その恋、ガンバレよ

nekojy

文字の大きさ
1 / 3

1. 相談ごと

しおりを挟む

 それはちょうどハンバーガーショップのシフトが明けた時のことだった。バイト割引で買たココアを手にボクがスタッフルームの扉を開けると、そのすぐ目の前にボーっと立っている彼女がいた。

「うゎ!」

 鉢合わせになったはずみでこぼれそうになった手元のカップ。それに気を取られながらも、ボクの目は彼女を見つめたまま固まっていた。変に気まずい空気が流れる。それを取りつくろうかのように、ボクは声を掛けた。

「あ、お疲れさま…」

 ん? 彼女の様子がなんか変だ。妙にモジモジしているし。どうしたの、とボクが言葉を続けようとしたちょうどその時、彼女のほうから口を開いた。

「あのぅ……ちょっと相談したいことがあるんですけど」

 一瞬、意を決したような表情を見せながら、真剣な眼差しで彼女がそう言った。

「え、浜村はまむらさんがボクに?」

「はい……」

 ちょっと、あらたまった口調だった。何だろう、相談って。相手がボクなんかでいいのかな。

 浜村さんとボクは、同じハンバーガーショップのバイト仲間だ。彼女はカウンターでの接客業務、ボクは厨房でミートパティを焼いたりポテトを揚げたりしている。言葉を交わすのは、夕方、シフトが重なったときだけだった。
 だがそんな関係でも、ボクたちの間には多少の信頼関係が芽ばえていたのだろうか。
 それにしても相談ごとって、何だろう。

 彼女は女子高校生、でボクは大学生。ほんの少し人生の先輩。って、それだけで相談相手として頼られている? ボクはまだ半分以上残ってる紙コップのココアを見つめていた。
 すっかり冷めてしまった手元のカップ。その淀んだ表面を軽く揺らし、ボクは一気に飲み干す。そして言葉を続けた。

「じゃ…駅裏にある喫茶店に行こうか」

「うん…いいよ」

 返事がいつもの、ちょっと生意気なタメ口に戻った。それで少し安心する。


   *  *  *


 午後七時までのシフトを終えたボクたちは、駅前の商店街を通り抜け、駅裏方向に向かって歩いていた。
 仕事終わり。それは拘束から解放された瞬間。ボクはこのとき感じる自由な空気感が好きだった。
 歩きながら、小さく深呼吸をしてみる。鼻の奥のほうが、少しツンとした。

「三月だけど、まだ寒いね」

「うん。暗くなると冷える…」

 何気ない会話を交わし、プライベートな気分を高めようとしていた。寒さのせいか、気持ちの暖機運転がもう少し必要なようだ。こころなしか歩みが速まった。
 早くあたたかい場所に飛び込みたい。そして熱いお茶を飲もう。普段は入れないミルクも、たっぷり入れるんだ。
 幸福な気分は、この時点ですでに始まっていた。

「あのね、主任に一つ聞きたいこと、あるんだけど」

「え、何?」

 ボクは彼女から主任と呼ばれている。だがそれは職場の役職なんかではない。彼女が通う高校の学年主任に風貌が似ている、ただそれだけの理由で、そう呼ばれていた。
 
「主任は、どんな女性ひとが好きなんですか」

「え、それって好きなタイプってこと?」

「うん。そう」

「ん……なんだろう…」

 それにしても、なんか今日の彼女、気になる言い回しをしてくる……それって、変にキミのこと意識しちゃうじゃん……

 そういえば最初に彼女と親しくなったキッカケも、ボクの感情を掻き回す一言だったっけ……


   *  *  *


 それは、妙な注文が入った時のことだった。

──オーダー入ります! ハンバーガーのピクルスとケチャップ抜きひとつお願いします……

 普段、カウンターと厨房の間の業務連絡は、顔を見ながら話すことはなかった。その理由はただひとつ、作業中の手元に集中するためだ。でも変な注文が入った時は別だった。

 今、注文されたバーガー、味しないと思うけど……ボクはオーダーを聴きながら、そう思っていた。でもマジの注文だな。伝えている彼女の目を見れば、それが分かる。

──あ、オーダーOK、サンキューです

 ボクはその時、オーダーを伝えていたバイト女子、つまり浜村さんと、初めてのアイ・コンタクトを行っていた。

──あ!

 浜村さんの素頓狂すっとんきょうな声。あ……って、何よ? ビックリした顔の浜村さんがボクの顔を見て固まっていた。その目が点になってる。
 そしてその後、カウンターに居るもう一人のバイト女子に、こうツブやいていたのをボクは聴き逃さなかった。

──やだ、ちょっと聞いて。か、顔が……声と全然違うの! 声はステキなのに……

 おいオイ、それって褒め言葉じゃないよね。ほっといてくれって! そんなこと言われてもさぁ……



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

黄泉津役所

浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。 だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。 一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。 ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。 一体何をさせられるのか……

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...