推測と繋ぎし黒は

貳方オロア

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  青の見ゆるを土より

16.一時半

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西耒路さいらいじ署では『抗争は下火したびになった~』とはならないでしょうね」

「下火」とはいうものの、実際に下火になったわけではない。

というのは、安紫あんじ会の事務所で起きた抗争については現に、逮捕者も出ているわけで。

下火に「なった」「ならない」と言ったのは、五味田渓介ごみたけいすけ

日刊「麒喜きき」。

「とはならないって、なんで」

仁富郁徳にとみいくのりが尋ねた。

「だって、逮捕者は増え続けているって話ですから」

「西耒路署に入るやつ?」

五味田は肯いた。

その他の署でも増えている可能性はあったが、五味田は西耒路署の現状しか分からなかった。






週刊誌で取り上げられている。
大手メディアなどによる報道は、下火になった抗争。
といっても安紫会の事務所で起こった抗争は、小さなものでもなく。
仁富と五味田は巻き込まれた。
仁富は週刊誌を手に持って、それをさっきから読んでいる。
一方いっぽう五味田は、他社の新聞だ。
五味田は仁富の後輩。
そして二人は記者である。

日刊「麒喜」。






「新聞では下火したびだろうけれど、逮捕者が入るから西耒路署では忙しいんじゃないすかね。あとから組員が見つかったりする場合が多いらしくて」

「週刊誌には今も、抗争の話題がちゃんとあるよ」

鮫淵さめぶち親分のことが全般を、めているんじゃないすかね」

五味田ごみたとしては、「抗争よりも親分の方が話題だ」という持論。

「さあねえ。いずれにせよ週刊誌は大入り満員だ。鮫淵とか貫禄あるもんな」






小さな抗争ではなかった。
鮫淵柊翠さめぶちしゅうすいは、安紫会の親分。
実際には抗争に参戦していない。
ただそこは親分。
参戦していようがいまいが西耒路さいらいじ署には居る。
大人しい組として知られる安紫会。
あまり普段問題は起こさない、大人しいくみとして知られたが。
抗争となると話は別なのだろう。
安紫会は乗り込まれた側である。
仕掛けたのは阿麻橘あおきつ組だったとされる。

ただそこは、安紫会は組事務所だった。
準備は怠りないようである。






「安紫会の事務所はミサイル搭載しているらしいです。つまり抗争に際しての万が一、対応は事務所なりにしていたと。だけれど阿麻橘組に乗り込まれちゃった」






日刊「麒喜」。
仁富と五味田。
その二人だけでなくしゃ全体で、下火になってきている抗争の話題。
だが報道では、取り上げていない話題もある。
仁富と五味田はそれが気に掛かっている。

下火なのは抗争の一方で、その最中さいちゅうに姿を消した入海暁一いちうみあきかずの安否はいまだ不明。
敢えて報道側は、「失踪」のことを取り上げていない。
抗争が起こってから、五日が経過している。
仁富と五味田、それから陳ノ内惇公じんのうちあつきみは、失踪前に入海を張っていた。






「搭載といえば」

仁富にとみが言った。

五味田ごみたはきょとんとする。

「お前のはどうなん」

「え」

五味田は眼をぱちくり。

「搭載すか」

「そう。調子はどう」

「い、いや……どうとか言われましても」

赤くなる五味田。

「その話は陳ノ内じんのうちさんとしていたはずなんだけれどな」

めるなよ。お前の情報なんてごまんと溢れているんだから」

「いやそれ困りますよ! 困るなあ……」

「実際に劒物けんもつ大学病院へ行ったって話じゃないか」

入海暁一もまた、劒物大学病院の医師だ。

「い、行きましたよ行きました! 俺、自重してますからね!」

「整形外科のしたか」

「え」

と五味田が振り返ると、陳ノ内だった。

抗争で、陳ノ内は劒物大学病院へ搬送された。

匕首あいくちで腹部を刺されたのである。

一方の五味田。

彼は匕首でもなんでもなく、自主的に脚を運んだのである。

整形外科の下の階だった。

陳ノ内じんのうちさん」

五味田はシュンとして言った。

仁富と五味田の席へ寄る陳ノ内。

「俺の搭載の話題。仁富にとみさんに知られています」

陳ノ内は少し考えてから、言った。

「情報漏洩だな」

「どこからなんでしょうか」

仁富はツッコんだ。

「俺らは仮にも記者だよ」

「そうでした。あの、俺の搭載の方は調子いいです。はい」

「そりゃ何よりだな」

五味田はまだ顔が赤い。

陳ノ内は苦笑する。

「良かったな」

「良かったです」

陳ノ内は、五味田の運動の大体がベッドの上、であることを把握している。

仁富が把握しているかどうかは、いまいち定かではない。

「整形外科か……とすると。話題は劒物大学病院へ戻るな」

仁富が言った。

「うん」

陳ノ内。

「親分と抗争の話題はまだ、週刊誌にはある。実際話題にもそこそこなっている。ただ、整形外科と失踪の件はねえな」

仁富は数ページ、週刊誌をめくっていく。

「整形外科はないでしょうよ」

五味田は少しむくれて言った。

陳ノ内は仁富の週刊誌を覗いた。

「うちの麒喜でも出していないからな。情報」

「うん」

実際、他の報道がそうであるように、入海暁一の失踪については「麒喜」でも取り上げていない。






安紫会。
主に西耒路署の管轄内だ。
そこを張る。
実際に張った。
安紫会の話題が日刊「麒喜」側に届いて、先手で動いた。
それが陳ノ内と仁富と五味田である。
ちなみに五味田は、陳ノ内にとっても後輩。

記者と刑事。
黙っていないのが西耒路署だ。
三人を追っかけてきたのが強行犯係の二人だった。






安紫会を張った理由。
入海がそこへ、往診に来ていたためである。
更に言えば強行犯係の、怒留湯大誠ぬるゆたいせい
彼はもともと、安紫会の細々こまごまに関して端緒たんしょで噛んでいたところだった。
怒留湯と、それから桶結俊志おけゆいしゅんじ
陳ノ内と仁富と五味田。
刑事と記者。
とはいうものの、安紫あんじ会の抗争少し前から手を組んで、抗争に巻き込まれたのだった。

安紫会ではその日、いろいろ起こった。
抗争、盗難、その後の難事、入海の失踪。






「お前らこそ、大丈夫なのか」

陳ノ内は尋ねた。

「大丈夫って、なに」

仁富は言う。

「怪我とかさ」

「ああ、俺は無傷だったよ。言っていなかったっけ? そんでこいつも搭載は万全と。いやいやよかったな」

「搭載はもういいですってば」

五味田は赤い。

なんとか二人とも、抗争に際しては応戦。

そして怪我はなかったのである。

「陳ノ内さんは刺されたとこ、どうなんです」

五味田は尋ねる。

「なんとか」

陳ノ内は苦笑した。

入院と傷口の縫合。

劒物大学病院だった。

「痛いとかないんです」

「ないよ」

「そんならよかったです。入院短かったんでしょう」

「あんまり気にしなくていいよ。ちゃんと傷は塞がった」

「そうですか……」

五味田。

「で、こっからは入海暁一の話題とかになります?」

「そうしようか」

陳ノ内は言った。

仁富は週刊誌を持ってはいるものの、その眼は二人の方へ。

「失踪についてだな。西耒路署では手掛かりゼロ。右往左往らしい。いろいろ今、俺も当たってみている」

「早速行きますかね」

「そう」

陳ノ内が腰掛けたので、仁富と五味田は椅子を寄せた。

仁富は手元を覗き込む。

陳ノ内はメモを手渡してやる。

「洗っている段階」

仁富はメモを見ながら言った。

「うん。小規模だが」

五味田もメモを見ながら、肯いている。

「大学病院側と安紫あんじ会のつながり。なるほど。入海先生は実際に往診へ行ったわけだから。陳ノ内さんと仁富さんはその様子を見ていますしね」

「お前は正面の門をね」

「そうですね……でも正面からじゃ入海先生は見えませんでした。阿麻橘あおきつ組の数人は居たけれど」

仁富は小型カメラを持参していた。

その映像を怒留湯と陳ノ内と共有。

安紫会の事務所外側から、入海の様子を張っていた。

五味田は桶結と組んだ。

事務所正面を張った。

抗争の起きる少し前である。

「安紫会と劒物けんもつ大学病院につながりは、あるかどうか。そりゃ、当然あります。入海先生のことがまずひとつ。だから病院側を調べる価値っていうのは大いに」

五味田はうなずきながら言った。

「うん。ただ大学病院側は、何か手掛かりを掴んだりしたのか。入海先生のこと」

仁富は言う。

だが考え込んだ。

「掴んでいればもう少し動きがあってもおかしくない」

「そういうことだな。俺は少し病院側を当たってみたけれど、手掛かりというにはまだまだ」

陳ノ内はそう言った。

「やっぱりな」

「うん」






入海暁一。
整形外科を担当。
だが意外となんでも診る医師。
陳ノ内の担当だった。

何時から何時。
何をしていたか。
前後の時間。
安紫会の事務所へ、入海が往診へ出掛けるまで。
陳ノ内のメモにある。

数人。
大学病院関係者のプロフィール。
名前、出身大学、どこで何をしていたか。
余談として血液型と、それから連絡先。






「西耒路署では最近、DNA鑑定が多い」

「そういえば多いな。最近一人判明したんだろう」

「阿麻橘組の他殺体」

「そうだ。それにあやかった感じっぽいな」

仁富は苦笑した。

「そうかもね」

陳ノ内。






九日。
抗争の起きる二日前。
安紫会から、劒物大学病院へ連絡が入る。
連絡を受けたのは青奈あおな
受付嬢だ。
安紫会の若頭わかがしらである伊豆蔵蒼士いずくらそうじへの、往診。
青奈から連絡が回る。
連絡が回ってそれがまず、湖月康天こげつこうてんへ入る。
医師二人が動く。






中逵景三なかつじけいぞう螺良青希つぶらあおき。事務所へ行ったんだな」

仁富は言った。

陳ノ内は答える。

「ああ。午後に。恐らく安紫会から直接の詳しい話を、受けるためだ」

医師二名、中逵なかつじ螺良つぶら

それから案内として研修医の、軸丸書宇じくまるしょう

「安紫会から直接の詳しい話」を受けるため。

安紫会の事務所へ赴いた三人。

「怒留湯さんたちの間で抗争の前にさ。『安紫会の事務所で動きがあった』とか何とか話題に上がっていた。俺はそう記憶していたんだが」

仁富にとみが言う。

「事務所の動きっていうよりそれって、劒物大学病院のこの」

示す。

「三人の動きだった、っていうことじゃないか?」

「うん」

陳ノ内は言う。

「動きの情報についてはさ。俺たちが勝手に『掴んだ』形になる。西耒路さいらいじ署としては本来困る行動だった。だから、『動き』については安紫会の動きだったかどうか。それとも医師三人の動きかどうかだったか。正確にはなんとも言えない」

仁富が言った。

「阿麻橘組の、他殺体が出たのは九日より前だ」

「そう。直接の抗争の原因は、その他殺体が出たからだと。『安紫会の事務所で動きがあった』ことについてはまず、この劒物大学病院。他殺体の件があったとすれば、更にもう一つだ。阿麻橘組の動きがあった。そう考えることも出来る」

「実際に俺らが事務所へ駆けつけた時も、阿麻橘あおきつ組のやつら居たからなあ」

仁富は頭に手をやって言った。

「『安紫会の事務所で動きがあった』件については既に、怒留湯さんが端緒で噛んでいた。だから動きとしては他殺体に掛かる何かと、端緒の件で二つ。大きいものとしてあったのはそれ。あるいは医師の動きか」

仁富。






他殺体。
DNA鑑定があった。
結果として出たのは、阿麻橘組に居た力江航靖りきえこうせいという人物。
頭部がなかった。

安紫会の事務所で抗争の起こった前後。
他殺体も関係しているとされる。
対立勢力である阿麻橘組が乗り込んだというのがまず第一。

陳ノ内じんのうちのメモ。
入海暁一が往診へ出掛けるまで。
氏名とその他の情報。
大まかな個人情報。
数名の劒物大学病院関係者たち。






劒物燦けんもつさん。病院長。
担当は内科。

湖月康天こげつこうてん
湖月は入海と出身大学が同じである。
外科全般。
東若ありわか大学の

安紫会から「往診の頼み」を受けて出掛けた医師二名。
中逵景三なかつじけいぞう螺良青希つぶらあおき
三十代。






仁富は血液型の欄を全て飛ばす。

中逵なかつじの大学名は眼に止まった。

「安紫会の洋見仁重なだみとよしげと、中逵は出身大学が同じ」

洋見仁重。

安紫会の幹部候補とされている組員だ。

「そうか……それで安紫会の事務所へ最初に、中逵をやったんだな。事務所でやりとりしやすいのは彼だとかね」

「なら、その中逵先生に最初は、往診を依頼する形になったかもしれません。安紫会側は」

五味田ごみたは肯いて言う。

午後零時から午後二時。

中逵と螺良、それから研修医の軸丸じくまる

安紫会の事務所を訪問。

九日午後七時~、安紫会の事務所を訪問。

入海暁一いりうみあきかず

「入海先生が一度訪ねている。つまり入海先生に切り替わった」

仁富。

背もたれへ体を預けている。

週刊誌はいま、放り投げられている。

どこにあるか分からない。

「入海先生が、自分から変更を申し入れた可能性もあるかな」

五味田は何か書き始める。

ずらっと医師の名前が紙の上へ並ぶ。

「安紫会の事務所へ往診があるよってなった時に。入海先生が行くとなった、前後で関わった人は五人です」






陳ノ内は椅子を更に寄せた。
と、電話が鳴る。
誰かが取る。
ざわめき。

受話器が置かれる。
途端に広がる静けさ。
誰かが急ぎ足で出て行く。
弛緩。緊張。
動きの有無。
陳ノ内たちがたむろしている小規模地帯。
だがこちらは、割とすぐ弛緩。

仁富は壁の時計に眼をやる。
午後一時。






「ガセかなあ」

五味田は首を傾げた。

「落ち着かねえな。どっか出掛けて話そうか?」

仁富が言った。

「劒物大学病院へ行こう。座れるところあるだろう」

五味田は慌てた。

「いやこの話題で病院はまずいんじゃないすか」

「何はともあれ場所は変えようか」

陳ノ内が言った。

仁富と五味田は肯く。






五味田は喫茶がいと言う。
仁富は和食が良いと言う。
陳ノ内はどちらでも良いと言った。

日刊「麒喜」の入るビル。
両隣。
それぞれ和食の店と、喫茶店。
どちらだ。
どちらか。
いずれにしろ、どちらも数分の距離だ。






「お二人はご遠慮なく! 食べちゃったりしてください。俺適当にします」

五味田は言った。

彼はカフェオレ一択いったくだった。






開放的だ。
陳ノ内は思った。
ガラス張りの窓。
店内の入口と中に入った印象。
えらい違いがあった。
動から静。
中へ「入る」というよりも、印象としては開放だった。

午後一時を少し過ぎ。
喫茶きっさ店。
店内はそれなりに混んでいる。
丁度ちょうど昼時ひるどきだ。
庭の緑は眼に落ち着く。






店内、賑わう声は騒がしいものではなかった。
全体の色調としてはオーカー。
あるいはアンバー。
さりげないジャズ。
レコードの針と盤。

リクエストがあればレコードを掛けることが出来る。
今、店内としては有線のようで。

五味田は席に腰掛けたその途端に、店員を呼んだ。
彼はメニューを見なかった。
大丈夫なのだろうか。
とばかり、仁富は眼をぱちくり。






三十分で戻る。
一報やら何やら入った時に対応出来るようにするために。

陳ノ内と仁富。
慌ててメニューに眼を通した。
店員は下がり、数分で戻って来る。
だが陳ノ内と仁富が注文すると、更に早く戻って来た。

玉子とベーコンのサンドイッチ。
ヨーグルトが添えられたメニュー。
同じメニュー。
それが二人分だ。






「俺は水でいいや」

仁富は飲み物を頼まなかった。

頼むこと自体が面倒のようだ。

サンドイッチをむしゃむしゃしながら言う。

「で、劒物大学病院から話を訊いた印象では、どんな感じだったの」

仁富は陳ノ内へ尋ねた。

店員が来て、陳ノ内の前にコーヒーを置く。

「さっき五味田が書いたの、あるだろう」

「あ、いま出します」

言って五味田は取り出して置いた。

テーブルへ。

安紫あんじ会の事務所な。入海先生が行くっていうその前後について、出なかったんだ話は」

陳ノ内も頬張る。

五味田は眼をぱちくり。

「五人ともですか」

「うん」

「だとますます何かが気に、なりますね」

「いや……各々忙しいんじゃないの。だってほらさ」

仁富はメモを示した。

テーブルの上にメモは二つ。

陳ノ内のメモと、五味田ごみたのメモ。

そこへグラスに入った水が、置かれた。

「ごゆっくり」

店員はあっという間に去る。

三人は眼をぱちくりした。

名前の一人一人、それは五味田のメモ。

陳ノ内じんのうちのメモ。

何時頃、何をしていたかの行動。

九日、午後三時から午後六時の欄を眼で追い示す。






劒物燦けんもつさん檪尾くぬぎお大学へ午後二時から、会議のため不在

中逵景三なかつじけいぞう久多羅岐くたらぎ大学。洋見と同じ大学。三十二。整形外科。午後三時、安紫会の事務所から戻る。医療機器の動作確認と整備

螺良青希つぶらあおき:三十。神経内科。中逵と同じ行動を午後三時頃まで。午後四時から学会向けの資料作成

軸丸書宇じくまるしょう:研修医、分野は薬学。午後三時半から大学の講義。論文執筆のため午後五時~午後六時にこもる。教授室

湖月康天こげつこうてん:朝から執刀、午後三時に終了。午後四時に早めに帰宅






「全員の情報が正確とは限らない。今のところはね」

陳ノ内はコーヒーのカップへ、手を伸ばす。

仁富にとみは言った。

「入海先生が、『事務所へは俺が』。自分で名乗りを上げたかもしれない。だがもう一つある。誰かと話をした後に中逵と代わる必要が出た場合だ。なら、軸丸か中逵が入海先生の行動前後で関わった候補、になるんじゃない」

仁富は言ってぐっと水を干した。

「安紫会の若頭かしらの往診へ、行くかどうか。行かないか、行くか」

「何をもってこういう布陣になったかですよねえ」

五味田はカフェオレのカップを持った。

「入海先生の失踪につながるかどうかだな」

陳ノ内も言った。

サンドイッチ一つ目を平らげる。

「明らかにこれだけじゃ情報は足りねえな」

言って仁富は考え込む。

西耒路さいらいじ署の方はどうやって当たる? 怒留湯ぬるゆさんと桶結おけゆいさんを除き」

仁富は言った。

陳ノ内。

「西耒路署のネットワークはかたい。それが前提だ」

「俺らとしても、怒留湯さんや桶結さんとしても、ネットワークとなるとまずい。やれないことはないだろうけれど、何しろ警察だしな」

仁富は考え込んだ。

「やれないことはないですが……」

五味田は肯いて言った。

仁富はサンドイッチの二つ目を平らげる。

「情報共有はする。となると猶更なおさらネットワークはまずい」

仁富の手はさじへ。

そしてヨーグルト。

「うーん。それなら……」

五味田はメモを追加して書き始める。

怒留湯、桶結、清水しみず告船つがふね炎谷ぬくたに

名前が並ぶ。

「とりあえず、俺らが関わった西耒路署の刑事さんたち。安紫会の件に関しては五人です」

安紫あんじ会とはつながると言える」

仁富は言う。

「ええ。で、安紫会と劒物けんもつ大学病院、安紫会と西耒路署ってつなげると可能性があるとすれば」

五味田は、陳ノ内のメモを示した。

「軸丸っていう研修医。一番当たりやすそうです」

「なんで」

仁富は尋ねた。

「なんか時間はあるかもしれませんから」

「アバウトだな」

「あと、『薬学』ってあります。なら刑事さん、特に鑑識の人たちとコネ多そう。とか、アバウトなんすけれど」

カップのカフェオレは残り少なに。

五味田。

陳ノ内と仁富は、手元のメモへ視線をやった。

「入海先生と西耒路署と、その中間。として軸丸じくまるってことか。連絡先はあるの」

仁富は尋ねた。

陳ノ内はスマホを出す。

「あるよ。一応、いま挙がっている全員の分はね」

「西耒路署から当たるっていうのは、俺らとしてもリスク高そうです。だから」

五味田が言う。

ジェスチャー。

手でメモと、それから向かいの陳ノ内と仁富を交互に。

陳ノ内は眼をぱちくり。

同じようにジェスチャー。

「共有ですね」

五味田は笑って言った。

「三人態勢なら、何かといいですから」

「二度目だな。一応それで助かっているのが現状」

仁富は言う。

「なんかまあ、大きいことが起きなきゃいいがなあ」

仁富は頭を掻いた。

「特に怪我には気を付けつつ」

仁富は陳ノ内に言った。

「うん」

陳ノ内は言った。

それから、仁富にとみ五味田ごみたはスマホを取り出す。

劒物大学病院以下五名の連絡先。

仁富と五味田へ。

「軸丸のこれ、捨てアカウントだな」

仁富は眼をぱちくり。

「ああ、俺も同じく捨てアカウントを教えておいた」

陳ノ内。

捨てアカウントでもメールアドレスの方だった。

「何かと良いかもしれません。情報漏洩だって言われたら、少なくともかわせる。捨てアカウントなら、なんとかなりますから」

五味田は乗り気だ。

陳ノ内じんのうちは、軸丸へメールを入れた。

仁富はスマホを見つめる。

「さっきのガセ。電話の件だ」

「なんのはなしすか」

五味田はポカンと言う。

「どうやらガセじゃなかったらしい」

軸丸は返信が早かった。

『俺、大した情報は持っていないし、さっきもあんまり話せることなかったですけれど、捨てアカじゃない方がいいですかね? 記者さんなら込み入った話の方がいいかもしれないし。情報としてはですね。良ければ本アドお送りしましょうか』

「電話、劒物大学病院からだったって」

仁富は続けた。

陳ノ内は眼をぱちくり。

なんて」

「いや、なんか先方せんぽうも急ぎじゃなかったようだが……とりあえず一時半には出よう」

「そうだな。いま……軸丸からも返信が来ている」

陳ノ内は画面を見た。

仁富はヨーグルトをたいらげる。

なんて来ました?」

五味田はカフェオレを干して、尋ねた。

陳ノ内はスマホをテーブルへ置いた。

その画面を二人へ見えやすいように。

仁富は眉をしかめる。

「西耒路署にじかで行っちゃった方が早いかな」

「いや、俺らがっていうのはどうしてもの時です。西耒路署は、いま劒物大学病院に脚を運んでいるはずです」

「安紫会と抗争と入海先生の失踪から、五日経ったよ」

「ならより、軸丸が何か掴むかどうかを見ていた方がいいです」

「掴むねえ……なんか文面からいって。掴むとかそうは見えないな」

「記者なら可能性は少しでも追うんでしょう」

「まあな」

入海の失踪から五日。

そして、頭蓋骨のDNA鑑定の結果が出るのも、やはり五日後か……。

近づくにつれて動くことと変わること。

いろいろあるだろう。

陳ノ内は思った。

「軸丸も、掴むことに関して乗り気っぽく見えます」

五味田が俄然がぜん乗り気である。

仁富は苦笑した。

皿はカラになる。

陳ノ内は軸丸に、

『支障ない程度で大丈夫』

と打った。送信。

「時間です」

五味田は言った。

「出よう」

仁富。

「オーケー」

三人は腰を上げる。






日刊「麒喜きき」。
電話の件だった。
やはりガセではなかったようだ。
肩を叩かれたのは陳ノ内だった。

軸丸を含めて数名の関係者。
劒物大学病院。
入海暁一いりうみあきかずの失踪の件。
西耒路署の刑事も動いている。

入海の動向はどうだったか。
それを知っている者は居たか。
「失踪は他人事ひとごとではない」。
西耒路署の告船つがふねという鑑識は、そうったらしい。
入海の行動と思考は、安紫会の事務所へ行く前後でどうだったのだろう。
いまのところ情報は少ない。






入海暁一の自宅。
陳ノ内も当たろうと考えていた。
だが既に、西耒路署から人数が寄越よこされているかもしれない。

日刊「麒喜」への電話。
それは劒物大学病院からだった。

さいは留守。
彼女はこの日記事の取材があった。
それで、一日いえにいなかった。

一方いっぽう
陳ノ内は肩を叩かれたあと、自宅へ戻る。
入海いりうみが、陳ノ内宅へやって来たのである。
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