、賢心くんのことも名前で呼んでいたように記憶していますし」
「まぁ、はい。そうですね?」
「ということで、私のことも貴那と名前で呼んでください。私たち、同い年ですしね」
「……えーと、それは謹んで遠慮させて──」
「呼んでくださいますよね?」


 にっこりと。目の奥が鋭く光るその笑みに、寝起きなこともあって終始混乱している俺は、反論するすべもなく。


「……わかりましたよ、貴那」
「その敬語も要りませんね」
「……いいけど。アンタの方は敬語無くさねぇの?」
「ふふ。すごく良い感じです。私のこれは癖なので、あまり気にしないでくださいね。では、引き止めてすみませんでした。改めて蒼葉。良いゴールデンウィークを」


 嬉しそうにそう告げると、今度こそ踵を返して去っていった。その足取りはすごく軽く見える。
 
 あーあ。遂に副会長のことまで名前呼びすることになっちまった。もう俺、後戻り出来ないな……。
 つい1か月前まではそこにあったはずの静かな学園生活の終わりをはっきりと感じて、頭を抱えた。

 しばらくそうしていると、やっと頭の中が整理出来てきた。
 何よりも最初。俺軽くディスられてたよな? まぁ、夜型なのも、遅刻常習犯なのも間違いでは無いけど。
 つか伺ってたって誰からだよ? 蓮? でも俺、蓮よりは確実にマシなはずなんだけど。蓮が俺より早く登校したことなんてないはずなんだけど。

 それよりなにより、そもそも副会長である貴那が蓮の荷物を取りに来たって何? 出来事の発端が分からない。
 確かに蓮は元々Sクラスだったらしいけど、そんなに仲が良かったわけ? 本人から聞いたことないんですけど。
 そういえば昨日、蓮のペアとは会わなかった。ってことはもしかして、蓮のペア相手って副会長さんだったのか?
 副会長さん、蓮のこと“あの子”って呼んでた。もしもそういう関係ならこれ、蓮がネコの可能性高くない? うっわ、ヤバい!!!

 いてもたってもいられなくなり、真偽を確かめようと陽希に電話をかける。が、何度コールしても一向に取らないので仕方なくメッセージを送ることにした。
 本当なら蓮本人に聞きたいが、絶対に教えてくれないだろう。昨日部屋から出ていく時の様子を思い返すと、ペア相手が不本意なのは明らかだ。下手にメッセージやら電話やらで質問攻めにして、着拒されても困るので、今回は泣く泣く諦める。今度学園で会った時にでも聞いてみよう。

 ってかしかも、賢心先輩のこと“賢心くん”って呼んでた! 長い付き合いだろうし近い距離なのは分かるけど、なんかすごく良い!! イイよ!!!

 聞きたいことも言いたいこともがありすぎて、バカみたいな長文メッセージを陽希に送り付けたところで、ふとTSPの左上に表示された時間が目に入った。


「あ、やべ」


 そういえば俺、部屋を出ようとしていたところだった。
 予想外の訪問者と、不思議な出来事に何をしようとしていたかをすっかり忘れていた。早く校門に行かないと。

 慌てて荷物を引っ掴み駆けて行った校門前。そこには、庶民の俺にも分かる高級そうな黒塗りの車が停まっていた。
 車の脇に控えていたスーツ姿の男性が、俺を見つけて静かに後部座席のドアを開ける。俺は「ありがとうございます」と告げて、その車に乗りこんだ。
 そこにいた先客は、読んでいた小難しそうな本から顔を上げると、にっこりと可愛らしい笑顔を向けてくれる。


「おはよう、蒼くん」
「おはよ、桜花ちゃん。ごめん待たせた」
「全然待ってないよ。あ、荷物は彼に預けて」
「あ、はい」


 言われるまま、スーツ姿の男性に荷物を預けると、静かにドアが閉められる。多分この車の運転手さんだとは思うんだけど、やっぱこういう扱いされるのはまだまだ慣れないんだよな……。
 金持ちって、自分で車のドアも開けないの? それが当たり前なの? そんな手間でもないのに、謎だ。


「蒼くんの家まで向かって」


 やがて、予想通り運転席に乗り込んだ男性に桜花ちゃんが行き先を告げる。「承知致しました」という返事とともに、車は静かに発進した。

 人里離れた山の上に建っている、我らが天照学園。
 車は、少し薄暗い森の中を抜けていく。舗装されているとはいえ山道に変わりは無いはずなのに、全く揺れがない。昨日のリムジンもだが、さすがは高級車。


「本当に良かったのか? 送ってもらっちゃって。桜花ちゃんの家とは方向全然違うんだろ?」
「いいのいいの。これくらいどうってことないよ。それにボクも久しぶりにことりちゃんに会いたいしね」
「それならいいんだけど。正直電車で帰るのは結構キツイなって思ってたから、普通にありがたい」
「お節介だって言われなくて良かったよ」


 山の上に建っている弊害と言うべきか。近くに駅がない。そのため、学園から最寄りの駅までは結構歩かなくてはならないのだ。
 そもそも金持ちの御曹司が通う学園だし、全寮制だってこともあり、その辺りは全く計算されていないらしい。その分、道路の舗装に充ててるのかもしれないな。ほんと、庶民に優しくない学園だよ。
 ちなみに、全寮制をとっていない幼稚舎・小等部・大学は、交通の便のいい郊外に建っているそうだ。羨ましい。


「ところで、昨日は楽しかった? あの会計くんとペアだったって陽希から聞いたよ」
「まぁ楽しかったよ。色々あったけど。桜花ちゃんは?」
「うーんそうだね。遊園地なんて初めてで新鮮だったから楽しくはあったけど、何より疲れたかな」


 そう言って、八の字に眉を下げる桜花ちゃん。
 確か桜花ちゃんのペア相手は、白城院くんだったはず。あ、白城院くんといえば、ケイドロの時……。

 
「そういえば、あの時は大丈夫だったのか?」
「うん?」
「ケイドロの時のこと。風紀室の件、結局全部桜花ちゃんに任せちゃっただろ?」
「あぁうん。あの後すぐに止めたよ。真っ最中だったけど特に抵抗することもなかったし、違反行為のペナルティーとしてルイをペアにできたのは、ある意味よかったのかもしれないな」
「ま、真っ最中だった、のか……。いや、そうだったな……」


 音も丸聞こえだったし、匂いもしっかりだったし、がっつりシてる最中だったことを思い出す。
 でもなんか、桜花ちゃんの可憐なお口から情事の真っ最中だったとか、あんまり聞きたくなかったかもしれない……。いや、言わせたのは俺だけども。

 そんなことを考えていると、控えめに顔を覗き込まれた。
 その顔は、不思議そうにきょとんとしている。


「蒼くんって、実はちょっとウブだよね?」
「へ?」
「顔、ちょっと赤いよ?」
「これは……夕陽のせいですわよ!」
「えっ夕陽って、まだ朝9時だけど……」
「さすがは桜花ちゃん。冷静なツッコミだな」
「え、あ、ごめん! そういうことか! ボクったらノリが悪くて……!」


 真面目な桜花ちゃんから、戸惑い気味の普通のツッコミを頂いて、思わず笑みが漏れる。関西人な陽希やナギだと、鋭いボケとツッコミが入ってしまうので、ちょっと新鮮だ。
 そういえば最近は、桜花ちゃんとの時間があまりなかったように思う。まぁ、新年度が始まった上に、問題ありまくりな転入生が来たもんな。風紀委員が休み無しのてんやわんやだったことは、里緒から愚痴られて理解している。
 
 でもそう考えたら、忙しい合間を縫って、こうして家までの送り迎えを買ってでてくれて嬉しいなーなんて。
 友達が少ない俺は、ふとそんなことを考えて1人、ほんわかしていた。
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