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【未知の香辛料】
2-1:万事屋の主は天才小学生
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「これ…。はい、間違いありません。夫の形見のペンダントです。取り返してくださり、ありがとうございます! 少ないですが、こちらお礼です。これからも冒険者様の旅路に、神のご加護がありますよう」
「ありがとう」
岩山での一戦を終え、〝瞬間移動鈴〟を使って始まりの街〈クレアシオン〉に帰ってきたカリン。
無事に【愛する人の形見】 であるロケットペンダントを依頼人であるNPCの女性に返した。
NPCとは思えないほど顔を綻ばせて喜ぶ女性。本当にこのゲームは細部まで作り込まれている。
改めて感心するカリンは、その足で街の中心部へと向かった。
「うーん……」
街の中心部。
噴水脇にある、大きなクエスト板の前で、カリンは腕を組んで仁王立ちし、小さく唸る。
「ちょっとカリンー、まだやるつもりー? 登山で疲れたんじゃなかったのー?」
「だから今日はもう街から出るつもりは無いよ」
「おっ! じゃあ」
「でもクエストはやる」
「でたよ、カリンの悪い癖……」
ノアは呆れたように、カリンの肩の上で大きなため息をつく。
その間もカリンはクエスト板とにらめっこを続けていた。
〈クレアシオン〉に住む、様々な人からの依頼が集められたこのクエスト板。ボードと省略することも多い。
たくさんの依頼書で埋め尽くされているボードのほとんどは、クエスト達成率に関係しない、プレイヤーからの依頼だ。
それだけ、プレイヤーが多いということでもあるのだが、理由はそれだけではない。
カリンは既に、ゲームとしてのこの街のクエストは、すでに94%達成済なのだ。
そのためどれだけ探しても、クエスト達成率に関係する、かつ街を出ずにできるクエストは1つしか無かった。
カリンはその依頼書をボードから外して手に取ると、正式にクエストを受けるため依頼人の元へ向かった。
クエスト名【未知の香辛料】。
メインストリートに店を構えるコックが依頼人の、錬金系クエストだ。
今まで手をつけなかったのは、使う素材がそれなりにレアなものだったから。それと、戦う系の方が好みのため、後回しにしたのもある。
所持アイテムを確認すると、いつの間にかそれなりの量を持っていたので、今日消化してしまうことにした。
レストランのあるメインストリートへ向かう。
たくさんの店が立ち並んでいるこのメインストリートは、まっすぐ歩けないくらい多くの人で溢れかえり、いつも活気に満ちている。
「ほんと、たった3ヶ月間でこうも変わるとはねぇ」
カリンの肩に乗ったままのノアが、そう感嘆の声を漏らす。
それもそのはず。当初、〈クレアシオン〉は面積が広いだけの寂れた“村”だった。
そんな村が、今や国一番の街と言われるまでに発展した理由は、転移してきたプレイヤーたちの働きによるものが大きい。
3つに別れたグループのうちの1つ。敵との戦いを恐れたプレイヤーのほぼ全ては、例の草原から一番近い、この〈クレアシオン〉に留まった。
〈クレアシオン〉という安全地帯から一歩も出ることなく、鍛冶屋やレストランなどを生業としたことで、生活面から攻略を行うプレイヤーを支え、この街の発展にも大きく貢献したのだ。
お目当てのレストランへ立ち寄り、コックと会話を交わす。
「なかなか市場には出回らない香辛料があるらしくてな。一度それを使って料理を作ってみたいんだよ。冒険者さん、よかったら作ってくれないか?」
「おっけー」
「本当かい? ありがとう。よろしく頼む」
──【未知の香辛料】を受領しました
会話を終えると同時に、クエスト受領の画面が現れる。
それを確認し、カリンは店を後にした。
街がオレンジ色に染まる。
レストランを出たカリンは、呼び込みを行う店の横を通り抜け、暗い路地裏に入る。
慣れた様子でしばらく進んだ先に現れた、1軒の小さな店。
万屋屋〈Esperanza〉と看板が掲げられた木の扉を押し開けた。
「ただいま」
「ただいまぁ!」
「おかえりなさい、カリンさん、ノア」
店の奥から、高めの澄んだ声が響く。
その後少しして、薄い茶色のふわふわとした髪がカウンターの下からひょっこりと現れた。
それはどこからどう見ても子ども。当たり前だ。
この店の主であるプレイヤー名ランこと、篠原藍琉。
キラキラネームちっくな名前の彼は、正真正銘小学5年生の男の子だった。
とはいえ、普通の小5の子どもではない。
何せ、店名である〈Esperanza〉は、スペイン語だ。〝希望〟という意味があるらしく、我ながら気に入っているのだと笑顔で言っていた。
また、店のスタイルとしては、武器や防具の製作やメンテナンスを主な商売としてはいるものの、様々なアイテム類やアクセサリーの販売、さらには情報まで手広く扱う万事屋だ。
その商才は素晴らしく、路地裏に構えているにもかかわらず、赤字知らずの隠れた名店。
この〈クレアシオン〉の街でもかなり古参の店で、メインストリートの店主たちからも一目置かれている。
小5の子どもと侮るなかれ。かなりの切れ者なのである。
ちなみに、プレイヤー名の〝ラン〟は、本名の〝あいる〟よりは女の子っぽくないかと思って、自分の名前を音読みさせたらしい。
まぁ、どちらにしろ十分可愛らしい名前であることに変わりは無いのだが、本人が納得しているなら良いのだろう。
そういうところを気にするあたり、やっぱり子どもだなぁと思ったり。
「ありがとう」
岩山での一戦を終え、〝瞬間移動鈴〟を使って始まりの街〈クレアシオン〉に帰ってきたカリン。
無事に【愛する人の形見】 であるロケットペンダントを依頼人であるNPCの女性に返した。
NPCとは思えないほど顔を綻ばせて喜ぶ女性。本当にこのゲームは細部まで作り込まれている。
改めて感心するカリンは、その足で街の中心部へと向かった。
「うーん……」
街の中心部。
噴水脇にある、大きなクエスト板の前で、カリンは腕を組んで仁王立ちし、小さく唸る。
「ちょっとカリンー、まだやるつもりー? 登山で疲れたんじゃなかったのー?」
「だから今日はもう街から出るつもりは無いよ」
「おっ! じゃあ」
「でもクエストはやる」
「でたよ、カリンの悪い癖……」
ノアは呆れたように、カリンの肩の上で大きなため息をつく。
その間もカリンはクエスト板とにらめっこを続けていた。
〈クレアシオン〉に住む、様々な人からの依頼が集められたこのクエスト板。ボードと省略することも多い。
たくさんの依頼書で埋め尽くされているボードのほとんどは、クエスト達成率に関係しない、プレイヤーからの依頼だ。
それだけ、プレイヤーが多いということでもあるのだが、理由はそれだけではない。
カリンは既に、ゲームとしてのこの街のクエストは、すでに94%達成済なのだ。
そのためどれだけ探しても、クエスト達成率に関係する、かつ街を出ずにできるクエストは1つしか無かった。
カリンはその依頼書をボードから外して手に取ると、正式にクエストを受けるため依頼人の元へ向かった。
クエスト名【未知の香辛料】。
メインストリートに店を構えるコックが依頼人の、錬金系クエストだ。
今まで手をつけなかったのは、使う素材がそれなりにレアなものだったから。それと、戦う系の方が好みのため、後回しにしたのもある。
所持アイテムを確認すると、いつの間にかそれなりの量を持っていたので、今日消化してしまうことにした。
レストランのあるメインストリートへ向かう。
たくさんの店が立ち並んでいるこのメインストリートは、まっすぐ歩けないくらい多くの人で溢れかえり、いつも活気に満ちている。
「ほんと、たった3ヶ月間でこうも変わるとはねぇ」
カリンの肩に乗ったままのノアが、そう感嘆の声を漏らす。
それもそのはず。当初、〈クレアシオン〉は面積が広いだけの寂れた“村”だった。
そんな村が、今や国一番の街と言われるまでに発展した理由は、転移してきたプレイヤーたちの働きによるものが大きい。
3つに別れたグループのうちの1つ。敵との戦いを恐れたプレイヤーのほぼ全ては、例の草原から一番近い、この〈クレアシオン〉に留まった。
〈クレアシオン〉という安全地帯から一歩も出ることなく、鍛冶屋やレストランなどを生業としたことで、生活面から攻略を行うプレイヤーを支え、この街の発展にも大きく貢献したのだ。
お目当てのレストランへ立ち寄り、コックと会話を交わす。
「なかなか市場には出回らない香辛料があるらしくてな。一度それを使って料理を作ってみたいんだよ。冒険者さん、よかったら作ってくれないか?」
「おっけー」
「本当かい? ありがとう。よろしく頼む」
──【未知の香辛料】を受領しました
会話を終えると同時に、クエスト受領の画面が現れる。
それを確認し、カリンは店を後にした。
街がオレンジ色に染まる。
レストランを出たカリンは、呼び込みを行う店の横を通り抜け、暗い路地裏に入る。
慣れた様子でしばらく進んだ先に現れた、1軒の小さな店。
万屋屋〈Esperanza〉と看板が掲げられた木の扉を押し開けた。
「ただいま」
「ただいまぁ!」
「おかえりなさい、カリンさん、ノア」
店の奥から、高めの澄んだ声が響く。
その後少しして、薄い茶色のふわふわとした髪がカウンターの下からひょっこりと現れた。
それはどこからどう見ても子ども。当たり前だ。
この店の主であるプレイヤー名ランこと、篠原藍琉。
キラキラネームちっくな名前の彼は、正真正銘小学5年生の男の子だった。
とはいえ、普通の小5の子どもではない。
何せ、店名である〈Esperanza〉は、スペイン語だ。〝希望〟という意味があるらしく、我ながら気に入っているのだと笑顔で言っていた。
また、店のスタイルとしては、武器や防具の製作やメンテナンスを主な商売としてはいるものの、様々なアイテム類やアクセサリーの販売、さらには情報まで手広く扱う万事屋だ。
その商才は素晴らしく、路地裏に構えているにもかかわらず、赤字知らずの隠れた名店。
この〈クレアシオン〉の街でもかなり古参の店で、メインストリートの店主たちからも一目置かれている。
小5の子どもと侮るなかれ。かなりの切れ者なのである。
ちなみに、プレイヤー名の〝ラン〟は、本名の〝あいる〟よりは女の子っぽくないかと思って、自分の名前を音読みさせたらしい。
まぁ、どちらにしろ十分可愛らしい名前であることに変わりは無いのだが、本人が納得しているなら良いのだろう。
そういうところを気にするあたり、やっぱり子どもだなぁと思ったり。
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