転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

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四章 深緑の髪飾り(領地編)

4.楽しいお泊まり

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 ダイニングルームへ向かうと、お父様とお母様が席に着いていた。
 珍しいこともあるもんだ。お父様は視察だ、会議だ、交渉だと忙しそうに夏でも各地を走り回っているし、お母様も何やら夜遅くに帰ってくるときもある。家族揃ってゆっくりと食事するのは一週間ぶりだ。

 今日はそれに加えてミモザもいる。
 やっぱり、メリーナや使用人たちがいるとはいえ、一人の食事というのは味気ないものだ。やっぱり、食事はみんなでとる方がいい。こころなしか料理もいつもより美味しく感じる。

 お父様が先日まで居た国の話から、王都で流行した菓子、ジェード家の領地の特産品や政治について、たくさんの話をして、その日の食事を楽しく終えたのだった。

 さて、お待ちかねのお泊まりイベント。何をするのが正解だろうか。
 ご飯を食べたり、枕投げや恋話をしたり……いやいや、ラブコメにおいて欠かせないイベントを忘れてはいけない。

 そう、お風呂イベントだ。風呂場で裸で遭遇とか、一緒にお風呂みたいなイベントは欠かせないだろう。
 それなのに、この世界の風呂は客室や個室には一つずつバスタブが備えてあってそこにお湯を運ぶタイプの造りなのだ。よって、キャッキャウフフな風呂イベント発生しようがない。
 例外は以前のアルファルド全裸疾走事件のみである。

 男女でお泊まりってなったら、絶対にお風呂イベントはかかせない。それがないなんてどうかしてると俺も思う。
 しかし、ないものはないのだ。仕方がない。

 それに、仮にミモザの裸を見たとしよう。
 もしも、リゲルにバレたらどうなるか。考えただけで恐ろしい。
 一応、女だから殴られたり、斬られたりはしないとは思う。
 でも、下心があって見たとなったら話は別だ。バレたら絶対にただじゃ済まないだろう。

 やっぱり、お風呂イベントがなくて正解だ。これで良かったんだ。
 俺は少しガッカリしながらいつものように一人のお風呂を楽しんだ。

 **

「ミモザ様、お話をしましょう」 

 俺はベッドの上に座り込んで、自分の横をぽんぽんと叩く。

 お風呂イベントがないことですっかり落ち込んでいたが、ずっと落ち込んでいるわけにもいかない。
 こうなったら、他のお泊まりイベントを楽しむまでだ。

「あの、本当にこんな姿で?」

 ミモザはまだ扉の近くでもじもじとしながら、顔を真っ赤に染めていた。

「ええ、勿論です! パジャマパーティーならパジャマは必須です!」

 俺は力いっぱい頷く。

 俺は本物の美少女のネグリジェ姿が見れたことに感動していた。
 アルファルドのネグリジェ姿も確かに可愛らしかったが、あれは男だからな。ありがたみが違う。
 
「お姉様は恥ずかしくないの?」 

 ミモザは自分のネグリジェに目を落とした。どうやら、ネグリジェ姿が恥ずかしいらしい。

 俺はネグリジェの裾をつまみ上げる。

 そうか。そう言えば、これはこの世界では恥ずかしい恰好という認識だった。家族や使用人に見られることがあっても他人に見られることはなかなかないものだ。
 でも、俺はもう既にアルファルドにも、リゲルにも、ネグリジェ姿を見られている。減るものでもないし、ミモザにだけ隠す理由もない。

「ミモザ様になら大丈夫ですね」
「はあ?」
「だって女同士ですし」
「いや、そう、そうなんだけどぉ……」
「もう、いいから早く座ってくださいって」

 そう言って、もう一度、ぽんぽんとベッドを叩いた。

 早くしないと、メリーナかお母様が来て「まだ起きているんですか?」って言われてしまう。
 そうしたら、さっとミモザと布団に隠れてやり過ごすんだ。修学旅行にありがちな先生たちの巡視みたいだ。
 それすら、なんだか待ち遠しい。

「早くしないと寝る時間になっちゃいますよ?」

 俺は期待に満ちた顔でミモザを見つめた。

「う、うう……分かったわよ」

 ミモザは観念したように俺の横に座った。

「さて、ミモザ様、何についてお話しますか? やっぱり二人きりじゃないとできない話がいいですよね」
「え!」

 ミモザは大きな声で叫ぶ。
 おいおい、あんまり大きな声で叫ぶとまずいぞ。

「どうしました!?」

 大きな音を立てて、扉を開けたのはアントニスだった。

「嗚呼! なんでもないから大丈夫です、アントニス!」
「そうでしたか、失礼しました」 

 アントニスは顔を引っ込めた。

 ほらな。アルファルドの母親が侵入した一件から、叫ぶとアントニスが入ってくるシステムが採用されたんだ。
 大声を出そうもんならすぐに飛んでやってくることになっている。

「ミモザ様、大きな声を出してはいけません。秘密の話です。小さな声でお話しましょう」
「そうですね」
「じゃあ、何を話します? やっぱり、恋の話ですか?」
「恋ですか?」

 ミモザは緊張したような声を出す。

 やはり、想い人がいるらしい。
 俺はアルファルドの話だろうと言ってやりたいのを堪える。

 相手はツンデレだ。無理に言わせようとすれば、絶対に認めない。寧ろ反発するだけだ。
 もうすでに一度失敗しているし、同じ轍は踏むつもりはない。
 自然と言える雰囲気を作って、俺も協力する流れにしなければならない。

「ええ、そうです。お年頃なんですから、そういうお話がしたいんです」
「やっぱり、聞きたい?」
「やっぱりと言うことはあるんですよね?」

 俺の言葉にミモザはしまったという顔をした。

(ふふふ、ミモザさん、甘いですよ。本当は恋バナしたくてしょうがないんでしょう。だから、ついぽろっと言ってしまうんです。俺にはすべて分かっているんだから隠しても無駄です。)

「ほら、男性もいないし、お母様やメリーナたちも聞いていないから本心を語るのにすっっごくいい機会じゃありませんか?」

 俺は「すごく」のところを強調するように力を込めてそう言った。

「でも……」
「わたくしもぜひしたいなって。ダメですか?」

 俺はミモザの手を取る。
 そして、ミモザの目をじっと見つめた。
 ミモザは暫く考え込むようにうーっと唸る。

「そうよね……普段はそういう話はできないもの。しましょう」

 やっと観念したようにミモザは頷く。

「ありがとうございます」
「じゃあ、お姉様からね」
「え……」
「お姉様も話したいのでしょう? お先にどうぞ」

 話したいと言った手前、そう言われては逃れる術はない。

 やばい。自分が何を話すかなんて考えてなかった。
 慌てて考えてみるがなかなかいい具合の恋話が思いつかない。
 素直に女の子が好きだなんて言えるわけもないし、どうしたらいいのだろう。

「やっぱり、お姉様はレグルス殿下のことが……」
「え、ええ! 勿論、もちろんレグルス様のことですよ!」

 そうだ、レグルス。俺にはレグルスがいるじゃないか。
 俺はミモザの言葉に大きく頷く。

「ねぇ、じゃあどこが好きなの?」

 ミモザがわくわくとした目で俺を見つめる。

(そんな期待されても面白いエピソードなんてないですよ、ミモザさん!!)
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