第六王子は働きたくない

黒井 へいほ

文字の大きさ
6 / 35

2-1 問題は複数襲い掛かる

しおりを挟む
 ファンダルの反乱について、少し疑問に思っていた点の聞き取りを行う。
 どうにも、ジェイの計画はもう少し先に行う予定だったらしい。だが、俺が来たことでファンダルが焦って行動を起こし、今しかないと慌てて決行したようだ。道理で、シヤとの連携が悪かったわけだな。

 大体の話が終わり、深く頷く。本題はここからだった。
 司令室内にいるジェイ、シヤを見る。エルペルトは後ろに立っていた。

「さて、では諸君らの力を借りたい。早急にだ」
「任せてくださいよ、セス司令。オレたちはあんたに恩がある。徹夜仕事だって喜んでやらせてもらいますよ」

 ジェイの言葉に、シヤも頷いている。
 頼もしいなと思い、頭を抱えている問題を打ち明けさせてもらうことにした。

「実は第三王子、ティグリス=カルトフェルン殿下がオリアス砦を視察しに来る」
「それは急ですね。いつごろですか?」
「十日後だ。それまでに兵の補充と訓練も行い、可能な限り形にしてもらいたい」
「無理です」

 ジェイは手を前に出し、ピシャリと言い切った。先ほどまでの頼もしさはまるで感じられない。

「そもそも、今は放置されていた砦の修繕と、周囲の調査を行っています。何年もやっていませんからね。攻め込まれたら、普通に壊れるし、地形が変わっているところを抜けられて、想定外の場所から狙われる可能性だってあります。割とヤバい状況なんですよ」
「……どうしよう」

 普通に弱気を口にすると、ジェイが渋い顔を見せる。情けない司令に困っているのかもしれない。
 ここは他の人の意見も聞こうと、シヤへ目を向けた。

「シヤ。君はどう思う?」
「当たり障りの無いことしか言えませんが、とりあえず修繕箇所のチェックを行い、見栄えだけ整えましょう。後にしっかりと修繕を行います」
「ふむ」
「調査の人手も減らし、最低限だけ調べさせます。視察を乗り切ることを最優先としましょう」
「増員については?」

 シヤは躊躇わず両手を上げた。策は無いようだ。
 現在、オリアス砦内の兵は百と少し。これから二百人以上増やすのは現実的じゃない。

「……とりあえず、数だけ増やすのはどうだ?」
「よく分からないやつらを雇って砦に入れるんですか?」
「10人ずつで組ませ、外を巡回させるのはどうだろう」
「あー、それは悪くないですね。山賊が出たことにして、警備を厚くしているとかいいましょうか。ん、いけそうだ!」

 ティグリス殿下の目を誤魔化せるとは思えないが、兵の錬度が低いと怒られるだけで済むかもしれない。
 十日後だけ凌げればいい。俺たちはそう思って話し合っていたのだが、シヤが本当に申し訳なさそうな顔で片手を上げた。
 当然、全員がシヤを見る。

「あの、後で申し上げようと思っていたのですが……」
「どうした」
「……現在、オリアス砦は財政難です! 人を雇う金など捻出できません!」

 意味が分からず、目を瞬かせる。

「いや、ファンダルが隠していた金があるだろう?」
「あるはずだと思っておりましたが、ファンダルは金の在処を吐いておりません! 見つかっていない以上、金は無いのと同じです!」

 もうやだと、顔を隠すのに時間はかからなかった。


 二人を仕事へ戻し、エルペルトの注いでくれたお茶を飲みながら考える。
砦内に残っている資財と、僅かな資金で足りない物を買い入れて修繕を行う。後は、兵たちが木を切り倒し、獣を狩って食材にする必要がある。
 次、いつになれば金が入るのかも分からない。
 なんとしてもファンダルに吐かせなければならないが、それはシヤたちに任せよう。恨みも多いらしく、中々厭らしい尋問を行っていると、ジェイが顔を青くしていたくらいだ。

 後十日で、金と兵と金と金と金をどうにかしなければならない。
 なにか良い手は無いかと指先で机を突いていると、エルペルトが言った。

「セス殿下。お忙しい中に申し訳ないのですが、少しお願いがございます」
「その言い方からして、今回の件には関係無さそうだな。まぁいい、とりあえず言ってくれ」

 一度、ファンダルの件を頭から追いやり、彼の話を聞くことにする。
 エルペルトは深々と一礼し、話を始めた。

「私一人でセス殿下の護衛をするのは、無理があると思っております。ですので、もう一人増やしたいと考えておりますがよろしいでしょうか?」
「うーん……。言っていることは分かるが、今は無理だな。兵を割くのも難しいし、人を雇う金も無い。視察が終わってからでもいいか?」

 確かに、エルペルトが一人で気を張っている状況には無理がある。なので、その提案は前向きに検討しようと思っていたのだが、エルペルトは笑顔で首を横に振った。

「兵も使いませんし、金も後で平気です。呼び寄せたいのは、私の娘ですから」
「娘? 娘も腕が立つのか?」
「えぇ、我が弟子の中でも上位の腕前です」

 彼が断言するほどだ、かなりの実力を持っているのだろう。
 よし、と手の平を叩いた。

「許可しよう。これで、頭数が一人増えたな。……待てよ? 弟子がいるのか? あぁいや、なんでもない。忘れてくれ」
「言う前にお気づきになられたようですが、先代剣聖の弟子がオリアス砦の兵になっている、という状況は危険です。戦力を集めているとしか思えませんからな」
「だよなぁ……。とりあえず、ジェイが連絡をとれる仲間に声を掛けてくれているらしいから、それで何人増えるかだな」

 俺の言葉にエルペルトが頷く。
 互いに良い手は浮かんでおらず、追い詰められているなと再認識することになった。


 そして、この対策が浮かばない状態のまま、三日を無駄にしてしまう。
 ゲッソリしていたのだが、今日は周囲の地形を実際に見ておいたほうが良いだろうということで、エルペルトと調査部隊と共に、山中を歩いていた。

「足元にお気を付けください」
「あぁ、分かった。……それにしても空気がうまいな!」

 引き篭もりだったが体力はそれなりにある。こんな風に山の中を歩くのは初めてで、若干テンションを上げながら進んでいた。
 ここには崖がある。あそこには水脈がある。地図を見ながら、そういった説明を聞いているだけで面白い。
 なんせオリアス砦は、もう二十年以上攻め込まれていない砦だ。先日、ファンダルのバカのせいで反乱はあったが、基本的には安全である。

 ホライアス王国側にも動きは見られないところから、ファンダルとの連絡がとれなくなり、中止したのだろうとジェイが言っていた。相手の危険意識の高さに救われたな。
 ピクニック気分のまま調査を行い、昼休憩となった。

「このまま何事もなく終わりそうだな」
「はい、セス殿下……?」

 話の途中でエルペルトは立ち上がり、薄く目を開いて森の先を見始めた。
 熊か虎でも出たか? こっちには先代剣聖がいるんだぞ! かかってこいや! できれば来ないで! くらいの気持ちでいたのだが、森から現れた小さな影に気付き、走り出した。

「セス殿下! お待ちください!」

 エルペルトの慌てた声を無視し、血塗れな少女の元へ走る。……だがすぐに追いつかれ、エルペルトが並走しながら話しかけて来た。

「先行するのは危険です」
「ぜぇ……ぜぇ……。いや、だって子供、血が……」
「私が先に確認してきます。殿下はゆっくり来てください」

 そう言い残し、エルペルトは風のような速さで駆けて行った。体力や足の速さではなく、そもそも同じ人間なのだろうか? と疑ってしまうほどの速さだった。

 俺が息を切らせながら辿り着くと、エルペルトは周囲を警戒しながら、少女の怪我を確認していた。距離を取らせないところから、一応敵などは近くにいないのだろう。
 少女へ近づき、屈んで笑顔を見せる。

「ど、どうしたのかな……はぁ……はぁ……。変質者みたいじゃない? 大丈夫?」
「普段と変わらぬ好青年です」

 エルペルトの言葉に、それは嘘だろと脳内でツッコミを入れていると、少女が俺の服を掴み、目を見開いて言った。

「――たすけて」

 なにから? と聞くよりも早く、少女の体が崩れ落ちる。慌てて支えたが、小さな寝息が聞こえて来た。体力の限界だったのだろう。
 少女を抱き上げ、エルペルトを見ながら言った。

「こんなの、助けるしかなくないか? また仕事が増えたぞ?」

 渋い顔の俺に対し、エルペルトは笑顔で言った。

「ご立派です、セス殿下」

 今度は深く、溜息を吐いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...