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April
ジェットコースターの乗りすぎにはご用心
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しばらくすると、リムジンは静かに停車した。
キャストの人に案内され、広大な敷地内に入った瞬間、無意識に感嘆の声が漏れる。
「うわぁ……、すっげぇ……っ! 超広いっ!!」
なんてったってここは、世間的にもかなり有名な遊園地。
ずっと来てみたかったが、小中学生の身分では入場料が高すぎる。かといって、忙しい母や兄に「連れていって!」なんて我儘はとても言えなかったから。だから、ここに来るのは幼い時からの夢だった。
それがまさかこんな形で、こんな意外な相手と来ることになるだなんて。正直、この遊園地に来るのは無理かもしれないと諦めていたから、この敷地に立ち入れただけでもめちゃくちゃ嬉しい。
「なぁなぁ初め何乗るっ?」
声を弾ませながら後ろにいる澪を振り返ると、ゆったりと歩きながら微笑ましげにこちらを眺める緑の瞳と視線が合った。
……なんだその反応。若干馬鹿にされてる?
子どもを見るみたいなその視線、なんかちょっとムカつくんだけど。同い年のくせに。
パンフレットを握ったまま、澪を見つめて立ち止まっていた俺。追いついた澪の手がこっちに伸びてきたかと思うと、顔に影がかかった。
「眉間に皺が寄ってるよ~?」
「……って、ちょっと!?」
「難しい顔して固まってるから、どうしたのかなぁって思って」
眉間に触れている指を掴もうとすると、察知したその腕がパッと離れていってしまう。
「お? ますます難しい顔になっちゃったよ~?」
「お前のせいだよ! 今日は手ぇ出さないんじゃなかったのか!?」
「え~。こんなの手出したうちには入らなくな~い? 友達同士でもこのくらいはするでしょ?」
それは……、確かにするかもしれない……。ちりちゃんとかになら普通にできてしまう。しかも俺がする方。
ちりちゃんがされるがままに尻尾振ってくれる様が目に浮かぶよ、うん。
黙り込んだ俺に、澪は「そんなことより」と、覗き込むように目線を合わせる。
若干……5cmくらい、こいつの方が背が高いらしい。ちょっとショック。
「蒼葉は絶叫系、イケちゃったりする~?」
「まぁ。てか、むしろ好き」
「やったね! じゃあまずは、ジェットコースターへレッツゴ~!」
ぐんっと手を引かれて転びそうになったため、慌てて足を踏み出す。いつの間にか繋がれていた手に驚いて振り払うと、思いのほか簡単に離れた。
顔を上げると、悪戯っぽい笑みを返される。本当この人、何しでかすかわかんない。
なんて、もやもやした気持ちはジェットコースターで吹き飛ばすに限る!
ということで。
「あー! やっぱ遊園地って言やぁジェットコースターだよな! 最っ高!」
「だね~! もう1回乗っちゃう?」
「いいねぇ! 行っちゃおーぜ!」
「さっすが蒼葉! 行こう行こう!」
勢いに任せて、休憩もせずに何度もジェットコースターに乗った俺たち。
遊園地自体が今日1日学園の貸切で学園生しかいないため、待ち時間もなく乗れてしまう。そんな普通ならありえないくらいの利便さが、無茶苦茶な行動を可能にしてしまって。
──結果、気持ち悪さを訴えたのは俺だった。
「う……しんど……。吐きそう……」
澪に肩を貸してもらって、日陰になっているベンチに横たわる。世界がぐるぐる回ってる。マジでやばい。
そんな俺をどこか心配そうに見つつ、澪は近くにあった自販機で手際よく水を購入してきた。
「大丈夫? 水買ってきたけど、飲めそ~?」
「……わかんね……」
「自力で飲めないなら、オレが口移しして──」
「自分で、飲む……!」
「大丈夫そーだねぇ」
ぺろりと舌を出して笑う澪から何とかペットボトルを引ったくる。水を飲むため身体を起こした途端、視界がぐらりと歪んだ。
あ、ヤバい──。
「──っと~。セーフ」
そんな声に閉じていた瞼を開く。後ろ向きに倒れ込んだ俺は細い腕に支えられていた。
太陽を背景に、真上から俺を覗き込む顔の近さにドキッとする。
「まだ動かない方が良さそうだねぇ。お水飲むなら、こうしておいてあげるから飲みな~」
起こされた身体は、そのまま細い腕に導かれて澪にもたれかかる形になる。
どう考えても恥ずかしい体勢。でも恥ずかしさより気持ち悪さが優先していたため、お言葉に甘えてそのままペットボトルを傾ける。
しばらく同じ体制でじっとしていると、徐々に気持ち悪さは治まっていった。
そこでやっと、澪に向けて言葉を発する。
「……マジで、悪い……」
「全然いいよ~。6回は流石にやりすぎだったねぇ」
「……6回もぶっ通しでとか馬鹿すぎ……」
「すっごく楽しかったけどね~」
「……しばらく、絶叫系いらない……」
「まぁそうなるよねぇ。あ、お水もう1本買ってあるけど、まだ飲む~?」
「飲む……」
「はいよ~」
今度は大人しく手渡してくれた2本目の水。その中身がほぼ空になった頃、ようやくもたれかかっていた身体をゆっくりと起こした。
覗き込んできた澪が、じっと俺を見つめて頷く。
「ずいぶん顔色が戻ったね~。よかったよかった」
「初っ端からすんませんした、お手数おかけしました……」
「いえいえ~。オレは何もしてないよ~」
笑顔であっけらかんと言う澪。まさか謙遜するとは思わなかった。
水を買ってもらったり、なんだかんだ文句ひとつ言わずに小1時間肩を貸してもらっていたのだ。何もしてないわけはなく、正直感謝しかない。
つーか俺、小1時間も野郎にもたれかかっていたのか……。今考えるとかなり恥ずかしいことしてたよな……。
それもこれも久しぶりの遊園地に羽目を外しすぎた俺の失態。場合によっては頭ぽんぽんくらいはされてたような気がするけど、まぁ許容範囲内ということにしておく。
座っていたベンチが建物の陰に隠れた場所だったから、他の誰にも見られなかったことがせめてもの救いだな。
自販機から戻ってきた澪が再度隣に腰を下ろす。サイダーを一気に3分の1ほど飲むと、ふぅーと息を吐いた。
こうして改めて見ると、マジで整った顔立ちだよなぁ。かっこいいかっこいいって言われてる割には、パッと見かっこいい系というより美人系。俺と一緒だな。
「んじゃ次は、何かゆっくりできるものに……って、どしたの、そんなに見つめて? あ! もしかして、献身的に介抱したオレに惚れちゃった~?」
「自意識過剰乙」
「その反応、やっぱり新鮮だなぁ~!」
へらりと掴みどころのない楽しげな笑顔を浮かべる澪に、俺は腹の底からため息を吐く。
そんな俺に気づいているのかいないのか、澪はパンフレットを広げて見せた。
「まぁそれはそれとして。次は何に乗る~?」
「あーそうだな……。さっきお前が言いかけてたみたいに、ゆっくりできるもので」
「ってことは~メリーゴーランドとか?」
「却下」
「えー、ひっどーい~」
悪戯っぽい声色で言ったそのアトラクションを即座に却下すると、声を上げて笑われた。
いや、当たり前だろ。ここには今、キャストさんたちと学園生しかいないんだぞ?
そんな場所で俺たちがメリーゴーランドなんかに乗ってたら、人が集まってきて大変なことになるだろうが!
「……いや、待てよ」
顎に手を当て、隣に座る人物をさっきよりもさらにまじまじと眺める。
整った中世的な顔立ちに、後ろでちょこんと結われたふわふわした明るい金髪を持つ、タチランク3位の《貴公子様》。そんな澪が白馬に乗ってたら、それってガチめに絵になるんじゃなかろうか?
……どうしましょう。それ、めちゃくちゃ見てみたいかもしれない。腐男子として、是非とも拝見したいかもしんない……!
「乗ろう! 行こう! メリーゴーランド!」
「へ? え、ちょっと蒼葉!?」
途端に元気になり、ずんずん進んでいく俺を慌てて追いかけてくる澪。
だってさ、目の前に素敵なイベントがあるかもしれないのに、それを逃す手はないだろ?
キャストの人に案内され、広大な敷地内に入った瞬間、無意識に感嘆の声が漏れる。
「うわぁ……、すっげぇ……っ! 超広いっ!!」
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「なぁなぁ初め何乗るっ?」
声を弾ませながら後ろにいる澪を振り返ると、ゆったりと歩きながら微笑ましげにこちらを眺める緑の瞳と視線が合った。
……なんだその反応。若干馬鹿にされてる?
子どもを見るみたいなその視線、なんかちょっとムカつくんだけど。同い年のくせに。
パンフレットを握ったまま、澪を見つめて立ち止まっていた俺。追いついた澪の手がこっちに伸びてきたかと思うと、顔に影がかかった。
「眉間に皺が寄ってるよ~?」
「……って、ちょっと!?」
「難しい顔して固まってるから、どうしたのかなぁって思って」
眉間に触れている指を掴もうとすると、察知したその腕がパッと離れていってしまう。
「お? ますます難しい顔になっちゃったよ~?」
「お前のせいだよ! 今日は手ぇ出さないんじゃなかったのか!?」
「え~。こんなの手出したうちには入らなくな~い? 友達同士でもこのくらいはするでしょ?」
それは……、確かにするかもしれない……。ちりちゃんとかになら普通にできてしまう。しかも俺がする方。
ちりちゃんがされるがままに尻尾振ってくれる様が目に浮かぶよ、うん。
黙り込んだ俺に、澪は「そんなことより」と、覗き込むように目線を合わせる。
若干……5cmくらい、こいつの方が背が高いらしい。ちょっとショック。
「蒼葉は絶叫系、イケちゃったりする~?」
「まぁ。てか、むしろ好き」
「やったね! じゃあまずは、ジェットコースターへレッツゴ~!」
ぐんっと手を引かれて転びそうになったため、慌てて足を踏み出す。いつの間にか繋がれていた手に驚いて振り払うと、思いのほか簡単に離れた。
顔を上げると、悪戯っぽい笑みを返される。本当この人、何しでかすかわかんない。
なんて、もやもやした気持ちはジェットコースターで吹き飛ばすに限る!
ということで。
「あー! やっぱ遊園地って言やぁジェットコースターだよな! 最っ高!」
「だね~! もう1回乗っちゃう?」
「いいねぇ! 行っちゃおーぜ!」
「さっすが蒼葉! 行こう行こう!」
勢いに任せて、休憩もせずに何度もジェットコースターに乗った俺たち。
遊園地自体が今日1日学園の貸切で学園生しかいないため、待ち時間もなく乗れてしまう。そんな普通ならありえないくらいの利便さが、無茶苦茶な行動を可能にしてしまって。
──結果、気持ち悪さを訴えたのは俺だった。
「う……しんど……。吐きそう……」
澪に肩を貸してもらって、日陰になっているベンチに横たわる。世界がぐるぐる回ってる。マジでやばい。
そんな俺をどこか心配そうに見つつ、澪は近くにあった自販機で手際よく水を購入してきた。
「大丈夫? 水買ってきたけど、飲めそ~?」
「……わかんね……」
「自力で飲めないなら、オレが口移しして──」
「自分で、飲む……!」
「大丈夫そーだねぇ」
ぺろりと舌を出して笑う澪から何とかペットボトルを引ったくる。水を飲むため身体を起こした途端、視界がぐらりと歪んだ。
あ、ヤバい──。
「──っと~。セーフ」
そんな声に閉じていた瞼を開く。後ろ向きに倒れ込んだ俺は細い腕に支えられていた。
太陽を背景に、真上から俺を覗き込む顔の近さにドキッとする。
「まだ動かない方が良さそうだねぇ。お水飲むなら、こうしておいてあげるから飲みな~」
起こされた身体は、そのまま細い腕に導かれて澪にもたれかかる形になる。
どう考えても恥ずかしい体勢。でも恥ずかしさより気持ち悪さが優先していたため、お言葉に甘えてそのままペットボトルを傾ける。
しばらく同じ体制でじっとしていると、徐々に気持ち悪さは治まっていった。
そこでやっと、澪に向けて言葉を発する。
「……マジで、悪い……」
「全然いいよ~。6回は流石にやりすぎだったねぇ」
「……6回もぶっ通しでとか馬鹿すぎ……」
「すっごく楽しかったけどね~」
「……しばらく、絶叫系いらない……」
「まぁそうなるよねぇ。あ、お水もう1本買ってあるけど、まだ飲む~?」
「飲む……」
「はいよ~」
今度は大人しく手渡してくれた2本目の水。その中身がほぼ空になった頃、ようやくもたれかかっていた身体をゆっくりと起こした。
覗き込んできた澪が、じっと俺を見つめて頷く。
「ずいぶん顔色が戻ったね~。よかったよかった」
「初っ端からすんませんした、お手数おかけしました……」
「いえいえ~。オレは何もしてないよ~」
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座っていたベンチが建物の陰に隠れた場所だったから、他の誰にも見られなかったことがせめてもの救いだな。
自販機から戻ってきた澪が再度隣に腰を下ろす。サイダーを一気に3分の1ほど飲むと、ふぅーと息を吐いた。
こうして改めて見ると、マジで整った顔立ちだよなぁ。かっこいいかっこいいって言われてる割には、パッと見かっこいい系というより美人系。俺と一緒だな。
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「自意識過剰乙」
「その反応、やっぱり新鮮だなぁ~!」
へらりと掴みどころのない楽しげな笑顔を浮かべる澪に、俺は腹の底からため息を吐く。
そんな俺に気づいているのかいないのか、澪はパンフレットを広げて見せた。
「まぁそれはそれとして。次は何に乗る~?」
「あーそうだな……。さっきお前が言いかけてたみたいに、ゆっくりできるもので」
「ってことは~メリーゴーランドとか?」
「却下」
「えー、ひっどーい~」
悪戯っぽい声色で言ったそのアトラクションを即座に却下すると、声を上げて笑われた。
いや、当たり前だろ。ここには今、キャストさんたちと学園生しかいないんだぞ?
そんな場所で俺たちがメリーゴーランドなんかに乗ってたら、人が集まってきて大変なことになるだろうが!
「……いや、待てよ」
顎に手を当て、隣に座る人物をさっきよりもさらにまじまじと眺める。
整った中世的な顔立ちに、後ろでちょこんと結われたふわふわした明るい金髪を持つ、タチランク3位の《貴公子様》。そんな澪が白馬に乗ってたら、それってガチめに絵になるんじゃなかろうか?
……どうしましょう。それ、めちゃくちゃ見てみたいかもしれない。腐男子として、是非とも拝見したいかもしんない……!
「乗ろう! 行こう! メリーゴーランド!」
「へ? え、ちょっと蒼葉!?」
途端に元気になり、ずんずん進んでいく俺を慌てて追いかけてくる澪。
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