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3巻
3-3
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俺は一人で歩き、グス公とリルリは馬に乗っている。二人はカーラトの町に自分たちの馬を預けていたらしい。
空気は最悪だ。
今回は、完全に俺に非がある。新しい装備に浮かれていたとはいえ、仲間を忘れて旅立つなんて最低だ。
だが、何度謝っても許してくれないってのもどうなんだ? 俺が悪ぃのは分かっているが、そろそろ許してくれてもいいじゃねぇか。
……いや、ダメだ。許してくれるまで反省するしかない。やらかしちまったなぁ。
「零さん」
「おう、悪かった」
「いえ、もう謝罪はいいです。聞きたいのは、零さんが私たちのことをどうでもいいと思っているのかどうかです」
「どうでもいいなんて思ってねぇよ……」
「でも、忘れていたよな?」
「いや、その、なんだ? なんつうかよぉ……。森での生活が長かったから、人に慣れてねぇっつぅか……。言い訳だな。本当に悪かった」
俺も反省して理由を考えてみた。
一年間も森に一人でいて、チビ共以外と行動をすることがなかった。だから、他人と一緒に何かするってことについて、意識が甘くなっていた。……ということだと思う。自信はねぇが。
チビ共は、俺が何も言わなくても一緒に来てくれる。だから、グス公たちも自然とついてくるっていう気持ちになっちまってたんだろう。
ようするに、俺にできることは謝罪だけだ。全面的に悪ぃからな。
気持ちが伝わったのか、怒りが収まってきたのかは分からない。だが、二人はやれやれといった表情をした後、許してくれた。
「零さんは本当にどうしようもないですね!」
「反省するから性質が悪い。いつまでも怒ってたら、逆にこっちが悪者みたいだ」
「いや、なんか悪ぃな。本当、気をつけるからよ」
向けられる穏やかな笑顔。二人に笑ってもらえて、俺はほっとする。
チビ共も、良かった良かったと頷いていた。
話はこれで終わりだった。そう、この話については、だ。
二人は穏やかに笑いながら……いや、なんか若干威圧感のある笑顔になって、俺へ話しかける。
「さぁ零さん、急いで城へ向かいましょう! 私と相乗りになってしまいますが……抱きついたりしませんから、安心してください!」
「グレイス様、王族ともあろうお方が平民の男性と相乗りは良くないです。……ここは仕方ないから、僕の馬に乗せてやる。あまり、しがみつくんじゃないぞ?」
「いえいえ、私と一緒のほうが」
「いやいや、そういうわけには」
穏やかで爽やかな風が吹いていて、とてもいい気分だ。いつの間にか、空も晴れている。
そんな中で、二人は睨み合っていた。
どっちの馬に乗ろうと構わねぇんだが、こうなると話は違ってくる。どちらかを選んだ時点で、もう片方がぶつぶつ文句を言い出すのが分かりきっているからだ。
さて、どうすっかな……。
少し悩んだが、俺はチビ共を見た。皆、うんうんと頷き、胸を叩いている。
まぁ、それしかねぇよな。
どうするかを決めた俺は、二人に声を掛けた。
「おい、ちょっと待ってろ」
「え? 零さん、待つ前に私と乗ると一言……」
「それはまずいと言ってるじゃないですか。メイドと乗るんだったら、まだ言い訳がたちます」
「駄目です! 譲れません!」
うん、放っておいても当分言い争ってるな。
ため息を吐きつつ、俺は街道から外れて森の中へと入った。
――そして十分程の時間が経った。
俺はゴロゴロとある物を引きずりながら、森を出る。
それを見た瞬間、グス公とリルリは口を開けたまま固まった。
「これならどっちとも相乗りにならなくていいだろ?」
「に、荷台!? どこから持って来たんですか!?」
「作った」
「……相変わらずわけの分からないことをするな。精霊に協力してもらっているのだろうけど、こうなるともう魔法じゃないか」
「はっはっはっ、チビ共はすげぇからな! まぁさっさと馬に繋いでくれ。大した作りじゃねぇが、王都くらいまでは保つだろ」
二人はすげぇ不服そうな顔をしていたが、渋々といった感じで馬に繋いでくれた。これで荷馬車の完成ってわけだ。
御者台には不愉快そうなリルリ。荷台には、むすっとしたグス公と笑顔の俺。
もちろん、王家の馬車以外の乗り物だと酔うグス公には、チビ共特製の酔い止めの薬を呑ませた。
あのまま喧嘩して無駄に時間を使うよりはいいだろう。中々の出来だと思うしな!
俺は満足して、チビ共と一緒に荷台で横になった。
その日、俺たちは野営することにした。王都まではもう少し距離があるから仕方ねぇ。
だが、一つ驚いたことがあった。グス公が手際よくリルリと料理を作っている。
テキパキと調理を終えると器によそい、差し出してきた。
「食べてください!」
「おう」
一年前は毒薬みてぇなスープを出されたが、今目の前にある器からはいい匂いがしている。
まぁ、リルリと一緒に作ったわけだし、大丈夫だと思うが……少し緊張しながら、スプーンを口に運んだ。
「……うめぇな! 一年間で、すげぇ上達してやがる。こりゃお前たち、いい嫁さんになれるな」
よくドラマとかで、どこぞのおっさんが言っている台詞だ。自分がこんなことを言うとは思わなかったが、するりと口から出ていた。
聞いたグス公は顔を赤くし、もじもじしている。リルリも似たような感じで、意味ありげに俺を見ていた。
「い、いいお嫁さんになれますか? もらってもらえますかね?」
「うん、お嫁さんとかも悪くはないよね」
なぜこいつらは、俺のことをちらちら見てんだ? やっぱりこう、ダチに認めてもらえると自信を持てる……そういうあれか?
なら、俺も笑顔で応えてやらないといけねぇな!
「おう! お前たちなら大丈夫だ。式には呼んでくれよな!」
瞬間、ぴしっと時が止まった気がした。
チビ共は俺の周囲で震え、グス公とリルリの顔と体は固まっている。
それに、なんだか俺も背筋がぞくぞくする。風邪でも引いちまったか?
大事をとっておくに越したことはねぇ。俺は外していたマントを手に取り、肩から羽織った。
ぶるりと体を震わせると、不意にバンッと音がした。
グス公とリルリが、思い切り食器を地面に叩きつけた音だ。
「零さん! 私たち、再会してすぐ告白しましたよね!?」
「はっきりと言ったのに、そういう態度はどうなんだ!」
「……告白?」
告白って、あれか? 懺悔とかそういうので、教会に箱があるってやつだろ? そんなこと、こいつら言ってたっけか……?
そもそも、神父でもねぇ俺に罪を告白してどうすんだ?
こいつらは相変わらず良く分からねぇところがあるな。
そんなことを考えていると、二人は俺を見てがっくりと項垂れた。
「もう、いいです……。どうすれば分かってもらえるんですか、この鈍感駄目駄目なのに、実は優しくて私を支えてくれる素敵な零さんに……」
「最低で目つきが悪くて、人付き合いも下手だけど頑張ってる、見た目と違って人のために頑張る格好いいボケナスめ……」
貶しつつ褒めるって、高等テクニックだよな。文句の一つも言いてぇところだが、どうも言いにくい雰囲気だ。
ずずっとスープを飲むと、チビ共に足を蹴られた。全く分からないが、俺が悪いらしい。
なんとも言えない空気のまま食事を終え、俺は眠りについた。
第六話 ……仕方ねぇな
天気も良く清々しい気分で王都を目指し……などと都合の良いことはない。
土砂降りの雨の中、俺たちは木の陰で雨宿りをしていた。つっても、完全に雨をしのげるわけじゃなく、少しマシになる程度だ。
「ちっ、ついてねぇな」
「これはやっぱり、氷魔法が得意なリルリが雨女だったということですね!」
「氷が得意なのですから、降るのなら雹だと思いますが」
淡々とリルリに返されても、グス公は「そんなことはありませんよー」と楽しそうにしていた。
チビ共は水溜まりではしゃいだり、雨の中を飛び回ったりしている。風邪引くんじゃねぇぞ?
まぁ、前も見えないほどの雨だ。台風とかでテンション上がって外に出て、強い雨が痛くてなんだか笑っちまう、そういったガキのノリと一緒だろう。
俺は長くなった髪をかき上げ、木に背を預けながら空を眺める。
これは当分止みそうにねぇ。どうしようもなさそうだな。
雨の中で野営をするのは面倒だ。二人もテントなんて持ってねぇから、まずは雨を防ぐ屋根から作らないといけない。
まぁ、そういうのも悪くねぇ。やるか。
そう思いチビ共に力こぶを作って見せると、こくこくと頷いた。
「おっし、今日は移動を諦めるしかねぇな。雨宿りできる場所を作るぞ」
「とはいえ、手ごろな布とかもないぞ?」
おいおい、なんのために魔法があるんだ? 我に秘策ありってやつだ。
自信満々でにやりと笑いかけたが、二人は首を傾げるだけだった。
まずはリルリの魔法で、四本の柱を作る。その上に分厚い氷の板を載せて、屋根代わりにした。
氷に雨が当たれば、当然溶けてしまう。それを防ぐために、森の中で大き目の葉をチビ共と一緒に集めて屋根を覆うことにした。リルリ曰く、これなら氷は朝まで保つらしい。
「こういうのって、わくわくしますね!」
「雨に濡れなければな」
「悪天候のほうが思い出として残るじゃないですか! 忘れられないですよ?」
「そんなもんか?」
俺が不思議に思って見ると、二人ともうんうんと頷いていた。まぁキャンプみてぇなもんだし、そんな感覚なのかもしれねぇな。
柱と柱の間にも、葉と蔓を組み合わせて壁を作る。地面にも柔らかい草を敷き詰めたので、寝転がっても泥まみれにはならない。まぁ、雨のせいで草は湿ってるけどな。
終わってみれば、室内が多少ひんやりとはしているが、中々の物ができあがった。
だが、このまま寝転がるのは、愚策だよなぁ。何かいい手はないか?
考えていると、リルリが蔓を編んでいた。
網みたいな物を作っているが、漁でもするつもりなのか?
何を作っているのかは分からないが、面白いので見ている。
すると、リルリが俺を手招きした。
「見ているのなら手伝え。グレイス様はどうぞ楽にしていてください」
「リルリ! 編み方はこれで大丈夫ですか!?」
「……俺よりやる気みてぇだぞ」
「活き活きしているな。はぁ、グレイス様、そこはそうではなく……」
俺よりもノリノリなグス公は、網の編み方をリルリに習っている。
邪魔しないよう覗き込みつつ俺もやってみたが、あまりうまくいかねぇ。中々難しいもんだと思っていたら、チビ共が蔓の上に載って教えてくれた。
なるほど、こっちじゃなくてそっちの下に入れるのか!
網が完成するまで、俺たちは作業に没頭した。
で、網が完成したわけだ。雨の中でないと捕まえられない魚でもいるんだろう。川に向かうべく、俺は気合いを入れて、肩に網をかけた。
「何をしているんだ? 完成した物はこっちに渡してくれ」
立ち上がった俺に、リルリは手を差し出す。
「あぁ? 漁をするんじゃねぇのか?」
「ですが、食料は足りていますよ?」
確かにグス公の言うことはもっともなんだが、ならどうしてこんな物を作ったんだ?
俺が考えるよりも早く、リルリは氷の柱を追加し、三つの網を吊るしている。それを見て、俺はようやくリルリが何をしようとしていたかを理解した。
ハンモックだ。こっちの世界ではなんて言うのか知らねぇが、俺のいた世界ではそう呼ばれていた。
実際乗ったことはねぇが、一度は乗ってみたいと憧れてる奴が多い……と、思う。ぶっちゃけ、俺もその一人だ。
しっかりと結ばれたハンモックへ、引き寄せられるようにふらふらと近づく。
しかし、俺がハンモックに乗ろうと前屈みになった途端、リルリが俺の背を足場にしてハンモックに飛び乗った。
俺はその反動で膝をつき、リルリはぶらぶらと揺れるハンモックで楽しそうに……とはいかず、ずるりと滑って俺の上に落ちてきた。
「いってぇな!」
「うーむ、中々難しい。揺らしすぎたら危険だな。零、もう一回足場になってくれ」
「誰がなるか……うおっ!?」
「次は私です!」
こいつら、俺をなんだと思ってるんだ!?
膝をついて高さが丁度良くなったからか、グス公も俺を足場にして、恐る恐る乗り込もうとしている。
立ち上がれば、グス公が地面に落ちるだろう。さすがに草が剥がれて泥まみれになるかもしれねぇから、体勢を変えるわけにはいかない。
つまり、不本意だが俺は黙って足場になっているしかなかった。
「おい、まだか?」
「も、もうちょっとです。もうちょっとですからね。あ! 零さん! 上は見ないでくださいよ?」
「いいから早く乗れ!」
俺に怒鳴られ、ようやくグス公はハンモックに乗り込む。乗ったときは「ひょー」とか変な声を出していたが、少しすると静かになった。
落ち着いたのかと思い顔を上げてみると、目の前には、横になって幸せそうな表情のグス公。
足場にされて気分が悪い俺は、腹いせにハンモックを揺らしてやった。
「こ、これは……面白いです! でも、もう少し揺れを少なくしてください!」
「うるせぇ、やめだやめ!」
ちっ、嫌がらせにもなりゃしねぇ。
もっともっとと言っているグス公は無視だ。
ため息を吐いて立ち上がったら、今度はガシッと服の裾を掴まれた。
視線を少し下に向けると、リルリとチビ共が目をキラキラさせて俺を見ている。
……また足場になれってか? 勘弁してくれ。
リルリと足元にいたチビ共を持ち上げてハンモックに乗せてやってから、やっと俺も自分用のハンモックに乗ることができた。
横になると、俺にくっついていたチビ共が腹の上に乗る。それだけでなく、俺の体中に乗ったチビ共が下を指差してぴょんぴょん跳ね始めた。
ちらりと地面の方を見ると、俺たちが横になっている三台のハンモックの下に、チビ共が目を輝かせて並んでいる。
こうなったらしょうがねぇ。
俺は楽しむ時間もなく降りて、チビ共をハンモックに乗せてやった。
ゆらゆらと揺らすと、楽しそうにして喜んでいる。遊園地のアトラクションみてぇなノリなのかもしれねぇな。
まぁチビ共が喜ぶなら、ハンモックくらいいくらでも揺らしてやらぁ。
「零さん、私のも揺らしてください」
「あ、僕も頼む」
「……仕方ねぇな」
俺があっさり承諾したことで、二人は驚いた顔になった。
普段ならお断りだが、てめぇらのところにもチビ共が並んでんだよ。拒否できるわけねぇだろ?
多少面倒くさかったものの、俺はチビ共のためにハンモックを揺らし続けることになった。
――明朝、目を覚ます。
起き上がると、ぐらぐらと揺れてバランスを崩し、慌てて蔓に掴まった。
そういえば、ハンモックで寝ていたんだったなぁ。すっかり忘れていたが、落ちなくて良かった。
まぁ、さすがに分かっていれば落ちることはない。ひょいっと……とはいかなかったが、ハンモックから降りる。
中々面白い体験だったなぁ。そう思いながら肩を回していると、隣のハンモックから声を掛けられた。
「ぜ、零さん」
「起きたか、グス公。おはようさん」
「あの……」
「どうした?」
困った顔をしたまま、横になっているグス公。首でも寝違えたのかと思っていると、両手を精一杯伸ばし、ぺろっと舌を出した。
「降りられません」
「昨日の雨が嘘みてぇに、いい天気だなぁ」
「無視しないでください!」
「朝食の支度ができました」
「あ、リルリ! 私も食べます。零さん、早くー!」
俺はグス公へにっこりと笑い返し、手を伸ばす。嬉しそうな顔のグス公の手を撥ねのけ、チビ共を一人ずつ丁寧に降ろしてやった。
快晴、快晴。昨日とは打って変わってってのは、まさにこれだな。
うーんと伸びをし、首を回す。そして、リルリの隣に座り朝食を受け取った。
「零さん? 零さーん! 可愛いグレイスちゃんが困っていますよ? 零さーん!」
「リルリ、助けてやらねぇのか?」
「僕は呼ばれてないからね」
「零さーん!」
さて、王都を目指して今日からまた頑張るかね。
第七話 立派になったな!
数日が経ち、俺たちは王都の外にある、馬車用の門の列に並んでいた。
「零さんは、どうしてそんなに並びたがるんでしょうか……。王女の私がいればすぐ入れるのに」
どうしても何も、誰だって横入りされたら腹が立つだろ。
ラーメン屋の列を譬えに出して説明したが、二人にはいまいち伝わらなかった。
異変は起きてないと分かったんだから、そこまで急ぎの旅じゃねぇ。とりあえず大精霊のところを回るってことは決まっているが、焦ることはないだろう。
なら、横入りしてまで急ぐ必要はねぇだろ?
それに、のんびり空を眺めているのは、いい気分だ。森にいたときもよくやってたしな。
だが、グス公は「町が、城が、もう目の前に見えているんですよ」と、周囲に聞こえるように言っている。
せめて聞こえないように言えよな。そう思い欠伸をしたら、リルリが俺をじっと見ていた。
「んだよ。どうかしたのか?」
「いや、なんかお前柔らかくなったか?」
「おぉ、柔軟は欠かしてねぇからな。体が柔らかいほうが、怪我しにくいんだぜ?」
「そういう意味じゃない。これだからボケナスは……」
なんで俺はこいつにため息吐かれてんだ?
さっぱり分からないまま、数時間後に町の中へと入った。
通りに人が大勢いる中、いつの間にか現れた衛兵が先頭に立ち、俺らの馬を引いている。先導して道を開いているみたいだ。
グス公がいるから、こいつらも大変なんだろうなぁ。
騎士として優秀な――それ以外は残念ともいえる――姉と比べられ、グス公は周りの人に認めてもらえないって悩んでたんだよな。城の中でもそうだし、町の中にだってグス公にいい感情を持ってねぇ奴はいるんだと思う。
だから、そいつらからグス公を守るために衛兵が……。
……いや、違うな。こっちに寄ってきている人は皆、笑顔だ。
妙な感じだと思い周囲の声に集中すると、すぐに理由が分かった。
「グレイス様! グレイス様がいるぞ! グレイス様、万歳!」
「どちらへ行かれていたんですか!」
……人気者って感じがする。グス公は慣れた様子で、何も言わず笑顔で手を振っていた。
はぁー、王族っぽいな。貫禄というか、それっぽくなったというか。様になってんじゃねぇか?
そうか、あれから皆に認めてもらえるようになったんだな。本当に良かった。
一年前はおどおどしていることが多かったのに、今はどっしりと構えている。一年間で成長したもんだ。こりゃ俺も祝ってやるか。
そう思い、グス公の肩を叩いた。
「はい、どうしました?」
「成長してるじゃねぇか。どっしりとした感じだぜ」
「……」
あれ? 俺は素直に褒めたんだが……。
グス公は固まった後、自分の体を触り出した。体に虫でもついたのか?
どう対応したものか困っていると、グス公はこほんと咳払いをした。
「そ、そんなにどっしりしていないと思います!」
「いや、そんなことねぇって。大したもんだ」
「大したもの!? 一目で分かるくらいですか!?」
「おう、すぐに分かったぜ」
「あ……あうあう……最近、間食が増えていたかも? でもでも、運動だってしているし……」
ぐずぐずとグス公が呟く。よく聞こえねぇが、慌てていることは分かった。
空気は最悪だ。
今回は、完全に俺に非がある。新しい装備に浮かれていたとはいえ、仲間を忘れて旅立つなんて最低だ。
だが、何度謝っても許してくれないってのもどうなんだ? 俺が悪ぃのは分かっているが、そろそろ許してくれてもいいじゃねぇか。
……いや、ダメだ。許してくれるまで反省するしかない。やらかしちまったなぁ。
「零さん」
「おう、悪かった」
「いえ、もう謝罪はいいです。聞きたいのは、零さんが私たちのことをどうでもいいと思っているのかどうかです」
「どうでもいいなんて思ってねぇよ……」
「でも、忘れていたよな?」
「いや、その、なんだ? なんつうかよぉ……。森での生活が長かったから、人に慣れてねぇっつぅか……。言い訳だな。本当に悪かった」
俺も反省して理由を考えてみた。
一年間も森に一人でいて、チビ共以外と行動をすることがなかった。だから、他人と一緒に何かするってことについて、意識が甘くなっていた。……ということだと思う。自信はねぇが。
チビ共は、俺が何も言わなくても一緒に来てくれる。だから、グス公たちも自然とついてくるっていう気持ちになっちまってたんだろう。
ようするに、俺にできることは謝罪だけだ。全面的に悪ぃからな。
気持ちが伝わったのか、怒りが収まってきたのかは分からない。だが、二人はやれやれといった表情をした後、許してくれた。
「零さんは本当にどうしようもないですね!」
「反省するから性質が悪い。いつまでも怒ってたら、逆にこっちが悪者みたいだ」
「いや、なんか悪ぃな。本当、気をつけるからよ」
向けられる穏やかな笑顔。二人に笑ってもらえて、俺はほっとする。
チビ共も、良かった良かったと頷いていた。
話はこれで終わりだった。そう、この話については、だ。
二人は穏やかに笑いながら……いや、なんか若干威圧感のある笑顔になって、俺へ話しかける。
「さぁ零さん、急いで城へ向かいましょう! 私と相乗りになってしまいますが……抱きついたりしませんから、安心してください!」
「グレイス様、王族ともあろうお方が平民の男性と相乗りは良くないです。……ここは仕方ないから、僕の馬に乗せてやる。あまり、しがみつくんじゃないぞ?」
「いえいえ、私と一緒のほうが」
「いやいや、そういうわけには」
穏やかで爽やかな風が吹いていて、とてもいい気分だ。いつの間にか、空も晴れている。
そんな中で、二人は睨み合っていた。
どっちの馬に乗ろうと構わねぇんだが、こうなると話は違ってくる。どちらかを選んだ時点で、もう片方がぶつぶつ文句を言い出すのが分かりきっているからだ。
さて、どうすっかな……。
少し悩んだが、俺はチビ共を見た。皆、うんうんと頷き、胸を叩いている。
まぁ、それしかねぇよな。
どうするかを決めた俺は、二人に声を掛けた。
「おい、ちょっと待ってろ」
「え? 零さん、待つ前に私と乗ると一言……」
「それはまずいと言ってるじゃないですか。メイドと乗るんだったら、まだ言い訳がたちます」
「駄目です! 譲れません!」
うん、放っておいても当分言い争ってるな。
ため息を吐きつつ、俺は街道から外れて森の中へと入った。
――そして十分程の時間が経った。
俺はゴロゴロとある物を引きずりながら、森を出る。
それを見た瞬間、グス公とリルリは口を開けたまま固まった。
「これならどっちとも相乗りにならなくていいだろ?」
「に、荷台!? どこから持って来たんですか!?」
「作った」
「……相変わらずわけの分からないことをするな。精霊に協力してもらっているのだろうけど、こうなるともう魔法じゃないか」
「はっはっはっ、チビ共はすげぇからな! まぁさっさと馬に繋いでくれ。大した作りじゃねぇが、王都くらいまでは保つだろ」
二人はすげぇ不服そうな顔をしていたが、渋々といった感じで馬に繋いでくれた。これで荷馬車の完成ってわけだ。
御者台には不愉快そうなリルリ。荷台には、むすっとしたグス公と笑顔の俺。
もちろん、王家の馬車以外の乗り物だと酔うグス公には、チビ共特製の酔い止めの薬を呑ませた。
あのまま喧嘩して無駄に時間を使うよりはいいだろう。中々の出来だと思うしな!
俺は満足して、チビ共と一緒に荷台で横になった。
その日、俺たちは野営することにした。王都まではもう少し距離があるから仕方ねぇ。
だが、一つ驚いたことがあった。グス公が手際よくリルリと料理を作っている。
テキパキと調理を終えると器によそい、差し出してきた。
「食べてください!」
「おう」
一年前は毒薬みてぇなスープを出されたが、今目の前にある器からはいい匂いがしている。
まぁ、リルリと一緒に作ったわけだし、大丈夫だと思うが……少し緊張しながら、スプーンを口に運んだ。
「……うめぇな! 一年間で、すげぇ上達してやがる。こりゃお前たち、いい嫁さんになれるな」
よくドラマとかで、どこぞのおっさんが言っている台詞だ。自分がこんなことを言うとは思わなかったが、するりと口から出ていた。
聞いたグス公は顔を赤くし、もじもじしている。リルリも似たような感じで、意味ありげに俺を見ていた。
「い、いいお嫁さんになれますか? もらってもらえますかね?」
「うん、お嫁さんとかも悪くはないよね」
なぜこいつらは、俺のことをちらちら見てんだ? やっぱりこう、ダチに認めてもらえると自信を持てる……そういうあれか?
なら、俺も笑顔で応えてやらないといけねぇな!
「おう! お前たちなら大丈夫だ。式には呼んでくれよな!」
瞬間、ぴしっと時が止まった気がした。
チビ共は俺の周囲で震え、グス公とリルリの顔と体は固まっている。
それに、なんだか俺も背筋がぞくぞくする。風邪でも引いちまったか?
大事をとっておくに越したことはねぇ。俺は外していたマントを手に取り、肩から羽織った。
ぶるりと体を震わせると、不意にバンッと音がした。
グス公とリルリが、思い切り食器を地面に叩きつけた音だ。
「零さん! 私たち、再会してすぐ告白しましたよね!?」
「はっきりと言ったのに、そういう態度はどうなんだ!」
「……告白?」
告白って、あれか? 懺悔とかそういうので、教会に箱があるってやつだろ? そんなこと、こいつら言ってたっけか……?
そもそも、神父でもねぇ俺に罪を告白してどうすんだ?
こいつらは相変わらず良く分からねぇところがあるな。
そんなことを考えていると、二人は俺を見てがっくりと項垂れた。
「もう、いいです……。どうすれば分かってもらえるんですか、この鈍感駄目駄目なのに、実は優しくて私を支えてくれる素敵な零さんに……」
「最低で目つきが悪くて、人付き合いも下手だけど頑張ってる、見た目と違って人のために頑張る格好いいボケナスめ……」
貶しつつ褒めるって、高等テクニックだよな。文句の一つも言いてぇところだが、どうも言いにくい雰囲気だ。
ずずっとスープを飲むと、チビ共に足を蹴られた。全く分からないが、俺が悪いらしい。
なんとも言えない空気のまま食事を終え、俺は眠りについた。
第六話 ……仕方ねぇな
天気も良く清々しい気分で王都を目指し……などと都合の良いことはない。
土砂降りの雨の中、俺たちは木の陰で雨宿りをしていた。つっても、完全に雨をしのげるわけじゃなく、少しマシになる程度だ。
「ちっ、ついてねぇな」
「これはやっぱり、氷魔法が得意なリルリが雨女だったということですね!」
「氷が得意なのですから、降るのなら雹だと思いますが」
淡々とリルリに返されても、グス公は「そんなことはありませんよー」と楽しそうにしていた。
チビ共は水溜まりではしゃいだり、雨の中を飛び回ったりしている。風邪引くんじゃねぇぞ?
まぁ、前も見えないほどの雨だ。台風とかでテンション上がって外に出て、強い雨が痛くてなんだか笑っちまう、そういったガキのノリと一緒だろう。
俺は長くなった髪をかき上げ、木に背を預けながら空を眺める。
これは当分止みそうにねぇ。どうしようもなさそうだな。
雨の中で野営をするのは面倒だ。二人もテントなんて持ってねぇから、まずは雨を防ぐ屋根から作らないといけない。
まぁ、そういうのも悪くねぇ。やるか。
そう思いチビ共に力こぶを作って見せると、こくこくと頷いた。
「おっし、今日は移動を諦めるしかねぇな。雨宿りできる場所を作るぞ」
「とはいえ、手ごろな布とかもないぞ?」
おいおい、なんのために魔法があるんだ? 我に秘策ありってやつだ。
自信満々でにやりと笑いかけたが、二人は首を傾げるだけだった。
まずはリルリの魔法で、四本の柱を作る。その上に分厚い氷の板を載せて、屋根代わりにした。
氷に雨が当たれば、当然溶けてしまう。それを防ぐために、森の中で大き目の葉をチビ共と一緒に集めて屋根を覆うことにした。リルリ曰く、これなら氷は朝まで保つらしい。
「こういうのって、わくわくしますね!」
「雨に濡れなければな」
「悪天候のほうが思い出として残るじゃないですか! 忘れられないですよ?」
「そんなもんか?」
俺が不思議に思って見ると、二人ともうんうんと頷いていた。まぁキャンプみてぇなもんだし、そんな感覚なのかもしれねぇな。
柱と柱の間にも、葉と蔓を組み合わせて壁を作る。地面にも柔らかい草を敷き詰めたので、寝転がっても泥まみれにはならない。まぁ、雨のせいで草は湿ってるけどな。
終わってみれば、室内が多少ひんやりとはしているが、中々の物ができあがった。
だが、このまま寝転がるのは、愚策だよなぁ。何かいい手はないか?
考えていると、リルリが蔓を編んでいた。
網みたいな物を作っているが、漁でもするつもりなのか?
何を作っているのかは分からないが、面白いので見ている。
すると、リルリが俺を手招きした。
「見ているのなら手伝え。グレイス様はどうぞ楽にしていてください」
「リルリ! 編み方はこれで大丈夫ですか!?」
「……俺よりやる気みてぇだぞ」
「活き活きしているな。はぁ、グレイス様、そこはそうではなく……」
俺よりもノリノリなグス公は、網の編み方をリルリに習っている。
邪魔しないよう覗き込みつつ俺もやってみたが、あまりうまくいかねぇ。中々難しいもんだと思っていたら、チビ共が蔓の上に載って教えてくれた。
なるほど、こっちじゃなくてそっちの下に入れるのか!
網が完成するまで、俺たちは作業に没頭した。
で、網が完成したわけだ。雨の中でないと捕まえられない魚でもいるんだろう。川に向かうべく、俺は気合いを入れて、肩に網をかけた。
「何をしているんだ? 完成した物はこっちに渡してくれ」
立ち上がった俺に、リルリは手を差し出す。
「あぁ? 漁をするんじゃねぇのか?」
「ですが、食料は足りていますよ?」
確かにグス公の言うことはもっともなんだが、ならどうしてこんな物を作ったんだ?
俺が考えるよりも早く、リルリは氷の柱を追加し、三つの網を吊るしている。それを見て、俺はようやくリルリが何をしようとしていたかを理解した。
ハンモックだ。こっちの世界ではなんて言うのか知らねぇが、俺のいた世界ではそう呼ばれていた。
実際乗ったことはねぇが、一度は乗ってみたいと憧れてる奴が多い……と、思う。ぶっちゃけ、俺もその一人だ。
しっかりと結ばれたハンモックへ、引き寄せられるようにふらふらと近づく。
しかし、俺がハンモックに乗ろうと前屈みになった途端、リルリが俺の背を足場にしてハンモックに飛び乗った。
俺はその反動で膝をつき、リルリはぶらぶらと揺れるハンモックで楽しそうに……とはいかず、ずるりと滑って俺の上に落ちてきた。
「いってぇな!」
「うーむ、中々難しい。揺らしすぎたら危険だな。零、もう一回足場になってくれ」
「誰がなるか……うおっ!?」
「次は私です!」
こいつら、俺をなんだと思ってるんだ!?
膝をついて高さが丁度良くなったからか、グス公も俺を足場にして、恐る恐る乗り込もうとしている。
立ち上がれば、グス公が地面に落ちるだろう。さすがに草が剥がれて泥まみれになるかもしれねぇから、体勢を変えるわけにはいかない。
つまり、不本意だが俺は黙って足場になっているしかなかった。
「おい、まだか?」
「も、もうちょっとです。もうちょっとですからね。あ! 零さん! 上は見ないでくださいよ?」
「いいから早く乗れ!」
俺に怒鳴られ、ようやくグス公はハンモックに乗り込む。乗ったときは「ひょー」とか変な声を出していたが、少しすると静かになった。
落ち着いたのかと思い顔を上げてみると、目の前には、横になって幸せそうな表情のグス公。
足場にされて気分が悪い俺は、腹いせにハンモックを揺らしてやった。
「こ、これは……面白いです! でも、もう少し揺れを少なくしてください!」
「うるせぇ、やめだやめ!」
ちっ、嫌がらせにもなりゃしねぇ。
もっともっとと言っているグス公は無視だ。
ため息を吐いて立ち上がったら、今度はガシッと服の裾を掴まれた。
視線を少し下に向けると、リルリとチビ共が目をキラキラさせて俺を見ている。
……また足場になれってか? 勘弁してくれ。
リルリと足元にいたチビ共を持ち上げてハンモックに乗せてやってから、やっと俺も自分用のハンモックに乗ることができた。
横になると、俺にくっついていたチビ共が腹の上に乗る。それだけでなく、俺の体中に乗ったチビ共が下を指差してぴょんぴょん跳ね始めた。
ちらりと地面の方を見ると、俺たちが横になっている三台のハンモックの下に、チビ共が目を輝かせて並んでいる。
こうなったらしょうがねぇ。
俺は楽しむ時間もなく降りて、チビ共をハンモックに乗せてやった。
ゆらゆらと揺らすと、楽しそうにして喜んでいる。遊園地のアトラクションみてぇなノリなのかもしれねぇな。
まぁチビ共が喜ぶなら、ハンモックくらいいくらでも揺らしてやらぁ。
「零さん、私のも揺らしてください」
「あ、僕も頼む」
「……仕方ねぇな」
俺があっさり承諾したことで、二人は驚いた顔になった。
普段ならお断りだが、てめぇらのところにもチビ共が並んでんだよ。拒否できるわけねぇだろ?
多少面倒くさかったものの、俺はチビ共のためにハンモックを揺らし続けることになった。
――明朝、目を覚ます。
起き上がると、ぐらぐらと揺れてバランスを崩し、慌てて蔓に掴まった。
そういえば、ハンモックで寝ていたんだったなぁ。すっかり忘れていたが、落ちなくて良かった。
まぁ、さすがに分かっていれば落ちることはない。ひょいっと……とはいかなかったが、ハンモックから降りる。
中々面白い体験だったなぁ。そう思いながら肩を回していると、隣のハンモックから声を掛けられた。
「ぜ、零さん」
「起きたか、グス公。おはようさん」
「あの……」
「どうした?」
困った顔をしたまま、横になっているグス公。首でも寝違えたのかと思っていると、両手を精一杯伸ばし、ぺろっと舌を出した。
「降りられません」
「昨日の雨が嘘みてぇに、いい天気だなぁ」
「無視しないでください!」
「朝食の支度ができました」
「あ、リルリ! 私も食べます。零さん、早くー!」
俺はグス公へにっこりと笑い返し、手を伸ばす。嬉しそうな顔のグス公の手を撥ねのけ、チビ共を一人ずつ丁寧に降ろしてやった。
快晴、快晴。昨日とは打って変わってってのは、まさにこれだな。
うーんと伸びをし、首を回す。そして、リルリの隣に座り朝食を受け取った。
「零さん? 零さーん! 可愛いグレイスちゃんが困っていますよ? 零さーん!」
「リルリ、助けてやらねぇのか?」
「僕は呼ばれてないからね」
「零さーん!」
さて、王都を目指して今日からまた頑張るかね。
第七話 立派になったな!
数日が経ち、俺たちは王都の外にある、馬車用の門の列に並んでいた。
「零さんは、どうしてそんなに並びたがるんでしょうか……。王女の私がいればすぐ入れるのに」
どうしても何も、誰だって横入りされたら腹が立つだろ。
ラーメン屋の列を譬えに出して説明したが、二人にはいまいち伝わらなかった。
異変は起きてないと分かったんだから、そこまで急ぎの旅じゃねぇ。とりあえず大精霊のところを回るってことは決まっているが、焦ることはないだろう。
なら、横入りしてまで急ぐ必要はねぇだろ?
それに、のんびり空を眺めているのは、いい気分だ。森にいたときもよくやってたしな。
だが、グス公は「町が、城が、もう目の前に見えているんですよ」と、周囲に聞こえるように言っている。
せめて聞こえないように言えよな。そう思い欠伸をしたら、リルリが俺をじっと見ていた。
「んだよ。どうかしたのか?」
「いや、なんかお前柔らかくなったか?」
「おぉ、柔軟は欠かしてねぇからな。体が柔らかいほうが、怪我しにくいんだぜ?」
「そういう意味じゃない。これだからボケナスは……」
なんで俺はこいつにため息吐かれてんだ?
さっぱり分からないまま、数時間後に町の中へと入った。
通りに人が大勢いる中、いつの間にか現れた衛兵が先頭に立ち、俺らの馬を引いている。先導して道を開いているみたいだ。
グス公がいるから、こいつらも大変なんだろうなぁ。
騎士として優秀な――それ以外は残念ともいえる――姉と比べられ、グス公は周りの人に認めてもらえないって悩んでたんだよな。城の中でもそうだし、町の中にだってグス公にいい感情を持ってねぇ奴はいるんだと思う。
だから、そいつらからグス公を守るために衛兵が……。
……いや、違うな。こっちに寄ってきている人は皆、笑顔だ。
妙な感じだと思い周囲の声に集中すると、すぐに理由が分かった。
「グレイス様! グレイス様がいるぞ! グレイス様、万歳!」
「どちらへ行かれていたんですか!」
……人気者って感じがする。グス公は慣れた様子で、何も言わず笑顔で手を振っていた。
はぁー、王族っぽいな。貫禄というか、それっぽくなったというか。様になってんじゃねぇか?
そうか、あれから皆に認めてもらえるようになったんだな。本当に良かった。
一年前はおどおどしていることが多かったのに、今はどっしりと構えている。一年間で成長したもんだ。こりゃ俺も祝ってやるか。
そう思い、グス公の肩を叩いた。
「はい、どうしました?」
「成長してるじゃねぇか。どっしりとした感じだぜ」
「……」
あれ? 俺は素直に褒めたんだが……。
グス公は固まった後、自分の体を触り出した。体に虫でもついたのか?
どう対応したものか困っていると、グス公はこほんと咳払いをした。
「そ、そんなにどっしりしていないと思います!」
「いや、そんなことねぇって。大したもんだ」
「大したもの!? 一目で分かるくらいですか!?」
「おう、すぐに分かったぜ」
「あ……あうあう……最近、間食が増えていたかも? でもでも、運動だってしているし……」
ぐずぐずとグス公が呟く。よく聞こえねぇが、慌てていることは分かった。
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