【R18】暗殺者のはずですが、何故か魔王に溺愛されてます。

シシカイ

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一、溺愛始めました。

28(魔王視点)

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 ◇

『いいノカ?』
「嗚呼……」

 魔王の声はいつになく暗く低かった。

『本当の、本当に、連れていくゾ?』
「いいと言っているだろう」

 隣国の水の国の訛り混じりの女の声に、魔王は一層暗く唸るような声を上げた。

 魔王の前に据えられた水晶の中では少女が頬杖をついて大きく溜め息を吐く。
 少女が物憂げに白銀の髪を揺らせば、インナーカラーである黒々とした烏の濡れ羽色の髪がちらりと覗いた。
 どうやら、魔王と話しているのはこの水晶の中のツートーンカラーの髪をした少女らしい。

 魔王は神経質そうに数回指で机を叩く。

『これこれ、拗ねるでない、魔王ヨ。しかしナ……そうか。わたしの弟子は貴様の命を狙いにきたと。いつの間にかいなくなったと思ったらそこにいたノカ。まったく、思った以上のバカモノだナ』

 少女が悩ましげに額に手を当てると、シャランと音を立て、金の装飾が揺れた。

「ちゃんと見ておくようにあれほど言っていただろう」

 魔王は責めるように水晶を睨めつけた。
 それはあまりにも厳しい表情だったが、少女はどこ吹く風のようで手を振ってもう一度溜め息を吐く。

『すまなかったナ。ちょいと数週間ばかり留守にしていたら急に居なくなっていたんダ。まあ、そろそろ貴様の防御魔法も切れる頃合いだったからちょうどよかったダロウ?』

 少女は済まないなどと口にしていたが、その軽い口調から微塵も悪いと思っていないことが分かる。

 魔王は深く溜め息を吐いた。
 この女になら任せられると思い、任せたのが間違いだったようだ。
 しかし、他に適任者はいない。
 やはり、この女に任せるしかなかったのだと自らの人徳のなさに頭を抱えた。

「それはもう済ませた。ついでに治療をしてやろうと思ったが……」

『治療?』

「嗚呼、外から魔力を足して、魔力を循環させて成長を促してやっているところだった」

『なるほど、遂に手を出したノカ。それは何よりダ』

 少女は喉を鳴らして愉快そうに笑う。
 魔王はその甲高い声を聞いて不快そうに顔を歪めた。
 少女はその顔を見てますます唇を歪め、にやにやと笑う。

「人聞きの悪い……」

『いやいや、よかった。よかったヨ。思い続けていた甲斐があったじゃないカ』

 少女は笑いながら目の端に溜まった生理的な涙を拭った。

『それで、思いを遂げて、美しい初恋が実を結んでよかっ……いや、待て。なら、どうして手放すんダ?』

「……」

 魔王は眉根を寄せてじっとりと黙り込む。

『なんダ、その湿っぽい顔は』

「……っ、嫌われた。だから、治療もお終いだ」

『ぶっ、あはははははっ! あはっ、あはははははっ!』

 魔王が下を向き、忌々しげに呟けば、水晶の向こう側ではばたんばたんと腹を抱え、のたうち回る少女の気配がした。

 魔王ともあろう者が恋焦がれた相手に袖にされたのだ。
 さぞかし愉快な見世物なのだろう。
 魔王は頭を抱え、肩を震わせていた。

『それは! 可哀想に!』

 揶揄いがいのある玩具でも見つけたと言わんばかりに少女は手を叩く。

 魔王は黙らせるように机を叩いた。
 机を強かに打ち付けた拳がぶるぶると震え、机が音を立てる。

『怒るナ、怒るナ。しかし、そこまで感情が剥き出しなのも珍しいナ』

「五月蝿い」

『愛想がないから嫌われたんじゃないノカ?』

 揶揄うように意地悪く少女は囁く。

「……そんなことはどうでもいい。ルカを頼む」

『うむ、もう自由にさせてやってもいいんじゃないノカ?』

「黙れ。分かったようなことを言うな。はまだ死んでいない」

 それは相手を威圧するような冷え冷えとした声だった。
 少女は驚いたように肩をビクつかせる。

 この女は何も分かっていない。
 魔王は舌打ちしたくなる気持ちを堪えていた。

 の執着がどれだけ強いものなのか。
 がどれだけルカを壊したがっていたのか。
 それが分かっていればそんなこと言えるはずもない。
 大方、分かった気になっているのだろう。この女にはを一生、理解できないと言うのに。
 恐らく、この世で一番理解しているのは自分だろうと魔王は自負していた。

 だからこそ、言える。
 はいつかルカの命を狙う。
 だから、隠さねばならなかったのだ。

「治療で少しでも成長して姿を変えられればまだ良かったかもしれないが、もう無理だ」

『逆に姿が変わっていないからこそ大丈夫なんじゃないノカ? アレから何年経っていると……』

「私は一目見て分かった」

 魔王の言葉に少女は深い溜め息を吐く。

『それは貴様がずっとあの子を想ってきたからダロウ?』

「いや……」

 魔王はルカの顔を思い出す。
 ギラギラとした復讐に燃える瞳は熱く美しく輝いていた。
 あの色は隠せるものじゃない。

 それにあの魔力。
 互いの魔力を貪り合った時から魔王は気づいていた。
 ルカの魔力は普通とどこか違う。

 他人の魔力は身体に入れても、普通は直ぐには馴染まない。
 自分のものでは無いから違和感があるはずだった。
 でも、ルカの魔力は甘く濃厚でドロドロとしているのに、身体に入れてしまえば直ぐに溶けて馴染んでいくのだ。
 もしも、この力にが気付いていたら……

もきっと直ぐに分かる。今だって隠しきれてないかもしれない。守りは多い方がいい。そちらにはルカを慕う番犬がいただろう」

『番犬……?』

「あのだ」

 ピシッと水晶からヒビ割れるような音がした。
 水晶の中の像が乱れる。
 乱れた像の中で少女は般若のような顔でこちらを見据えていた。

『魔王、そう呼ぶのは許さないヨ。あの子だけじゃない。ここにいる皆、わたしの家族だからネ』

「家族ね……」

 魔王はいつになく不快を隠さない顔で少女を見つめた。
 自分が少女の地雷を踏み抜いたことに魔王は気付いていたが、それはおあいこ。お互い様だと魔王は思った。

「それなら家族皆んなで仲良くルカを守ってくれたらいい。礼ならいつも通り金貨をやろう」

 金貨と聞いて少女の顔は綻んだ。
 家族を守るにはやはり金がいるのだろう。

『仕方がない。馬鹿な子ほど可愛いと言うからナ。すぐに迎えに行こウ』

「頼む」

『では、近々』

「嗚呼」

 水晶の映像が掻き消えると、魔王は大きく息を吐きながら天を仰いだ。

 目を閉じれば、自分の腕に縋るルカの姿が蘇った。
 あのとき、ルカはどんな顔をしていたのだろう。
 悲しい顔だったのか、甘えた顔だったのか、それとも復讐に燃える顔をしていたのか。
 答えは考えても分からなかった。

 魔王は考えるのをやめて、頭を振って前を見据えた。
 暗い闇の中にもう一人の自分がいるような気がして、魔王はもう一度、目を閉じた。
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