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漆
第45話
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「・・・あの、えっと」
「・・・・」
困った様に眉を下げた陽真が丸椅子に座る男をおずおずと見上げる。
「大丈夫だった?大変な目にあったそうだね。ウチの善が君を助けたって聞いたけど、ダメだよ。あの辺は治安悪いからね」
「あっ、善さん!あの人の、えっと、ボス?ですか?じゃあ喜島、・・・さんのボス?」
「そうなるねー。ああ、恭介でいいよ」
「恭介さん?」
想像よりも若い男の顔を陽真が意外そうに見つめる。
にっこりと笑う男は善と同じ綺麗な笑みを浮かべているが、その笑顔はどこか冷たい。
「刺されたの、首?」
「ぁ、え、わッ、わ?!」
グッと近寄ってきた恭介が陽真の視界いっぱいに広がる。
肩あたりまで伸びた黒髪から覗く伏せ目がちの落ち着いた瞳が、陽真の視線を絡め取り三日月形に笑う。
恭介の首筋が陽真の鼻先に触れ、甘い香りがふわりと香る。
喜島のコロンにも似ていたが、嗅ぎなれた匂いよりも少し甘ったるい香りだ。
「あれ?アイツは首をやられたって聞いてたんだけどな・・・。腕には無かったし・・・お腹?」
「えっ!?わっ!!」
恭介が陽真の入院着を力いっぱい上に引っ張り、脇腹で締めていた紐が解ける。
素肌が顕になった陽真の上半身に恭介の冷たい指先が滑る。
「ひっ・・・ぁ、、なに・・・」
「・・・あはは、何その顔。人懐っこくて子犬みたいだ。兄貴はこの顔がいいのかなー・・・」
恭介の髪が陽真の脇腹を撫で、カサついた恭介の唇が肌に触れる。
「い"っぁ・・・!」
「その顔、唆るな・・・虐めがいがある」
暴かれた素肌に恭介の唇が吸い付き離れ、またそれを幾度か繰り返す。
唇が離れたところがヒリヒリと痛んで、赤く小さな痕が浮かんだ。
「っ・・・やめ、ろっ!!これ以上するなら、人呼ぶから」
震える声で叫んだ陽真の右手には、枕元にころがっていたナースコールが握られている。
キッと睨みつけた恭介の顔が不快げに歪む。
「・・・・はぁ?勘違いすんなよガキ。これはただの当て付け。兄貴以外のオスにキョーミねぇよ」
「・・・・ぁ、兄貴?兄貴って」
「はぁーあ、「もうどうでもいい」って言ったけど、やっぱりやめだ。どうせ俺の前では笑ってくれないんだもんな・・・」
「・・・?」
恭介の伏せた目が、一瞬寂しげに床をさまよう。
「お前がめちゃくちゃにしたラブホ、実は俺達の組の持ち物なんだ。二部屋もめっちゃくちゃにしてくれて・・・高い家具も沢山壊れたんだよね」
「・・・俺が壊したわけじゃっ!!」
「でも、助けが入らなきゃキモイ男に犯されてただろ?」
確かにその通りだ。
善が駆けつけていなければ、何も分からないまま犯されていただろう。
「親父の借金はチャラにしてやる。その代わり、部屋の弁償占めて六百万。返済が終わるまで逃げられると思うな」
「っ・・・」
「喜島にはこの事は言うな。親父がお前にした事、忘れた訳じゃないだろ?お前の事情で喜島をこれ以上傷付けるな」
喜島の名前にドキリとした。
知らないうちにあの人に甘えていた。
あの日の夜、泣きながら「なんで戻ってきた」と呟いた喜島の顔を思い出した。
酷く辛そうで、苦しそうで。
「一応一週間なら待ってやる。いまは保護者いるんだろ?じーさん。あのじーさんなら強請れば出せる額だ。必死に頼むんだな」
「っそんな!出来るわけない!!」
「ああそう。・・・どうしても無理って言うなら」
ベッドサイドのローテーブルに置かれたメモ帳に視線を落とした恭介が、胸ポケットの万年筆を取りサラサラと文字を書く。
「電話、待ってるから」
陽真の耳元で囁いた恭介の低い声に、全身がゾクゾクと恐怖で震えた。
「・・・・」
困った様に眉を下げた陽真が丸椅子に座る男をおずおずと見上げる。
「大丈夫だった?大変な目にあったそうだね。ウチの善が君を助けたって聞いたけど、ダメだよ。あの辺は治安悪いからね」
「あっ、善さん!あの人の、えっと、ボス?ですか?じゃあ喜島、・・・さんのボス?」
「そうなるねー。ああ、恭介でいいよ」
「恭介さん?」
想像よりも若い男の顔を陽真が意外そうに見つめる。
にっこりと笑う男は善と同じ綺麗な笑みを浮かべているが、その笑顔はどこか冷たい。
「刺されたの、首?」
「ぁ、え、わッ、わ?!」
グッと近寄ってきた恭介が陽真の視界いっぱいに広がる。
肩あたりまで伸びた黒髪から覗く伏せ目がちの落ち着いた瞳が、陽真の視線を絡め取り三日月形に笑う。
恭介の首筋が陽真の鼻先に触れ、甘い香りがふわりと香る。
喜島のコロンにも似ていたが、嗅ぎなれた匂いよりも少し甘ったるい香りだ。
「あれ?アイツは首をやられたって聞いてたんだけどな・・・。腕には無かったし・・・お腹?」
「えっ!?わっ!!」
恭介が陽真の入院着を力いっぱい上に引っ張り、脇腹で締めていた紐が解ける。
素肌が顕になった陽真の上半身に恭介の冷たい指先が滑る。
「ひっ・・・ぁ、、なに・・・」
「・・・あはは、何その顔。人懐っこくて子犬みたいだ。兄貴はこの顔がいいのかなー・・・」
恭介の髪が陽真の脇腹を撫で、カサついた恭介の唇が肌に触れる。
「い"っぁ・・・!」
「その顔、唆るな・・・虐めがいがある」
暴かれた素肌に恭介の唇が吸い付き離れ、またそれを幾度か繰り返す。
唇が離れたところがヒリヒリと痛んで、赤く小さな痕が浮かんだ。
「っ・・・やめ、ろっ!!これ以上するなら、人呼ぶから」
震える声で叫んだ陽真の右手には、枕元にころがっていたナースコールが握られている。
キッと睨みつけた恭介の顔が不快げに歪む。
「・・・・はぁ?勘違いすんなよガキ。これはただの当て付け。兄貴以外のオスにキョーミねぇよ」
「・・・・ぁ、兄貴?兄貴って」
「はぁーあ、「もうどうでもいい」って言ったけど、やっぱりやめだ。どうせ俺の前では笑ってくれないんだもんな・・・」
「・・・?」
恭介の伏せた目が、一瞬寂しげに床をさまよう。
「お前がめちゃくちゃにしたラブホ、実は俺達の組の持ち物なんだ。二部屋もめっちゃくちゃにしてくれて・・・高い家具も沢山壊れたんだよね」
「・・・俺が壊したわけじゃっ!!」
「でも、助けが入らなきゃキモイ男に犯されてただろ?」
確かにその通りだ。
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「っ・・・」
「喜島にはこの事は言うな。親父がお前にした事、忘れた訳じゃないだろ?お前の事情で喜島をこれ以上傷付けるな」
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知らないうちにあの人に甘えていた。
あの日の夜、泣きながら「なんで戻ってきた」と呟いた喜島の顔を思い出した。
酷く辛そうで、苦しそうで。
「一応一週間なら待ってやる。いまは保護者いるんだろ?じーさん。あのじーさんなら強請れば出せる額だ。必死に頼むんだな」
「っそんな!出来るわけない!!」
「ああそう。・・・どうしても無理って言うなら」
ベッドサイドのローテーブルに置かれたメモ帳に視線を落とした恭介が、胸ポケットの万年筆を取りサラサラと文字を書く。
「電話、待ってるから」
陽真の耳元で囁いた恭介の低い声に、全身がゾクゾクと恐怖で震えた。
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