172 / 214
「鳴」を取る一人
48.
しおりを挟む「分かりました」
と数登珊牙。
杝寧唯は続ける。電話の向こう。
「予想だけれど、一つか二つか三つ。一応研究会で共有したりしようと思っていた。で、今の想像と予想を言う前に、いくつか質問させて」
と杵屋依杏に振る。
「質問?」
「そう。難しくもないし、大袈裟なもんじゃないから。イアンはとりあえず、今はどこにいるわけ?」
「ええと」
慈満寺会館の、とある和室に居るよということを遡って話す。
自分が、梵鐘が鳴っている最中に、気絶したということも。
「気絶した……」
「そ、そう。一番驚いているのは自分だけど。ついでに寧唯も、いなくなっちゃうんだもん」
「ごめん。でも今、話しているからさ。釆原さんから数登さんに、ファイルを渡す件は成功したんだよね? 麗慈くんは?」
「います」
と鐘搗麗慈。
「じゃ、郁伽先輩は?」
依杏。
「それは」
地下で亡くなった人が出たという話は今、寧唯にしていない。無理をさせたくなかった。
今後もする予定はない。
今はまだ。
依杏は、数登と釆原の顔を交互に見た。麗慈も。お互いに。
「あのね。郁伽先輩も倒れたんだ。あたしとは少し状況が違うけれど」
それから八重嶌郁伽が、今は劒物大学病院へ居るという件を。
寧唯へ伝える。
如実に驚いた様子。
いろいろ言ってきた。
体調は、今は安定していたりする、ということを伝える。
「そっか……」
と寧唯。
「じゃあ、ええとね。ちょっと情報を整理してみる。郁伽先輩とイアンらは、梵鐘が鳴っている時に? 地上にいて倒れたっていうことになる。そんな感じでいい?」
「うん」
と依杏。
寧唯は続ける。
「となればさ、複雑かな。亡くなった過去二人っていうのは地下で。地面の上でしょう。今回は話が複雑だと思う」
「今回も、人が亡くなったのは地下だよ」
「地上で倒れたイアンと郁伽先輩が居る」
「……」
沈黙。
そういえば、人が亡くなったというのはあったけれど。
気絶したっていう件。情報が出たのは、今回が初めてのような気が、依杏にもした。
寧唯。
「ちょっと、ちょっと待って! 考えてみる。考える」
「大丈夫? 無理しないで」
「そっちこそだよ。先に郁伽先輩のお見舞いへ行って来る。ひとまず済ませたい用事、何件かあるし。慈満寺にも、また行くからさ」
「お見舞い行きたいな」
「イアンは今日、どうすんの。そのまま慈満寺に居るとか?」
「あ」
考えていなかった。
そう、こんなことになるとは。
倒れるだなんて、思ってみないことだった。
依杏はただ、慈満寺へ来るだけの。そんな微妙な予定でいたのに。
依杏としては、寧唯に「恋愛成就キャンペーンへ一緒に来て」と言われたことが、とても大きい。
八重嶌郁伽の、個人的な調査に同行したり。
鳴る梵鐘を聴く。
少し考えを巡らせる。
慈満寺本堂内を歩き回る。
それらしい謎への見解を三人でまとめる。
梵鐘が鳴り止んで、帰宅する。
現状で、全く。無理にでもやりたくない夏休みの宿題に、手をつけるだろうな。
大方、そんな一日の予定でいた。
「どうしよう。考えていなかった」
依杏は言った。
寧唯が笑っている。
依杏。
「たぶん、もうちょっとこっちでも考えをまとめる、とか」
「とりあえずの予定だな」
「で、いかがでしたか」
と数登。
「え」
依杏は眼をぱちくり。
「何も訊き出せませんでしたね」
「今の場合、そういうことになりますね」
と依杏。
数登は微笑んだ。
何か掴んでいるような、寧唯からはそんな印象を受けたが。
依杏は、何も掴んでいない。
まず、自分が気絶したということだけで、もう頭がてんてこ舞いなのだ。
寧唯は、慈満寺にまた顔を出すと云っていた。
一旦帰ってしまった寧唯。
郁伽が常に携帯していたピルケース。
依杏がピンと来たことと言ったら、そのくらいである。
本当は、あれは。「喉の通りをよくするタブレット」なんかでは、なかったのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる