転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

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一章 真紅の王冠(レグルス編)

15.誘拐犯と御令嬢

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「おい! 起きろ!」
 大男が叫んだ。

 俺はその声に起こされたという体で目を覚ますふりをした。

「ん……」

 隣にいたレグルス王子も目を覚ましたようだ。どうやら、俺とは違ってずっと寝ていたらしい。

 魔法に影響されやすい体質なのか。それとも、ショックで目覚めたくなかったのか。あるいはただ図太い神経をしているだけなのかもしれない。いずれにしてもそのおかげで暴れたりせず、ここまでレグルスには傷一つない。

 傷一つない? そこを俺は疑問に思った。

 そもそも、デネボラは何故、眠りの魔法をかけて誘拐させたのだろう。計画はどうであれ、俺たちは犯人を見て、犯行の計画まで聞いてしまったのだ。あの薔薇園で口封じにさっさと殺してしまって死体を持って捨ててしまった方が楽なはずだ。
 なんだか、辻褄の合わないドラマや小説を見ているようで、モヤモヤとする。

 俺は雑念を振り払うように頭を振る。
 いや、今はそんなこと考えているよりも逃げ出す糸口を見つけなきゃ行けない。コイツらの雇い主が来る前に逃げ出すことが最優先だ。

 俺はじっと男たちを見つめた。

「おい! よく聞け、お前たちは誘拐されてきた。静かにしなかったら痛い目を見ると思えよ!」

 やっぱり、ごろつきのくせに殺すつもりはないらしい。殺すのではなく、痛い目見せるぞと叫んでいるのだから、もしかしたら、雇い主からは明確な指示として「殺すな」と言われているのかもしれない。
 デネボラも雇い主とやらも殺す気はないということなのだろうか。いや、ゲームの設定では「殺されかけた」はずなのだ。

 俺は妹の言葉を思い出す。
 どんな場面でその話が出てくると言っていたんだっけ。あれは確か、雨の中、校舎で二人きりになったとき、レグルスがスピカに詰め寄って、女は皆同じだと詰ったシーンだったような。

 そうだ。あくまでレグルス王子が話すトラウマの中で「殺されかけた」というワードが出てくるんだった。つまり、レグルス王子の主観では「殺されかけた」と認識する何かが起きたということなんだろう。

 嗚呼、今は逃げ出すことを考えなきゃいけないのに、そっちの方が気になって頭が上手く働かない。

「聞いているのか!」
 大男は叫ぶと、レグルス王子の肩を掴んだ。

 どうやら、レグルス王子は薔薇園のショックを引き摺ったままだったようだ。ぼうっと精気のない眼で大男を見つめた。

 大男は手を振り上げる。殴る気だ。あんな大男に殴られては十三歳になったばかりの華奢な体のレグルス王子は死んでしまうかもしれない。

 俺は咄嗟に強く風が吹くことを念じた。
 無詠唱の魔法というのはまだ習ったことがない。ただ、知識としては、強くイメージを持つことで無詠唱でも魔法が発動するということは知っていた。ぐっと拳に力がこもり、爪が食い込むほど強く魔法の発動を願った。

 唸りを上げて、風が吹き、窓ガラスが砕け散る。風は男たちに向かって吹き付けられた。男たちは顔を隠し、しゃがみ込んで身動きすら取れないような状態だった。外からも吹き込んでくる風に部屋中が滅茶苦茶になる。
 無詠唱のせいで魔法が暴発しているようだ。

 計算外に強い風の力だが、これ幸いと、この隙に、俺は急いで、手と足のロープを魔法の火で焼き切った。

 そして、自由になった両手で猿轡を外す。新鮮な空気で肺が満たされるのを感じた。

 俺は顔の横で片手を上げた。それを合図に、風は何事も無かったかのように止む。

「王子に無礼な行為を働くのはおよしなさい」
 俺の、アルキオーネの凛とした声が部屋に響いた。

 男たちは床に膝を着いたまま、俺を見上げた。

 前世で爺ちゃんと婆ちゃんがよく見てた時代劇によくある構図だな。時代劇の最後の方で、偉い人が身分を明かして、悪人が跪いて申し開きするけど、一蹴されるやつ。

 俺は笑いを噛み殺した。

「王子を解放しないと痛い目を見るのは貴方たちです。どうか、人質にするならわたくしを」
 俺は男たちに向かって厳かに言う。

 内心は、「こんな体験、前世じゃできなかった。俺より屈強そうな男たちを跪かせるなんて面白ーい」と、ノリノリでこの状況をとても楽しんでいた。

「いえ、王子でなければいけないんですよ」
 大男はオロオロと返す。

 大男の言葉に、俺は内心ニヤリと笑った。

 人間は自分から口にした言葉を無意識に守ってしまうものらしい。
 大男は自ら、人質は「王子でないといけない」と言った。つまり、人質は「王子でないといけない」のであれば、俺は人質でなくてもよいということ。この一言で男は俺を人質にしないと約束したようなものだった。

 笑い声がした。
 横を見ると、レグルス王子は可笑しくなったのか、俺たちを見て、くすくすと笑い声をあげていた。レグルス王子のメンタルが気になるが、それはあとでフォローしておこう。

「おい、人質! 笑うな!」
 大男は大きなお腹を揺すりながら叫んだ。他の二人も大男に同意するように「そうだ、そうだ」と野次る。状況が分かってないヤツらだ。

 俺は男たちに聞こえないように呪文を唱えた。男たちの頬を風が打つ。

「いいですか? あなたがお話をしているのはわたくしです」
 俺は冷ややかな声を男たちに浴びせた。

 大男は何が起こったのか分からないような顔をしたのち、その大きな体を小さくすぼめるようにして下を向いた。

 そうだ。この場を支配するのは俺だ。お前らじゃない。だから、ちゃんと聞けよ。そう言外に匂わせる。
 俺は知っている。それが出来る。

「勘違いなさらないでください。貴方の雇い主はすぐに捕まるのです。だから、金貨は手に入らない。貴方たちのしていることは無意味です。処刑される前に逃げなさい。もしも、ここから逃げるために必要な人質ならわたくしだけで十分です。どうぞ、わたくしを人質に」
 この場を完全に支配した俺は、大男たちに向かってそう警告した。

 この誘拐は無意味だ。デネボラとテオは捕まるのは確定なのだ。お前らもこのままだと処刑される。それを逃がしてやるんだ。感謝してほしいくらいだ。

「お前、何を、何を知っているんだ?」
 男の声が上擦る。

「何? このあと起こる、おおよそのことでしょうか?」
 流石に、「いや、分かってないです。はったりです。知っているのはゲームの設定上のレグルス王子のトラウマです」とは言えないので、何でも知っている体で話す。

「なんなんだよ、お前!」
 男は喚く。

 こういうときの決めゼリフを考えておけばよかった。全く思い付かない。

「わたくし? わたくしはアルキオーネ。アルキオーネ・オブシディアンと申します。レグルス様の婚約者ですわ」
 俺はごく普通に名乗ることにした。

 うわー。ださい。ださいけど、仕方ない。次で格好をつけさせてもらおう。

「貴方たちは処刑されたいですか?」
「そんなわけないだろう!」
 黙っていたガリガリが大男の代わりに叫ぶ。

「そうだと思っていました。でも、このままでは処刑されてしまいます」

 俺の言葉に男たちは真っ青になる。

 当たり前だ。王子を誘拐した奴を野放しにしておけねぇだろ。
 俺は毒づきたいのをぐっと我慢した。

「そこで二つの提案があります。一つは、ここを逃げ出すこと。お金は貰えませんが、命は助かります。でも、場合によっては後々捕まってしまうかもしれません。その時は死にます」
「死にたくないって言ってんだろ!」
「そうですよね。そこで、もう一つの提案です。わたくしたちに協力してください。この場合は命はほぼ百パーセント助かります。しかも、運が良ければお金も手に入る可能性があります」

 俺は悪い笑みを浮かべながら、指を二本立ててそう言った。

 男たちは唾を飲み込んだ。
 そして、自らの運命を選択した。

「分かってもらえると思っておりましたわ。ねぇ、御三方。どうもありがとうございます」

 俺は男たちに向かってそう言ってから、満足そうにレグルス王子に微笑みかけた。
 レグルス王子は困ったように眉を寄せてから微笑みを返した。
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