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ユニーク:魔法刺激部の悲劇な喜劇
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「お前は召喚獣だが、何か特殊能力はあるのか?」
「特殊といいますと、エラ呼吸ですかね」
「それは生態だ」
「じゃあ、泳ぐとか」
「そりゃ魚だからな。もっと面白い能力で頼む」
「うーん。じゃあ、ヒレをバテャバテャさせるとか」
そこまで聞いて、リコッタはうーんと腕組みをして考え込む。
先に言っておくと、バテャバテャの意味について悩んでいるわけではない。リコッタは基本的には知能指数が低く、考えるのがヘタだ。
分かりやすく表現するとバカである。
だが魚の放ったバテャバテャという言葉に関しては瞬時に理解していた。リコッタが魚並みの知能であることの証明なのか、魚の言葉すらも理解できるほど他人の気持ちが理解できるのか、どちらにしてもリコッタは異常である。
「クロミエ、お前の召喚獣は不合格だ」
「えーっ!? な、なんでですか!? エラ呼吸できて泳ぎが得意でヒレをバテャバテャさせることにおいては右に出るものはいないと豪語する魚ですよ!」
「気づいていないのかクロミエ、つまり……」
そこでいったん区切り、思い切り息を吸う。
そして放つ。
「お前の呼んだ召喚獣は、ただの魚だ! 特殊能力も何もない、ただの魚そのものだ!」
「そ、そんなァ! そんなサカナ!」
クロミエ、衝撃の事実にショック。あまりのショックに半歩仰け反る。まさにガビーンという表現が相応しい。
だがクロミエはこの部活への入部に命をかけて――いるほどではないが、入部を希望している。こんなところで不合格になるわけにはいかない。
仰け反った衝撃は片足で踏ん張り、その反動で前方に立つリコッタへチョップを繰り出す。
「おサカナチョップ!」
クロミエ、噂のおサカナチョップ炸裂。普段は温厚なクロミエだが、いざというときはおサカナチョップを繰り出す。以前も道に迷っていたおばあちゃんの頸動脈にもおサカナチョップを繰りだしたことがある。
リコッタは唐突に突き出された技に臆することなく、冷静におサカナチョップを防ぐ。
「おい、なんのつもりだクロミエ。おサカナ試験に不合格で不満か?」
そんな試験ではない。
「待ってください。この魚は、普通の魚ではありません!」
「なに?」
「この魚、喋ってます!」
「ぁ――!?」
背景に稲妻が落ちるほど衝撃を受けるリコッタ。まぁ疑似魔法とはいえ魔法が出せる世界なら動物が喋るくらい珍しいこととも思えないはずだが。
「く、確かにな。能力は平凡な魚だが、よく考えれば喋る魚は特殊だな」
「じゃあ、私の入部を認めてくれるんですか!」
「ふん、甘いな」
チッチッチ。と、舌打ちしながら人差し指を振り鼻で笑うリコッタ。
「クロミエ、お前は大事なことを忘れているぞ」
「な、なんですか。家の鍵ならちゃんと閉めましたよ」
「私はな、この魚のことを一応調べておいただけで、喋るくらいで入部を認めたワケではない」
「そ、そんな! そんなサカナ!」
「そんなバカなみたいに言うな」
「喋る魚なんて凄いじゃないですか! 私のナイス召喚じゃないですか!」
「召喚前に言ったろう。私が指定したものを」
「し、指定?」
「私は確かに言った。妖精を召喚しろと、な!」
「たしか、ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ! って言った後ですよね」
「いやその前だ」
少し巻き戻そう。
『そうだな。まずは試験だから、簡単に妖精を召喚してみようか』
確かに言っている。
「う、たしかにこの魚は妖精じゃないです。でも、妖精並みの凄さはあるじゃないですか!」
「ないな。むしろお前のハジャラハジャラハジャラの舞のほうがよっぽどお祭りだった」
「じゃあハジャラー仲間として、認めてくださいよ」
「私を勝手にハジャラーにするな。なんだハジャラーって」
「じゃあハジャリストですか?」
「ふざけるな。魚でもまぁいいかと思いかけていたが、妖精を召喚できないワケだから入部は認めん」
「えー。小動物系の妖精だってほぼ動物じゃないですか。だったら魚だって妖精ですよ」
「その理屈は認めん。考えてみろ、目の前に魚が現れた魔法少女の気持ちを」
「でも、刺身の状態で現れたら美味しくて幸せじゃないですか」
「常に刺身と一緒にいる魔法少女はもっと嫌だろバカ野郎」
「戦闘中にいつでも食べられるじゃないですか」
「唐突に仲間を屠る魔法少女は絵面がマズすぎる」
「寿司っぽくすればよくないですか?」
「いや、確実に鮮度が落ちている、やっぱりダメだ」
「でもでも、刺身型の妖精なら生きているワケですから鮮度抜群ですよ」
「うーんなるほど。確かに一理ある」
「じゃあ刺身妖精は認めるんですね」
「まぁ、な」
「じゃあ生魚妖精もアリってことですよね?」
「チッ! そういう理屈になるのか!」
魚を認めたくない気持ちと刺身を認めたい気持ち。相反する二つの気持ちがリコッタを襲う。
両手で頭をかかえ悩みに悩むリコッタを尻目にクロミエは魚に問いかける。
「あのー、お魚さんはどう思います?」
「え、僕ですか? あの、ちょっと言いづらかったんですけど、実は僕って歴とした妖精なんですよね」
え――驚きのあまりリコッタの開いた口は塞がらない。
「妖精? おい魚、貴様は妖精なのか?」
「えーっと、僕っていま魔法陣から頭だけ出てる状態じゃないですか」
頷く二人。
「頭は魚ですけど、実は頭から下は普通に妖精っぽい姿なんですよ」
「妖精っぽいっていうのは小動物系か? それとも小人系か? もし後者ならすごい嫌だ」
つまり頭は魚。体は小人。人魚の逆バージョンだから半魚人スタイルである。
「じゃあ僕の体を実際に確認してくださいよ」
魚らしいギョロっとした目でクロミエに合図を送ると、クロミエは首をかしげる。集中して魔法陣から出してくれよ。という意味の合図だったのだがクロミエには通じず、何度か合図を送るもすべて不発。もう無理だコレと思った魚は普通に「集中して外に出してください」と口にするとついにクロミエは理解したのか、ようやく集中した。
ちなみにギョロっとは”魚ロっと”と書くのが正しい書き方である。
集中したことによって魔法陣が淡く光り輝き、魚の下半身――頭から下が魔法陣からぬるりと出てきた。
果たして、その正体は小動物系か、小人系か――。
「さ、魚! その体は!」
魚の下半身が露になる。
まさにこの体――腰にジーンズを履いた半裸の小人であった。
「小人だったぁチクショー!」
不釣り合いな姿に髪をクシャクシャしてショックを受けるリコッタ。
「リコッタさん! しかもジーンズですよ!」
しかも絶妙な高級色に仕上がったジーンズである。若干のダメージ加工が施された巧の一品だ。
「ジーンズだったぁチクショー! 微妙にダメージ加工だチクショウ!」
「よく見るとヴィンテージですよ!」
「ヴィンテージだったぁチクショー!」
「可愛い妖精ですね!」
「クロミエどういうつもりだ! なんでこんな、半魚人というか、半ジーンズ魚人なんか召喚したんだ!」
「だから、召喚しろっていうからやったんじゃないですかぁ」
「可愛い妖精だろ普通は! かっわいい妖精!」
「かっわいいじゃないですか! ジーンズ半魚人!」
「か、かわいい……?」
リコッタ視点、どこから見ても百八十度回転させても可愛くは見えない。半魚人妖精の瞳を凝視すればするほど沸々とイラ立ちを覚えてしょうがないが、その一方可愛さは人それぞれである。
特にリコッタたち女子高生からすれば、だいたいのものは可愛く見えるのである。たとえば猫耳をつけたキュウリだって可愛く見えるし、齧られたキュウリの断面図でさえ可愛く見えるくらいだ。
さて、問題はここからだ。
前提としてこの召喚は入部試験であるが、その合否をリコッタの可愛さ基準で判断してよいのか。否である。部長(といっても部員は一人だが)だとしても具体的な可愛さ基準を定めた試験ではない。
「私の合格を迷ってますねぇリコッタさん」
「あぁ迷ってる。この半魚人め、可愛いくないから可愛いと言いたくない……」
ここで一つ、半魚人はあるアイデアを閃いた。
華麗な二本足でリコッタの前に立ち、咳払い。
「なんだ半魚人」
「僕の特技、見てもらえますか」
「まさか、例の空中三回転カキ氷早食いか?」
「なんですかそれ違います。僕はダンスをします」
半魚人はダンスを披露するため腰を低く構える。
魔界でもすこぶる評判が良いようで、たまに苦情が来ることもあるが、概ね満足する人が多いと噂のダンスである。
「行くぞっ! ダンス、スタ――」
スタート。とはいかなかった。
「待て半魚人、その腰についてるストラップって」
「え、これは……」
魔界限定、魔界ご当地ゆるキャラのストラップである。しかもこれは一年のうちたったの一日だけ販売され二秒で百個が完売したほどの人気アイテムである。
だが、よく見るとブサイクなデザインなのでそのうち九十九人は即座にドブに捨てる不人気っぷりを炸裂させたが、この半魚人だけは見捨てなかった。
「それ、どこで買ったんだ」
実はリコッタ、魔界に飛ばされたときにこのストラップを目撃していた。
たしかに魔界で大人気のものであり、リコッタも気になっていた。天界生まれのリコッタは魔界ゆるキャラなど知る由もないが、九十九人がドブに捨てたデザインに一目惚れした。
紫色の肌に、左右合わせて八つの猫耳。目は六つ。口と鼻の位置が逆で、歯並びが悪い。耳垢も溜まり放題で、歯並びが悪い。
半魚人には苦笑いのリコッタだが、この奇怪な猫には素直に惚れた。
「おい半魚人、まぁその、認めてやってもいいぞ」
頬を赤らめたリコッタは、ストラップをチラ見しながら頷く。
「え、いいのですか?」
「あぁ、いいだろう」
「じゃあ僕のお魚地獄ダンス十八番は……」
「すこぶる興味ない。でもお前を妖精と認めてやる」
もちろんタダとはいかない。
「だがなぁ、えーと、そのストラップは不釣り合いだな」
「あー、これですか」
「それさえ外してくれれば、お前は認めてやるんだが、それさえ没収できればなぁ」
そんなことはただのハッタリで、リコッタは盗む気である。
リコッタはこの押しだけでは足りないと判断し、さらに畳みかける。
「いいのかなぁ、召喚してくれたクロミエお嬢様と一緒にいられるのに、そんなストラップ如きで不合格っていうの。なぁおい」
リコッタはストラップ如きを盗む気である。
鬼と悪魔のハイブリッドが世界征服を達成させたかのような形相である。
「うーん。まぁいいでしょう。実は僕もこいつをドブに投げ捨ててやろうか悩んでたところなんです」
ヨッシャ。
心の中で高々とガッツポーズを決めるリコッタ。
「じゃあリコッタさん! 私の入部を認めてくれるんですよね!」
「つまり、そういうことだ」
両手を広げて万歳三唱するクロミエと半魚人。晴れて試験に合格し、この寂れてカビの生えた魔法刺激部に新メンバーが加入したのである。
リコッタは戦利品であるストラップを、恍惚とした表情で眺める。じっくり観察し、骨の髄まで魔界猫の可愛さを染み渡らせたところで、あることに気づく。
「よく見ると、可愛くねぇ……」
放課後にドブに投げ捨ててやろうと決意したリコッタであった。
「特殊といいますと、エラ呼吸ですかね」
「それは生態だ」
「じゃあ、泳ぐとか」
「そりゃ魚だからな。もっと面白い能力で頼む」
「うーん。じゃあ、ヒレをバテャバテャさせるとか」
そこまで聞いて、リコッタはうーんと腕組みをして考え込む。
先に言っておくと、バテャバテャの意味について悩んでいるわけではない。リコッタは基本的には知能指数が低く、考えるのがヘタだ。
分かりやすく表現するとバカである。
だが魚の放ったバテャバテャという言葉に関しては瞬時に理解していた。リコッタが魚並みの知能であることの証明なのか、魚の言葉すらも理解できるほど他人の気持ちが理解できるのか、どちらにしてもリコッタは異常である。
「クロミエ、お前の召喚獣は不合格だ」
「えーっ!? な、なんでですか!? エラ呼吸できて泳ぎが得意でヒレをバテャバテャさせることにおいては右に出るものはいないと豪語する魚ですよ!」
「気づいていないのかクロミエ、つまり……」
そこでいったん区切り、思い切り息を吸う。
そして放つ。
「お前の呼んだ召喚獣は、ただの魚だ! 特殊能力も何もない、ただの魚そのものだ!」
「そ、そんなァ! そんなサカナ!」
クロミエ、衝撃の事実にショック。あまりのショックに半歩仰け反る。まさにガビーンという表現が相応しい。
だがクロミエはこの部活への入部に命をかけて――いるほどではないが、入部を希望している。こんなところで不合格になるわけにはいかない。
仰け反った衝撃は片足で踏ん張り、その反動で前方に立つリコッタへチョップを繰り出す。
「おサカナチョップ!」
クロミエ、噂のおサカナチョップ炸裂。普段は温厚なクロミエだが、いざというときはおサカナチョップを繰り出す。以前も道に迷っていたおばあちゃんの頸動脈にもおサカナチョップを繰りだしたことがある。
リコッタは唐突に突き出された技に臆することなく、冷静におサカナチョップを防ぐ。
「おい、なんのつもりだクロミエ。おサカナ試験に不合格で不満か?」
そんな試験ではない。
「待ってください。この魚は、普通の魚ではありません!」
「なに?」
「この魚、喋ってます!」
「ぁ――!?」
背景に稲妻が落ちるほど衝撃を受けるリコッタ。まぁ疑似魔法とはいえ魔法が出せる世界なら動物が喋るくらい珍しいこととも思えないはずだが。
「く、確かにな。能力は平凡な魚だが、よく考えれば喋る魚は特殊だな」
「じゃあ、私の入部を認めてくれるんですか!」
「ふん、甘いな」
チッチッチ。と、舌打ちしながら人差し指を振り鼻で笑うリコッタ。
「クロミエ、お前は大事なことを忘れているぞ」
「な、なんですか。家の鍵ならちゃんと閉めましたよ」
「私はな、この魚のことを一応調べておいただけで、喋るくらいで入部を認めたワケではない」
「そ、そんな! そんなサカナ!」
「そんなバカなみたいに言うな」
「喋る魚なんて凄いじゃないですか! 私のナイス召喚じゃないですか!」
「召喚前に言ったろう。私が指定したものを」
「し、指定?」
「私は確かに言った。妖精を召喚しろと、な!」
「たしか、ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ! って言った後ですよね」
「いやその前だ」
少し巻き戻そう。
『そうだな。まずは試験だから、簡単に妖精を召喚してみようか』
確かに言っている。
「う、たしかにこの魚は妖精じゃないです。でも、妖精並みの凄さはあるじゃないですか!」
「ないな。むしろお前のハジャラハジャラハジャラの舞のほうがよっぽどお祭りだった」
「じゃあハジャラー仲間として、認めてくださいよ」
「私を勝手にハジャラーにするな。なんだハジャラーって」
「じゃあハジャリストですか?」
「ふざけるな。魚でもまぁいいかと思いかけていたが、妖精を召喚できないワケだから入部は認めん」
「えー。小動物系の妖精だってほぼ動物じゃないですか。だったら魚だって妖精ですよ」
「その理屈は認めん。考えてみろ、目の前に魚が現れた魔法少女の気持ちを」
「でも、刺身の状態で現れたら美味しくて幸せじゃないですか」
「常に刺身と一緒にいる魔法少女はもっと嫌だろバカ野郎」
「戦闘中にいつでも食べられるじゃないですか」
「唐突に仲間を屠る魔法少女は絵面がマズすぎる」
「寿司っぽくすればよくないですか?」
「いや、確実に鮮度が落ちている、やっぱりダメだ」
「でもでも、刺身型の妖精なら生きているワケですから鮮度抜群ですよ」
「うーんなるほど。確かに一理ある」
「じゃあ刺身妖精は認めるんですね」
「まぁ、な」
「じゃあ生魚妖精もアリってことですよね?」
「チッ! そういう理屈になるのか!」
魚を認めたくない気持ちと刺身を認めたい気持ち。相反する二つの気持ちがリコッタを襲う。
両手で頭をかかえ悩みに悩むリコッタを尻目にクロミエは魚に問いかける。
「あのー、お魚さんはどう思います?」
「え、僕ですか? あの、ちょっと言いづらかったんですけど、実は僕って歴とした妖精なんですよね」
え――驚きのあまりリコッタの開いた口は塞がらない。
「妖精? おい魚、貴様は妖精なのか?」
「えーっと、僕っていま魔法陣から頭だけ出てる状態じゃないですか」
頷く二人。
「頭は魚ですけど、実は頭から下は普通に妖精っぽい姿なんですよ」
「妖精っぽいっていうのは小動物系か? それとも小人系か? もし後者ならすごい嫌だ」
つまり頭は魚。体は小人。人魚の逆バージョンだから半魚人スタイルである。
「じゃあ僕の体を実際に確認してくださいよ」
魚らしいギョロっとした目でクロミエに合図を送ると、クロミエは首をかしげる。集中して魔法陣から出してくれよ。という意味の合図だったのだがクロミエには通じず、何度か合図を送るもすべて不発。もう無理だコレと思った魚は普通に「集中して外に出してください」と口にするとついにクロミエは理解したのか、ようやく集中した。
ちなみにギョロっとは”魚ロっと”と書くのが正しい書き方である。
集中したことによって魔法陣が淡く光り輝き、魚の下半身――頭から下が魔法陣からぬるりと出てきた。
果たして、その正体は小動物系か、小人系か――。
「さ、魚! その体は!」
魚の下半身が露になる。
まさにこの体――腰にジーンズを履いた半裸の小人であった。
「小人だったぁチクショー!」
不釣り合いな姿に髪をクシャクシャしてショックを受けるリコッタ。
「リコッタさん! しかもジーンズですよ!」
しかも絶妙な高級色に仕上がったジーンズである。若干のダメージ加工が施された巧の一品だ。
「ジーンズだったぁチクショー! 微妙にダメージ加工だチクショウ!」
「よく見るとヴィンテージですよ!」
「ヴィンテージだったぁチクショー!」
「可愛い妖精ですね!」
「クロミエどういうつもりだ! なんでこんな、半魚人というか、半ジーンズ魚人なんか召喚したんだ!」
「だから、召喚しろっていうからやったんじゃないですかぁ」
「可愛い妖精だろ普通は! かっわいい妖精!」
「かっわいいじゃないですか! ジーンズ半魚人!」
「か、かわいい……?」
リコッタ視点、どこから見ても百八十度回転させても可愛くは見えない。半魚人妖精の瞳を凝視すればするほど沸々とイラ立ちを覚えてしょうがないが、その一方可愛さは人それぞれである。
特にリコッタたち女子高生からすれば、だいたいのものは可愛く見えるのである。たとえば猫耳をつけたキュウリだって可愛く見えるし、齧られたキュウリの断面図でさえ可愛く見えるくらいだ。
さて、問題はここからだ。
前提としてこの召喚は入部試験であるが、その合否をリコッタの可愛さ基準で判断してよいのか。否である。部長(といっても部員は一人だが)だとしても具体的な可愛さ基準を定めた試験ではない。
「私の合格を迷ってますねぇリコッタさん」
「あぁ迷ってる。この半魚人め、可愛いくないから可愛いと言いたくない……」
ここで一つ、半魚人はあるアイデアを閃いた。
華麗な二本足でリコッタの前に立ち、咳払い。
「なんだ半魚人」
「僕の特技、見てもらえますか」
「まさか、例の空中三回転カキ氷早食いか?」
「なんですかそれ違います。僕はダンスをします」
半魚人はダンスを披露するため腰を低く構える。
魔界でもすこぶる評判が良いようで、たまに苦情が来ることもあるが、概ね満足する人が多いと噂のダンスである。
「行くぞっ! ダンス、スタ――」
スタート。とはいかなかった。
「待て半魚人、その腰についてるストラップって」
「え、これは……」
魔界限定、魔界ご当地ゆるキャラのストラップである。しかもこれは一年のうちたったの一日だけ販売され二秒で百個が完売したほどの人気アイテムである。
だが、よく見るとブサイクなデザインなのでそのうち九十九人は即座にドブに捨てる不人気っぷりを炸裂させたが、この半魚人だけは見捨てなかった。
「それ、どこで買ったんだ」
実はリコッタ、魔界に飛ばされたときにこのストラップを目撃していた。
たしかに魔界で大人気のものであり、リコッタも気になっていた。天界生まれのリコッタは魔界ゆるキャラなど知る由もないが、九十九人がドブに捨てたデザインに一目惚れした。
紫色の肌に、左右合わせて八つの猫耳。目は六つ。口と鼻の位置が逆で、歯並びが悪い。耳垢も溜まり放題で、歯並びが悪い。
半魚人には苦笑いのリコッタだが、この奇怪な猫には素直に惚れた。
「おい半魚人、まぁその、認めてやってもいいぞ」
頬を赤らめたリコッタは、ストラップをチラ見しながら頷く。
「え、いいのですか?」
「あぁ、いいだろう」
「じゃあ僕のお魚地獄ダンス十八番は……」
「すこぶる興味ない。でもお前を妖精と認めてやる」
もちろんタダとはいかない。
「だがなぁ、えーと、そのストラップは不釣り合いだな」
「あー、これですか」
「それさえ外してくれれば、お前は認めてやるんだが、それさえ没収できればなぁ」
そんなことはただのハッタリで、リコッタは盗む気である。
リコッタはこの押しだけでは足りないと判断し、さらに畳みかける。
「いいのかなぁ、召喚してくれたクロミエお嬢様と一緒にいられるのに、そんなストラップ如きで不合格っていうの。なぁおい」
リコッタはストラップ如きを盗む気である。
鬼と悪魔のハイブリッドが世界征服を達成させたかのような形相である。
「うーん。まぁいいでしょう。実は僕もこいつをドブに投げ捨ててやろうか悩んでたところなんです」
ヨッシャ。
心の中で高々とガッツポーズを決めるリコッタ。
「じゃあリコッタさん! 私の入部を認めてくれるんですよね!」
「つまり、そういうことだ」
両手を広げて万歳三唱するクロミエと半魚人。晴れて試験に合格し、この寂れてカビの生えた魔法刺激部に新メンバーが加入したのである。
リコッタは戦利品であるストラップを、恍惚とした表情で眺める。じっくり観察し、骨の髄まで魔界猫の可愛さを染み渡らせたところで、あることに気づく。
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