エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第二章

17:抜き打ち試験

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「急な話だが、午前の授業時間は抜き打ち試験をする事になった。筆記用具以外はすべて鞄へ仕舞いなさい」

 奴隷達が入学しておよそ一週間、授業開始と同時に教師であるノルマンはそう告げた。

 生徒達が不平を漏らす中、カインツとその取り巻きのワンド達はほくそ笑んでいる。彼らの意図はおそらく、奴隷二人の不合格。ならばその意向に従いノルマンは動かねばならない。

「先生、試験はどんな事をやるんですか?」

 突然錬が手を挙げ、ノルマンは鼻白んだ。

 試験内容など聞いて一体どうするというのか。心配すべきところは他にあるだろうに。

「……筆記試験と魔法試験だが」

「具体的な科目は?」

「大陸語、算術、魔法実技だ。一科目四十点以上ならば合格となる。どれも簡単なものばかりだよ」

「なるほど、ありがとうございます」

 今の説明で納得したように錬は手を下げる。

「何とかなりそうだな」

「徹夜で勉強したもんね」

 ひそひそと話す彼らの声に、ノルマンは怪訝に眉を寄せる。

(あいつらは何を言っているんだ……?)

 徹夜で勉強したところでどうなるというのだろう。読み書きできなければ試験問題を解く事もままならないし、奴隷が算術など知っているはずもない。何より魔力がなければ魔法試験は絶対クリアできないのだ。

(極度の楽観主義者か、単なる強がりか、あるいは……まぁいい)

 今更どう足掻こうと意味はない。

 さほど気にも留めず、ノルマンは手書きの試験用紙を配る。

「まずは大陸語の試験から行う。終了は鐘が鳴るまでだ。では始めなさい」

 ノルマンが言うなり試験用紙が一斉にめくられ、教室に木炭鉛筆の音が走った。

 大陸語の試験は五十問で、百点満点となっている。どれも日常会話レベルなのでワンドどころかクラブでさえ合格点は確実だろう。

 やがて十数分経った頃、解き終えたであろう生徒達が次々と木炭鉛筆を置いていく様子が窺えた。

 ならば奴隷達はどうかと見てみると、案の定まだ試験問題と睨めっこしているようだ。

 ジエットの方はすでに見直し段階のようだが、他の全員が解き終えてもなお、錬はまだ必死に何かを書いている。

 クスクスという嘲笑うような声が漏れ聞こえてくる。当然だ。この試験は基礎中の基礎、初等部の子どもでも解けるほど簡単な問題なのだから。

 そうして時間ぎりぎりまでがんばった末に終了の鐘が鳴り、奴隷達はようやく木炭鉛筆を転がした。

(ふん、ずいぶんと粘っていたな。一体どんなひどい答えが書かれているのやら……)

 試験用紙を集める中、ノルマンは奴隷達の用紙を抜き取って読んでみる。

 だが――

「んんっ!?」

 ノルマンは我が目を疑い、試験用紙をまじまじと見つめた。

 間違いはある。文字の書き方も拙い。だが予想に反して正答率が高いのだ。数日前まで読み書きできなかったとは思えないほどに。精査しなければわからないが、二人とも合格点には届いているだろう。

(奴ら、本当に家庭教師を雇ったのか? 徹夜で勉強したというのも嘘ではなさそうだな……忌々しい)

 試験用紙をぐしゃりと握り締め、ノルマンは眉間にシワを寄せた。





 そうこうしているうちに授業再開の鐘が鳴り、再び試験の時間となった。

 次は算術だ。

 三、四桁程度の四則演算となっているが、さすがにこれは合格できないだろう。

 足したり引いたりは直感で理解できるかもしれないが、掛けたり割ったりは基礎がなければ絶対に無理なはず。大陸語の勉強に時間を割いていたならなおさらだ。

 その予想通り、錬は開始数分ほどで木炭鉛筆をすでに置いていた。

(やれやれ、少しくらい悪あがきをしてもらわねば試験問題の作りがいがない)

 ノルマンはそっと錬のそばに行き、彼を見下ろす。

「諦めたのかね?」

「いえ、もう解き終えました」

「は……?」

 耳を疑うような錬の返答に、ノルマンは目を丸くした。

 彼は入学以前は鉱山奴隷だったというし、算術など習っているはずがない。

 授業でも算術は一回しかやっておらず、乗算除算は教えてすらいない。開始早々に解き終えるなど不可能だ。

「嘘も休み休み言いたまえ」

「本当ですよ。ほら」

 差し出された試験用紙を奪い取り、なめるように目を這わす。

(ふん、どうせデタラメな答えが書かれているに違いな……い……)

 一瞬、ノルマンの頭が真っ白になった。信じがたいものを見て思わず読み返す。

「そんなバカな……」

 まさかの全問正解である。何度見てもどれをとってもすべて正しい答えが書かれており、試験用紙を持つ手が震え出した。

 元鉱山奴隷がなぜ算術などできるのか? 徹夜で勉強したにしても無理がある。

 そこまで考えて、ノルマンはふとすべてを理解した気がした。

(……なるほど、つまりこの奴隷達は頭脳労働者という事か)

 学園長がなぜこの亜人奴隷達を優遇するのかわからなかったが、おそらく基礎学力が高い事が理由だったのだろう。難しくない問題とはいえ、この場の誰よりも早く計算できるのであれば利用価値は高い。

 しかし、だからといって彼らが魔法学園に相応しいかは別問題だ。ここはあくまで魔法を学ぶところなのだから。

「よ、よろしい……。では時間まで大人しくしていたまえ」

 絞り出すような声を出して汗を拭い、ノルマンは錬に背を向ける。

(次は魔法の実技試験だ。そこで奴らは確実に落ちる。何も問題はないはずだ……)

 一抹の不安を感じつつも、ノルマンは自分にそう言い聞かせるのだった。
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