勇者様、旅のお供に平兵士などはいかがでしょうか?

黒井 へいほ

文字の大きさ
21 / 51
第一章

3-6 奇襲作戦開始

しおりを挟む
 夜間の奇襲。彼らも昼の戦闘で疲れ、眠っているだろう。モンスターと言えど、夜行性でなければ夜は寝る。当たり前のことだ。
さすがにあの壁は破壊されているだろうが、洞窟内を根城にしているとしても、こちらには山賊たちがいる。内部の構造には詳しく、決して不利にはならないはずだ。

 山賊たち先導のもと、例の洞窟へと辿り着く。予定通り現場は静かで――なんてことはなかった。
 恐らく、山賊たちが残した食料だろう。それを洞窟の入口へ持ち出し、彼らはドンチャン騒ぎをしていた。

「クソッ、どれだけ苦労して食料を奪ったと思ってんだ……!」

 せめて買うか、育ててから文句を言えよ! 心の底からそう思ったが、口に出してしまえば、仮初の協調関係が崩れてしまう。グッと耐えた。
 勇者様はどう思っているのだろう? と目を向ける。彼女は「どっちもどっちね」と呆れ声で言っていた。全くもって同感だ。

 しかし、彼らは油断しきっている。今は攻める好機と言えた。
 山賊の頭は、敵を包囲するよう部下たちに指示を出す。やつらは山賊たちの酒を飲んでいる。火の魔法や火矢を用いて、引火させて混乱を巻き起こそうという算段らしい。

 特に異論は無いのだが、聞きたいのはその後だ。ゴブリン程度ならば弱体化するし問題無いだろう。だが、オーガはどうするのか?
 見える限りで三体。襲撃されたときに確認されたオーガは五体。残り二体は洞窟内で休んでいるのだろう。

「嬢ちゃん、入口を魔法で塞げるか?」
「任せて、と言いたいところだけど、できる限り近づいたほうが確実ね。何人か人を回してもらえるかしら?」
「ミサキお嬢様! 護衛でしたら自分が」
「わたしたち二人より、数人で行うほうが安全よ。ラックスさんもそう思うでしょ?」
「全くもってその通りです。皆で協力して入口を塞ぎ、その間に外にいるゴブリンとオーガを討伐。それから洞窟内のも始末しましょう」
「分かった、五人まわす。残りでやつらに奇襲を仕掛ける。混乱している最中に突撃して乱戦に持ち込む。嬢ちゃんたちもそのタイミングで突っ込んでくれ」
「分かったわ」

 彼らもギリギリのはずだが、五人も貸してくれたのは、それだけ洞窟内のオーガ、ゴブリンを警戒しているのだろう。

 しかし、大きな問題がある。この七人に対して、誰が陣頭をとるか、ということだ。
 もちろん俺は山賊の下につく気はない。勇者様にだってつかせたくない。
 では、先手を取るしかないだろう。俺はコホンと一つ咳払いをして注目を集めた。

「ここは誰が指揮をとるのか決めておいたほうがいいでしょう。自分はミサキお嬢様がいいと思うのですが、異論はありませんよね?」
「え? ラックスさんが指示を出すんでしょ?」
「え?」

 なぜ? と思っていたら、勇者様に山賊も続いた。

「オレたちゃどっちでもいいが、なら、あんちゃん頼むわ」
「おう、よろしくな。あんちゃんの指示通り動くからよ。今は仲間だ。頼ってくれていいぜ」
「……よ、よろしくな!」

 物分かりの良すぎる山賊たちに戸惑いを覚えつつも、俺がこの七人に指示を出すことになった。

 とはいえ、やることは簡単だ。
 突撃のタイミングに合わせ、勇者様を囲って移動。もちろん先頭は俺だ。全身鎧に盾。防御力なら一番ある。
 辿り着けば壁を作るが、破壊しようとしてくるだろう。俺たちはその場に留まり、壁を作る勇者様を守り続けるというわけだ。

「いいんじゃねぇか?」
「わたしも異論は無いわ。皆さん、わたしを守ってください。よろしくお願いします」

 ぺこり、と勇者様が頭を下げる。
 勇者様が頭を下げる必要なんてないんですよおおおおおお! 必要があるのなら、自分がいくらでも下げますからあああああああああ!

 と、叫びかけていたのだが、肩にポンッと手を置かれた。
 見ると、山賊たちが生温かい目を向けている。

「いい嫁さんじゃねぇか」
「いや、婚約者じゃねぇか? もしくは彼女」
「主従関係なんだから、駆け落ちに決まってんだろ」

 好き勝手言っている山賊たちに呆れてしまい、肩を竦める。勇者様も溜息を吐いていた。
 俺たちの関係は、勇者と仲間。いい響きだ、もう一度言っておこう。勇者と仲間!
 伝えられないのを残念に思っていると、山賊の頭の声が夜の森に響き渡った。

「アーヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイ!」

 合わせて、同じように叫びながら山賊たちの攻撃が開始された。
 いつ突撃を開始するのか。同時に飛び込むより、少し遅れて飛び出したほうがいいだろう。相手が注意を惹いてからのほうが、こちらも安全にことが運べる。

「ラ、ラックスさん。この掛け声みたいのは、なにか意味があるの? アーヤイヤイってやつ」
「そりゃあると思いますよ。今のは攻撃開始で、突撃も別の言葉で合図を出すんじゃないですかね」
「突撃―って叫ぶわけじゃないのね」
「気分の問題じゃないですかね。うちの兵士長なんかは『娘にパパ臭いって言われたあああああああ!』とかを突撃の合図にしたりします」
「それでいいの!?」
 肩の力も抜けるしいいのではないか、と思う。
 敵も、こいつらなに言ってんだ!? と考え唖然としてしまうらしく、隙を突ける有効な戦術だと、我が国では言い伝えられていた。

「本当変わった国よね……」
「いい国ですよ」
「そうね、そこは間違いないわ。山賊いるけどね」

 まぁ山賊なんていうのはどの国にでもいるのでしょうがない。撲滅するほうが難しいだろう。
 彼らはそういう風に産まれ、そういう風に育った。兵士になればいいと思うが、他の生き方を知らないのだから、中々に難しい問題だ。

「ラールララララララララララララララ!」

 妙な声に合わせ、突撃が始まる。酒樽は火が点き、周囲は炎上。そんな状況に突撃していくのだから、山賊たちも勇猛果敢だ
 さて、こちらもそろそろ動くことにしよう。

「なるべく音を立てず。気付いたやつは始末していくが、本格的にマズくなるまでは走らない。ゆっくり行くぞ」
「ラールララララララ」
「静かにな!」

 突撃の合図を言えないことが悲しいのか、山賊たちは肩を落としていたが、気にしていられない。俺たちはコソコソと移動を開始した。


「グギッ?」

 振り向いたゴブリンの喉笛を掻き切る。倒れるときに音はしたが、周囲は騒然としているので、まだ気付かれていない。
 ゆっくりと、安全第一に……。

「ラックスさん。そろそろ走ったほうがいいんじゃない?」
「いえ、まだ気付かれていません。このままいきましょう」
「でもあっちが気付いていると思うんだけど……」
「気付かれていませんよ?」
「そうじゃなくて、洞窟内のほうよ」
「……全員走れ! 急ぐぞ!」

 慎重になり過ぎていたというか、洞窟を塞ぐのは洞窟内から出て来させないためなのに、安全第一で失敗していた。なによりも優先されるべきはスピード。もたもたしている場合じゃない。
 見落としていた愚かな自分に反省していると、声が聞こえた。

『左に盾を構えろ』

 妖精さんの言われた通りにすると、すぐにガンッと攻撃を防いだ音。これだから妖精さんは頼りになる。

『左、前、前、左、前』
「ちょ、ちょ、ちょちょちょ」

 剣と盾を駆使して、ギリギリ攻撃を防ぐ。攻撃する暇すらないと思っていたのだが、そこは後方の山賊たちが前に出て、ゴブリンたちを倒してくれた。

「あんちゃんやるじゃねぇか!」
「洞窟はもうすぐそこだぜ」

 ふと顔を上げれば、洞窟の入口はもう目と鼻の先。
 必死になっている内に、随分距離を詰めていたようだ。

「ミサキお嬢様!」
「えぇ、任せて! 《ストーン・ウォール》。からの《ストーン・ラバー》! かける2!」

 二枚のぐにぐにした壁が洞窟の入口を塞ぐ。これですぐに出て来れるようなことはない。
 気付いたのだろう。山賊の頭が声を上げた。

「一気に片付けるぞ! オーガには気を付けろ! ラールラララララララララ!」
「「「ラールラララララララララ!」」」
「ら、らーるらら」
「やらなくて大丈夫ですからね!?」

 場の空気に合わせようとしていた勇者様は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。ちょっと可愛かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...