170 / 214
「鳴」を取る一人
46.
しおりを挟む
鐘搗麗慈が手元にあると言ったデータが、いま中空でスクリーンになって出ている。
仮想の画面である。仮想現実?
青みの強い、ネオンのような。
麗慈は、更に指で示しながら。
「黒いな」
と、釆原凰介。
青いスクリーンが宙を浮いて、輪を描いて飛び交っている中の、その二つ。
なんだか黒い。
「IDロック盤が破壊されていたって、言っていたでしょう」
と麗慈。
「その映像なんです。いまの黒いのは」
「要するに、映像自体ダメになっている。っていうことか」
「そういうことです。見るのが無理」
「侵入かなにか? システム?」
釆原が言う脇で、杵屋依杏はあっけに取られていた。
麗慈がシステムに侵入して、勝手に監視カメラ映像にアクセスしていたのだとしても。
それよりも、「宙に浮くスクリーン」のほうが、有り得ないと彼女は思った。
場所も、畳の和室であり。寺である。
普通と仮想。
慈満寺の地下入口。
そこの監視カメラが、破壊されていたという釆原の話題。
地下では死人が出た。
「さっきまでは一つ黒いだけだった。でも、今は二つになっている」
と麗慈。
「監視カメラの画面ともう一つ、IDロック盤用のシステムにも侵入してたんです。そっちは、本堂裏で見た時は正常でした。でも今は黒い。つまり、人為的に破壊されたのは違いないですね」
少し考えて。
「件のIDロック盤が壊される前に、監視カメラが壊れたのか。それで、地下に人が入ったか。それとも、IDロック盤が壊れたあとに、地下へ無理に人が入ったか、って考えると……」
「考えるとって、考えなくてもいいんじゃないのか? 地下の防犯カメラだって、やっぱり」
と釆原。
「それがね、出来ないんですよ。侵入が」
「システム的に?」
「そう。だからぼくが管轄出来る場所は地上のみ。ってことになります。まあ、侵入だから、管轄ってのは語弊は大いにありますけれど」
と麗慈。
「あと、侵入が普通だみたいに、言わないで下さいよ。ぼくだって、珊牙さんの手伝いとか調査目的なんですから」
依杏には、システム侵入あたりで難しいし、もう何の話? という感じではあったが。
件のIDロック盤の破壊。
専用のIDカードを通して、入口を開閉するという仕組みの、ロック盤。
破壊して、人が入ったのか。
破壊される前に、人が入ったのか。
夕方。
目立つ外の色。
黄色と紅色と色味。
「地下入口の扉が、破壊された時刻は」
数登珊牙は麗慈に尋ねる。
「時刻ですか……。困ったな」
と、麗慈。
「率直に言うと。そういうのは、やっぱり。ぼくじゃなくて普通のセキュリティ担当側に、問い合わせた方がいいですよね」
「なんで」
と釆原。
「あくまで、珊牙さんに協力する用にしか。作っていないんですよ。正式なシステム構築じゃあないので、時間まで把握っていうのは逆に。時刻を狂わせていた場合もあるって言ったら、正確なのを知るんなら。岩撫さんとか、円山さんとかのほうが大いに、いいです」
「円山さん」
と依杏。
鐘搗深記子との話に出た、あの眼鏡のお坊さんか。
地下入口で一悶着ほどでもないが、あったのを依杏と釆原は見ていた。
この場にいないが、杝寧唯も。
「要するに不正ってわけ」
と釆原。
「だから、まあ。皆さんの解釈で言えば、そういうことになりますけれど。あくまで珊牙さんへの協力なんで」
と、麗慈。
「破壊された時間とかは、今は刑事さんとかの方が。詳しいかもしれないし。あと」
「あと?」
「釆原さん、ぼくにとっては酷ですよ。いいですか。セキュリティ担当に問い合わせして、まず捕まるのは誰ですか。ぼくなんですよ。不正なんだから」
と、麗慈は顔を赤らめて言った。
「大げさじゃない? 地下で死人が出たのとは、関係ないじゃないか」
「いや、関係あるじゃないですか! 十分! 不正とか言ったら、無闇に疑われるのはぼくですよ」
「心配しすぎじゃない?」
「とにかく、ぼくは正確な時刻を把握できない立場です。他のところで情報お願いします」
麗慈は拗ねて言った。
「ついでに、ぼくの不正の話を真面目に聞いていた貴方がたも、警察にとっては危い対象かもね」
「要するに正式な担当者に、尋ねる術がないってことだな」
と釆原。
「危機回避したければ、そうしてください。円山さんを迂回して、なんとか情報を集めるんなら。いいと思いますけれど」
杵屋依杏。
「いずれにしても……。麗慈くんの推測を整理するのであれば、地下で亡くなった人。地下入口の扉を破壊して、中へ入った可能性があるっていうことでしょうか」
仮想の画面である。仮想現実?
青みの強い、ネオンのような。
麗慈は、更に指で示しながら。
「黒いな」
と、釆原凰介。
青いスクリーンが宙を浮いて、輪を描いて飛び交っている中の、その二つ。
なんだか黒い。
「IDロック盤が破壊されていたって、言っていたでしょう」
と麗慈。
「その映像なんです。いまの黒いのは」
「要するに、映像自体ダメになっている。っていうことか」
「そういうことです。見るのが無理」
「侵入かなにか? システム?」
釆原が言う脇で、杵屋依杏はあっけに取られていた。
麗慈がシステムに侵入して、勝手に監視カメラ映像にアクセスしていたのだとしても。
それよりも、「宙に浮くスクリーン」のほうが、有り得ないと彼女は思った。
場所も、畳の和室であり。寺である。
普通と仮想。
慈満寺の地下入口。
そこの監視カメラが、破壊されていたという釆原の話題。
地下では死人が出た。
「さっきまでは一つ黒いだけだった。でも、今は二つになっている」
と麗慈。
「監視カメラの画面ともう一つ、IDロック盤用のシステムにも侵入してたんです。そっちは、本堂裏で見た時は正常でした。でも今は黒い。つまり、人為的に破壊されたのは違いないですね」
少し考えて。
「件のIDロック盤が壊される前に、監視カメラが壊れたのか。それで、地下に人が入ったか。それとも、IDロック盤が壊れたあとに、地下へ無理に人が入ったか、って考えると……」
「考えるとって、考えなくてもいいんじゃないのか? 地下の防犯カメラだって、やっぱり」
と釆原。
「それがね、出来ないんですよ。侵入が」
「システム的に?」
「そう。だからぼくが管轄出来る場所は地上のみ。ってことになります。まあ、侵入だから、管轄ってのは語弊は大いにありますけれど」
と麗慈。
「あと、侵入が普通だみたいに、言わないで下さいよ。ぼくだって、珊牙さんの手伝いとか調査目的なんですから」
依杏には、システム侵入あたりで難しいし、もう何の話? という感じではあったが。
件のIDロック盤の破壊。
専用のIDカードを通して、入口を開閉するという仕組みの、ロック盤。
破壊して、人が入ったのか。
破壊される前に、人が入ったのか。
夕方。
目立つ外の色。
黄色と紅色と色味。
「地下入口の扉が、破壊された時刻は」
数登珊牙は麗慈に尋ねる。
「時刻ですか……。困ったな」
と、麗慈。
「率直に言うと。そういうのは、やっぱり。ぼくじゃなくて普通のセキュリティ担当側に、問い合わせた方がいいですよね」
「なんで」
と釆原。
「あくまで、珊牙さんに協力する用にしか。作っていないんですよ。正式なシステム構築じゃあないので、時間まで把握っていうのは逆に。時刻を狂わせていた場合もあるって言ったら、正確なのを知るんなら。岩撫さんとか、円山さんとかのほうが大いに、いいです」
「円山さん」
と依杏。
鐘搗深記子との話に出た、あの眼鏡のお坊さんか。
地下入口で一悶着ほどでもないが、あったのを依杏と釆原は見ていた。
この場にいないが、杝寧唯も。
「要するに不正ってわけ」
と釆原。
「だから、まあ。皆さんの解釈で言えば、そういうことになりますけれど。あくまで珊牙さんへの協力なんで」
と、麗慈。
「破壊された時間とかは、今は刑事さんとかの方が。詳しいかもしれないし。あと」
「あと?」
「釆原さん、ぼくにとっては酷ですよ。いいですか。セキュリティ担当に問い合わせして、まず捕まるのは誰ですか。ぼくなんですよ。不正なんだから」
と、麗慈は顔を赤らめて言った。
「大げさじゃない? 地下で死人が出たのとは、関係ないじゃないか」
「いや、関係あるじゃないですか! 十分! 不正とか言ったら、無闇に疑われるのはぼくですよ」
「心配しすぎじゃない?」
「とにかく、ぼくは正確な時刻を把握できない立場です。他のところで情報お願いします」
麗慈は拗ねて言った。
「ついでに、ぼくの不正の話を真面目に聞いていた貴方がたも、警察にとっては危い対象かもね」
「要するに正式な担当者に、尋ねる術がないってことだな」
と釆原。
「危機回避したければ、そうしてください。円山さんを迂回して、なんとか情報を集めるんなら。いいと思いますけれど」
杵屋依杏。
「いずれにしても……。麗慈くんの推測を整理するのであれば、地下で亡くなった人。地下入口の扉を破壊して、中へ入った可能性があるっていうことでしょうか」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる