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三章 薄藍の魔導書(アルファルド編)
13.訪問の真相?
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*
それからというもの、リゲルの家に行けない俺に代わって、何故かミモザが俺の家に出入りするようになった。勿論、リゲルと一緒に来ることもあるが、圧倒的にミモザだけで来ることが多い。
俺が勉強を終えてから、居間に顔を出すと、今日もまた、ミモザとお母様が一緒にお茶をしていた。
「おばさま、今日は料理人と一緒に私が作ったクッキーをお持ちしましたの」
「まあ、素敵。うちの子たちが来たらいただきましょう」
ミモザの言葉にお母様が顔の近くで小さく手を叩く。
「ミモザ様?」
俺は恐々と、その名を呼んだ。俺抜きで二人で何を企んでいるのだろう。
「あら、お姉様!」
ミモザは花のような笑みを振りまく。
俺は後ろによろめいた。
なんで今日もいるんだよ。というか、コイツ、何でお母様が外に出ない日に限っているんだ。今日はたくさん剣の練習ができると思っていたのに。
いや、そもそも、何故、誰もミモザがいることを俺に教えない。いることが普通になり過ぎてもう言わなくてもいいと思っているんじゃないだろうか。
「いたい」
小さくアルファルドが呟く。どうやら、よろめいたときにアルファルドの足を踏んでしまったらしい。
「ごめんなさい!」
「びっくりしただけ。だいじょうぶ」
アルファルドは首を振った。相変わらずおっとりとした口調だが、確実にアルファルドの口数は増えていた。
「本当に大丈夫ですか?」
「ん、へいき」
俺の言葉にアルファルドは頷く。その美少女然とした顔は表情らしいものは浮かんでいない。今日はミモザがいるから緊張しているのだろう。
俺はアルファルドを見てそう思った。
最近は俺たちに慣れてきたようでアルファルドの表情は柔らかい。ちゃんと笑った顔はまだ見たことがないが、時折、困った顔や苦々しい顔をするようにもなった。
だが、その一方で、アルファルドは未だにオブシディアン家以外の人間には警戒心を隠さない。週に数回レグルスが様子を見にくるが、それにだってやっと一言二言返すようになったくらいだ。
ミモザを見つけたときなんか、特に酷い。アルファルドは素早い動きで俺の後ろに隠れる。さっきだって、俺がアルファルドの足を踏んでしまったのはそのせいだった。
「お姉様、今日はクッキーをお持ちしたの」
「ええ、先ほど、声が聞こえたので知っていますよ。ミモザ様が作ったとか……」
「そんな大層なものではないけど、よかったらどうかしら?」
ミモザははにかむように笑った。その仕草はとても可愛らしいものだったのだが、俺にはどうしてもミモザのことがよく分からなかった。
害虫駆除と言ってリゲルと一緒に家に押しかけてきたり、俺をお姉様と呼んでみたり、お母様とお茶をしたり、何がしたいんだ。
まさかこのクッキー毒が仕込まれているんじゃないよな。いや、お母様も食べるだろうし。さすがにそれはないだろう。
「えーっと、じゃあ、お腹がすいたら……」
「いいにおい」
「別に、貴方にあげるためじゃないんだから! ちょっと、そんな顔でこっちを見ないでよ!」
いつもは警戒心丸出しのアルファルドもクッキーには興味があるようでじっとミモザの持っているクッキーを見つめている。現金なヤツだ。
「さあ、お話はこのくらいにして少しお茶にしましょう?」
お母様は優雅に立ち上がると、微笑む。
俺とアルファルドは促されるまま、椅子に座った。
「お嬢様」
いつの間にか、メリーナが俺たちの分の紅茶を用意してくれたらしい。前世では使ったこともないような豪奢なティーセットを持って現れた。
俺とアルファルドは目の前に用意されていく、お茶菓子とティーカップをじっと眺めた。
アルファルドはミモザの持ってきたクッキーを手に取ると、まるで怪しいものでも見るようにじっと見る。そして、恐る恐る匂いを嗅いだ。どうやら、いい匂いがしたらしく、目を輝かせてそれを口に運んだ。
アルファルドは大きく頷く。美味しそうだ。
俺もアルファルドに続いてクッキーを口に運ぶ。齧るとクッキーはほろりと口の中で解けた。甘い味を想像していたが、クッキーはしょっぱい味がした。
俺はもう一枚手に取ると、じっと見つめる。緑色の何かが練りこまれているようだ。
「チーズとハーブの味がしますね」
「正解! ローズマリーをいれたの」
「こういう味はワインが欲しくなるわ」
お母様が呟いた。
それだ。確かにお酒のつまみにもなりそうな味がする。
あと引く味だ。もう一枚と思って手を伸ばすと、クッキーの枚数はもう少なかった。
あんなにたくさんあったのに、誰が。そう思って、一人一人の顔を見る。すると、アルファルドの手がクッキーの方に伸びた。
「アルファルド……」
俺が呟くと、アルファルドははっとした顔をしてこちらを見る。
「ごめん」
あまりにも美味しくて夢中で食べたのか、アルファルドは食べかすを散らかしていた。口の周りにクッキーの細かい屑がついている。
「もう」
俺はため息を吐くと、ハンカチを取り出した。顔を拭いてやろうと立ち上がる。
しかし、それよりも早くミモザが動く。
「私に任せて」
ミモザはテキパキとアルファルドの口を拭いたやった。末っ子のはずのミモザがこんなに早く動くなんて。
俺は驚いて、ミモザを見つめた。あんなに甲斐甲斐しく世話を焼いているなんてまるで恋人か何かみたいだ。
俺はハッとして口を押さえた。
(もしかして、最近、うちによく来ているのは、アルファルドのことを好きになったんじゃ?)
確か、ミモザにはまだ婚約者がいなかったはず。アルファルドも婚約どころではなかったから婚約者がいない。ミモザはここで好感度を上げて、いずれはアルファルドの婚約者になりたいと考えているのかもしれない。ブラコンだったミモザもついに好きな人ができたのか。
謎はすべて解けた。きっと俺をお姉様と呼ぶのはアルファルドにいい印象を与えるためなのだ。
アルファルドにとって俺は姉も同然だ。お母様とお茶をするのも、きっとアルファルドの様子を聞きたいからだろう。言ってくれれば、俺だって協力するのに。
ゲーム上のアルファルドはムッツリクソ野郎だったけど、このアルファルドはゲームとは違って可愛げのある奴だ。テンポさえつかめれば、無口だけど話だってちゃんとできる。今は身長が小さいが徐々に伸びているみたいだし、そのうちきっとお似合いになるに違いない。
この恋を応援してやらなきゃならない。俺は使命感に燃えていた。
「ミモザ様!」
俺は立ち上がる。
「え?」
俺はミモザの手をしっかりと両手で握った。
「わたくしにお任せください!」
「え、ええ? あの……ありがとうございます」
ミモザは真っ赤になると、しどろもどろになりながら頷く。
(よし、こうなったら、全力でミモザの恋を成就させてやるんだ。)
俺はそう決意した。
それからというもの、リゲルの家に行けない俺に代わって、何故かミモザが俺の家に出入りするようになった。勿論、リゲルと一緒に来ることもあるが、圧倒的にミモザだけで来ることが多い。
俺が勉強を終えてから、居間に顔を出すと、今日もまた、ミモザとお母様が一緒にお茶をしていた。
「おばさま、今日は料理人と一緒に私が作ったクッキーをお持ちしましたの」
「まあ、素敵。うちの子たちが来たらいただきましょう」
ミモザの言葉にお母様が顔の近くで小さく手を叩く。
「ミモザ様?」
俺は恐々と、その名を呼んだ。俺抜きで二人で何を企んでいるのだろう。
「あら、お姉様!」
ミモザは花のような笑みを振りまく。
俺は後ろによろめいた。
なんで今日もいるんだよ。というか、コイツ、何でお母様が外に出ない日に限っているんだ。今日はたくさん剣の練習ができると思っていたのに。
いや、そもそも、何故、誰もミモザがいることを俺に教えない。いることが普通になり過ぎてもう言わなくてもいいと思っているんじゃないだろうか。
「いたい」
小さくアルファルドが呟く。どうやら、よろめいたときにアルファルドの足を踏んでしまったらしい。
「ごめんなさい!」
「びっくりしただけ。だいじょうぶ」
アルファルドは首を振った。相変わらずおっとりとした口調だが、確実にアルファルドの口数は増えていた。
「本当に大丈夫ですか?」
「ん、へいき」
俺の言葉にアルファルドは頷く。その美少女然とした顔は表情らしいものは浮かんでいない。今日はミモザがいるから緊張しているのだろう。
俺はアルファルドを見てそう思った。
最近は俺たちに慣れてきたようでアルファルドの表情は柔らかい。ちゃんと笑った顔はまだ見たことがないが、時折、困った顔や苦々しい顔をするようにもなった。
だが、その一方で、アルファルドは未だにオブシディアン家以外の人間には警戒心を隠さない。週に数回レグルスが様子を見にくるが、それにだってやっと一言二言返すようになったくらいだ。
ミモザを見つけたときなんか、特に酷い。アルファルドは素早い動きで俺の後ろに隠れる。さっきだって、俺がアルファルドの足を踏んでしまったのはそのせいだった。
「お姉様、今日はクッキーをお持ちしたの」
「ええ、先ほど、声が聞こえたので知っていますよ。ミモザ様が作ったとか……」
「そんな大層なものではないけど、よかったらどうかしら?」
ミモザははにかむように笑った。その仕草はとても可愛らしいものだったのだが、俺にはどうしてもミモザのことがよく分からなかった。
害虫駆除と言ってリゲルと一緒に家に押しかけてきたり、俺をお姉様と呼んでみたり、お母様とお茶をしたり、何がしたいんだ。
まさかこのクッキー毒が仕込まれているんじゃないよな。いや、お母様も食べるだろうし。さすがにそれはないだろう。
「えーっと、じゃあ、お腹がすいたら……」
「いいにおい」
「別に、貴方にあげるためじゃないんだから! ちょっと、そんな顔でこっちを見ないでよ!」
いつもは警戒心丸出しのアルファルドもクッキーには興味があるようでじっとミモザの持っているクッキーを見つめている。現金なヤツだ。
「さあ、お話はこのくらいにして少しお茶にしましょう?」
お母様は優雅に立ち上がると、微笑む。
俺とアルファルドは促されるまま、椅子に座った。
「お嬢様」
いつの間にか、メリーナが俺たちの分の紅茶を用意してくれたらしい。前世では使ったこともないような豪奢なティーセットを持って現れた。
俺とアルファルドは目の前に用意されていく、お茶菓子とティーカップをじっと眺めた。
アルファルドはミモザの持ってきたクッキーを手に取ると、まるで怪しいものでも見るようにじっと見る。そして、恐る恐る匂いを嗅いだ。どうやら、いい匂いがしたらしく、目を輝かせてそれを口に運んだ。
アルファルドは大きく頷く。美味しそうだ。
俺もアルファルドに続いてクッキーを口に運ぶ。齧るとクッキーはほろりと口の中で解けた。甘い味を想像していたが、クッキーはしょっぱい味がした。
俺はもう一枚手に取ると、じっと見つめる。緑色の何かが練りこまれているようだ。
「チーズとハーブの味がしますね」
「正解! ローズマリーをいれたの」
「こういう味はワインが欲しくなるわ」
お母様が呟いた。
それだ。確かにお酒のつまみにもなりそうな味がする。
あと引く味だ。もう一枚と思って手を伸ばすと、クッキーの枚数はもう少なかった。
あんなにたくさんあったのに、誰が。そう思って、一人一人の顔を見る。すると、アルファルドの手がクッキーの方に伸びた。
「アルファルド……」
俺が呟くと、アルファルドははっとした顔をしてこちらを見る。
「ごめん」
あまりにも美味しくて夢中で食べたのか、アルファルドは食べかすを散らかしていた。口の周りにクッキーの細かい屑がついている。
「もう」
俺はため息を吐くと、ハンカチを取り出した。顔を拭いてやろうと立ち上がる。
しかし、それよりも早くミモザが動く。
「私に任せて」
ミモザはテキパキとアルファルドの口を拭いたやった。末っ子のはずのミモザがこんなに早く動くなんて。
俺は驚いて、ミモザを見つめた。あんなに甲斐甲斐しく世話を焼いているなんてまるで恋人か何かみたいだ。
俺はハッとして口を押さえた。
(もしかして、最近、うちによく来ているのは、アルファルドのことを好きになったんじゃ?)
確か、ミモザにはまだ婚約者がいなかったはず。アルファルドも婚約どころではなかったから婚約者がいない。ミモザはここで好感度を上げて、いずれはアルファルドの婚約者になりたいと考えているのかもしれない。ブラコンだったミモザもついに好きな人ができたのか。
謎はすべて解けた。きっと俺をお姉様と呼ぶのはアルファルドにいい印象を与えるためなのだ。
アルファルドにとって俺は姉も同然だ。お母様とお茶をするのも、きっとアルファルドの様子を聞きたいからだろう。言ってくれれば、俺だって協力するのに。
ゲーム上のアルファルドはムッツリクソ野郎だったけど、このアルファルドはゲームとは違って可愛げのある奴だ。テンポさえつかめれば、無口だけど話だってちゃんとできる。今は身長が小さいが徐々に伸びているみたいだし、そのうちきっとお似合いになるに違いない。
この恋を応援してやらなきゃならない。俺は使命感に燃えていた。
「ミモザ様!」
俺は立ち上がる。
「え?」
俺はミモザの手をしっかりと両手で握った。
「わたくしにお任せください!」
「え、ええ? あの……ありがとうございます」
ミモザは真っ赤になると、しどろもどろになりながら頷く。
(よし、こうなったら、全力でミモザの恋を成就させてやるんだ。)
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