エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

文字の大きさ
6 / 105
第一章

06:岩を掘るだけの簡単なお仕事(2)

しおりを挟む
「今日からすべてのノルマを昨日までの三倍にする!」

 翌朝、奴隷使いの男は芋をかじる奴隷達へ言い放った。

 リーダーからのお達しではあるが、何とも厳しい事を言うものだと奴隷使い自身ですら思う。

 ノルマをこなせなければ食事は抜きというのがここでのルールだ。

 なのに到底こなせないノルマを課してしまえば飢えから暴動が起きてもおかしくない。何なら今この場で反乱が起き、魔法で奴隷を虐殺せねばならない可能性すらある。

 そんな覚悟を決めていたが、しかし奴隷どもは青ざめるどころか、むしろにこやかに返事をするのだ。

「あいよっ、ダンナァ! 任せといてくだせぇ!」

「ノルマ三倍だってよ、昼までには終わるか?」

「楽勝楽勝! 朝の内に全部済ませてやらぁ!」

(な、なんだこいつら……? なんでこんなに楽しそうなんだ!?)

 もはや不気味を通り越して恐怖心すら湧いてくる。

 採掘係が使うツルハシの数は増やされていないのにノルマ三倍である。それに運搬係は昨日の時点で三倍だったのだから、更に三倍で実質ノルマは九倍である。どう考えても不可能なはずだ。

 なのに奴隷どもときたら、そろいもそろって昼前に終わるかどうかの心配をしている。

(い、いや……いくらなんでも無理なはずだ。丸一日かけても絶対終わるわけがねぇ……!)

 奴隷使いは一抹の不安を振り払い、いつものように監視の仕事に立つ。

 だがその懸念は間違っていなかったと、仕事が始まってものの数分で気付いた。

「なん……だ……これは……」

 崖を繋ぐロープの装置は今や六つに増設され、常に魔石が選別所へと送り出されている。

 それだけではない。坑道の奥からも、魔獣の咆哮かと思うほど猛烈な音が響いているのだ。

 これにはさすがに他の奴隷使い達も騒然としていた。

「おい、何が起こっている!? この音はなんだ!?」

「奴隷がおかしな道具で魔石を掘ってやがるんだ!」

 仲間の報せを確認すべく、奴隷使いは坑道へと走る。

 そこでは筋骨隆々の熊獣人がツルハシを装着したおかしな装置を手に一人で岩を掘っていた。

「おい、お前! 何やってる!?」

 毛むくじゃらの背に呼びかけるが、しかし振り向きもしない。音が大きすぎるのだ。

「てめぇ、聞こえてねぇのか!?」

 いらだちを隠さず肩をつかむと、獣人奴隷は強面に似合わず目をぱちくりさせた。

「おお、ダンナですかい! どうかしやしたか?」

「どうかしやしたか、じゃねぇ!! てめぇ何やってやがる!?」

「何って、魔石を掘ってるんでさぁ」

 話している間も猛烈な勢いで岩が削られてゆく。

「こ、この道具は何だ!?」

「これは魔法で岩をぶっ壊す道具らしいですぜ。サクガンキ、とか言ったっけな?」

「魔法具……だと……!?」

 魔法が使えない者でも魔法を使う事のできる道具、それが魔法具だ。

 それらを作り出す技術は前世紀に失われてしまったため、現存する魔法具は極めて貴重なものである。それこそ王族や大貴族が持っているような代物であり、一介の奴隷ごときが手にできるものではない。

「なぜそんなものがある!?」

「レンが作ったんでさぁ」

「レン……? 誰だそいつは!?」

「知らねぇので? ほら、新入りの奴隷にガキがいたでしょうや」

 そう言われて奴隷使いの脳裏に一人の少年奴隷が浮かんだ。

 昨日一昨日と怪しげな装置の近くにいた子どもだ。

「あいつか……っ!」

「よし終わりぃ!」

 獣人奴隷は動作を停止したサクガンキなる魔法具からツルハシを外し、背を向ける。

「お、おい! どこへ行く!?」

「今日の仕事が終わったんで小屋に戻るんでさぁ」

「そんなわけないだろう!! ノルマは三倍だぞ!?」

「そう言われても、実際に掘っちまいましたしねぇ……ほら」

 獣人奴隷が手を向けた先には、想像を超える量の魔石が転がっていた。

「バ、バカな……ッ」

 本来数人がかりで三日はかかる量を、朝の内に、あろう事か一人で掘ってしまったらしい。

 奴隷使いは魔法具を実際に目にした事はなかったが、かくも強大な力を持っているというのか。

「そういうわけですんで、おれっちはそろそろ失礼しやすぜ、ダンナァ!」

「待っ……!?」

 獣人奴隷はウキウキした様子で坑道を後にする。

 奴隷使いはもはや開いた口が塞がらず、立ち尽くすほかなかった。



 ***



 報告が来たのは、ルード=バエナルド伯爵が来客の女性と商談していた時だった。

「伯爵様! 奴隷どもが!」

 駆け込んできたのは例のごとく奴隷使いのリーダーである。

 伯爵はイライラしながら男へ鬼の形相を向けた。

「キサマァ……毎日毎日いいかげんにしろ! 来客中だぞ!!」

「も、申し訳ございません! ですが火急のご報告がありまして……!」

「火急だとぉ!? しかし今は……」

「わたくしは構いません。急ぎのようですのでどうぞ」

 女性は一礼し、そっと窓の外へ目を向ける。

 商談相手である彼女にそう言われては報告を聞かないわけにはいかない。

「エスリ殿、しばし失礼……。それで報告とはなんだ! 今度こそ反乱が起きたのか!?」

「い、いえ……そうではありませんが……」

「じゃあなんだ! 言ってみよ!!」

「ど、奴隷どもがまたも午前中に仕事を終えて休んでいるのです……っ!」

「くぅぅぅ……バカが!!」

 伯爵は青筋を浮かべて唾を飛ばす。

「ノルマを増やせと昨日言ったばかりであろう! なぜそうせんのだ!!」

「い、いえ……! ノルマは昨日までの三倍としているのです! 運搬係に至っては当初の九倍となっておりまして……っ!」

「はぁっ!? 九倍だとぉ……!?」

 そこまで膨大なノルマを課してなお午前中に仕事を終えるなど、もはや常軌を逸している。奴隷を増やすか、魔法でも使わない事には絶対に不可能な数字だ。

「なぜそんな事になっておる!?」

「それが、どうも奴隷の中に魔法具のようなものを作り出せる者がいるようでして……」

 伯爵は「むぅ……」とうなる。

 魔法具を作る技術は何百年も前に失われたとされる。そんなものを奴隷ごときが作ったなどという報告はとんだ眉唾物ではあるが、念のため確認する必要はあるだろう。

 それにノルマをこなしているのは結構だが、奴隷の分際で連日陽の高いうちから休息をとるなど許されざる行為だ。

 これは自ら出向いて処罰せねばならない事態だと伯爵は判断した。

「……よろしい。明日に我輩が視察に行くとしよう。お前も部下を連れて一緒に来るのだ」

「はっ!」

 奴隷使いのリーダーは床にひざまずく。

「魔力なしの奴隷が魔法具を……?」

 そんな女性の小さなつぶやきに、伯爵が気付く事はなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...