エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

文字の大きさ
11 / 105
第二章

11:王立魔法学園

しおりを挟む
 魔石鉱山での騒動から一夜明け、竜車に揺られること数時間。

 辿り着いたヴァールハイト王立魔法学園は、王都の中心地にあった。

 人々の往来は多いが、電柱も街灯も自動車もない中世のような街並みだ。見渡す限り背の低い平屋ばかりの中、荘厳な建造物が一際目立っている。

 暖かい時期のため緑が多く、花壇も庭園も花が咲き乱れている。バエナルド伯爵の屋敷も立派だったが、学園とその敷地は数段上の美しさだった。

「さぁ、着いたわ。二人とも降りてちょうだい」

 学園長のエスリに促され、錬とジエットは竜車から出る。

「ここが魔法学園か……」

「人がいっぱいいるね」

 ジエットは目を輝かせながら行き交う人々を眺めている。

 大半が、黒地に金の装飾をあしらったアカデミックガウンに帽子を被った少年少女達だ。

 反面、錬とジエットは薄汚れたボロを着ている。

 昨晩エスリの泊まっていた宿で湯浴みさせてはもらったが、奴隷を買う事など想定していなかったため着替えがなかったのだ。

「視線が痛いな……。完全に場違いだぞ、俺達」

「裏から入りましょう。付いて来なさい」

 歩いて行く彼女の背を追い、錬達はこそこそと逃げるようにして学園内へ足を踏み入れる。

 廊下は石造りで、アンティーク調の装飾が施されていた。天井には透明な雲母板がはめ込まれた採光窓が等間隔に配されており、思いのほか明るい。

「授業は座学と実技で、一日六時間。飢えて死なれると困るから、食事は朝晩二回学生食堂で無料配給されるように手配しておいたわ。食堂にはテーブル席があるけれど、悪目立ちするからあまり使わない方がいいわね。お昼も食べたければ各自で用意なさい」

 そうして裏口を抜け、錬達は緑の中に建つ学生寮へ連れられた。

 寮舎は木造二階建てで、中はテーブル一つに二段ベッドだけと非常に簡素な部屋だ。

「今日からここがあなた達の住まいよ」

「ふ、ふ、二人部屋なんですか!?」

 ジエットが焦ったように尋ねる。熊耳の毛が尖って見えるのは気のせいではないだろう。

「ここは平民舎だから全部相部屋なの。何か問題でも?」

「いえ……その……」

「あらあら。別に口うるさく言うつもりはないけれど、節度を持ちなさいね。ここ、壁が薄いから隣に丸聞こえよ?」

「な、何も問題ありません!」

 顔を真っ赤にして牙を剥くジエットに、エスリはニヤニヤといやらしい笑顔を向ける。

 上品な振る舞いはあくまで表の顔で、中身はその実いい性格をしているようだ。

「まず、あなた達にはこれを着けてもらうわ」

 差し出されたのはベルトのようなものだ。革製で肌触りが良く、艶やかな光沢がある。金具には小さな南京錠がぶら下がっていた。

「これは?」

「奴隷の首輪よ。焼き印の紋章はローズベル家の家紋、横のサインはわたくしの名前」

 エスリの言う通り、首輪にはバラのようなデザインの焼き印とサインが施されていた。

「鉱山では首輪はありませんでしたけど、ここでは着けないといけないんですか?」

「基本的に奴隷は首輪を着けないといけないわ。ただ、バエナルド伯爵は奴隷を鉱山から出さないし、安く買い叩いて使い捨てていたみたいだから、首輪代をケチったのではないかしら」

「最低な理由ですね……」

「ひどい……」

 改めて自分がどれほど過酷な環境に置かれていたかを知る錬とジエットだった。

「それよりごめんなさいね。本当は二人とも解放してあげたいのだけれど、そうもいかないから」

「それは別に構いませんけど、解放できない理由が?」

「ええ。正直に言うと、あなた達二人の所有権は今もバエナルド伯爵にあるの。わたくしは卒業までの三年間、期間限定で借り受けているだけ。よっぽど手放したくなかったみたいね」

「えぇ……」

 あれほど論破されて、なおも食い下がってくるとはしつこい男だ。

「でもまぁ、それだけじゃないけれどね……」

 エスリは肩をすくめて嘆息する。

「解放すればあなた達の身の安全を保証出来ないの。特にジエットさんは半獣だから危険度は高い。でも奴隷なら、何かされた場合に主人は損害賠償を求める権利がある」

「……首輪が抑止力になるわけですか。でもそれならジエットが王女様だと公表すればいいんじゃないですか?」

「だめよ」

 エスリは目を伏せて首を振った。

「第七王女殿下は七年も前に死んだ事になっているの。それが突然現れたとなれば大騒ぎよ? 偽物とされれば死罪だし、本物とわかってもこのご時世では半獣の王女様なんて暗殺されるのがオチ。在学中は学園が保護するけれど、限界はあるわね」

「物騒な話ですね……」

 護衛が付いていたというランドール第一王子ですら暗殺されたくらいだ。護衛すらいない今のジエットなどひとたまりもない。

 それでなくとも人さらいが横行するような人権意識の低い世界である。エスリの言う通り、ここは奴隷の首輪を着けておいた方がいいだろう。

「じゃ、次はこれに着替えてちょうだい。余り物だからサイズが合うか確認するのよ」

 渡されたのは先ほども見たアカデミックガウンだ。錬の体格は年相応らしく、ピッタリの制服が見つかった。

 だがジエットに合うものはなかったようで、ダボダボのガウンを羽織っている。

「ちょっとサイズが大きいです……」

「困ったわねぇ……平民用の制服はここにあるものしかないのよ」

「制服に平民用とかあるんですか?」

「ええ。肩にある紋章が杖のものは貴族、棍棒が平民よ」

 言われて見ると、たしかに肩のところにワッペンがあった。錬が着ているものは一本の棍棒が、エスリのものはクロスした二本の杖が描かれている。

「ちなみに非公式だけれど、生徒達は貴族を『ワンド』、平民を『クラブ』と呼び分けているから一応覚えておくといいわ」

「はぁ。なんで貴族と平民をわざわざ分けてるんです?」

「当魔法学園の学園訓に『学び教えを乞う者に、あまねく門戸を開くべし』とあるの。でも貴族達が平民と同列に扱われる事を嫌うので、仕方なく制服を分けたというわけ。不本意ながらね」

「一応確認しますけど、奴隷が貴族用のを着るわけにもいかないですよね?」

「着せたら暴動が起きてもおかしくないわね」

「だそうだ。ジエット、諦めよう」

「そんなぁ……」

 熊耳を伏せて落ち込むジエット。

 しかし袖口からほんの少し指先がはみ出ているのが、まるで妹が背伸びをして姉の服を着ているみたいである。

「……萌え袖って言うんだっけな、こういうの」

「もえ……?」

「あぁいや、こっちの話。まぁ、俺は可愛いと思うぞ」

「そ、そうかな……?」

 ジッと己の衣服を見つめ、ジエットは何かを決めたように拳を握り締める。

「エスリ様、この服でお願いします」

「そう? 少し大きいけれど、あなたが構わないならよいでしょう。ところで様はやめなさい。ここでは学園長かエスリ先生と呼ぶように」

「はい、エスリ先生」

「よろしい。それじゃ、最後にこれを渡しておくわね」

 エスリはポケットから口紐の付いた小さな皮袋を一つ取り、錬に手渡してくる。

「これは?」

「お小遣いよ。銀貨を十枚入れてあるわ。使い方は問わないから、二人で有効活用なさい」

 袋の中を覗き見ると、くすんだ銀色のコインが入っていた。一枚が五百円玉くらいのサイズで、歪な円の中に女性の横顔が刻印されている。

 この世界の貨幣価値はわからないが、銀貨がそれほど安いとも思えない。

「……どうしてここまでしてくれるんです?」

「先行投資よ。これでもあなた達には期待しているの」

 エスリは柔らかに微笑み、錬とジエットの肩にそれぞれ手を置いた。

「二人が目指すのは苦難の道。わたくしは応援しているけれど、必ずしも手助けできるとは限らない。だからこの先何かあっても、自力で問題解決するよう努めなさいな」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...