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第七話
鏡の中の亡霊と、歪んだ期待
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(……本当に、ナヨナヨした奴だったんだな、君は)
脳裏に浮かぶ「レオン」の記憶は、常に卑屈で、視線は地面を這っていた。
生まれつきの線の細さに加え、内気な性格。困ったときに指先を弄る癖や、上目遣いで相手を伺う仕草は、本人の意図に反して周囲に「守ってあげたい美少女」という錯覚を抱かせていた。
そんな「彼」が、最悪の男と出会ったのは入学式の日のことだ。
カイル・フォン・ベルトー。
名門貴族の嫡男。周囲からは「次代の英雄」と期待され、親からは常に完璧であることを強要されていた少年。
張り詰めた期待に押し潰されそうになっていたカイルの目に、校庭の隅で今にも泣きそうに佇むレオンの姿は、あまりにも可憐に映った。
『……おい。お前、どこの組だ?』
カイルは生まれて初めて、自分から「女の子(だと信じた相手)」に声をかけた。
強引にレオンの手を引き、周囲に自慢げに見せびらかしながら、彼は自分を縛る重圧から逃れるように、レオンに執着した。
『お前みたいな可愛い奴が隣にいれば、俺も少しはやる気が出る。……なあ、俺の女にならないか?』
それは、恋というよりは、自分を癒やすための「所有」の宣言だった。
だが、その淡い期待は、次の瞬間に砕け散る。
『……あ、あの……ごめんなさい。僕……男、なんです……』
頬を赤らめ、震える声で告げたレオンの言葉。
周囲にいた取り巻きたちの、一瞬の沈黙。そして、爆発的な嘲笑。
『ぎゃははは! カイル、お前「男」にナンパしたのかよ!』
『「次代の英雄」の趣味は、可愛い男の子か? 傑作だな!』
カイルの顔は、一瞬にして凍りついた。
親の期待を裏切ってはならない自分が、衆人環視の中で「男を女と間違えて口説いた」という、拭い去れない泥を塗られたのだ。
『……っ、ふざけるな!』
カイルはレオンを突き飛ばした。
惚れかけた相手。一瞬だけ自分を癒やしてくれたはずの存在は、その瞬間に「自分の恥を知る忌むべき対象」へと変わった。
(……それからか。君が『女みたいな無能』と罵られ、執拗に虐げられるようになったのは)
レオンはいじめられるたびに、さらに萎縮し、その仕草はますます「守られるべき弱者(女)」に近づいていった。それがまたカイルの苛立ちを煽り、暴力は加速する。
皮肉な話だ。カイルはレオンを憎みながらも、その「女らしさ」から目を逸らすことができずにいたのだから。
「……君は悪くないよ、レオン」
鏡の中の自分に、蓮はそっと指を触れる。
「君のその繊細な仕草も、高かった座学の成績も、この世界が低レベルだったせいで価値を認められなかっただけだ。……カイルの歪んだ執着も、僕が科学的に解体してあげる」
レオンの口元に、冷たい笑みが浮かぶ。
「さあ、明日は試験だ。君がバカにされ続けたその『座学』で、この学園の常識を根底からひっくり返そうか」
脳裏に浮かぶ「レオン」の記憶は、常に卑屈で、視線は地面を這っていた。
生まれつきの線の細さに加え、内気な性格。困ったときに指先を弄る癖や、上目遣いで相手を伺う仕草は、本人の意図に反して周囲に「守ってあげたい美少女」という錯覚を抱かせていた。
そんな「彼」が、最悪の男と出会ったのは入学式の日のことだ。
カイル・フォン・ベルトー。
名門貴族の嫡男。周囲からは「次代の英雄」と期待され、親からは常に完璧であることを強要されていた少年。
張り詰めた期待に押し潰されそうになっていたカイルの目に、校庭の隅で今にも泣きそうに佇むレオンの姿は、あまりにも可憐に映った。
『……おい。お前、どこの組だ?』
カイルは生まれて初めて、自分から「女の子(だと信じた相手)」に声をかけた。
強引にレオンの手を引き、周囲に自慢げに見せびらかしながら、彼は自分を縛る重圧から逃れるように、レオンに執着した。
『お前みたいな可愛い奴が隣にいれば、俺も少しはやる気が出る。……なあ、俺の女にならないか?』
それは、恋というよりは、自分を癒やすための「所有」の宣言だった。
だが、その淡い期待は、次の瞬間に砕け散る。
『……あ、あの……ごめんなさい。僕……男、なんです……』
頬を赤らめ、震える声で告げたレオンの言葉。
周囲にいた取り巻きたちの、一瞬の沈黙。そして、爆発的な嘲笑。
『ぎゃははは! カイル、お前「男」にナンパしたのかよ!』
『「次代の英雄」の趣味は、可愛い男の子か? 傑作だな!』
カイルの顔は、一瞬にして凍りついた。
親の期待を裏切ってはならない自分が、衆人環視の中で「男を女と間違えて口説いた」という、拭い去れない泥を塗られたのだ。
『……っ、ふざけるな!』
カイルはレオンを突き飛ばした。
惚れかけた相手。一瞬だけ自分を癒やしてくれたはずの存在は、その瞬間に「自分の恥を知る忌むべき対象」へと変わった。
(……それからか。君が『女みたいな無能』と罵られ、執拗に虐げられるようになったのは)
レオンはいじめられるたびに、さらに萎縮し、その仕草はますます「守られるべき弱者(女)」に近づいていった。それがまたカイルの苛立ちを煽り、暴力は加速する。
皮肉な話だ。カイルはレオンを憎みながらも、その「女らしさ」から目を逸らすことができずにいたのだから。
「……君は悪くないよ、レオン」
鏡の中の自分に、蓮はそっと指を触れる。
「君のその繊細な仕草も、高かった座学の成績も、この世界が低レベルだったせいで価値を認められなかっただけだ。……カイルの歪んだ執着も、僕が科学的に解体してあげる」
レオンの口元に、冷たい笑みが浮かぶ。
「さあ、明日は試験だ。君がバカにされ続けたその『座学』で、この学園の常識を根底からひっくり返そうか」
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恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
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