エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第二章

16:寮での一時

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 ノーラから勉強を教わった後、学生寮に戻るなり錬はさっそく工作に取りかかった。

 折り目を付けて破いた木目紙に木炭鉛筆で文字を書いていく。

「レン、ごはんもらってきたよ」

 ジエットが食事の乗ったお盆を持ってきた。

「おお、待ってました!」

 学生食堂のメニューの一つだが、その味はなかなかのものだ。

 ミルク粥は薄味だが温かく、副菜に豆や野菜がたっぷりのポタージュが添えられている。デザートの果物も少し酸っぱいが、リンゴとレモンを足したような味でみずみずしい。

 ついでに木製ではあるがスプーンが付いている事で文明度が一気に上がった気がする。

「学食、めちゃくちゃうまいな!」

「おいしいねぇ」

「これと比べれば奴隷食は豚の餌だな!」

「そうだねぇ」

「伯爵の野郎、ノルマ百倍にするならこれくらいのものを出せよ……!」

「はやく皆にも食べさせてあげたいねぇ」

 幸せそうにミルク粥とポタージュを堪能する錬とジエットである。

「食べたら洗濯するから、あとで服を渡してね」

「洗濯?」

「うん、水場を使っていいんだって。シャツが汚れてるから洗ってあげるよ」

「いいのか?」

「レンは毎日がんばってくれてるからね。私もお手伝いしなきゃ」

 まるで新妻のようなまぶしい笑顔を向けられ、錬は思わずドキリとしてしまった。

「そ、そういう事ならお願いしようかな……」

「一生懸命きれいにするからね!」

 ジエットが自慢げに胸を叩き、それから部屋の隅に目を向ける。置いてあるのは木目紙の切れ端だ。

「そういえば何を作ってたの?」

「単語帳だよ。作るって言ってたろ」

 前世で使っていたものより若干大きく、トランプくらいある。いくら薄っぺらいとはいえ、しょせん木の板である。あまり小さくすると木目紙の強度が保たないのだ。

「これ何が書いてあるの?」

 ジエットが作りかけの単語帳の裏面を見せてくる。

 表はこの世界の文字だが、裏は日本語だ。わからないのも無理はない。

「俺の知ってる言葉だ。表と裏が対応してて、単語の意味を確認するのに使う」

「レンは読み書きできないんじゃ……?」

「いや、できるぞ。この国の言葉がわからないだけだな」

「ふぅん……?」

 単語帳をぺらぺらとめくりながらジエットは首を捻る。

「レンって不思議だよね。誰でも知ってるような事は何も知らないのに、誰も知らない事は何でも知ってる気がする。一体何者なの?」

「ただの奴隷だよ」

「ただの奴隷が魔石エンジンや魔石銃なんて作れるとは思えないんだけど」

 ジトッとした目を向けられ、錬は頭をポリポリ掻いた。

「う~ん……前世の事を思い出したって言ったら信じるか?」

「前世……? 生まれる前の事?」

「ああ。俺は前世じゃ別の世界でエンジニアだったんだ」

「エンジニアって何?」

「機械を設計したり作ったりする職業だよ。株式会社カノー電機っていう零細ブラック企業が職場でさ、安い給料で上司に叱られながら朝から晩まで働くんだ」

「鉱山奴隷とあんまり変わらないね」

「言うな……」

 ぶすっとした顔で果実をかじる。

 実際、奴隷と大差ない労働環境だったのでぐうの音も出ない。

『何でも可能カノー、夢は叶うカノー

 そんな社訓を毎朝十回お経のように唱えさせられ、無茶な納期を強いられていた。

 ちなみに社長の苗字は加納である。ダジャレとしか思えない。

「そんな事より、やる事やったら勉強するぞ。やらなきゃいけない事は山ほどあるんだからな」

「うん!」



 ***



「魔法の実技試験……でございますか?」

 夕暮れに染まる教員室で、ノルマンは呆けたように答えた。

 言い出したのは侯爵家の跡継ぎであるカインツ=シャルドレイテである。

「そうだ。編入生が魔法学園で学ぶに相応しい者達かどうかを確認したい。頼めるか?」

 あくまでお願いという体裁。しかし教師と生徒という立場はあれど、平民出身であるノルマンには貴族に逆らう事などできない。

「それは……も、もちろんでございますとも。しかし試験となると準備が必要ですので、今日明日というわけにはいきませんが……」

「その辺りの事は任せる。では頼んだぞ」

 それだけ言ってカインツは教員室を後にした。

(魔法の試験……か)

 錬とジエットは読み書きができず、魔力も持たない。試験などやらずとも結果は見えている。

 だがそうとわかった上で試験をせよと言っているのだ。ならば単に試験をするだけではなく、彼の望む状況にせよという意味を含んでいるに違いない。

 その意味するところを、ノルマンは考える。

 カインツは魔力至上主義寄りの人間だ。昔、魔法の家庭教師をしていた彼の師匠がとある亜人のせいで死んでしまい、それを機に魔力至上主義に傾倒するようになったという話は有名である。

 彼を始め、魔法を使えない亜人が魔法学園に在籍する事に異議を唱える者は非常に多い。

 だが亜人を擁護する人権派もまた一定数存在する。その筆頭が魔力も権威もある学園長エスリ=ローズベルなものだから、数で押し通すわけにもいかない。

 そのため、反対派は常に人権派の揚げ足を取ろうと躍起になっている。

 亜人奴隷である二人が簡単な試験さえクリアできなければ、学園長ですら反対派の声に配慮しなければならなくなるだろう。

 つまりは退学である。

(……うむ、何となく見えてきたな)

 元々魔力なしが魔法学園に在籍する事が間違いなのだ。彼らの処遇について、すでに教師の間でも人権派と反対派で溝が深まっている。二人に恨みはないが、ここは早々に消えてもらった方がいい。

(亜人どもを落第させ、しかしワンドの生徒は全員合格。これでいこう)

 試験の方針が決まり、ノルマンは仄暗い笑みを浮かべた。
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