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ユニーク:魔法刺激部の悲劇な喜劇
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「地獄のデーモンとか、漆黒の怪物とか、獄炎の悪魔ですか?」
「そんな恐ろしいのはやめろ。妖精と言ったろ」
「妖精……っていうと、小さくて、小動物みたいな可愛い感じのやつですよね。よく連れてる人いますけど」
お供妖精には主に二種類いる。
魔法少女と同行しているような小動物系の妖精と、ピーターパンとかに同行してるような小人系の妖精である。
お供妖精は、魔法少女にとって欠かせない存在というほどではないが、いないよりいるほうが割と役に立つ存在だ。
例えば悪い魔物と戦闘中、横からアドバイスをしてくれたり、あるいは横から余計な口を挟んだり、あるいは斜め後ろから食べ物を奪ったり、あるいは真下から急に出現して自分の顎を殴ってきたりするし、体臭や糞の始末に嫌気がさして魔法陣から送り返されることもある。その場合は手数料がかかるのでケチな魔法使いは妖精いらねぇと思いながらも妖精と同行しているパターンが多い。
「その通りだ。ちなみに召喚経験はあるのか?」
「私、召喚が下手で……魔法陣から妖精の膝しか出せなかったんです。膝だけ召喚するなら右に出る者はいませんよ」
「気の毒な妖精だな」
「たぶん、あっちの世界で膝を抱えたと思います」
「まぁ、また膝だけ出てきても送り返せばいい。とりあえず召喚してみろ」
「はーい! やってみます!」
クロミエは懐からカードを取り出した。繰り返しになるが、この世界では全ての魔法はカードを使用する。カードを左腕のカードリダーに装填し呪文を唱えることで発動するのだ。
ちなみに魔法は拘束などで禁止されていないが、特に授業などに取り入れられているわけでもない。だがもちろん派手に騒ぎすぎると怒られたりカードリダーを没収されたりもする。リコッタはそんなものを守ったことはないので既に三度も没収されているが。
さて召喚を始めようかと思った矢先、ここでリコッタが待ったをかける。
「ところでクロミエ、呪文は?」
「んー? んー? んーまぁはい」
「ぜったい分からないだろ」
「大丈夫ですよ! それっぽいこと適当に言っておけば妖精くらい出ますよ!」
あまりにも自信満々に宣言するクロミエに、さすがのリコッタも肩をすくめる。
しかし、それはそれで面白い物が見れるかもしれないと若干の期待もしていた。
「あのなぁ、人間は誰でも苦手分野があるんだ」
「え? 何か苦手なんですか?」
「私はな、料理が苦手なんだ。絶望的にな」
「料理下手においては右に出る者はいない、と?」
「人間はな、あまりにも料理が下手だと触れた途端に食材が爆発するんだ」
「それはもう魔法では」
リコッタの料理下手については後で語ることにするので覚えておこう。
「それより召喚だ。とりあえずやってみろ」
クロミエは腕のカードリダーにカードを装填。
召喚準備完了、あとは呪文を唱えるだけ。
ここで一旦呼吸を整え、クロミエは大げさに両手を広げた。
どこから用意したのか、いつの間にか黒マントを身にまとい、金色の杖を手にしている。
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「おいクロミエとやら、貴様なにを」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラジャラ!」
クロミエのテンションがグングン上がる。
呪文らしき雄叫びは部屋中に木霊し、謎の舞を繰り広げる。
「す、すごい! よく分からんが、部族のような宇宙人のような、魔物の呪いのような、形容しがたい舞を舞っている!」
その舞、まさに前人未到。人類が知らない世界が収束されたような、気持ち悪いがそれでいてキレのある舞だ。
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「クロミエとやら、貴様がそんな形容しがたい舞を見せるのならば、私も一緒にやってやる!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ちょっと待って」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ちょ、ちょっと待って」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ストップ!」
の一声で、形容しがたい舞は中止した。
「ちょっと待って、一ついい?」
「ん?」
「これどっちのセリフ?」
「私はクロミエですけど」
「うん、分かった。ところでさっきの形容しがたい舞で、召喚はできたのか?」
「あ、今のは召喚の儀式とは関係ないです」
「ふざけるな! 関係ないことするな!」
「で、でも! ちょっと息抜きしたいじゃないですか!」
「本題に入る前に息抜きするな!」
「えー。あ、はぁい。」
気を取り直し、クロミエは魔法陣に両手を突き出した。
「クロミエ、呪文はあるのか?」
「ありますよ! シャンベルタン!」
呪文を唱えた直後、部屋の空気が一変した。
文字通り、肌に触れる空気の感触が違う。気温の上下では断じてない。魔法陣を中心に、人間界の空気と魔界の空気とが交じり合い、部屋全体に微弱な振動が発生する。
例えるなら化学反応――魔法と科学は紙一重と言う者もいるが、強ち間違いではない。
「これ、召喚に成功してるんだよな?」
「してますね。この感じ、間違いなく」
召喚したときのエネルギーが電撃のように迸り、煙が充満する。厳密には、煙に似たエネルギーの霞が零れているだけだが、彼女たちは知らない。
数十秒後、窓を開けて煙を追い出し視界を確保。
「で、クロミエどうなんだ?」
「成功でーす」
と言っても、召喚獣らしき生物は見えない。
唐突に変な音――がどこからか聞こえた。
ゴホン。ゴホン。
この音は――まさに、
「咳払い……か?」
この音、ゴホンゴホンという音。咳払いである。しかも、ちょいとおじさん臭い雰囲気の咳払いである。
「貴様か、リコッタ」
「私、こんな渋い咳払いしないです」
「じゃあどんな咳払いをするんだ?」
「もっとこう、心に響くような咳払いをします。右に出る者はいませんよ」
「どうでもいい。それより、謎の咳払いはどこからだ?」
二人揃って周囲の様子を伺う。
隅っこ、右の隅っこ、左の隅っこ、上の隅っこ、上斜め前の隅っこ、あらゆる隅っこを確認するが、咳払いの正体は掴めない。
「私たち、さっきから隅っこばかり確認してません?」
「そうだな」
気を取り直し、一番怪しそうな魔法陣に視線を移す。
その魔法陣から、何かが出ていた。
出ていたというのは物理的な意味の出ていたであって、魔力や元素が出ていたわけではない。
「これは、なんだクロミエ」
「え? 魔法陣ですけど」
「そうじゃない、その魔法陣から出ている何かはなんだ」
「さぁ、小松菜とかじゃないですか」
「なんで小松菜が出てくるんだ。あれ召喚獣の一部だろ」
恐る恐る接近して、確認する。
ヌメヌメした質感。青白いウロコのようなもの。怪しくパクパク動く口らしきもの。
まさにこれは、
「魚だな」
「魚ですね」
厳密に言うと目のあたりから口先までが魔法陣から出ている。ちなみにサイズはサンマくらいだ。
「お前、魚だな」
とリコッタが問いかけると、魚はスゥーっと息を吸い「ゴホン。ゴホン」と咳払い。
「いかにも、僕が魚です」
「咳払いの正体はお前か」
「そうです、僕が召喚されたのに誰も気づかないから、仕方なく咳払いをしたのです」
「だ、そうだ。クロミエ、召喚した本人がなんとかしてくれ」
「えー? そう言われても」
クロミエはふるふると首を横に振り否定する。
いや確かにクロミエは召喚に成功したのだが、あまりにも召喚したのが微妙な生き物だったので少々――いやけっこう――いやかなりガッカリしていた。
本当はドラゴンやペガサスなど、もっと猛々しく神々しい雰囲気の召喚獣を想像していた。しかし蓋を開けてみれば、まさかの魚。まさかの魚である。
「そう言われても、じゃないだろ。パンダと書かれた檻をよく見たら部分的に脱色されたクマが入っていた気分だ」
「えー? マグロならよかったですか?」
「そういう問題じゃない。お前が召喚したんだから、お前がこの魚野郎を処理してくれ」
「えー、分かりましたよ」
渋々――いやそれを超越した渋々々々くらいの渋さで魚の前に立つ。
「僕を召喚したのはあなたですか?」
「そうだよ、私クロミエ・ラクレット。よろしくね」
「おークロミエさん。あなたのような純粋そうなお嬢さんが召喚主でよかった!」
「え? あ、ありがとう」
「もしもそっちの目つきの悪いほうだったら失神してましたよ」
目つきが悪いほう。つまりリコッタのことである。
「それで、僕を召喚して何か意味があるんですか?」
「特に用はないけど、目つきの悪い人が言うから渋々ね」
目つきが悪い人というのはリコッタだ。
「それは私のことか」
その通りである。
「で、リコッタさん。この召喚って試験なんですよね。言われた通り召喚成功しましたけど」
リコッタは腕を組みながら魚を観察。
出来がいいビジュアルとは言い難いうえ戦闘力も低そうだが、生物学上は召喚獣であり、一応条件は満たしている。
「そうだな、少なくとも膝だけの召喚は免れたからな、合格点だ」
膝だけ召喚よりは何倍もマシである。不本意だが合格と言わざるを得ない。
「おい魚、一つ聞きたい」
「は、はい」
以下、魚の気持ちである。
僕は、純粋な女性としか喋らない主義なんです。失敬な女だ。クロミエ様と同じ空気を吸うこと自体が腹立たしい。
果たして、このリコッタとかいう意地汚さそうで不機嫌そうで清楚の欠片もなく目つきが悪い女の質問になど答えていいものだろうか。僕がこの世界に呼ばれた理由、それはクロミエ様に忠誠を誓い、目つきの悪い女を倒すことではないか。魚である以上、武器は使えない。サメならよかったのに! クソ! なんで自分はサメじゃないんだ! チクショー!
以上が魚の気持ちである。
「そんな恐ろしいのはやめろ。妖精と言ったろ」
「妖精……っていうと、小さくて、小動物みたいな可愛い感じのやつですよね。よく連れてる人いますけど」
お供妖精には主に二種類いる。
魔法少女と同行しているような小動物系の妖精と、ピーターパンとかに同行してるような小人系の妖精である。
お供妖精は、魔法少女にとって欠かせない存在というほどではないが、いないよりいるほうが割と役に立つ存在だ。
例えば悪い魔物と戦闘中、横からアドバイスをしてくれたり、あるいは横から余計な口を挟んだり、あるいは斜め後ろから食べ物を奪ったり、あるいは真下から急に出現して自分の顎を殴ってきたりするし、体臭や糞の始末に嫌気がさして魔法陣から送り返されることもある。その場合は手数料がかかるのでケチな魔法使いは妖精いらねぇと思いながらも妖精と同行しているパターンが多い。
「その通りだ。ちなみに召喚経験はあるのか?」
「私、召喚が下手で……魔法陣から妖精の膝しか出せなかったんです。膝だけ召喚するなら右に出る者はいませんよ」
「気の毒な妖精だな」
「たぶん、あっちの世界で膝を抱えたと思います」
「まぁ、また膝だけ出てきても送り返せばいい。とりあえず召喚してみろ」
「はーい! やってみます!」
クロミエは懐からカードを取り出した。繰り返しになるが、この世界では全ての魔法はカードを使用する。カードを左腕のカードリダーに装填し呪文を唱えることで発動するのだ。
ちなみに魔法は拘束などで禁止されていないが、特に授業などに取り入れられているわけでもない。だがもちろん派手に騒ぎすぎると怒られたりカードリダーを没収されたりもする。リコッタはそんなものを守ったことはないので既に三度も没収されているが。
さて召喚を始めようかと思った矢先、ここでリコッタが待ったをかける。
「ところでクロミエ、呪文は?」
「んー? んー? んーまぁはい」
「ぜったい分からないだろ」
「大丈夫ですよ! それっぽいこと適当に言っておけば妖精くらい出ますよ!」
あまりにも自信満々に宣言するクロミエに、さすがのリコッタも肩をすくめる。
しかし、それはそれで面白い物が見れるかもしれないと若干の期待もしていた。
「あのなぁ、人間は誰でも苦手分野があるんだ」
「え? 何か苦手なんですか?」
「私はな、料理が苦手なんだ。絶望的にな」
「料理下手においては右に出る者はいない、と?」
「人間はな、あまりにも料理が下手だと触れた途端に食材が爆発するんだ」
「それはもう魔法では」
リコッタの料理下手については後で語ることにするので覚えておこう。
「それより召喚だ。とりあえずやってみろ」
クロミエは腕のカードリダーにカードを装填。
召喚準備完了、あとは呪文を唱えるだけ。
ここで一旦呼吸を整え、クロミエは大げさに両手を広げた。
どこから用意したのか、いつの間にか黒マントを身にまとい、金色の杖を手にしている。
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「おいクロミエとやら、貴様なにを」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラジャラ!」
クロミエのテンションがグングン上がる。
呪文らしき雄叫びは部屋中に木霊し、謎の舞を繰り広げる。
「す、すごい! よく分からんが、部族のような宇宙人のような、魔物の呪いのような、形容しがたい舞を舞っている!」
その舞、まさに前人未到。人類が知らない世界が収束されたような、気持ち悪いがそれでいてキレのある舞だ。
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「クロミエとやら、貴様がそんな形容しがたい舞を見せるのならば、私も一緒にやってやる!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ちょっと待って」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ちょ、ちょっと待って」
「ハジャラハジャラハジャラ! ヨー! ハジャラハジャラハジャラ!」
「ストップ!」
の一声で、形容しがたい舞は中止した。
「ちょっと待って、一ついい?」
「ん?」
「これどっちのセリフ?」
「私はクロミエですけど」
「うん、分かった。ところでさっきの形容しがたい舞で、召喚はできたのか?」
「あ、今のは召喚の儀式とは関係ないです」
「ふざけるな! 関係ないことするな!」
「で、でも! ちょっと息抜きしたいじゃないですか!」
「本題に入る前に息抜きするな!」
「えー。あ、はぁい。」
気を取り直し、クロミエは魔法陣に両手を突き出した。
「クロミエ、呪文はあるのか?」
「ありますよ! シャンベルタン!」
呪文を唱えた直後、部屋の空気が一変した。
文字通り、肌に触れる空気の感触が違う。気温の上下では断じてない。魔法陣を中心に、人間界の空気と魔界の空気とが交じり合い、部屋全体に微弱な振動が発生する。
例えるなら化学反応――魔法と科学は紙一重と言う者もいるが、強ち間違いではない。
「これ、召喚に成功してるんだよな?」
「してますね。この感じ、間違いなく」
召喚したときのエネルギーが電撃のように迸り、煙が充満する。厳密には、煙に似たエネルギーの霞が零れているだけだが、彼女たちは知らない。
数十秒後、窓を開けて煙を追い出し視界を確保。
「で、クロミエどうなんだ?」
「成功でーす」
と言っても、召喚獣らしき生物は見えない。
唐突に変な音――がどこからか聞こえた。
ゴホン。ゴホン。
この音は――まさに、
「咳払い……か?」
この音、ゴホンゴホンという音。咳払いである。しかも、ちょいとおじさん臭い雰囲気の咳払いである。
「貴様か、リコッタ」
「私、こんな渋い咳払いしないです」
「じゃあどんな咳払いをするんだ?」
「もっとこう、心に響くような咳払いをします。右に出る者はいませんよ」
「どうでもいい。それより、謎の咳払いはどこからだ?」
二人揃って周囲の様子を伺う。
隅っこ、右の隅っこ、左の隅っこ、上の隅っこ、上斜め前の隅っこ、あらゆる隅っこを確認するが、咳払いの正体は掴めない。
「私たち、さっきから隅っこばかり確認してません?」
「そうだな」
気を取り直し、一番怪しそうな魔法陣に視線を移す。
その魔法陣から、何かが出ていた。
出ていたというのは物理的な意味の出ていたであって、魔力や元素が出ていたわけではない。
「これは、なんだクロミエ」
「え? 魔法陣ですけど」
「そうじゃない、その魔法陣から出ている何かはなんだ」
「さぁ、小松菜とかじゃないですか」
「なんで小松菜が出てくるんだ。あれ召喚獣の一部だろ」
恐る恐る接近して、確認する。
ヌメヌメした質感。青白いウロコのようなもの。怪しくパクパク動く口らしきもの。
まさにこれは、
「魚だな」
「魚ですね」
厳密に言うと目のあたりから口先までが魔法陣から出ている。ちなみにサイズはサンマくらいだ。
「お前、魚だな」
とリコッタが問いかけると、魚はスゥーっと息を吸い「ゴホン。ゴホン」と咳払い。
「いかにも、僕が魚です」
「咳払いの正体はお前か」
「そうです、僕が召喚されたのに誰も気づかないから、仕方なく咳払いをしたのです」
「だ、そうだ。クロミエ、召喚した本人がなんとかしてくれ」
「えー? そう言われても」
クロミエはふるふると首を横に振り否定する。
いや確かにクロミエは召喚に成功したのだが、あまりにも召喚したのが微妙な生き物だったので少々――いやけっこう――いやかなりガッカリしていた。
本当はドラゴンやペガサスなど、もっと猛々しく神々しい雰囲気の召喚獣を想像していた。しかし蓋を開けてみれば、まさかの魚。まさかの魚である。
「そう言われても、じゃないだろ。パンダと書かれた檻をよく見たら部分的に脱色されたクマが入っていた気分だ」
「えー? マグロならよかったですか?」
「そういう問題じゃない。お前が召喚したんだから、お前がこの魚野郎を処理してくれ」
「えー、分かりましたよ」
渋々――いやそれを超越した渋々々々くらいの渋さで魚の前に立つ。
「僕を召喚したのはあなたですか?」
「そうだよ、私クロミエ・ラクレット。よろしくね」
「おークロミエさん。あなたのような純粋そうなお嬢さんが召喚主でよかった!」
「え? あ、ありがとう」
「もしもそっちの目つきの悪いほうだったら失神してましたよ」
目つきが悪いほう。つまりリコッタのことである。
「それで、僕を召喚して何か意味があるんですか?」
「特に用はないけど、目つきの悪い人が言うから渋々ね」
目つきが悪い人というのはリコッタだ。
「それは私のことか」
その通りである。
「で、リコッタさん。この召喚って試験なんですよね。言われた通り召喚成功しましたけど」
リコッタは腕を組みながら魚を観察。
出来がいいビジュアルとは言い難いうえ戦闘力も低そうだが、生物学上は召喚獣であり、一応条件は満たしている。
「そうだな、少なくとも膝だけの召喚は免れたからな、合格点だ」
膝だけ召喚よりは何倍もマシである。不本意だが合格と言わざるを得ない。
「おい魚、一つ聞きたい」
「は、はい」
以下、魚の気持ちである。
僕は、純粋な女性としか喋らない主義なんです。失敬な女だ。クロミエ様と同じ空気を吸うこと自体が腹立たしい。
果たして、このリコッタとかいう意地汚さそうで不機嫌そうで清楚の欠片もなく目つきが悪い女の質問になど答えていいものだろうか。僕がこの世界に呼ばれた理由、それはクロミエ様に忠誠を誓い、目つきの悪い女を倒すことではないか。魚である以上、武器は使えない。サメならよかったのに! クソ! なんで自分はサメじゃないんだ! チクショー!
以上が魚の気持ちである。
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