勇者様、旅のお供に平兵士などはいかがでしょうか?

黒井 へいほ

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第一章

1-2 勇者様は断りたい

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 なぜかよく分からない場所に出現したとはいえ、勇者様であることは事実。その証拠の印みたいな
ものが、彼女の体の一部にあることも確認されたらしい。
 魔族に気付かれぬよう、コソコソと行われた『異世界勇者召喚術』だったのだが、少し目立ってしまっている。敵に気づかれていないことを心配しつつ、彼女を城内へ。我々は警備に……おや?

 腕をがっしりと掴まれており、どうしたのかと目を向ける。
 勇者様は、眼鏡を押し上げながら言った。

「ラックスさん。お願いだから、ついて来てくれる?」

 わぁー! 勇者様のご指名だー! ……なんて浮かれられる頭ならよかったのだが、そんなことはまるでない。
 想像通りというか、なぜこいつが一緒に? みたいな目でお偉いさん方に見られ、縮こまりながらも、勇者様の警備というお題目でお供することになった。


 そして今、室内は俺たち二人だけとなっている。陛下と会うまでの待ち時間を過ごす部屋ってわけだ。
 勇者様はソファに腰かけたまま、ブツブツとなにかを呟いている。いきなり知らない世界に放り出されたわけだ。考えることも色々あるだろう。
 俺はもちろん、扉の横に立っている。兜のバイザーは上げているが、手には槍を持っていた。ちゃんと警備しています。

「ねぇ、ラックスさん」
「はい、勇者様」
「……その勇者様、っていうのは、わたしのことで間違いないの? 本当に?」
「異世界より召喚されし勇者は、体の一部に印が浮かび上がっている、と先ほど偉い人が言っていました。自分にはそれ以上のことは分かりかねます」
「そう……」
「申し訳ありません」

 肩を落とし、息を吐いた彼女を見て、本当に申し訳なく思っていたのだが、勇者様はくすくすと笑っていた。

「ラックスさんは人がいいのね。普通、そこまで共感しないわよ?」
「そうでしょうか? ……うーん」

 よく分からず首を傾げると、また勇者様がくすくすと笑う。
 たぶん同い歳くらいだからだろうか、それとも最初に出会った相手だからか。勇者様は、俺には少しだけ気を許してくれているように感じられた。
 それが少しだけ嬉しく、こちらも気を緩めてしまう。目を向けると、彼女も笑ってくれていた。

「ここは異世界で、ここはお城。そしてわたしは勇者で、あなたは兵士」
「そうみたいですね。勇者様の世界には城が無かったのですか? 後、勇者や兵士は?」
「お城はあったけど、わたしは日本育ちだったから、西洋のお城は直接見たことがないわね。兵士はいる国もあったけれど、勇者はいないわ」
「はぁー……なら、勇者になる前はなにを?」
「女子高生。……学生、のほうが伝わるかしら?」
「じょしなんたらっていうのは分かりませんが、学生なら分かります。勇者様は元の世界でもエリートだったんですねぇ」
「学生がエリート? こっちではそうなのね。わたしの世界では、十八歳くらいまでのほとんどが学生よ。……それにしてもご都合主義は大事だわ。それとも召喚の際にそういう術式が組み込まれているのかしら? ちゃんと話が通じているもの」
「へえええええええええええええ!」

 後半はよく聞こえなかったが、勇者様の話は新鮮で、本当に別の世界から来たんだなと思わせてくれた。
 時間も職務も忘れて会話を楽しんでいたのだが、扉がノックされる。それで我を取り戻す。急いで扉の横へ戻り、背筋を伸ばした。

「ヘクトルだ。勇者様はいらっしゃるかい?」
「お、おらっしゃりますです!」

 慌てて扉を開き、中へ招き入れる。
 よく整えられた肩にかかる長さの金色の髪。少し細身ながらも、鍛えられていることが分かる体。
 我がミューステルム王国の第一王子にして、最強の呼び名も高い人物。ヘクトル=ミューステルム殿下だった。

 俺はガッチガッチに緊張したまま動けなくなる。ヘクトル様は苦笑いを浮かべ、俺の肩をポンポンと叩いてから、前に進み出た。それに合わせ、勇者様が小さく頭を下げる。
 途端、ヘクトル様のすぐ後ろにいた女騎士が怒り狂った。

「貴様! 勇者とはいえ、我が国の王子であるヘクトル様に対し、そのような態度が許されると思っているのか!」
「やめたま――」
「お、お待ちください!」

 どうやら、また思うがままに行動してしまっていたらしい。だが、それについての反省は後ですることにして、俺は震えながら口を開いた。

「ゆ、勇者様は異世界からいらっしゃいました。少しだけお話を伺いましたが、こちらの世界とはまるで違います。その、礼儀作法などについても、決して悪意があったわけでは無くてですね」

 うん、自分で言っておいてあれだが、これはダメだ。勇者様が罰されるようなことはないだろうが、俺はダメ。不敬で罰されることは間違いない。
 実際、女騎士の顔はみるみる赤くなっていく。逆らった平兵士に怒り心頭、今すぐ切り伏せてやる! と言わんばかりだった。

 そして予想通りというか、女騎士が剣の柄に手をかける。終わった……。実家のことは頼んだぜ兄さん……。

「兵卒の分際で、上官に対して意見をしようと言うのか! 見逃すことはできん! 首を出せ!」

 半泣きになりながらも兜を外そうとしたのだが、その手が止められる。顔を上げると、そこにはまさかのヘクトル様がいた。

「君の言う通りだ。世界が違えば作法も違う。当然のことだろう。……というかだね、僕は別に怒っていないよ。ディラーネも怒りを鎮めてくれないかな? 彼女が悪かったね」

 後半は小声だったが、それは彼女のプライドを傷つけないためだろう。ヘクトル様は苦笑いをしつつ、謝罪を口にしていた。
 物理的に首も繋がったままとなり、ホッと一安心。女騎士に対しても、ヘクトル様が取りなしてくれている。もう大丈夫だ。
 ……と思っていたのだが、そうではなかった人物がいた。勇者様だ。

「あの……」
「あぁ、勇者様、申し訳ありませんでした。彼女にはしっかりと――」
「勇者とか無理です。いきなり目の前で、人の首が斬り落とされそうになったんですよ? そんな世界で生きていくとか、本当、絶対無理です」

 冗談でもなんでもなく、勇者様はめっちゃ真顔で無理無理と言っていた。


 その後、自分とヘクトル様が説得を。青ざめた女騎士も謝罪をしたが効果は薄い。
 結局のところ、最悪の状況のままお声がかかり、玉座の間へと向かうことになった。

 玉座の間は少しだけ大きな鉄の門になっている。いざというとき、ここに立て籠もることが目的だとか。なぜこんなところに立て籠もるのかは分からない。
 ヘクトル様が一番前を歩いているからか、当たり前のように扉が開かれる。
 そしてヘクトル様、女騎士(ディラーネ様というらしい。ヘクトル様の右腕だった気がする)、勇者様が玉座の間へと入って行くのを見届けながら、深々と頭を下げた。これで俺の役目は終わりってわけだ。

 しかし、なぜか肩に手を乗せられた。右だけでなく、左にもだ。
 顔を上げると、そこには勇者様とヘクトル様の姿。はて、一体なんの用だろうか……?

「心配だから一緒に来て欲しいの……ダメ?」
「ラックスくんも一緒のほうがいい気がする。一緒に来てくれないか?」

 俺は、笑顔のまま下唇を噛み、とてつもなく重い足を進ませる。頼りにされるのはありがたいが、王の間に入るのなんて初めてで少し吐きそうだった。

 そしてすぐに、陛下の前へ立つことになるわけだ。遠目にしか見たことがない、勇者と同じくらい遠い存在。
 産まれて初めて間近で見る王様は、威厳たっぷりで、ちょっと優しそうなおじいちゃんだった。

 少し安心してしまったが、もちろん、すぐに片膝をついて下を向いた。
 そのまま勇者様に小声で話しかける。

「……勇者様、こんな感じにしてください。うちの国では、陛下の前ではこうするんです。それで、面を上げよ、と言われたら顔を上げる。そんな感じです」
「……分かったわ」
「いや、聞こえているぞ? それと、勇者様は異世界から来られた方。礼儀作法が違うのは当然のことだろう。気にせず楽にしてもらいたい」
「そういうわけには――」
「ありがとうございます、陛下」

 俺は恐縮してしまったのだが、勇者様は平然とした顔で立ち上がっていた。さすが勇者様だ。俺なんかとは胆力が違う。
 ならば続くしかないだろうと、おどおどとしながら立ち上がる。ヘクトル様が大丈夫だよ、と背をポンッと叩いてくれた。優しい。

「では、話を始めよう。……勇者、ミサキ=ニノミヤよ。今、この世界は窮地に立たされている。もし良ければでいいのだが、この世界を救うことを前向きに検討してもらえたりしないだろうか?」
「お断り――なぜ、そんなに下からお願いしているの? 王様なのよね?」

 勇者様が首を傾げ、陛下はより深く首を傾げた。もちろん我々一同も首を傾げる。勇者様の言っていることの意味が、よく分からなかったからだ。
 陛下は少し悩んだ後、なるほど、と気付いた様子で口を開いた。

「こちらの都合で呼び出しておいて、無理強いすることはできんだろう。だが、できれば手を貸してもらいたい。世界を救ってもらいたい。ならば、頼む以外になにができる。褒美を望むのならできる限り叶えるが、まずは誠意が大事だとワシは考えた」
「いえ、確かにそちらの都合で呼び出されて迷惑はしていますが、そんな下手したてに出られると、こちらとしても気まずいと申しますか……」
「そうはいうが勇者様相手に――」
「ですが、こちらとしましても――」

 陛下としては、手を貸してもらいたいが無理強いはできない。出来る限りの望みは叶える。この国のいいところなどを見てもらいたい。どうしてもダメなら帰るための儀を行うので、数日でいいから考えてほしい。こんな感じだ。

 勇者様としては、断る気満々だったが、そんな風に言われると断り辛い。断り辛い上に、そのことを謝られるとさらに困る。自分は一般人で、特殊な力が有っても手伝えるとは思えない。でも、変わるとは思えないが数日は考える。それがギリギリ善処できるところ。

 といった感じで数日間、勇者様を色々なところに案内するという方針になった。

「それともう一つお願いがあります」
「なんですかな、勇者様」
「わたしの案内はラックスさんでお願いしたいわ」
「そ、そういうわけには参りません! 長子であるヘクトルが――」
「なら、すぐに帰ります」
「ラックスよ、すまないが頼んだぞ」
「えっ? ハッ!」

 こんな感じになった。……なってしまった。
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