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第六話
絶対零度の支配権
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「……ねえ、君。次はもっと『熱い』勝負をしようか。もっとも、僕の準備室(ラボ)が壊れない程度に、だけど」
レオンが微笑みながら告げたその言葉は、アルヴィスにとって屈辱以外の何物でもなかった。氷魔法の天才と呼ばれた自分が、魔力のない「男の娘」に、温度の理屈で完敗したのだ。
「ふ、ふざけるな……! 偶然、何か奇妙な薬を使っただけだろう! 貴様のような、女に紛れて生きる軟弱者に――」
「紛れてなんていないよ。勝手に君たちが、見たいように僕を見ているだけだ」
レオンは一歩、また一歩と距離を詰める。
アルヴィスは杖を構え直そうとしたが、指先が震えて動かない。
目の前の少年……いや、少女にしか見えないその造形があまりに完成されており、その瞳に宿る知性が、自分を見透かしているようで恐ろしかった。
「君の魔法は美しい。だが、効率が悪すぎる。……熱力学を学べば、そんな無駄な魔力を使わずに、もっと深く、鋭く凍らせることができるのにね。惜しいよ」
レオンがアルヴィスの胸元に指を触れる。
心臓が跳ねる音が、静かな準備室に響いた。
「……あ、あ……っ」
アルヴィスの顔が、怒りとは別の理由で赤く染まる。
恐怖と、そして抗いがたい「美」への敗北感。
「今日はもう帰りなよ。これ以上ここにいると、君のプライドが、このフラスコの氷みたいに溶けてなくなっちゃうから」
アルヴィスは、逃げ出すように準備室を後にした。
バタン、と重い扉が閉まる。
一人になったレオンは、ふぅ、と小さく息を吐いて、鏡に向き合った。
「少しやりすぎたか……?」
「……しかし本当。どいつもこいつも、見た目と魔力のことばかりだ」
鏡に映るのは、確かに「可愛い」と形容せざるを得ない、中性的な少年。
この顔が、そして魔力がないという事実が、どれほど「前のレオン」を苦しめてきたか。
レオンは、かつての持ち主が残した、暗く歪んだ記憶の断片を辿り始めた。
(カイル……。あいつが僕を執拗にいじめるようになったきっかけも、結局はこの『見た目』だったな……)
レオンが微笑みながら告げたその言葉は、アルヴィスにとって屈辱以外の何物でもなかった。氷魔法の天才と呼ばれた自分が、魔力のない「男の娘」に、温度の理屈で完敗したのだ。
「ふ、ふざけるな……! 偶然、何か奇妙な薬を使っただけだろう! 貴様のような、女に紛れて生きる軟弱者に――」
「紛れてなんていないよ。勝手に君たちが、見たいように僕を見ているだけだ」
レオンは一歩、また一歩と距離を詰める。
アルヴィスは杖を構え直そうとしたが、指先が震えて動かない。
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レオンがアルヴィスの胸元に指を触れる。
心臓が跳ねる音が、静かな準備室に響いた。
「……あ、あ……っ」
アルヴィスの顔が、怒りとは別の理由で赤く染まる。
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「今日はもう帰りなよ。これ以上ここにいると、君のプライドが、このフラスコの氷みたいに溶けてなくなっちゃうから」
アルヴィスは、逃げ出すように準備室を後にした。
バタン、と重い扉が閉まる。
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「少しやりすぎたか……?」
「……しかし本当。どいつもこいつも、見た目と魔力のことばかりだ」
鏡に映るのは、確かに「可愛い」と形容せざるを得ない、中性的な少年。
この顔が、そして魔力がないという事実が、どれほど「前のレオン」を苦しめてきたか。
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恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
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