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第二章
15:魔法を科学せよ(2)
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魔石銃を手にしながら、錬は二人に説明していた。
「つまりだ。魔石と火炎石を繋ぐ行為は、魔法における詠唱文に相当する。それがたった今判明した事実だ」
ノーラはしきりに眼鏡の位置を調整する。
「で、でも何をどうしたらこうなったんですか……?」
「魔石回路に流れ込む魔力量を緩やかにした。わかりやすく言うと――『ほわわっとしたイメージ』にしたんだ」
「ほわわ……?」
目をぐるぐる回す二人の少女達。眼前で起きた現象に理解が追い付かないようだ。
「おそらく、今までは魔力が限界まで一気に流れていたから爆発を起こしてたんだろう。でも今回、蛇口をゆっくりひねるような感じで魔石の接触面積を徐々に増やしたらこうなった。つまり流れる魔力量やその変化は、詠唱文における動詞なんだ!」
「ジャグチって何?」
話の腰を折られて半目になる錬である。
「蛇口ないのか……。まぁ、水量調節のレバーみたいなものだ」
しばらくふわふわ浮いていた炎はやがてろうそくを吹くように消える。使った分の魔力を消費しきったのだろう。
「後は形容詞だが……これについては見当も付かないな。多分形を決めるための何かがあると思うんだけど」
「形を決める?」
ジエットは何やら口元に指を当て、ノーラの腰をじろじろと見つめる。
「ねぇ、ノーラちゃん」
「ノーラ……ちゃん? あたしですか?」
「そう、ノーラちゃん。さっき使ってた杖だけど、あれって持ってないと魔法が使えないの?」
「いえ、絶対にないといけないものではないです。素手で魔法を使う人もいますから。ただ、高度な魔法になるほど杖なしでは魔力が不安定になり、不発も多くなります。特にあたしは未熟なので、練習用の杖を使わないと初歩の魔法でさえ発動できません……」
「練習用の杖とかあるんだ。見せてもらってもいい?」
「あ、はい……どうぞ」
ノーラはおっかなびっくりと短杖を差し出す。
特に何の装飾もなされていない先細りの木の棒だ。
「杖って木じゃないといけないの?」
「そんな事はないです。銅や銀の杖もありますよ。魔力を通しやすい素材ほど高価になりますけど、そういったものほど魔法が安定するんです。ワンドの人達は皆、銅以上のものを使っているはずです」
「そうなんだ」
「さっき話したお金ですけど、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、結晶貨の順に価値が高くなっていくと言いましたよね。これは魔力の通りやすさでもあるんです。ものにもよりますが、杖に使われる木は銅と鉄の間くらいですね。ちなみに鉄は魔力を全く通しません」
「ふむふむ、なるほどね~」
ジエットは得心したように笑顔を見せた。
「ねぇ、レン。もしかしてだけどさ、魔法の形ってこの杖の先っぽで決まってたりするんじゃないかな?」
「なにっ!?」
錬はジエットの手にある短杖の先端を凝視する。
彼女の言う通り、先端は丸く削られており、マドラーや太鼓のバチのようにぷっくりとした球状になっていた。
今回ノーラが使った魔法はすべて球体を放つものだ。先端の形状が転写されている可能性は大いにあり得る。
「これはぜひ試したい! ノーラさん、悪いけど杖を貸してくれ!」
「ど、どうぞ……」
魔石銃の先に短杖を構え、今度は一気にトリガーを引く。その瞬間、短杖の先端がまばゆい光を放ち、火球が空へと放たれた。
「これは……!?」
ジエットもノーラも錬自身でさえも、天を仰いだまま呆然とする。
今までの指向性を持つ爆発現象とは明確に異なる。打ち上げられたのは紛れもなく、丸くまとまった炎の球体だった。
「成功だ! すごいぞジエット!!」
「えへへ、そうかな?」
ジエットの手をつかんでぶんぶん振ると、赤面しながらも嬉しそうに微笑む。
これで確信が得られた。やはり魔石の並びは詠唱文だったのだ。
はしゃぎまわる錬とジエットをしばらく見つめ、ノーラはためらいがちに口を開く。
「そういえば気になっていたんですけど……あなた達はどういう関係なんでしょうか?」
「えぇ~? 関係ってそんな、ここで言うの恥ずかしいなぁ……」
「友達だ」
「ちょっとレン! 友達って何よ!? 私にプロポーズしてきたくせに!」
「プロポーズって……あれは異文化コミュニケーションのすれ違いでだな……」
「むむむ……!」
目を吊り上げて牙を剥くジエット。
次の瞬間、錬の体がふわりと浮いた。
白熊人族の血を半分引いている彼女にとって、人間一人の重さなど石ころと変わらない。
「おい待て、持ち上げるな! 怖い怖い!!」
「まいったか、この~!」
「まいった! 俺が悪かったから許してくれ!」
「……ふふっ」
不意にノーラが笑った。錬とジエットのやりとりが琴線に触れたようだ。
「やっと笑ってくれたな」
「……えっ?」
「ずっと何かに怯えてるみたいだったからねぇ」
地面に下ろされた錬は、空を見上げた。すでに陽が傾き、夕暮れに染まる雲が天を覆っている。
「そろそろいい時間だし、今日はお開きにしようか」
「あ、はい……」
いそいそとノートや筆記具を鞄に仕舞うノーラに、ジエットは笑いかける。
「ノーラちゃん、よかったら明日も勉強を教えてもらえるかな?」
「明日、ですか?」
「うん。ノーラちゃんが良ければだけど」
「俺からもお願いするよ」
打算で助けて半ば無理やり勉強に付き合わせてしまったが、ノーラが魔力なしに対して好意的な人物である事は先のやり取りでもわかる。教わるなら彼女のような人がいい。
ノーラはしばし手に持っていたノートに目を落としていたが、やがて顔を綻ばせた。
「わかりました。もらったお金分はちゃんと教えないといけませんからね」
「つまりだ。魔石と火炎石を繋ぐ行為は、魔法における詠唱文に相当する。それがたった今判明した事実だ」
ノーラはしきりに眼鏡の位置を調整する。
「で、でも何をどうしたらこうなったんですか……?」
「魔石回路に流れ込む魔力量を緩やかにした。わかりやすく言うと――『ほわわっとしたイメージ』にしたんだ」
「ほわわ……?」
目をぐるぐる回す二人の少女達。眼前で起きた現象に理解が追い付かないようだ。
「おそらく、今までは魔力が限界まで一気に流れていたから爆発を起こしてたんだろう。でも今回、蛇口をゆっくりひねるような感じで魔石の接触面積を徐々に増やしたらこうなった。つまり流れる魔力量やその変化は、詠唱文における動詞なんだ!」
「ジャグチって何?」
話の腰を折られて半目になる錬である。
「蛇口ないのか……。まぁ、水量調節のレバーみたいなものだ」
しばらくふわふわ浮いていた炎はやがてろうそくを吹くように消える。使った分の魔力を消費しきったのだろう。
「後は形容詞だが……これについては見当も付かないな。多分形を決めるための何かがあると思うんだけど」
「形を決める?」
ジエットは何やら口元に指を当て、ノーラの腰をじろじろと見つめる。
「ねぇ、ノーラちゃん」
「ノーラ……ちゃん? あたしですか?」
「そう、ノーラちゃん。さっき使ってた杖だけど、あれって持ってないと魔法が使えないの?」
「いえ、絶対にないといけないものではないです。素手で魔法を使う人もいますから。ただ、高度な魔法になるほど杖なしでは魔力が不安定になり、不発も多くなります。特にあたしは未熟なので、練習用の杖を使わないと初歩の魔法でさえ発動できません……」
「練習用の杖とかあるんだ。見せてもらってもいい?」
「あ、はい……どうぞ」
ノーラはおっかなびっくりと短杖を差し出す。
特に何の装飾もなされていない先細りの木の棒だ。
「杖って木じゃないといけないの?」
「そんな事はないです。銅や銀の杖もありますよ。魔力を通しやすい素材ほど高価になりますけど、そういったものほど魔法が安定するんです。ワンドの人達は皆、銅以上のものを使っているはずです」
「そうなんだ」
「さっき話したお金ですけど、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、結晶貨の順に価値が高くなっていくと言いましたよね。これは魔力の通りやすさでもあるんです。ものにもよりますが、杖に使われる木は銅と鉄の間くらいですね。ちなみに鉄は魔力を全く通しません」
「ふむふむ、なるほどね~」
ジエットは得心したように笑顔を見せた。
「ねぇ、レン。もしかしてだけどさ、魔法の形ってこの杖の先っぽで決まってたりするんじゃないかな?」
「なにっ!?」
錬はジエットの手にある短杖の先端を凝視する。
彼女の言う通り、先端は丸く削られており、マドラーや太鼓のバチのようにぷっくりとした球状になっていた。
今回ノーラが使った魔法はすべて球体を放つものだ。先端の形状が転写されている可能性は大いにあり得る。
「これはぜひ試したい! ノーラさん、悪いけど杖を貸してくれ!」
「ど、どうぞ……」
魔石銃の先に短杖を構え、今度は一気にトリガーを引く。その瞬間、短杖の先端がまばゆい光を放ち、火球が空へと放たれた。
「これは……!?」
ジエットもノーラも錬自身でさえも、天を仰いだまま呆然とする。
今までの指向性を持つ爆発現象とは明確に異なる。打ち上げられたのは紛れもなく、丸くまとまった炎の球体だった。
「成功だ! すごいぞジエット!!」
「えへへ、そうかな?」
ジエットの手をつかんでぶんぶん振ると、赤面しながらも嬉しそうに微笑む。
これで確信が得られた。やはり魔石の並びは詠唱文だったのだ。
はしゃぎまわる錬とジエットをしばらく見つめ、ノーラはためらいがちに口を開く。
「そういえば気になっていたんですけど……あなた達はどういう関係なんでしょうか?」
「えぇ~? 関係ってそんな、ここで言うの恥ずかしいなぁ……」
「友達だ」
「ちょっとレン! 友達って何よ!? 私にプロポーズしてきたくせに!」
「プロポーズって……あれは異文化コミュニケーションのすれ違いでだな……」
「むむむ……!」
目を吊り上げて牙を剥くジエット。
次の瞬間、錬の体がふわりと浮いた。
白熊人族の血を半分引いている彼女にとって、人間一人の重さなど石ころと変わらない。
「おい待て、持ち上げるな! 怖い怖い!!」
「まいったか、この~!」
「まいった! 俺が悪かったから許してくれ!」
「……ふふっ」
不意にノーラが笑った。錬とジエットのやりとりが琴線に触れたようだ。
「やっと笑ってくれたな」
「……えっ?」
「ずっと何かに怯えてるみたいだったからねぇ」
地面に下ろされた錬は、空を見上げた。すでに陽が傾き、夕暮れに染まる雲が天を覆っている。
「そろそろいい時間だし、今日はお開きにしようか」
「あ、はい……」
いそいそとノートや筆記具を鞄に仕舞うノーラに、ジエットは笑いかける。
「ノーラちゃん、よかったら明日も勉強を教えてもらえるかな?」
「明日、ですか?」
「うん。ノーラちゃんが良ければだけど」
「俺からもお願いするよ」
打算で助けて半ば無理やり勉強に付き合わせてしまったが、ノーラが魔力なしに対して好意的な人物である事は先のやり取りでもわかる。教わるなら彼女のような人がいい。
ノーラはしばし手に持っていたノートに目を落としていたが、やがて顔を綻ばせた。
「わかりました。もらったお金分はちゃんと教えないといけませんからね」
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