島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも

文字の大きさ
1 / 25

第一話 

しおりを挟む
第一話


「はぁ~‥‥」

王都を出発してから、二週間が経った。
揺れの酷いホロ付き馬車に揺られながら、ぼんやりと外を眺める。
農地は枯れ、時折見かける人や牛も痩せている。
この辺りは日照りが続き、作物に影響を与えていると聞いている。
雨乞いの申請が来ていたな。

「うわっ! 急に降ってきやがった!」

馬車の御者が慌てて雨具を着る。まぁ、私は屋根のある場所にぼんやりと座っているだけなので、問題無い。
農作業をしていた男性と目が合うと、男性が被っていた帽子を取り、私に頭を下げた。
雨に気が付いた子供がはしゃいで男性に近寄り、私に向かって手を振ってくれた。

「元気そうでよかった」

御者に聞こえない様に呟くと、小さく手を振り返した。
ジャラリ、と鎖の音が耳に響く。
両手に付けられた手枷を繋ぐ鎖だ。

「おい、余計な事はするな」

馬に乗った騎士がわざわざ馬車の後ろまで移動してきて、睨んできた。

「コレがあるのに、魔法は使えませんよ?」

騎士に手枷を見せると、舌打ちをしてまた馬車の横へと戻って行った。
この手枷は魔法使い専用の手枷で、並の魔法使いだと一切の魔法が使えなくなる。
まるで罪人だな。いや、罪人にされたのだった。

遡る事、二週間前。

「メルリア・カルフォード! 己を聖女だと偽った事、大罪である!」

忙しいお勤めの中、急に王城に呼び出されたと思ったら、これだった。自分で「聖女です」と名乗った事は一度もないのだが‥‥。
我がカルフォード家は代々、国教であるフォーナ教の神官長を務めている。
豊穣と薬師の女神フォーナ様を信仰するフォーナ教だが、聖属性魔法を使えるのは極僅かな神官のみ。怪我や病気を治せる治癒魔法を使える神官は、更に少ない。
私が聖属性魔法を発現させたのは、五才の時。それから十三年間、夜明けから夜中まで、ずっと魔法の鍛錬や国の為に身を粉にしてきた。

「カルフォード家の面汚しが」

侮蔑と嘲笑を込めた目で私を見るのは、実の父である現神官長とその正妻。
そして、つい先ほど「大罪だ」と叫んだ、バルトナート・フレス。このフレス王国第一王子と、その王子にぴったりと寄り添う、私の腹違いの姉、レシアナだ。
姉がその放漫な身体を押し付ける度に、デレデレ鼻の下を伸ばしているば‥‥王子。

「長年、姉であるレシアナを虐げてきた外道め!」

そんな時間がどこにあるのか。

「本来ならば極刑に処すところだが、レシアナの懇願により流刑とする! 心優しい姉に感謝するが良い! そして、レシアナ‥‥彼女を本物の聖女とし、私の婚約者とする! 騎士よ! その大罪人を捕らえよ!」

あっという間に騎士達によって囲まれたが、さして抵抗する気は無い。もっとも、騎士達も私に乱暴な事をするつもりは無いようで、本当に取り囲んだだけだ。
魔法封じの手枷を着ける時も、「申し訳ございません」と本当に小さな声が聞こえてきた。
騎士団の鍛錬場には、小さな頃から鍛錬で傷付いた騎士達に回復魔法をかけに言っていたので、顔見知りも多い。
これから、どうするんだろう? 姉は聖属性魔法を使えないので、もちろん治癒魔法も使えない。まぁ、私がいなくなっても、他にもいるし大丈夫だろう。
神に仕えているとは思えない程に欲の塊である父様からしたら、聖属性魔法が使える妾腹の娘より、魔法は使えないが王妃になれるかもしれない方を取っただけ。

「王子、妹の、あの様な姿は‥‥見るのは、辛いですぅ」

よよよ、と王子にしなだれかかる姉。泣いている風にしているが、口元に本性出ちゃってますよ、姉様。

「おお、なんと妹思いな! さっさと連れて行け!」

そのまま馬車に乗せられ、今に至る。
因みに、馬車の護衛(監視)役は、私の知らない騎士三人。顔に「嫌々です」と書いてあるようだ。
ぼんやりと事の顛末を思い出していたら、馬車が停まった。
この距離と位置からして、港町ゼルトールか。
港町ゼルトールは、フレス王国の東の端にある。国境と近い事もあり、騎士団の有する船もある。
そろそろお昼か。以前来た時に食べた新鮮な海鮮は大変に美味だった。

「偽聖女様が来たぞ!」
「お、俺達を騙した悪女だー」

どうやら町に前触れをしていたようだ。町の人達に、私に罵声を浴びせ、危害を加えさせようって事だろう。
また騎士が馬車の後ろに来て、満足そうにニヤリと笑うと、戻って行った。暇か。

「い、石を投げろー!」

先程から聞こえて来る罵詈雑言だが‥‥棒読みすぎませんか?
そして、馬車の後ろから投げ込まれる。
住民たちの投げた石‥‥の様な包みが私の肩や身体に当たるが、ポスンと軽い音と共に膝の上に落ちる。
その一つが解け、紙の内側に「信じています」の文字が見えた。中身は、クッキーだ。
おっと、これを騎士に見られるのはまずい。
腰に着けたポーチに右手を当てると、投げ込まれた包みが全て消えた。
包みの代わりに、ポーチから石を数個出して転がしておく。
馬車はそのまま街中を走り、港にたどり着いた。

「偽聖女、降りろ」

言われて馬車を降りると、潮風に髪が揺れる。

「長旅ご苦労さん」

出迎えてくれたのは、額に傷のある強面中年男性。
海を守る騎士団の隊長さんだが、騎士団の服を着ていなければ海賊にしか見えない。
泣く子は怯え、海賊は震えあがる。

「宿に話は通してあります。この通りを」
「必要無い。このまま行く」

私をチラリと見た隊長さんが珍しく笑顔で言うものの、私を連れて来た騎士にあっさりと断られた。隊長さんの「てめぇの為に言ってんじゃねぇよ」と声が聞こえて来そうだな。
他の騎士達も笑顔だが、皆さん、もう少し殺気を押さえてください。

「‥‥承知いたしました。直ぐに出港の準備を!」
「はっ!」

ここの近海には大小合わせ三つの島があり、どれも無人島となっている。
たぶん、どれかの島に降ろされる事になるだろう。
船に乗り込むと、船底にある牢へと入れられた。

「ふぅ‥‥」

なんとか無事にここまで来れた。
最悪途中で暗殺されるかもと思っていたが、唯一あった事と言えば、監視役の護衛が夜中に忍び込んで来ただけだった。返り討ちにしたが。
窓の外に一面広がる海は、茜色に染まっている。

「何とかなる‥‥かな」
「おいおい、これから無人島に放り込まれるって娘の言葉じゃねぇだろ」
「おや、隊長さん」
「思ったより元気そうだな」

隊長さんが檻の鍵を開けてしまった。
ギィと鈍い音を立てて扉が開かれると、手招きをされた。

「良いのですか?」
「ああ。あの馬鹿共なら酔いつぶれたんで、丁重に部屋へ放り込んでおいた」
「酔いつぶした、の間違いでは?」

隊長さんは何も言わず、ニヤリと笑った。
甲板へと出ると、少し肌寒い潮風に吹かれる。すると、ふわりと暖かい毛布が肩に掛けられた。

「ありがとうございます」
「ったく‥‥王都から連絡が来た時は、ゼルトールの騎士全員で王都に乗り込んでやろうかと思ったぞ」

それは駄目でしょう。
力強く頭をワシャワシャと撫でられ、髪が‥‥まぁ、良いか。

「それで? なんだって偽聖女って事になったんだ」
「あ~‥‥」

隊長さんに事の顛末を説明すると、盛大なため息が聞こえてきた。

「姉、ねぇ」
「はい。彼女はこう‥‥凄いんです。メローナです」

メローナは、甘くて大きな丸い果物だ。
両手で放漫な曲線を宙に描くと、隊長さんが自分の後頭部をガシガシと掻いた。

「メローナ‥‥王族もただの男ってことか」
「やはり男性はメローナがお好きですか」

確かにあの魅力は凄い。
それに、手入れの行き届いた金色の髪と、宝石の様な青い瞳。私はと言うと、伸ばしっぱなしな薄い紫色がかった銀髪に、濃い緑色の瞳。義母曰く、母にそっくりなのだそうだ。

「まぁ、メローナも好きだがアプルも‥‥って、それはどうでもいい! お前さんには海龍の討伐や治癒魔法、色々と世話になった。この町の恩人だと思っている」
「恩人だなんて、そんな事は」
「あるんだよ」

また頭をワシャワシャされた。
隊長さんと初めて会ったのは、私が八歳の頃。その頃から変わらないな。

「しっかし、未来の国王陛下がそんなんで、この国は大丈夫かねぇ」
「不敬ですよ」
「はっ! この船に乗ってる奴等で、心の底から王国に仕えてる奴なんていないさ。皆、この町を守りたくて騎士になった奴等だからな」

聞く人が聞けば頭と胴がさようならする発言だが、本心なのだろう。

「お前さんの行く島は無人島ではあるが、危険な魔物もいない。少しだけだが、物資も運んである」
「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね。そろそろお祖父ちゃんになるんですから」

去年結婚した隊長さんの息子さん。半年前に来た時にお嫁さんのお腹が大きくなっていたから、そろそろ子供が産まれるはずだ。
外の空気も吸えたし、良い気分転換をさせてもらった。
戻らないと、いつあの騎士達が起きて来るか分からない。
牢の中へ戻ろうと歩き始めると、波の音に掻き消えてしまいそうな声が聞こえて来た。

「助けてやれなくて‥‥すまない」

振り向くのは、止めておいた。
騎士道。正義感。それだけでは、本当に守りたいものは守れない。

「ガラにもなく細かい事気にしていると‥‥禿ますよ?」
「あぁ⁉ 俺は禿ねぇよ!」
「ふふふ」
「明日の朝には着くからな!」
「はい」

どうか、私の事などで悩まないでほしい。
そんな必要など、欠片もないのだから。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...