推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「問」を土から見て

23.

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それぞれに考えがあった。
八重嶌郁伽やえしまいくかには郁伽自身の。
そして杵屋依杏きねやいあには、依杏自身の考えがあった。

依杏と郁伽は事前に、電話を掛けた場所がある。
賀籠六絢月咲かごろくあがさの自宅を訪れる、その前日。
電話を掛けた先は劒物けんもつ大学病院である。
そして依杏と郁伽は、電話以外は何もせずにいた。

絢月咲の自宅を辞したあと。
依杏と郁伽は移動をした。
絢月咲のところで何か収穫はあったのだろうか。
郁伽には郁伽の。
そして依杏には依杏の考えがあった。
移動した先は、前日に電話で空振りだった劒物大学病院である。

そこへ行こうという話になったのは、依杏の一存だった。
そして絢月咲の自宅へ行こうとなったのはまた、郁伽の一存だ。
だが劒物大学病院の場合、正面からというのは難しい。
現状だ。
何しろ、依杏と郁伽には「九十九つくも社での調査」名目以外の病院へ行く、動機がない。

とりあえず、やって来てカフェに落ち着いた二人。

収集したサンプル。
なくなった物があるということ。
それぞれ別の場所で。
タイミングは違った。
依杏と郁伽の他に、絢月咲の自宅を訪れたのは西耒路さいらいじ署の清水颯斗しみずはやと
鑑識である清水の見解はこうだった。

絢月咲の依頼である、なくしもの
そのどれもに、お金が含まれていたわけではないということ。
盗まれたかどうかも、絢月咲としては定かではないとしていた。
盗まれたという前提を立ててみる。

盗まれたのはお金ではなかった。あくまでも絢月咲の場合だ。
清水はそこに注目すれば、盗まれたという場合であれば。
何か人と人との関係性なのだということを、言っていた。
郁伽が清水の見解を生かした考え方をしたかどうか。
それは不明である。






郁伽いくかは予想として、「絢月咲の小物を盗んだのは」としていた。
だが絢月咲のほうでは、なくなった小物は「盗まれたのかいなか」というのは今一つ判断しかねている。
それでも、郁伽は絢月咲の小物がなくなったというのは「盗まれた」ということとすれば、女性が盗んだのかもしれない。
そう言った。

だが郁伽は「小物は盗まれた」としていても、例え盗まれたのであろうが。
女性だと予想しようが。
清水の言うような関係性の話になろうがなかろうが。
「何故なくしものが出たのか」。
突き詰めるのはそこじゃないのかな。
依杏いあは思ったのである。






「で、さて」

郁伽は言った。

「到着したはいいけれど、どうするの」

「そうですね」

カウンターの席は隣同士に。
テーブルの席はほぼ、埋まっている。
空いているのはカウンターの席のみだった。

昼時ひるどきは過ぎている今の時間帯。
時間帯としてはそうなのだが、利用する立場としては何かが捗るとか、その空間にれば弾むこともあるとか。
そういうことなのだろう。
とか依杏は思った。

とりあえず、行く場所としてここしかなかったために来た。
その一方いっぽうで、依杏は考えあぐねている。






杵屋きねやの考えは?」

郁伽は尋ねる。
そう。正面切っての医師直撃というのは出来ない相談なのである。
九十九社としては依頼に関わることではある。
依杏の一存としてはそのために、訪れたのだ。
その一方病院側としては、なんの関わりもないことだ。

「そもそも杵屋の考えはどうなの?」

「それは」

「理由よ。何故なぜ劒物大学病院へ来ているのか」

依杏は少々考え込む。

「私たちには、出来ない専門分野があると思ったからです」

「専門分野ね」

郁伽は立てひじした。

「西耒路署でも専門分野はあるじゃない」

「絢月咲さんの件を手伝ってくれたのは、清水さんの一存もあります。あくまでも」

「そうね」

「清水さんの一存であって、西耒路署全体の一存かと言われたら」

「うん」

「だから、あたしたちが直接西耒路署へ行っても。珊牙さんがさんならまだしも」

「珊牙さんは刑事さんたちと、やりとりあるものね」

「郁伽先輩とあたしじゃ、取り合ってくれなそうな感じがしたので」

「そんなこと言ったらさ」

郁伽は苦笑した。

「大学病院のほうがあれじゃないの。電話しても昨日だって、なんかしどろもどろに終わっちゃったわ」

「だから、突破する方法を考えるんです」

「今ここで?」

「そうです」

呼ばれた番号ふだ
依杏と郁伽は立った。
立って取りに行く。
店内に結構人々が多いのである。
だから、店員側で作るドリンクの量もその分多くなる。
メニューの量も多い。
多くが番号札で呼びかつ、店員が席へ運ぶか。
あるいは来ているお客の方で、取りに行くか。

ドリンクなら呼ばれて、取りに行く形式の方が多い感じである。
量のあるのはメニューだ。
午後の時間帯じかんたい、皿に盛られて出るメニューは。
ドリンクは量に関係なく、手で取ることは出来る。

依杏は季節のドリンク。
郁伽は豆乳入りの何かスープである。
サイドメニューのみ一種類。

各々腰掛ける二人。
席へ再度。






「上の階の話」

「上?」

依杏はそう尋ねた。

「そこでもお弁当が売っているよ」

「あのコンビニですか」

「そう。杵屋きねやも一度お見舞いへ来てくれたじゃない」

「確かに。お見舞いに行きました」






依杏は思い出していた。
以前寄った、書店の入ったコンビニだ。
それは劒物大学病院の建物内へ併設されたコンビニ。
郁伽は以前に、慈満寺じみつじの件で入院を一時した。
慈満寺の調査の頃から、郁伽は依杏と朝比あさひと共に関わりがある。
大学病院にという意味である。
ついでに慈満寺の調査に関して、何か参考になりそうな書籍はないか。
と探したのである。そのコンビニにて。

「そこはどうでしょう!」

「え?」

郁伽はポカン。

「何がそこなの」

「突破することに関してです。そこです」

依杏は言った。

郁伽は眼をぱちくり。

「郁伽先輩なら何回かそのコンビニ、利用をしている。そうでしょう」

「そりゃ、入院中何回か入ったよ。お世話になっている。それでどうするっての。突破?」

「それがです。突破です」

「突破」

「そこの店員さんは、郁伽先輩と何回か顔を合わせています。つまり、お互いかおおぼえている」

「確かにいつも居る、店員さんは居たけれど」

「そしてここは病院です。院内の先生たちだってきっと。何人かはたぶん利用しているはずなので」

「院内の先生たちもまた、杵屋きねやの言った店員さんとは顔を知り合っていると」

「そうです!」

「つまり」

郁伽はスープを一口。

「上へまず行ってみようと」

依杏はうなずいて笑顔。

「それは分かった」

郁伽は言う。

「杵屋は肝心を言っていない。突破したとして何を訊く?」

「たぶん、たぶんですけれど」

依杏もドリンクを一口飲んだ。

西耒路さいらいじ署さんに当たることが出来ない。だからお医者さんの方がいいって思ったんです」

「何も答えになっていないじゃないの」

郁伽は苦笑した。

「でも分かったわ。じゃあとりあえず頂きましょう。今の眼の前の」

「美味しいのを」

言って依杏は肯いた。

各々すする。






依杏の考えとしてはこうである。
依杏と郁伽は、絢月咲から個人的な依頼を受けた。
九十九社としての依頼である。
その依頼に関しての話を劒物けんもつ大学病院へ、何か尋ねてみたいという必要。
依杏の一存としては必要という、要素を含んだものになってしまった。

ただ九十九つくも社とは言っても、依杏と郁伽の二人だ。
正面から何もなしに医師と会うというのは至難だ。
正面から診察してもらう方法。
医師とそのように接触するという手は昨日の段階で、既に使えない手として出た。
両人とも健康状態的に、どこも診てもらう箇所はない。
あるいはその自覚があるのに加えて、調子の悪い部分は今日まで出ていない。
しかしそれでは「尋ねる」という目的が果たせない。

ではどうするか。
郁伽は劒物大学病院へ入院した経験がある。
その際によく利用した併設のコンビニがある。
店員との面識。
であれば、医師と直接レジでの接触やその他。
何か普段から話をわしているであろう店員さん。
正面からでも何気ない感じで、その店員であれば医師と接触することは可能なのではないか。






「珊牙さんは、今から西耒路署へ寄るってさ」

郁伽はそう言った。

スマホを見て。

西耒路さいらいじ署ですか」

「うん。珊牙さんから、何か訊いていない?」

依杏はかぶりを振る。

「頭蓋骨のDNAのこととか何も言ってくれないんです」

「そこは変わらない、か」

「はい。何かきっと考えがあるんだと思いますけれど」

「そう。頭蓋骨ねえ。今だと全然関係ない気がするのは私だけかなあ」

「珊牙さんには、珊牙さんの考えがあるんでしょう。たぶんですけれど」

「そうね」

郁伽はスマホを更に見た。

入海いりうみ先生は今日もお休みらしい」

「診療をってことでしょうか」

「そうじゃない? 休みってんだからそうでしょう。どこの情報だか」

郁伽は苦笑した。

「入海先生て失踪だなんだあったからじゃない。たぶん病院としても大事だいじを取るとかそんな感じかもね」

「取る、ですか」

「さあ、あたしらも着きました」

エレベーター。
上へと上がっていた。
降りる。

名前は同じであるコンビニ「ヴォワラ」。
同じというのは、九十九つくも社の職員がよく使っているコンビニと同名という意味での同じ。
系列店が各所にあるのだ。
依杏いあがこの階へ来たのは、回数にしてはまだ一回ぐらいである。
ただ様子といっては、依杏が来ていた時とあまり変わりはない様子だった。






「内科か外科か」

郁伽が言う。

「どっちでもいいんです」

依杏はそう返した。

郁伽いくか

「どっちでもいいじゃ変じゃないの」

「いずれにしても今日、入海先生はお休みということですね」

「そうね」

依杏と郁伽は店内へ、あしを踏みいれた。

郁伽は更に言った。

「どっちでもってわけにはいかない。杵屋の一存としてはどの科が近いのさ」

「どうけばいいか。今あたしだって分からないんです。考えています」

「頼りないなあ」

「そもそもです! 正面じゃない突破をするのが先でしょう」

「そりゃまあ、そうね」

陳列棚のご飯類。
有名ブランドの名を冠したお弁当。
サンドイッチにお弁当に、三角形。
三角形の黒い綺麗な形だ。
様々あり、依杏は特にそぼろめしやいくら飯に眼がまる。
そぼろといくらのふっくら加減。

レジの様子をそっと伺う。
書店の方にも脚は向く。
様子を伺い、店員のことも見る。
店員は主に棚か、レジを担当している。
例えば客の流れを見て、その良いタイミングで自由な時間が出来たところ。
そこが話を訊けそうな時間だ。
郁伽と依杏はそう話していた。
レジでは会計中である。






依杏は郁伽へ尋ねた。

「お弁当美味しそうです」

「実際美味しかったわ」

「食べたんですよね」

「食べた。主にお弁当が多かった」

「どれですか」

「今ここには並んでいない。私の食べたのはハンバーグと沢庵たくあんが一緒に入っていたやつ。美味しかった」

「あたしはいくら飯が食べたいです」

「そう」

「よくメニューって入れ替わるんでしょうか」

「そうね。特に季節のメニューなんかは毎回、入れ替わりが激しいと思うな」

「なるほどお」

「特に前のバイト先なんかは、そうだったよ」

「マリリンアンドウィルですね」

「そうそう。季節のメニューでいったらパフェなんかは、新商品開発が忙しいのよ」

「いろいろ、味がありそうですものね」

「そう。かなり多いな。あと同じメニューでも、足したり引いたりして少しずつ良くしていく。とか」

「あんまりここにはパフェは、なさそうです」

「冷凍のほうならあるかもね」

書店に向かいつつアイス棚も物色。
そしてかつレジも見る。
会計中だ。

郁伽は今、九十九社でバイトをしている。
以前はマリリンアンドウィルというレストランに居た。

レジの様子から眼を離して、一旦いったん書店の方へ。
依杏は二冊ほど文庫本を手にした。

レジへ行った。
来た。
名前は堧実麻螢たみおけいというらしい。
郁伽は店員の名前をおぼえていた。






「医師のかたって、どういうこと? あなたたち普通に診察とかじゃないの」

堧実麻たみおがそう言った。

郁伽。

「そう、診察じゃないんです。正面から行けないんです私たち」

「前代未聞だな」

「それは言いぎかもしれませんが、そうかもしれません」

「正面から行けないって変よ」

堧実麻は笑い出した。

「ごめん。でもどうして正面から行けないの」

「それには一応理由がありまして。一存ありきです」

「一存ありき。何だかますますだわ」

堧実麻は笑いながら言った。

依杏は言う。

「レジにお医者さんっていらっしゃいますか」

「そりゃあ来るわよ。軽いご飯とか重いご飯とかなんでもいいけれどさ。お弁当買ったりいろいろしていかれるよ」

「堧実麻さんご自身は、お医者さんとお話なんかは」

「余裕があれば軽く会話くらいはするかな」

「よく接するかたとか」

「いなくはないな」

「その、よく接するお医者さんで構わないんです」

「私が接する?」

「はい。堧実麻さんが接する方で」

何科なにかでもいいってこと? それってやっぱりますます変だわあ」

「ど、どなたか今時間のあるお医者さんとか」

「時間帯的にはまあね。そろそろ来るかなって予想出来る方は居る」

堧実麻は微笑んだ。

「その予想出来る方が来た場合に、対応して欲しいってことかな。あるいは私から呼んでくる?」

「え、あ、その」

依杏は赤くなった。

「呼んじゃうんですか」

「出来ないことはないわ」

堧実麻はそう言った。

「接しているのは普段からだし。私が裏からお医者さんにタッチしたところで、そこはあまり変に思われないと思う」

「そ、そうなんですか」

「そうよ。事実じじつ食べ物に関してはコンビニと病棟側では連携が強い。ただ、レジとか棚の合間になるっていうのは勘弁してね」

「お仕事は邪魔したくないですね」

郁伽はそう言った。

「ただ少し協力いただけたらって思って。すみません」

「ちょっとだけいい? どうしても、お医者さんじゃないといけないの」

「私たちも必要に迫られていて」

依杏はそう言った。

「そう」

堧実麻は少し考え込むように。

依杏の文庫本を見つめた彼女。

「そうね。合間にはなるけれど、裏から回って来るから少し時間を頂戴ちょうだい。ただ、レジをほかの人に任せたりもしなきゃいけない。あと客が少ないタイミングかな。というと今はそうなりそうかな」

堧実麻は、辺りを見回した。

堧実麻と郁伽と依杏は、いまレジではない箇所にまとまっている。

「分かった。ちょっと裏へ行って来るから。少し待っていて」

「あ、ありがとうございます!」

依杏は頭を下げる。

「と、先にまず会計してその本」

堧実麻は言った。

依杏は財布をシュッと出す。






診察というのは身体からだに関するものについてだ。
西耒路さいらいじ署でも、扱わないものではないだろう。
それぞれに特化とっかした分野というものは、ある。

堧実麻たみお十分じっぷんくらいで戻って来た。
裏を回ったので、店内ではない。
恐らく病棟の、一般の人は入ることの出来ない部分だろう。
そう依杏は思った。

依杏いあ郁伽いくかは店の外で待っていた。
といっても病院内というのは変わらない。
数名眼の前を人が、通り過ぎるのを見た後にやって来たのが堧実麻。

どうやら店員の踏み込める領域というのは裏にも多いらしかった。
中逵景三なかつじけいぞう螺良青希つぶらあおき
堧実麻はその二人をともなって、やって来た。






内科か外科か。
依杏いあとしては。
何かに特化した分野であれば、ということしか思い浮かばなかった。
今の自分の考えもいいのかどうかさえ、分からなくなっていた。
外科と言っては、依杏たちの管轄の話題でよく出る入海暁一いりうみあきかず
整形外科の医師である。
中逵は内科で、螺良は神経内科だ。

神経と聞いて依杏が思うのは細くて、白い糸である。
それは白いのであれば筋肉の、筋であるかもしれない。
白くてデリケートで、触ったら何か電流が走る。
だから触っちゃいけないとか。
依杏はとにかく、とても細かいことを想像してしまう。
それで内科となれば、一体どうなのだろう。
神経の中を見るのだろうか。でもどうやってだ。
実際に医師を眼の前にしながら、依杏はそんなことを思った。
だけれど今は、そんな想像の場合じゃなかった。

外に続く入口がある。
そこからテラスへ出られる。
テラスというか、劒物けんもつ大学病院自体うえから下まで階数がある。
外の景色を眺望できかつ、外の空気を取り込むためには最適なエリアが用意されている。
そこは郁伽自身も以前、やって来たことがあった。
慈満寺じみつじの件。
朝比あさひとの調査があって、郁伽いくかは劒物大学病院へ入院することになった。
入院した際にテーブルと椅子を一つずつ、陣取っていた。
そこで弁当を食べていたエリアである。

今は堧実麻が、また中逵なかつじ螺良つぶらをつれてそこへ出た。
依杏と郁伽は、それへついて行った。






「ええと」

堧実麻たみおは言う。

「じゃあこんなとこで、いいかしらね」

「こんなとこでいいですよ」

郁伽は笑顔で言った。

「じゃ、あたしはレジに戻るから。というわけですいません先生がた、何卒」

堧実麻はペコリと頭を下げてサッと走り去った。

「いや何卒なにとぞと言われてもどうするの」

螺良つぶらは言うが、堧実麻は既に居ない。

中逵と螺良はお互いに顔を見合わせ「どうしよう」というていだ。

「ええと」

最初の口火を切ったのは中逵。

「何か、売り込みかな」

「いえ違うんです」

郁伽は相変わらず笑顔。

中逵。

「違うとすれば、なんだろう」

「私たちあの、こういう者です」

言うなり依杏と郁伽の二人は名刺を出した。
テーブルへ置く。
中逵と螺良は眺めた。
「葬儀」の二文字が二人の眼にまったようだ。






「何か解剖とか? だったら受付を通したほうがいいと思うよ」

「いえその」

依杏が言う。

「解剖とかその、あまり警察とはそういう。つながる話じゃないというか」

「正規じゃないならますます。なんで正面から来ないの」

中逵はそう言った。

「俺たちヒマだと思う? 正規じゃないとして診療でもないとしてだ。確かに必要とあれば話を訊いてもいいよ。ただ呼び出されて無碍むげにそれを帰したんでもい感じはしないからな」

郁伽は苦笑した。

中逵は続ける。

「俺らには君たちがただヒマでやって来ているようにしか見えない。そこは分かるか」

依杏はムッとした。

でも黙っていた。

郁伽が言った。

「正面でもなければ、診療でもない時にお呼び立てしたことについては。大変失礼なことをしていると分かっています」

なんの為かってことを訊きたいな。売り込みではないのか」

「はい。ただ」

「ただ?」

入海いりうみ先生は今日お休みなんですよね?」

中逵と螺良は顔を見合わせる。

「ああ」

今度は螺良が言った。

頭をいた。

「それならなおこと、ただじゃあない。タダで何か俺たちに言わせようって云ったってそうはいかない。葬儀屋とは言うがね。その名前を出したってことはだ」

名前というのは入海の名前のことだろう。

依杏は思った。

「何かつながりがあるっていうのは予想がつくよ。俺たちに話を訊きに来た記者連中だ。違うか?」

依杏と郁伽は黙っていた。

「それでも正面から来ないだけまだ記者よりはマシかもね。君らにとってはものすごい嫌味かもしれないけれど」

螺良はフンと鼻で笑いながら言った。

「一応前はアポがあった。ただ今回はそうでもないしな」

言った中逵。
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