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一章 真紅の王冠(レグルス編)
14.ここは素直に誘拐されますか
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***
「ん……っ」
大きく揺れて、俺は強かに肩を打ち付けた。痛い。
俺はうっすらと目を開けた。視界に映るのは、暗い空間だった。
「ここは?」
確か、レグルスの義母であるデネボラの恐ろしい企みを聞いてしまって捕まったんだよな。
両手は後ろ手に縛られ、両足はくるぶしと膝の二か所を縛られ、口にはしっかりと猿轡がはめられているのを確認する。このままでは動くことも難しそうだ。
いっそ、火の魔法で縛っているロープを焼き切ってしまえば、簡単に動くことができる。しかし、果たして、今、このタイミングでロープを切ってしまっても大丈夫なのだろうか。自分の状況がすべてわかっていないのにロープを切って自由に動けたとしても出来ることは限られている。それに、いつでも俺が自由に動けることを敵に気づかれる方が危ない。邪魔だと判断されて、最悪、消される可能性がある。
転生モノの小説や漫画のセオリーでは、物語の強制力が働いて何やかんや生き残れたりするのだが、この世界に本当にそういう力が働いているかも分からない。そもそも、この世界があのゲームに繋がっているという確証だってないのだ。
いのちだいじに。ここは、冷静に状況を見て、動いても大丈夫だと判断出来てから動くことにしよう。
「ルークス、目の前を照らせ」
俺は小さく呪文を唱える。すると、小さな淡い光の球体が目の前を照らし出す。光は火と風の複合魔法なのでほんのり暖かい。
レグルスは無事だろうか。ただのお邪魔虫の俺が生きているということはレグルスもおそらく生きているはずだが。
辺りを見回すと、俺と同じような格好で転がされているレグルスの姿があった。胸が上下していることから生きていることはすぐに分かった。
俺はほっとして安堵のため息を吐いた。
そこで改めて状況を確認する。倒れているレグルスと俺。俺たちの周りを囲むように木箱が積まれている。
鼻を引くつかせて息を吸うと、木の香りに混じって果物のような甘い香りがした。どうやら、目の前にあるのは果物の入った箱らしい。ガタガタと揺れる広めの空間、果物の入った木箱、外では揺れに合わせて、ギイギイと嫌な音がしていた。この揺れはおそらく移動しているから。
なるほどね。荷馬車を使って、俺たちを荷物の中に紛れ込ませて城の外に連れ出したというところだろうか。
見張りがいないことを考えると、逃げ出せないような罠のようなものがある可能性もある。
レグルスも起きる様子はないし、やっぱりここは逃げ出すより様子を見た方がよさそうだ。
悪路を進んでいるのか、いつしか馬車の揺れは酷いものに変わっていた。幸い、木箱が崩れて俺たちが潰されるということはなかったが、ヒヤヒヤして、気持ちが落ち着くことはない。
早く俺たちが潰される前に目的地に着いてくれ。
祈り続けて数十分。祈りが届いたのか、揺れが止まる。不快な音も止んだので、馬車が止まったんだろう。
俺は目を閉じた。そして、脱力し、意識のない振りをする。
間もなくして、光が顔に当たるのがわかった。
うっすらと、目を開けると、外からこちらを覗く男が三人がいた。ハゲと、庭園にいた大男と、ガリガリの三人。大男とハゲは強そうで剣を持っている。ガリガリは何も持っていないので、もしかしたら魔法を使うのかもしれない。
俺は緊張しながら三人の様子を伺った。
「アニキ、王子なんて誘拐してきて大丈夫なんですか?」
ハゲが大男に向かって聞く。
「大丈夫だ。雇い主は金も権力もある。ちょっと誘拐して置いとくだけで金貨三百枚だぞ?」
アニキと呼ばれた大男は楽しそうに鼻歌まじりにそう言った。
ちょっと誘拐するだけということは、少なくともコイツら自身はレグルスを殺すつもりはないらしい。
それでも油断は禁物だ。だってコイツらは悪人だもの。平気で嘘を吐くだろう。
「いやいや、美味しい話には裏があるって言うじゃないですか、何かあるんじゃないですか?」
ハゲは食い下がるように言った。
「いや、本当に誘拐するだけ。暫くしたら引き取りにくるからそれまでここに王子を置いとけばいいんだと」
大男の話を信じるなら、デネボラとテオはここにいないらしい。
王子が誘拐されてそれと同時に姿を消せば、誰が誘拐犯だかすぐに分かってしまう。自分の手で誘拐して殺す方が確実なのに、あえてごろつきを雇うという手を使ってきているんだ。自分が関わっていることを隠したいんだろう。
俺たちがいない間に散々可哀想な被害者の母親ぶることも出来るだろうし……そこまで考えてみて妙な違和感に気付く。
待てよ。義理の子どもが誘拐されたのに、すぐに城を抜け出すことなんてできるのか。
確かにテオを使えば何とかならないこともないだろう。でも、引き取りに来るよりもそのまま誘拐犯に誘拐させて始末してもらった方が手間が掛からず楽なはずだ。せっかくごろつきを雇っているのだ。そうしない理由が分からない。
男たちの話はなんだかおかしい。
前世では推理小説を推理とも言えないメタに満ちた妄想をしながら楽しむ派の俺は、不謹慎ながらもこの状況に少しワクワクしていた。
「それにしても、雇い主は太っ腹ですね。前金の代わりにこの馬車もくれたんでしょう? その上、誘拐が成功したら金貨三百枚なんて……」
ガリガリがそう笑う。
またもや違和感があることを男は言う。
王宮に住んでいるはずのデネボラが馬車の調達なんてできるのだろうか。王妃には護衛が付くだろうし、そもそもこんなごろつきと一緒にいるところを誰かに見られたら一発でアウトだ。
いや、普通に考えたら、テオが馬車を調達したりコイツらに頼んだとしか思えない。
しかし、テオが雇い主なら、デネボラがテオに「レグルスをごろつきに渡せ」と指示していたあの状況はおかしい。明らかにテオは計画を知らず、デネボラがコイツらと話をつけてきたという雰囲気だった。
もしかして、デネボラにはテオ以外の協力者もいるのではないだろうか。
そして、その協力者ってのがコイツらを直接雇って、レグルスを誘拐するように指示をした。デネボラはその協力者から計画を聞き、テオに指示を出した。そう考えた方が何となくしっくりくる。ソイツが俺たちを引き取りにくるのかもしれない。
でも、何の為だろう。
前世の記憶が本当ならデネボラの策略によってレグルスは殺されかけるのだ。
他人に任せる気がないことから考えると、その協力者とやらは自分の手でレグルスを殺したい人物なのかもしれない。
確かにやや我儘なところがあるレグルスだが、恨みを飼うような性格ではない。となると、やはり利害関係――王位継承権に関わることだろうか。
俺が考え込んでいると、男たちはごそごそと木箱を下ろし始める。
何事かと思えば、俺たちを運び出すために邪魔な箱をどかしてるらしい。大男の体格からするとこの箱たちは邪魔だよな。
俺は寝ているふりがバレないように祈りながら男たちに運び出されるのを待った。
「ん……っ」
大きく揺れて、俺は強かに肩を打ち付けた。痛い。
俺はうっすらと目を開けた。視界に映るのは、暗い空間だった。
「ここは?」
確か、レグルスの義母であるデネボラの恐ろしい企みを聞いてしまって捕まったんだよな。
両手は後ろ手に縛られ、両足はくるぶしと膝の二か所を縛られ、口にはしっかりと猿轡がはめられているのを確認する。このままでは動くことも難しそうだ。
いっそ、火の魔法で縛っているロープを焼き切ってしまえば、簡単に動くことができる。しかし、果たして、今、このタイミングでロープを切ってしまっても大丈夫なのだろうか。自分の状況がすべてわかっていないのにロープを切って自由に動けたとしても出来ることは限られている。それに、いつでも俺が自由に動けることを敵に気づかれる方が危ない。邪魔だと判断されて、最悪、消される可能性がある。
転生モノの小説や漫画のセオリーでは、物語の強制力が働いて何やかんや生き残れたりするのだが、この世界に本当にそういう力が働いているかも分からない。そもそも、この世界があのゲームに繋がっているという確証だってないのだ。
いのちだいじに。ここは、冷静に状況を見て、動いても大丈夫だと判断出来てから動くことにしよう。
「ルークス、目の前を照らせ」
俺は小さく呪文を唱える。すると、小さな淡い光の球体が目の前を照らし出す。光は火と風の複合魔法なのでほんのり暖かい。
レグルスは無事だろうか。ただのお邪魔虫の俺が生きているということはレグルスもおそらく生きているはずだが。
辺りを見回すと、俺と同じような格好で転がされているレグルスの姿があった。胸が上下していることから生きていることはすぐに分かった。
俺はほっとして安堵のため息を吐いた。
そこで改めて状況を確認する。倒れているレグルスと俺。俺たちの周りを囲むように木箱が積まれている。
鼻を引くつかせて息を吸うと、木の香りに混じって果物のような甘い香りがした。どうやら、目の前にあるのは果物の入った箱らしい。ガタガタと揺れる広めの空間、果物の入った木箱、外では揺れに合わせて、ギイギイと嫌な音がしていた。この揺れはおそらく移動しているから。
なるほどね。荷馬車を使って、俺たちを荷物の中に紛れ込ませて城の外に連れ出したというところだろうか。
見張りがいないことを考えると、逃げ出せないような罠のようなものがある可能性もある。
レグルスも起きる様子はないし、やっぱりここは逃げ出すより様子を見た方がよさそうだ。
悪路を進んでいるのか、いつしか馬車の揺れは酷いものに変わっていた。幸い、木箱が崩れて俺たちが潰されるということはなかったが、ヒヤヒヤして、気持ちが落ち着くことはない。
早く俺たちが潰される前に目的地に着いてくれ。
祈り続けて数十分。祈りが届いたのか、揺れが止まる。不快な音も止んだので、馬車が止まったんだろう。
俺は目を閉じた。そして、脱力し、意識のない振りをする。
間もなくして、光が顔に当たるのがわかった。
うっすらと、目を開けると、外からこちらを覗く男が三人がいた。ハゲと、庭園にいた大男と、ガリガリの三人。大男とハゲは強そうで剣を持っている。ガリガリは何も持っていないので、もしかしたら魔法を使うのかもしれない。
俺は緊張しながら三人の様子を伺った。
「アニキ、王子なんて誘拐してきて大丈夫なんですか?」
ハゲが大男に向かって聞く。
「大丈夫だ。雇い主は金も権力もある。ちょっと誘拐して置いとくだけで金貨三百枚だぞ?」
アニキと呼ばれた大男は楽しそうに鼻歌まじりにそう言った。
ちょっと誘拐するだけということは、少なくともコイツら自身はレグルスを殺すつもりはないらしい。
それでも油断は禁物だ。だってコイツらは悪人だもの。平気で嘘を吐くだろう。
「いやいや、美味しい話には裏があるって言うじゃないですか、何かあるんじゃないですか?」
ハゲは食い下がるように言った。
「いや、本当に誘拐するだけ。暫くしたら引き取りにくるからそれまでここに王子を置いとけばいいんだと」
大男の話を信じるなら、デネボラとテオはここにいないらしい。
王子が誘拐されてそれと同時に姿を消せば、誰が誘拐犯だかすぐに分かってしまう。自分の手で誘拐して殺す方が確実なのに、あえてごろつきを雇うという手を使ってきているんだ。自分が関わっていることを隠したいんだろう。
俺たちがいない間に散々可哀想な被害者の母親ぶることも出来るだろうし……そこまで考えてみて妙な違和感に気付く。
待てよ。義理の子どもが誘拐されたのに、すぐに城を抜け出すことなんてできるのか。
確かにテオを使えば何とかならないこともないだろう。でも、引き取りに来るよりもそのまま誘拐犯に誘拐させて始末してもらった方が手間が掛からず楽なはずだ。せっかくごろつきを雇っているのだ。そうしない理由が分からない。
男たちの話はなんだかおかしい。
前世では推理小説を推理とも言えないメタに満ちた妄想をしながら楽しむ派の俺は、不謹慎ながらもこの状況に少しワクワクしていた。
「それにしても、雇い主は太っ腹ですね。前金の代わりにこの馬車もくれたんでしょう? その上、誘拐が成功したら金貨三百枚なんて……」
ガリガリがそう笑う。
またもや違和感があることを男は言う。
王宮に住んでいるはずのデネボラが馬車の調達なんてできるのだろうか。王妃には護衛が付くだろうし、そもそもこんなごろつきと一緒にいるところを誰かに見られたら一発でアウトだ。
いや、普通に考えたら、テオが馬車を調達したりコイツらに頼んだとしか思えない。
しかし、テオが雇い主なら、デネボラがテオに「レグルスをごろつきに渡せ」と指示していたあの状況はおかしい。明らかにテオは計画を知らず、デネボラがコイツらと話をつけてきたという雰囲気だった。
もしかして、デネボラにはテオ以外の協力者もいるのではないだろうか。
そして、その協力者ってのがコイツらを直接雇って、レグルスを誘拐するように指示をした。デネボラはその協力者から計画を聞き、テオに指示を出した。そう考えた方が何となくしっくりくる。ソイツが俺たちを引き取りにくるのかもしれない。
でも、何の為だろう。
前世の記憶が本当ならデネボラの策略によってレグルスは殺されかけるのだ。
他人に任せる気がないことから考えると、その協力者とやらは自分の手でレグルスを殺したい人物なのかもしれない。
確かにやや我儘なところがあるレグルスだが、恨みを飼うような性格ではない。となると、やはり利害関係――王位継承権に関わることだろうか。
俺が考え込んでいると、男たちはごそごそと木箱を下ろし始める。
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