転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

文字の大きさ
71 / 83
三章 薄藍の魔導書(アルファルド編)

16.久しぶりのお茶会

しおりを挟む
 *

 リゲルとアルファルドを仲良くさせて外堀を埋めようという作戦は失敗に終わった。しかし、俺はしつこいと言われようと、アルファルドとミモザをくっつけることを諦めていなかった。アルファルドはぼんやりとしているところがあるから、しっかり者で情緒豊かなミモザだったら、互いに足りないところを補い合えるからいいと思う。

 俺はちらりとミモザを見つめた。ミモザは楽しそうに話しながらティーカップを口に運ぶ。話し相手はアルファルドではないようだが、楽しそうでなによりだ。

 俺は部屋を見回す。

 今日はオブシディアン家主催のお茶会の日だ。参加しているのはお母様と仲良くしている貴族の奥方たちとそのご令嬢たちだけ。見たことある顔ばかりだ。

 その中に混じってユークレース伯爵夫人も参加してくれている。因みに、アルファルドも参加したいと言い張り、どうしようもなかったので、ここにいても不自然じゃないように女装をしていた。

 いや、女装してても社交界デビューしてないご令嬢がいたら普通は気になるだろう。それにそもそもアルファルドがここにいることは秘密のはずなのに。皆おおらかなのか、分かっててスルーしてるのか分からないけど、それでいいのだろうか。

 俺はため息を吐いた。

「アルキオーネ様?」

 ご令嬢が心配そうにこちらを覗く。

 おっと、ため息を聞かれてしまったようだ。退屈そうにしてると思われてはいけない。

 俺は眉を下げて悲しそうな微笑みをつくる。

「ごめんなさい。久しぶりのお茶会だったので、皆様に粗相がないか不安で、昨日はあまり眠れなかったんです」

 俺は息を吸うように嘘を吐く。本当にこの手の嘘が上手くなって、いつか根性がひん曲がってよくあるクソみたいな悪役令嬢になってしまうのではないかと不安になる。

 でもあながちそこまでの嘘でもない。

 アルファルドと一緒ではお茶会に参加することが出来ないので、久しぶりのお茶会なのは本当だ。しかも、最近、アルファルドとミモザをどうやってくっつけようかとベッドの中で作戦を考えるので寝不足なのも事実だった。ここまで事実であればほぼ本当のことだと、自分に言い聞かせる。

「まあ、大丈夫なの? お身体も弱いのでしょう? 人に知られないように席を外せるように協力しましょうか?」

 ご令嬢はこっそりと声を低くした。

(この顔、名前は思い出せないが、何処かで見たことがあるんだよな。レグルスの誕生会か、舞踏会か、お茶会か……)

 記憶を探るもやはり名前が出てこない。

 つり目に、直線的な角度のある眉。品があって綺麗だが、キツめな顔つきなのに反して、物腰は柔らかい。歳は同じくらいだろうか。

 一体、何処のご令嬢なのだろう。お母様が懇意にしている一家のご令嬢であることは間違いないのだが、分からない。

「ありがとうございます。でも、こうしていた方が気が紛れますので大丈夫です」

 俺は首を振った。

 寝不足だけど、そこまで深刻なものではない。それに、ここを離れるとアルファルドが落ち着かなくなるだろう。

 俺はユークレース伯爵夫人の横に座って固まっているアルファルドを見た。落ち着いているようだが、自分の母親と一緒にいるくせに緊張しているみたいだ。記憶も戻っていないし、心配だ。やっぱりここを離れる訳にはいかない。

「そうですか。何かあったら仰って」

 俺の言葉にほっとした顔をしながらご令嬢は微笑んだ。

「あら、ベガ様、お茶が進んでいないようですけど、どうなさいました?」

 別のご令嬢が口を出す。

 どうやら、このご令嬢の名前はベガと言うらしい。

 そこで俺は首を傾げた。

 ベガという名前に聞き覚えがあったが、顔と名前が一致しない。それなのに名前も顔も知っている。不思議な感覚がした。

「いえ、おしゃべりに夢中になってしまっただけよ。ありがとう」

 ベガは優雅に微笑むとティーカップを手に取った。

 ベガという名前をどこで聞いたことがあるのだろう。俺はじっと自分のカップの中の紅茶を覗き込みながら考えた。

 ベガ。星の名前。確か、彦星と織姫の織姫の方だ。夏の大三角をつくる星。出てくるのは前世の知識のみだった。

 前世の記憶といえば、「枳棘ききょく~王子様には棘がある~」のキャラクターにベガという少女が出てきたような気がする。

 俺ははっとしてベガを見た。

 もしかして、この子、ベガ・カーネリアンじゃないか。ベガ・カーネリアンは婚約者ではないが、アルファルドのことを慕う少女。

 所謂、悪役令嬢的なポジションでアルファルドルートでは、スピカに辛く当たる役どころだ。しかしながら、辛く当たると言っても、キツい忠告をかますくらいの可愛いレベルの嫌がらせをするくらいで、クソ王子共の方がスピカに対する当たりはよっぽどキツかった気もする。

 俺はご令嬢を失礼のない程度にじっと見つめる。意地悪をしそうに見えないが、間違いなくあのゲームの中のベガの顔だ。でも、少し違和感がある。ゲームの中のベガの表情はもっと暗かったような気がした。

 でも、本人を見る限り、社交的で朗らかな印象がある。嫉妬は人を狂わすなんて言うけど、そこまで変わることがあるのだろうか。こんなに可愛いのに。

 嗚呼、本当に男に生まれたかった。それで、こういう可愛い子たちを攻略する側になりたかった。何故、神は俺の性別を変えてしまったんだ。一言どころか一時間くらい説教してやりたい。

 いやいや、俺のことはどうでもいい。

 大事なことをスルーしそうになった。ここには、アルファルドのことを好きなミモザと、これから好きになるベガが一緒にいるってことだ。

 俺はベガとミモザを交互に見つめた。本人たちは気づかず、それぞれ楽しそうにお喋りをしている。

 俺はヒヤヒヤとしながら杞憂で済むように祈りを捧げた。ご令嬢になってから直接言えないことが増えて、祈ってばっかりだ。もしも、レグルスとの婚約を破談にできたら、シスターになるのも悪くないかもしれない。

「アルキオーネ、ちょっといいかしら」

 お母様がそう言って手招きをする。

 俺はカップをソーサーの上に置いて、すっと立ち上がった。

「ちょっと、アルファルド様を見て。様子がおかしいの」

 お母様は誰にも聞こえぬようにそっと俺に耳打ちをする。

 俺は顔を動かさず、目線だけでアルファルドを見た。

 お母様の言う通り、アルファルドの様子はおかしかった。顔は白く、かすかに震えている。川で見つけたときの顔のようだ。とても元気そうには見えない。

 ユークレース伯爵夫人は心配そうにそんなアルファルドの顔を覗いていた。幸いなことにまだ周りはお喋りに夢中でアルファルドの様子に気づいていないようだ。

 俺はアルファルドのところに素早く動く。

「失礼。ちょっとお話が……」

 俺はアルファルドの腕を引く。

 アルファルドは俺を見上げた。長い睫毛が震えている。ここにいるのはもう限界だろう。

「少しいらしていただけませんか?」

 俺はそう呟く。

「こんなときに?」

 ご令嬢の一人がこちらに気づいたようで、首を傾げながらそう言う。

 俺は慌てて取り繕うように微笑む。

「ええ。急ぎなの。ごめんなさい」

 そう言うとアルファルドを立たせ、足早に部屋を後にした
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴
恋愛
 魔王が討伐されて20年人々が平和に暮らしているなか、徐々に魔物の活性化が再び始まっていた。  聖女ですか?わたしが世界を浄化するのですか?魔王復活?  は?ツガイ?5人とは何ですか?足手まといは必要ありません。  主人公のシェリーは弟が騎士養成学園に入ってから、状況は一変してしまった。番たちには分からないようにしていたというのに、次々とツガイたちが集まってきてしまった。他種族のツガイ。  聖女としての仕事をこなしていく中で見え隠れする魔王の影、予兆となる次元の悪魔の出現、世界の裏で動いている帝国の闇。  大陸を駆け巡りながら、世界の混沌に立ち向かう聖女とその番たちの物語。 *1話 1000~2000文字ぐらいです。 *軽い読みものとして楽しんでいただけたら思います。  が…誤字脱字が程々にあります。見つけ次第訂正しております…。 *話の進み具合が亀並みです。16章でやっと5人が揃う感じです。 *小説家になろう様にも投稿させていただいています。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

処理中です...