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3巻
3-2
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たわいもないやり取りをしつつ、俺たちはエルジジィの家を目指して歩く。
エルジジィは鍛冶師で、俺の鉄パイプを作ってくれた親切な爺さんだ。この町の知り合いなんてエルジジィくらいしかいねぇし、ちょっくら挨拶しておきたかった。
この辺りだったかな、と記憶を掘り起こしていた時――目の前で、ガタガタッと物が崩れる音がした。
一年前にもこんなことがあったよなぁ。あの時は、エルジジィが変な奴らに絡まれていた。懐かしいもんだ。
思い出し、くすりと笑う。そして前を見ると、出店の荷物が崩れて道へ広がっていた。
荷物の前には慌てているババァ。後、見覚えのある二人組の男がいる。
「おいババァ! 誰に断って物売ってんだ!?」
「べ、別にあんたらに断る必要はないだろう」
「あぁ? 舐めてんのか? アニキ、やっちまいますか?」
「痛い目に遭わねぇと分からないみてぇだな」
……本当に変わってねぇなぁ!
少し呆れながら、俺は男たちに近づいた。
「おい、てめぇら」
「あぁ!?」
声をかけると、馬鹿の見本みてぇな二人組が俺を見た。
……間違いねぇ、あの時の馬鹿二人だ。
俺がボコって反省したかと思っていたが、まるで変わってねぇ。本当に仕方のない奴らだ。
やれやれと両手を上げて首を振ると、アニキと呼ばれたスキンヘッドに胸ぐらを掴まれた。
「なんだおらぁ! 俺たちに文句でもあんのか!?」
「ん? あれ、お前ら俺のことが分かんねぇのか?」
「なんだ、知り合いみてぇなこと言いやがって。てめぇなんか知るわけねぇだろうが!」
鶏以下の頭だな。と思ったが、すぐさま理由に思い当たった。
そうか、髪が伸びてて目が隠れているせいか。道理で、町の中を歩いているのに、誰も俺を避けたりしなかったわけだ。前だったら、目が怖ぇって離れてったもんな。
うざってぇから髪を切ることは決定だが、利点もあったのか。
なるほどと頷いていると、苛立つ男にドンッと突き飛ばされた。
「よそ者はすっこんでろや!」
「おらぁ!」
「ぐぼぁっ!?」
「アニキいいいい!?」
俺は思い切りスキンヘッドの顔面をぶん殴ってやった。へっ、いいのが見事に決まったな。
突き飛ばされたので正当防衛が成り立つ。完璧だ。
ったく、話の途中で人のことを突き飛ばしやがって。ざっけんじゃねぇぞ!
さて、まだ終わりじゃねぇからな? スキンヘッドの隣でおろおろしている手下っぽい男を、横から蹴飛ばす。ボールみてぇに転がりやがった。
まだやるか? とことん相手になってやんぞ?
俺はにやりと笑いながら、髪をかき上げる。
次の瞬間、真っ赤だった二人の男の顔が、真っ青に変わった。
「て、てめぇ……あの時の!?」
「覚えてたか。嬉しいねぇ。じゃあ、今度は改心するまで性根を叩き直してやるか! 物理的にな!」
「「ひいいいいいいいい!」」
――ボコボコにした二人を、道端に正座させる。反抗的な態度が見えるたびに鉄パイプで地面を叩くと、びくりとして静かになった。
しょうもねぇこいつらをどうするか。悩んでいたら、肩を強く掴まれた。
「ここら辺で騒いでいたのは、お前たちか」
「あぁ? ……鎧? なんだ、てめぇらは」
「私たちはカーラトの町に配備されている衛兵だ。大人しくついてこい!」
ついてこいだぁ? 今さら現れて、何様だ? 俺はババァを助けたんだぞ?
ちなみにババァは、俺が男たちをボコっている間に店を畳んでどっかにいっちまった。一応、遠くから礼は言っていたが。
俺が苛立っていると、成り行きを見守っていたグス公が割り込んできた。
衛兵たちは「なんだこの小娘は?」といった感じだったが、すぐに気づき、跪く。
「こ、これはグレイス様! すぐにこいつらは連れて行きますので、ご安心ください!」
「ご苦労様です。しかし、そこの目つきが鋭くて明らかに悪の親玉みたいな男性は、私の知り合いです。放していただけますか?」
……グス公の奴、さらっと悪口言いやがった。後でデコピンだな。
「こいつが……? いえ、失礼いたしました。おい、彼を解放しろ」
解放するのはいいが、先に謝るべきじゃねぇのか? 睨みつけて舌打ちをしたが、衛兵たちは目を逸らすだけだった。
あー、気分悪ぃ。納得できずにいたが、衛兵が男二人を槍の柄でぶん殴り、無理矢理立たせているのを見て、俺はぎょっとした。
「おい、やりすぎじゃねぇか?」
「これは我々の仕事だ、口を挟むな。お前ら、当分出てこられないと思えよ!」
がっくりと項垂れる二人組。こいつらが悪いから仕方ねぇ。仕方ねぇんだが……なんか、もやっとする。
こいつらが悪さしたのは初めてじゃない、二度目だ。救いようがねぇのかもしれない。
だが、ここまでボコボコにした。もう一回くらいチャンスをやってもいいだろ?
どうすればいいのか分からず、胸にある妙な感じだけが強くなっていく。
そんな俺の様子に気づいたのか、グス公がため息を吐いた。
「零さん、彼らは悪人です。罪は償うべきなんです」
「いや、分かってんだけどよぉ……」
「まったく、しょうがない人ですね。自分であれだけやったくせに、変なところでお人好しです。でも、それが零さんですね」
「本当に変わった奴だ」
褒められてんのか貶されてんのか、よく分からねぇ。でも、グス公たちは笑顔だった。
チビ共も笑ってるが、俺からしたら変なのはお前らのほうだぞ? 未だにチビ共は謎だらけだからな。
グス公は、男共を無理矢理連れて行こうとしている衛兵たちを止めた。そして男二人の前へ行き、しっかりとその目を見ている。見定めているような感じだ。
ふむ、と頷いたグス公は口を開いた。
「もう二度と、罪を犯さないと約束できますか?」
「はい! 絶対悪さしません!」
「分かりました。では、今回だけ見逃します」
「グレイス様! それでは示しが……」
「大丈夫です。次に何か仕出かしたら、二度と牢から出てこられないようにしてください」
笑顔で、グス公は恐ろしいことを口にした。
もう一度チャンスをくれてやる。だが、それを無下にしたら……分かってるな?
そう脅すグス公の笑顔を見て、ぶるりと体が震える。
でも、少しだけほっとした。ありがとうな、グス公。
衛兵は町の見回りに戻り、男二人も頭を下げて立ち去った。
俺たち以外がいなくなったのを確認し、グス公に礼を言うことにした。
「悪ぃな。いや、ありがとな」
「いいんですよ。でも、次は零さんが何を言っても助けませんからね!」
「おう、二度も見逃してやったんだから、次は処刑でもなんでもしちまえ」
「グレイス様はそこまではしないと思うが……しませんよね?」
「しませんよ! なんでリルリは、私ならやりかねない、みたいな言い方をするんですか!」
いつもの感じに戻り、俺たちは再び歩きだした。
あいつらもこれで改心してくれるといいんだがなぁ。
第四話 なんでてめぇがここにいるんだ!
やっとエルジジィの家に辿り着いた。家の煙突からは、相変わらず煙が上がっている。懐かしいな。
嬉しい気持ちを隠せないまま、俺は扉を強く叩いた。
「エルジジィいるか!」
「やかましいわ! 誰じゃ! ……おぉ、若いの!」
扉が開かれ、懐かしい顔が出てきた。一年くらいじゃ全然変わってねぇな!
俺は嬉しくなってエルジジィの肩を叩く。合わせるように、エルジジィも俺の胸元を叩いた。
「久しぶりだな!」
「精霊の森で頑張っていたと聞いておる! 詳しい話は彼から聞いたぞ! 丁度来ておるし、お前も入れ入れ!」
彼? 彼って誰だ?
彼、彼……坊ちゃんか! 俺のことを話す野郎なんて、あいつくらいしかいねぇ。
光の大精霊である坊ちゃんは、俺が精霊の森に行った後、こっちに残ってグス公たちの手伝いをしてるって話だったな。
城に行くまで会えないと思っていたが、妙なところで会えるもんだ。へへっ、あいつ元気にしてんのか?
懐かしさでにやけつつ中に入ると、丸い何かが立ち上がり、片手を上げた。
「久しぶりがな!」
「……タイムだ。ちっとやり直すぞ」
「なるほど、会えたことが嬉しくて気持ちの整理がつかないがな? 構わないがな!」
眉間に手を当て、ぐっと押す。
えーっと、なんだ? 俺の予定では、ここにいるのは坊ちゃんだったはずだ。
なのに、全然違う奴が嬉しそうな顔をして俺を見ている。
胸元まで伸びた髭。濃いすね毛……と、腕の毛。岩のような被り物。
……間違いねぇ。
にこにこと笑っている土の大精霊を、俺は思い切り指差した。
「なんでてめぇがここにいるんだ!」
「感動の再会じゃなかったがな!?」
感動の再会だぁ? そんなのあるわけねぇだろ!
俺は坊ちゃんかと思って、あの野郎小突いてやろうかな、とか、そういう気分でいたんだ。
なのに、中で待っていたのは変態大精霊。感動するわけがねぇ!
納得いかず睨みつけていると、エルジジィが俺の背中を叩いた。
「よく分からんが、とりあえず中へ入らんか」
「お、おう、そうだな」
「お茶でも飲めば落ち着くがな」
「てめぇは帰れ」
「ひどいがな!」
ひどいのはどっちだ? むしろ俺に謝れってんだ。
ぶつぶつと呟きつつ、土の大精霊を睨みつけながら、俺はエルジジィの家に入った。
部屋の中に入り、椅子へ座って出されたお茶を飲む。
だが終始、俺はがながな大精霊を見続けていた。手には鉄パイプを握ってな。
それに気づいている土の大精霊も、気まずそうに目を逸らしている。
誰もが無言で嫌な空気が流れていたのだが、グス公が躊躇いがちに口を開いた。
「えっと、土の大精霊さんお久しぶりです」
「一ヵ月振りがな!」
「一ヵ月振りだぁ?」
「ひぃ! なんで怒ってるがな!? この女子二人は毎月精霊の森のあった場所へ来ていたので、よく会っているがな。そもそも、精霊の森を盗ったのは零がな! お蔭で、わしは町の近くの森に居場所を変えることになったがな!」
あ、あぁ……。そういや、そんなこともあったな。
都合の良い場所だったので、何も考えずに使わせてもらったが……。
そうか、こいつ移動していたのか。まぁ、精霊の森には入れねぇんだから、移動するしかねぇよな。
事情が分かり、俺は握っていた鉄パイプを放した。
こいつを見ると、どうにも警戒心が高まってしょうがねぇ。
しかし、このことに関しては俺が悪い。素直に謝っておくか。
「おい」
「ど、どうしたがな」
「それについては、俺が悪ぃ。すまなかった」
「……別にいいがな。自分が移動するだけで、精霊たちは助かった。謝る必要はないがな」
穏やかな笑みで、土の大精霊は頷いている。その顔には、俺を責めるどころか感謝すら浮かんでいた。
全く咎められず、真っ直ぐに感謝される。それはすごく恥ずかしいもんで、土の大精霊への態度が良くなかったなと反省もした。
その後、和やかに話していたのだが、俺はふと思いついた。
このすね毛の変態は一応大精霊だ。もしかしたら何か異変に気づいているかもしれねぇ。
だが、いきなり切り出すのもあれだ。小話を交えながら聞くことにするか。
「なぁ、お前なんでここにいるんだ? 移ったっつっても、普段は森で生活しているんだろ?」
「あぁ、そのことがな。実は……」
「儂が森の中で使えそうなもんを探しているときに、偶然知り合ったんじゃ。良い鉱物のある場所とかを教えてくれてな。それからよくうちに遊びに来ておるぞ」
「エルジーに全部言われたがな! まぁ鉱物と間違えて、ピッケルで叩かれそうになったのには驚いたがな」
「そんな格好してればなぁ」
岩の被り物を、本物の岩だと勘違いして採ろうとしたわけか。まぁ触っても区別つかねぇもんなぁ。
さて、そんじゃ本題に入るか。
そう思ったとき、グス公が俺の肩を叩いた。
「零さん、私たち毎月精霊の森のあった場所へ行っていたんですよ」
「おう、そんなこと言ってたな。……散歩か?」
「お前、本気で言ってるのか?」
「あぁ? 違うのか?」
二人は、こいつ何言ってんだ? って感じの顔だ。
チビ共は、にやにやとしながら俺を見ている。俺が恥ずかしくて誤魔化してるってことがバレてるみてぇだ。
いや、だってよぉ。会えるわけでもない俺のところへ毎月通ってたんだろ? なんかそれって……嬉しいじゃねぇか。
グス公たちは、むーっと膨れっ面をしているが、勘弁してくれ。
俺は話を逸らそうと、今度こそ本題に入った。
「そういえば、変わったことねぇか? 異変っつぅか、異常っつぅか。なんか起きていると思うんだが」
「異常……? 世界は落ち着いているし、植物もよく育つがな。魔力が十分足りている証拠がな」
「そっか、何もねぇのか……」
うぅん? なんか、おかしい。もやしメガネはあんなに取り乱していたのに、誰も異常を感じていない。
……チビ共が増えてすぐに動き出したから、まだ何も起きていない? そういうことなのかもしれねぇ。
ふむ、なら焦らずどうするかを考えるか。解決方法も分からねぇしな。
しかし、俺の様子が変なことに気づいたのだろう。土の大精霊は首を――どこが首か分かりづらいが――傾げて口を開いた。
「何か起きているがな? もしかしたら、他の大精霊なら知っているかもしれないがな。とりあえず、会ってみたらどうがな?」
「おぉ、それいいな。城に顔出した後、大精霊たちのところを回ってみることにするか」
「方針が決まったようで良かったがな」
土の大精霊が頷くと、エルジジィが勢いよく立ち上がった。
「よぉーし! よく分からんが、めでたい! 今日は宴じゃ! 飯の用意をするぞ!」
「料理は僕に任せてくれ」
「私も手伝いますね!」
リルリとグス公も立ち上がって、エルジジィの後について行った。
再会の宴か。
また会えたことを心の底から喜んでくれているのを感じ、俺も笑顔になった。
グス公と、すっかり口調が戻ってしまっているリルリが食事の支度をしてくれている。エルジジィも台所に行ったんだが、二人に休んでてくれと言われたらしい。
俺は特にやることがないので、チビ共を手でいじりながら、エルジジィや土の大精霊と話をしていた。
「そうじゃ、鉄パイプはどうした? せっかくじゃし、手入れをしてやろう」
「そりゃ助かるな。ちっとボコボコになっちまったから、ありがたいぜ」
「ボコボコ? ミスリル製じゃぞ? 見せてみぃ……ふむ、微妙に曲がっておるし、へこみがあるな。若いの、何をしたんじゃ?」
「まぁ色々な」
せっかく作ってもらったもんを傷つけちまって悪い気がした。
だが、エルジジィは嬉しそうに笑っている。
そして俺の鉄パイプと鉈と軽鎧を手に取り、すぐに作業場で手入れを始めた。
「ふむ、頑丈な、ミスリルが、傷ついて、おるとはな」
カンカンとハンマーで叩きながら、エルジジィはリズミカルに話す。
丈夫なミスリル製の鉄パイプをどうやって直すのかと思っていたが、エルジジィの持つハンマーも青く光っている。つまり、ミスリルはミスリルで打つってことらしい。
鉈や軽鎧も磨いて、何かでコーティングしてくれた。聞いてみたら、これにもミスリルを使っているという。
「……経験上、じゃが、これは、かなり、使ったな。恐らく……いや、まぁいいわい」
見ただけで、どう使ったかが分かったのか。恐ろしいジジィだ。
料理ができても、エルジジィは作業の手を止めなかった。ちょいちょい口に運びつつ、鉄パイプや鉈をいじっている。別に急いでないと伝えたんだが、やりがいがあるし、一気に仕上げたいと言って手入れを続けた。
ところで、ミスリルってそんなに簡単に手に入るのか?
不思議に思っていると、土の大精霊が俺の肩を叩いて、にっこりと笑った。なんか腹立たしい笑顔だ。しかも、勝手に俺の心を読みやがったな。
「普通はそうそう手に入らんがな。でも、零は世界の恩人。自分が提供させてもらったがな!」
「……お前、本当に大精霊で、すげぇ奴だったんだな」
「まだ疑っていたがな!?」
疑っていたわけではないが、改めて感心した。そして感謝もしている。もちろん口には出さねぇ。読まれちまってるかもしれねぇけどな。
エルジジィの作業は夜遅くなっても続き、俺たちは先に休ませてもらうことになった。
手伝おうとしたんだが、「素人が邪魔するな! 年寄りの楽しみをとる気か!」とまで言われちゃなぁ……。
第五話 あ、やべぇ……
次の日、俺はエルジジィに叩き起こされた。
「若いの! 起きろ! できたぞ!」
「お、おう? おはようさん……」
寝ぼけながらも、エルジジィに引きずられて行く。そして、作業場で鉄パイプを渡された。
前よりも、少しずっしりとくる。しかし、決して悪い感じはしなかった。
「より頑丈にしたから、少し重くなっておるぞ! どうじゃ? 扱えそうか?」
「はっ、誰に言ってんだよ。初めて修業ってやつを……っと。こいつは内緒だったな」
「かっかっかっ、やっぱりそうか。ミスリルをここまで傷つけるとは、若いのは人間やめておるのぉ!」
そもそも人間じゃなくて大精霊なんだが、まぁそこは面倒だからいいか。
鉈も軽鎧も、薄らと青い光を放っている。よく見ないと気づかない程度の輝きだが、とても綺麗に感じた。
……おし、準備は整ったな。
装備を身に着け、上から黒いマントを羽織る。これでばっちりだ!
「また来るぜ、エルジジィ! 土の大精霊!」
「いつでも来い! 待っておるぞ!」
「困ったことがあったら、いつでも来るがな!」
俺は二人に見送られ、その場を後にしようとした。
だが、チビ共が俺の足を引っ張っている。どうしたんだ?
そういやぁ、なんか忘れてねぇか?
……まぁいい。次は城へ向かい、シスコン王女と残念イケメンに会うとするか!
俺は足を引っ張るチビ共の頭を撫でて肩に載せ、カーラトの町から旅立った。
おい、チビ共。そんな、やべぇって顔するなよ。装備もピカピカになったし、万事順調だろ?
カーラトの町の北門から馬車に乗り、王都を目指す。
空は曇り。今にも雨が降りそうだが、仕方ねぇ。晴れてても雨でも、のんびり行くしかねぇよなぁ。
少し眠気を感じ、目を閉じる。
あぁ、早くあいつらに会いてぇなぁ……あいつら?
そこで俺は、ようやく気づいた。
「あ、やべぇ……」
思い出してパッと目を開いたときだ。乗合馬車が急ブレーキをかけた。
ガッと車体が揺れ、慌てて床に手をつく。
何が起きた? ゴブリンの襲撃か?
周囲が慌てる中、馬車を飛び出す。
鍛え直された鉄パイプの威力を、見せつけてやるしかねぇなぁ!
ぐっと鉄パイプを強く握った瞬間、炎と氷が俺に降り注いだ。
「お? おおおおおおおお!?」
驚きながらも、鉄パイプで数発の魔法を叩き落とす。避けられないのもあったが、それは軽鎧と手甲で受けて防いだ。
かなりのやり手だ……などとは思わず、俺は二人に苦笑いを見せた。
「よ、よう」
「零さん? 一人でどちらへ?」
「寝ている僕たちを残してね」
「は、ははっ。……悪ぃ、忘れてた」
その後、逃げる俺に数々の魔法が浴びせられたことは、言うまでもない。
エルジジィは鍛冶師で、俺の鉄パイプを作ってくれた親切な爺さんだ。この町の知り合いなんてエルジジィくらいしかいねぇし、ちょっくら挨拶しておきたかった。
この辺りだったかな、と記憶を掘り起こしていた時――目の前で、ガタガタッと物が崩れる音がした。
一年前にもこんなことがあったよなぁ。あの時は、エルジジィが変な奴らに絡まれていた。懐かしいもんだ。
思い出し、くすりと笑う。そして前を見ると、出店の荷物が崩れて道へ広がっていた。
荷物の前には慌てているババァ。後、見覚えのある二人組の男がいる。
「おいババァ! 誰に断って物売ってんだ!?」
「べ、別にあんたらに断る必要はないだろう」
「あぁ? 舐めてんのか? アニキ、やっちまいますか?」
「痛い目に遭わねぇと分からないみてぇだな」
……本当に変わってねぇなぁ!
少し呆れながら、俺は男たちに近づいた。
「おい、てめぇら」
「あぁ!?」
声をかけると、馬鹿の見本みてぇな二人組が俺を見た。
……間違いねぇ、あの時の馬鹿二人だ。
俺がボコって反省したかと思っていたが、まるで変わってねぇ。本当に仕方のない奴らだ。
やれやれと両手を上げて首を振ると、アニキと呼ばれたスキンヘッドに胸ぐらを掴まれた。
「なんだおらぁ! 俺たちに文句でもあんのか!?」
「ん? あれ、お前ら俺のことが分かんねぇのか?」
「なんだ、知り合いみてぇなこと言いやがって。てめぇなんか知るわけねぇだろうが!」
鶏以下の頭だな。と思ったが、すぐさま理由に思い当たった。
そうか、髪が伸びてて目が隠れているせいか。道理で、町の中を歩いているのに、誰も俺を避けたりしなかったわけだ。前だったら、目が怖ぇって離れてったもんな。
うざってぇから髪を切ることは決定だが、利点もあったのか。
なるほどと頷いていると、苛立つ男にドンッと突き飛ばされた。
「よそ者はすっこんでろや!」
「おらぁ!」
「ぐぼぁっ!?」
「アニキいいいい!?」
俺は思い切りスキンヘッドの顔面をぶん殴ってやった。へっ、いいのが見事に決まったな。
突き飛ばされたので正当防衛が成り立つ。完璧だ。
ったく、話の途中で人のことを突き飛ばしやがって。ざっけんじゃねぇぞ!
さて、まだ終わりじゃねぇからな? スキンヘッドの隣でおろおろしている手下っぽい男を、横から蹴飛ばす。ボールみてぇに転がりやがった。
まだやるか? とことん相手になってやんぞ?
俺はにやりと笑いながら、髪をかき上げる。
次の瞬間、真っ赤だった二人の男の顔が、真っ青に変わった。
「て、てめぇ……あの時の!?」
「覚えてたか。嬉しいねぇ。じゃあ、今度は改心するまで性根を叩き直してやるか! 物理的にな!」
「「ひいいいいいいいい!」」
――ボコボコにした二人を、道端に正座させる。反抗的な態度が見えるたびに鉄パイプで地面を叩くと、びくりとして静かになった。
しょうもねぇこいつらをどうするか。悩んでいたら、肩を強く掴まれた。
「ここら辺で騒いでいたのは、お前たちか」
「あぁ? ……鎧? なんだ、てめぇらは」
「私たちはカーラトの町に配備されている衛兵だ。大人しくついてこい!」
ついてこいだぁ? 今さら現れて、何様だ? 俺はババァを助けたんだぞ?
ちなみにババァは、俺が男たちをボコっている間に店を畳んでどっかにいっちまった。一応、遠くから礼は言っていたが。
俺が苛立っていると、成り行きを見守っていたグス公が割り込んできた。
衛兵たちは「なんだこの小娘は?」といった感じだったが、すぐに気づき、跪く。
「こ、これはグレイス様! すぐにこいつらは連れて行きますので、ご安心ください!」
「ご苦労様です。しかし、そこの目つきが鋭くて明らかに悪の親玉みたいな男性は、私の知り合いです。放していただけますか?」
……グス公の奴、さらっと悪口言いやがった。後でデコピンだな。
「こいつが……? いえ、失礼いたしました。おい、彼を解放しろ」
解放するのはいいが、先に謝るべきじゃねぇのか? 睨みつけて舌打ちをしたが、衛兵たちは目を逸らすだけだった。
あー、気分悪ぃ。納得できずにいたが、衛兵が男二人を槍の柄でぶん殴り、無理矢理立たせているのを見て、俺はぎょっとした。
「おい、やりすぎじゃねぇか?」
「これは我々の仕事だ、口を挟むな。お前ら、当分出てこられないと思えよ!」
がっくりと項垂れる二人組。こいつらが悪いから仕方ねぇ。仕方ねぇんだが……なんか、もやっとする。
こいつらが悪さしたのは初めてじゃない、二度目だ。救いようがねぇのかもしれない。
だが、ここまでボコボコにした。もう一回くらいチャンスをやってもいいだろ?
どうすればいいのか分からず、胸にある妙な感じだけが強くなっていく。
そんな俺の様子に気づいたのか、グス公がため息を吐いた。
「零さん、彼らは悪人です。罪は償うべきなんです」
「いや、分かってんだけどよぉ……」
「まったく、しょうがない人ですね。自分であれだけやったくせに、変なところでお人好しです。でも、それが零さんですね」
「本当に変わった奴だ」
褒められてんのか貶されてんのか、よく分からねぇ。でも、グス公たちは笑顔だった。
チビ共も笑ってるが、俺からしたら変なのはお前らのほうだぞ? 未だにチビ共は謎だらけだからな。
グス公は、男共を無理矢理連れて行こうとしている衛兵たちを止めた。そして男二人の前へ行き、しっかりとその目を見ている。見定めているような感じだ。
ふむ、と頷いたグス公は口を開いた。
「もう二度と、罪を犯さないと約束できますか?」
「はい! 絶対悪さしません!」
「分かりました。では、今回だけ見逃します」
「グレイス様! それでは示しが……」
「大丈夫です。次に何か仕出かしたら、二度と牢から出てこられないようにしてください」
笑顔で、グス公は恐ろしいことを口にした。
もう一度チャンスをくれてやる。だが、それを無下にしたら……分かってるな?
そう脅すグス公の笑顔を見て、ぶるりと体が震える。
でも、少しだけほっとした。ありがとうな、グス公。
衛兵は町の見回りに戻り、男二人も頭を下げて立ち去った。
俺たち以外がいなくなったのを確認し、グス公に礼を言うことにした。
「悪ぃな。いや、ありがとな」
「いいんですよ。でも、次は零さんが何を言っても助けませんからね!」
「おう、二度も見逃してやったんだから、次は処刑でもなんでもしちまえ」
「グレイス様はそこまではしないと思うが……しませんよね?」
「しませんよ! なんでリルリは、私ならやりかねない、みたいな言い方をするんですか!」
いつもの感じに戻り、俺たちは再び歩きだした。
あいつらもこれで改心してくれるといいんだがなぁ。
第四話 なんでてめぇがここにいるんだ!
やっとエルジジィの家に辿り着いた。家の煙突からは、相変わらず煙が上がっている。懐かしいな。
嬉しい気持ちを隠せないまま、俺は扉を強く叩いた。
「エルジジィいるか!」
「やかましいわ! 誰じゃ! ……おぉ、若いの!」
扉が開かれ、懐かしい顔が出てきた。一年くらいじゃ全然変わってねぇな!
俺は嬉しくなってエルジジィの肩を叩く。合わせるように、エルジジィも俺の胸元を叩いた。
「久しぶりだな!」
「精霊の森で頑張っていたと聞いておる! 詳しい話は彼から聞いたぞ! 丁度来ておるし、お前も入れ入れ!」
彼? 彼って誰だ?
彼、彼……坊ちゃんか! 俺のことを話す野郎なんて、あいつくらいしかいねぇ。
光の大精霊である坊ちゃんは、俺が精霊の森に行った後、こっちに残ってグス公たちの手伝いをしてるって話だったな。
城に行くまで会えないと思っていたが、妙なところで会えるもんだ。へへっ、あいつ元気にしてんのか?
懐かしさでにやけつつ中に入ると、丸い何かが立ち上がり、片手を上げた。
「久しぶりがな!」
「……タイムだ。ちっとやり直すぞ」
「なるほど、会えたことが嬉しくて気持ちの整理がつかないがな? 構わないがな!」
眉間に手を当て、ぐっと押す。
えーっと、なんだ? 俺の予定では、ここにいるのは坊ちゃんだったはずだ。
なのに、全然違う奴が嬉しそうな顔をして俺を見ている。
胸元まで伸びた髭。濃いすね毛……と、腕の毛。岩のような被り物。
……間違いねぇ。
にこにこと笑っている土の大精霊を、俺は思い切り指差した。
「なんでてめぇがここにいるんだ!」
「感動の再会じゃなかったがな!?」
感動の再会だぁ? そんなのあるわけねぇだろ!
俺は坊ちゃんかと思って、あの野郎小突いてやろうかな、とか、そういう気分でいたんだ。
なのに、中で待っていたのは変態大精霊。感動するわけがねぇ!
納得いかず睨みつけていると、エルジジィが俺の背中を叩いた。
「よく分からんが、とりあえず中へ入らんか」
「お、おう、そうだな」
「お茶でも飲めば落ち着くがな」
「てめぇは帰れ」
「ひどいがな!」
ひどいのはどっちだ? むしろ俺に謝れってんだ。
ぶつぶつと呟きつつ、土の大精霊を睨みつけながら、俺はエルジジィの家に入った。
部屋の中に入り、椅子へ座って出されたお茶を飲む。
だが終始、俺はがながな大精霊を見続けていた。手には鉄パイプを握ってな。
それに気づいている土の大精霊も、気まずそうに目を逸らしている。
誰もが無言で嫌な空気が流れていたのだが、グス公が躊躇いがちに口を開いた。
「えっと、土の大精霊さんお久しぶりです」
「一ヵ月振りがな!」
「一ヵ月振りだぁ?」
「ひぃ! なんで怒ってるがな!? この女子二人は毎月精霊の森のあった場所へ来ていたので、よく会っているがな。そもそも、精霊の森を盗ったのは零がな! お蔭で、わしは町の近くの森に居場所を変えることになったがな!」
あ、あぁ……。そういや、そんなこともあったな。
都合の良い場所だったので、何も考えずに使わせてもらったが……。
そうか、こいつ移動していたのか。まぁ、精霊の森には入れねぇんだから、移動するしかねぇよな。
事情が分かり、俺は握っていた鉄パイプを放した。
こいつを見ると、どうにも警戒心が高まってしょうがねぇ。
しかし、このことに関しては俺が悪い。素直に謝っておくか。
「おい」
「ど、どうしたがな」
「それについては、俺が悪ぃ。すまなかった」
「……別にいいがな。自分が移動するだけで、精霊たちは助かった。謝る必要はないがな」
穏やかな笑みで、土の大精霊は頷いている。その顔には、俺を責めるどころか感謝すら浮かんでいた。
全く咎められず、真っ直ぐに感謝される。それはすごく恥ずかしいもんで、土の大精霊への態度が良くなかったなと反省もした。
その後、和やかに話していたのだが、俺はふと思いついた。
このすね毛の変態は一応大精霊だ。もしかしたら何か異変に気づいているかもしれねぇ。
だが、いきなり切り出すのもあれだ。小話を交えながら聞くことにするか。
「なぁ、お前なんでここにいるんだ? 移ったっつっても、普段は森で生活しているんだろ?」
「あぁ、そのことがな。実は……」
「儂が森の中で使えそうなもんを探しているときに、偶然知り合ったんじゃ。良い鉱物のある場所とかを教えてくれてな。それからよくうちに遊びに来ておるぞ」
「エルジーに全部言われたがな! まぁ鉱物と間違えて、ピッケルで叩かれそうになったのには驚いたがな」
「そんな格好してればなぁ」
岩の被り物を、本物の岩だと勘違いして採ろうとしたわけか。まぁ触っても区別つかねぇもんなぁ。
さて、そんじゃ本題に入るか。
そう思ったとき、グス公が俺の肩を叩いた。
「零さん、私たち毎月精霊の森のあった場所へ行っていたんですよ」
「おう、そんなこと言ってたな。……散歩か?」
「お前、本気で言ってるのか?」
「あぁ? 違うのか?」
二人は、こいつ何言ってんだ? って感じの顔だ。
チビ共は、にやにやとしながら俺を見ている。俺が恥ずかしくて誤魔化してるってことがバレてるみてぇだ。
いや、だってよぉ。会えるわけでもない俺のところへ毎月通ってたんだろ? なんかそれって……嬉しいじゃねぇか。
グス公たちは、むーっと膨れっ面をしているが、勘弁してくれ。
俺は話を逸らそうと、今度こそ本題に入った。
「そういえば、変わったことねぇか? 異変っつぅか、異常っつぅか。なんか起きていると思うんだが」
「異常……? 世界は落ち着いているし、植物もよく育つがな。魔力が十分足りている証拠がな」
「そっか、何もねぇのか……」
うぅん? なんか、おかしい。もやしメガネはあんなに取り乱していたのに、誰も異常を感じていない。
……チビ共が増えてすぐに動き出したから、まだ何も起きていない? そういうことなのかもしれねぇ。
ふむ、なら焦らずどうするかを考えるか。解決方法も分からねぇしな。
しかし、俺の様子が変なことに気づいたのだろう。土の大精霊は首を――どこが首か分かりづらいが――傾げて口を開いた。
「何か起きているがな? もしかしたら、他の大精霊なら知っているかもしれないがな。とりあえず、会ってみたらどうがな?」
「おぉ、それいいな。城に顔出した後、大精霊たちのところを回ってみることにするか」
「方針が決まったようで良かったがな」
土の大精霊が頷くと、エルジジィが勢いよく立ち上がった。
「よぉーし! よく分からんが、めでたい! 今日は宴じゃ! 飯の用意をするぞ!」
「料理は僕に任せてくれ」
「私も手伝いますね!」
リルリとグス公も立ち上がって、エルジジィの後について行った。
再会の宴か。
また会えたことを心の底から喜んでくれているのを感じ、俺も笑顔になった。
グス公と、すっかり口調が戻ってしまっているリルリが食事の支度をしてくれている。エルジジィも台所に行ったんだが、二人に休んでてくれと言われたらしい。
俺は特にやることがないので、チビ共を手でいじりながら、エルジジィや土の大精霊と話をしていた。
「そうじゃ、鉄パイプはどうした? せっかくじゃし、手入れをしてやろう」
「そりゃ助かるな。ちっとボコボコになっちまったから、ありがたいぜ」
「ボコボコ? ミスリル製じゃぞ? 見せてみぃ……ふむ、微妙に曲がっておるし、へこみがあるな。若いの、何をしたんじゃ?」
「まぁ色々な」
せっかく作ってもらったもんを傷つけちまって悪い気がした。
だが、エルジジィは嬉しそうに笑っている。
そして俺の鉄パイプと鉈と軽鎧を手に取り、すぐに作業場で手入れを始めた。
「ふむ、頑丈な、ミスリルが、傷ついて、おるとはな」
カンカンとハンマーで叩きながら、エルジジィはリズミカルに話す。
丈夫なミスリル製の鉄パイプをどうやって直すのかと思っていたが、エルジジィの持つハンマーも青く光っている。つまり、ミスリルはミスリルで打つってことらしい。
鉈や軽鎧も磨いて、何かでコーティングしてくれた。聞いてみたら、これにもミスリルを使っているという。
「……経験上、じゃが、これは、かなり、使ったな。恐らく……いや、まぁいいわい」
見ただけで、どう使ったかが分かったのか。恐ろしいジジィだ。
料理ができても、エルジジィは作業の手を止めなかった。ちょいちょい口に運びつつ、鉄パイプや鉈をいじっている。別に急いでないと伝えたんだが、やりがいがあるし、一気に仕上げたいと言って手入れを続けた。
ところで、ミスリルってそんなに簡単に手に入るのか?
不思議に思っていると、土の大精霊が俺の肩を叩いて、にっこりと笑った。なんか腹立たしい笑顔だ。しかも、勝手に俺の心を読みやがったな。
「普通はそうそう手に入らんがな。でも、零は世界の恩人。自分が提供させてもらったがな!」
「……お前、本当に大精霊で、すげぇ奴だったんだな」
「まだ疑っていたがな!?」
疑っていたわけではないが、改めて感心した。そして感謝もしている。もちろん口には出さねぇ。読まれちまってるかもしれねぇけどな。
エルジジィの作業は夜遅くなっても続き、俺たちは先に休ませてもらうことになった。
手伝おうとしたんだが、「素人が邪魔するな! 年寄りの楽しみをとる気か!」とまで言われちゃなぁ……。
第五話 あ、やべぇ……
次の日、俺はエルジジィに叩き起こされた。
「若いの! 起きろ! できたぞ!」
「お、おう? おはようさん……」
寝ぼけながらも、エルジジィに引きずられて行く。そして、作業場で鉄パイプを渡された。
前よりも、少しずっしりとくる。しかし、決して悪い感じはしなかった。
「より頑丈にしたから、少し重くなっておるぞ! どうじゃ? 扱えそうか?」
「はっ、誰に言ってんだよ。初めて修業ってやつを……っと。こいつは内緒だったな」
「かっかっかっ、やっぱりそうか。ミスリルをここまで傷つけるとは、若いのは人間やめておるのぉ!」
そもそも人間じゃなくて大精霊なんだが、まぁそこは面倒だからいいか。
鉈も軽鎧も、薄らと青い光を放っている。よく見ないと気づかない程度の輝きだが、とても綺麗に感じた。
……おし、準備は整ったな。
装備を身に着け、上から黒いマントを羽織る。これでばっちりだ!
「また来るぜ、エルジジィ! 土の大精霊!」
「いつでも来い! 待っておるぞ!」
「困ったことがあったら、いつでも来るがな!」
俺は二人に見送られ、その場を後にしようとした。
だが、チビ共が俺の足を引っ張っている。どうしたんだ?
そういやぁ、なんか忘れてねぇか?
……まぁいい。次は城へ向かい、シスコン王女と残念イケメンに会うとするか!
俺は足を引っ張るチビ共の頭を撫でて肩に載せ、カーラトの町から旅立った。
おい、チビ共。そんな、やべぇって顔するなよ。装備もピカピカになったし、万事順調だろ?
カーラトの町の北門から馬車に乗り、王都を目指す。
空は曇り。今にも雨が降りそうだが、仕方ねぇ。晴れてても雨でも、のんびり行くしかねぇよなぁ。
少し眠気を感じ、目を閉じる。
あぁ、早くあいつらに会いてぇなぁ……あいつら?
そこで俺は、ようやく気づいた。
「あ、やべぇ……」
思い出してパッと目を開いたときだ。乗合馬車が急ブレーキをかけた。
ガッと車体が揺れ、慌てて床に手をつく。
何が起きた? ゴブリンの襲撃か?
周囲が慌てる中、馬車を飛び出す。
鍛え直された鉄パイプの威力を、見せつけてやるしかねぇなぁ!
ぐっと鉄パイプを強く握った瞬間、炎と氷が俺に降り注いだ。
「お? おおおおおおおお!?」
驚きながらも、鉄パイプで数発の魔法を叩き落とす。避けられないのもあったが、それは軽鎧と手甲で受けて防いだ。
かなりのやり手だ……などとは思わず、俺は二人に苦笑いを見せた。
「よ、よう」
「零さん? 一人でどちらへ?」
「寝ている僕たちを残してね」
「は、ははっ。……悪ぃ、忘れてた」
その後、逃げる俺に数々の魔法が浴びせられたことは、言うまでもない。
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