エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第二章

40:表彰式(2)

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 王宮の中はとても広々としていた。

 石造りの壁に覆われた一階は吹き抜けになっており、天井は高い。

 官職の貴族や宮廷魔法使いが行き来し、執事やメイドが忙しなく働いている。発光する鉱石を照明にしているらしく、中は思いのほか明るかった。

 最奥にある謁見の間へ招かれ、錬はエスリにならってひざまづく。

 玉座に座っているのは、豪華な服を着た白髪の老人だった。

 風格のあるその顔には深いシワが刻まれ、年のせいか幾分くたびれた様子だが目だけは若々しく光を保っている。

「よくぞ参った、エスリよ。此度はご苦労であった」

「もったいないお言葉でございますわ、陛下」

「さて、知らぬ者もいるであろうからまずは名を名乗っておこう。私はアグニス=エルト=グラン=ヴァールハイト。この国の王である。先日は誠に大義であった。暴走した魔獣どもから王都を守った貴君らの勇気ある行動に敬意を表し、ここに表彰式を執り行う」

 王は錬達を一望し、前列にいるカインツへ目を留めた。

「カインツ=シャルドレイテよ。貴君の奮闘なくしては王都に多大なる被害がもたらされていたであろう。その功績を称え、褒美を与える。申すがよい」

「では、マーサ・ローダン橋に置かれていたローダン像の修繕をお願いしたく存じます」

「なるほど。ローダン像はシャルドレイテ侯爵家に縁ある文化財であったが、先の戦いで損傷したそうだな。よかろう、王家が責任をもってマーサ・ローダン橋と石像を元通り修復する事を約束する」

「寛大なるご配慮に感謝致します、陛下」

「次にノーラ。此度はお前の知識が大いに役立ったと聞く。その英知を称え、褒美を与える。申すがよい」

「で、でしたら……あたしのお母さんがやっている屋台の出店許可を……」

「ふむ。出店許可とは?」

「あたしの母は五年前から平民街で屋台を経営していたのですが、本当は屋台を出店するには露天商ギルドに毎月お金を支払う必要があったらしいんです。でも、その……うちにそんなお金はありませんので、せめてあたしがしっかりお金を稼げるようになるまではお店をやめなくて済むようにしていただければ、と……」

「そういう事か、よかろう。ならば平民街でお前の母が経営する屋台を出店する事を、王の名において認めよう。五年前に開店した日から今日まで累積された出店費用、そして今後五年間の出店許可に関する金銭はすべて王家が負担する」

「あ、ありがとうございます!」

 王は厳かにうなずき、ふと最後列にいる錬へ視線を向けてきた。

 ただ見るだけで、話しかけて来る様子はない。錬は表彰の対象ではなく、褒美もないからだ。数秒後には目も逸らされるだろう。

(何かを言うなら今しかない!)

「あのっ! 陛下にお願いしたい事があるのですが!」

 突然の大声に、観衆がどよめく。王も錬に話しかけられるとは思っていなかったのか、返答まで数秒の間があった。

「……何だ? 申してみよ」

「はい。私は王立魔法学園で魔法具を研究開発しております、青木錬と申します。これまでに様々な魔法具を開発し、今回のスタンピードでも大いに活用致しました。しかし私は本物の魔法具を見た事がございません。もし可能であればお見せいただく事はできませんでしょうか?」

 そんな主張に、場が大きくざわついた。

「魔法具とな……?」

「はい。魔法具は王族が持つような代物だと伺いました。もし所有しておられるのなら、今後の魔法具研究の参考にしたいのですが」

「……ふむ」

 王は何やら考え込むように白いヒゲを撫で付ける。

「しかし王家が所有する魔法具は非常に貴重な品ゆえ、与える事はできぬのだが」

「少し調べたいだけです。元通りにできる構造なら分解もしたいです」

「ぶ、分解だと……!?」

「正気か!? 失われし秘宝なのだぞ!?」

 周囲にいた大臣達が驚愕する。

 王も顔のシワをより深くし、首を横に振った。

「あれは国宝であり、軍事機密とも言える代物だ。如何に王都防衛に貢献した者からの要望とはいえ、王族以外へその内部を見せるわけにはいかぬ。許せよ」

(無理だったか……)

 予想通りという気持ちと、見れなかった落胆が錬の中で入り交じる。

(まぁ言うだけならタダだからな。軍事にも使えるようなものって情報は手に入ったし、今はそれでいい……)

 無理矢理自分を納得させ、錬は頭を下げた。





 その後は大臣らがあいさつしたり、エスリが返礼したりと表彰式が進行してゆく。

 錬にできるのは、カインツとノーラに勲章が授与されるのを拍手しながら遠目に傍観する事だけだ。

 ふと会社の行事に強制参加させられていた前世のとある日曜日を思い出し、錬はため息を漏らす。

(帰りたい……)

「よう!」

 背中を叩かれたのはそんな時だった。

「お前、やるなぁ!」

 声を掛けてきたのは魔法学園のガウンを着たワンドの生徒達である。

「陛下に向かってあんな事を言い出すとは大した男だ」

「ああ。国宝を分解して研究したいなんて言う奴は後にも先にもお前くらいだろうな!」

 男女が数名そろって笑顔を見せている。ガウンの帯の色が錬とは違う事から、皆上級生のようだ。

「えっと、あなた方は……?」

「おいおい、まさか忘れたと言うんじゃないだろうな?」

「たしかに名乗らなかったけどさぁ」

 言われて必死に記憶を探るが、まったく心当たりがない。

 その様子を見て、男子生徒の一人が苦笑した。

「我々は王立魔法学園の生徒会だ。学生を代表して表彰式に出席する事になってな。バートン君に頼まれてマーサ・ローダン橋まで援軍に駆け付けた折、君と顔を合わせたのだが……覚えていないか?」

(まったく覚えてない……)

 あの時は戦いで疲労困憊だったため、人の顔を覚える余裕などなかった。そもそも声をかけられた事すら記憶にない。

「し、失礼しました……。その節は大変お世話に――」

「ああ、いや」

 頭を下げようとする錬だが、彼らは手で制してくる。

「礼を言うのは我々の方だ。君がいなければ王都に被害が出ていただろうからね」

「そうそう。自分で開発した魔法具で大活躍してたよね。本当にすごいよ!」

「まったくね。奴隷にしておくには惜しい子だわ」

 口々に称賛され、錬は内心驚いていた。まさかワンドの生徒達からそんな風に言われるとは思いもしなかった。

「どうした? 目を丸くして」

「いえ……てっきり貴族の皆さんは俺の事を嫌っているとばかり思っていたので」

「そんな事はない。たしかに貴族の地位を揺るがしかねない君を疎ましく思っている者は多いが、陰で称賛している者もそれなりにはいる」

「そうだぞ。何か困った事があれば我ら生徒会のところへ来い。できる限り力になってやる」

「表彰された二人と同じく、あなたはその手で大勢の命を救ったのよ。胸を張りなさいな」

「俺が、大勢を……」

 両の手のひらを眺めながら、その言葉を反すうするようにつぶやく。

 するとなぜか生徒会の彼らが動揺し始めた。

「お、おい……泣くほどの事か?」

「え?」

 気付けば錬の頬に一筋の涙が伝い落ちていた。

 別に感情が高ぶったわけではない。ただ自然とこぼれ落ちた感覚だった。

「おかしいな……そんなつもりじゃないんですが」

「袖で拭いちゃだめよ」

 女子生徒の一人が金の刺繍が施されたハンカチを取り出した。布が貴重なこの世界にあって、けれど彼女は惜しげもなくそれで錬の頬を拭いてくれる。

 その様子を目にして、錬はふと涙の理由がわかった気がした。

 彼らに言われるまで忘れていたが、錬だって命を懸けて戦ったのだ。

 別に褒められたくてやったわけではない。打算で動き、利益も得た。しかしそれでもがんばった事を誰にも評価されないのは辛いものだ。

 やって当然、できて当たり前、だがその成果は他人のもの。そんな事が続けば人は心が死んでいく。ブラック企業で働いていた前世のように。

 そして世の中に存在する奴隷達にそんな思いをさせないため、錬はジエットと共に戦うと決めたのだ。

「……ありがとうございます」

「いえいえ、お礼を言うのはこちらよ」

「いえ、言わせてください。本当に……ありがとうございました」

 改めて気付かせてくれた生徒会の彼らに、錬は心からの笑顔を向けたのだった。
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