エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

文字の大きさ
39 / 105
第二章

39:表彰式(1)

しおりを挟む
「明日の表彰式に俺が……?」

 学園長室で、錬は素っ頓狂な声を出した。

 先の救助作戦から数日後の事である。

 エスリは高そうな椅子に腰掛け、にこにこと笑っている。

 いわく、マーサ・ローダン橋での防衛戦の件が王の耳に届き、残って奮闘した錬も王宮で開かれる表彰式へ招待されたらしい。

「正確に言うとレン君は招待されただけで、表彰されるのはカインツ君とノーラさんの二人だけなのだけれど」

「……じゃあなんで俺は呼ばれたんです?」

「防衛にはあなたの功績が大きかったからよ。無詠唱で魔法を連発する魔石銃は見せてもらったわ。すごいわね、アレ」

「発振器付き魔石銃ですか」

 実際、あの連射機能がなければスタンピードを防ぎきる事は不可能だっただろう。

 それに山のように折り重なった魔獣の遺骸から核石を大量に入手し、そのおかげで自由研究会の反対派を黙らせるほどの研究成果を提出できた。

 王宮ですら新型魔石銃を功績と認めたなら、もはや自由研究会にケチを付けられる者など学園にはいないだろう。

「でも、だったらどうして俺は表彰されないんですか?」

「魔力至上主義が蔓延るこの国では、表だって魔力を持たない奴隷を表彰するわけにはいかないのよ。王宮もつじつま合わせに苦労しているみたいね」

「そりゃまたご苦労な事ですね……」

 ジエットの素性の事もあるし、錬もあまり目立ちたくはないから好都合ではあるのだが、それでも不条理な世の中にぼやきたくもなるというものだ。

「不満かしら?」

「不満しかないですよ。何の用もないのに王宮へ呼ばれて自分以外が表彰されるところを見てろって、罰ゲームじゃないですか」

 口を尖らせて言うと、エスリは苦笑した。

「気持ちはわかるけれど、陛下にお会いできる場は貴重よ。何かを訴えかけるには良い機会なのだし」

「それはまぁ……」

「あと表彰式にはバエナルド卿も出席するから、ついでに必要なものを注文しておきなさいな。たしか火炎石が欲しいと前に言っていなかったかしら?」

「言いましたが……」

「そういうわけだから、明日はよろしくね」

 ウィンクを飛ばされ、錬は気乗りしないままうなずくほかなかった。





 そんなこんなで表彰式の朝。

 魔法学園の学生寮で、錬はされるがままにおめかしされていた。

「……なぁ、もうこれでいいんじゃないか?」

「だめだめ、見た目は大事だよ。王宮は怖いところなんだから!」

 先の救助作戦で汚れたガウンはきれいに洗濯したのち、ジエットにより埃ひとつ逃さず取り除かれた。今は手櫛で髪を整えられている。

「こんなに手をかけたって、どうせ俺は表彰されないんだぞ?」

「別にいいじゃない。目立つとロクな事にならないしね」

「そうなんだけどさぁ……」

「もう、いつまでもぶー垂れないの。それより髪型が良い感じになったよ」

「鏡がないから違いがわからん」

 そんなやりとりをしていると、入り口のドアが叩かれた。

「レンさん、そろそろ時間ですよ」

 声の主はノーラである。竜車の出発準備が整ったので報せに来たのだ。

「今行く! 忘れ物は……ないな、よし」

 ポーチの中身を確認したのち、ドアを開ける。

 そこに立っていたのは、魔法学園のガウンを着たお嬢様だった。

 野暮ったかった丸眼鏡は高級感のある銀縁眼鏡になり、ただのセミロングだった髪も上品に編み込まれてオシャレになっている。

「あの……あたし変じゃないでしょうか……?」

 ノーラはもじもじと膝をすり合わせ、上目遣いで錬を見る。

「いいじゃないか。似合ってると思うよ」

「本当ですか!?」

 満面の笑みで迫られ、錬は思わずたじろいだ。

「ほ、本当だよ……というか顔近いよ?」

「あ……す、すみません。少し浮かれてしまいました……」

 何やら照れた様子で目を逸らすノーラ。

 それを見たジエットは頬をむくれさせ、錬の腕を抱き寄せた。

「……あげないよ?」

「ち、違いますよ! そういうのじゃなくて、その……カインツ様が色々新調してくださったので……」

「なるほど、それで眼鏡が変わったのか」

「そうなんです」

 嬉しそうにノーラは眼鏡のつるを摘まんでみせる。

「高価なものなので最初は断ったのですが、着けなければ王都に住めなくなると思えと言われたのでいただいたんです」

「それ脅されてない? 大丈夫か……?」

 ただのツンデレだと思いたいが、今までが今までのため不安が拭えない錬である。

「ねぇねぇレン、私はどう?」

 ジエットが袖を引いてくる。

 胸元まである銀色の髪にフサフサの熊耳を生やし、見慣れたガウンを着ている。

「いつもと同じだな」

「むぅぅ~……」

「いつも通り可愛いぞ」

「かわっ……!?」

 不意打ちのように言ったせいか、ジエットが真っ赤になった。

「ああっ! もしかしてからかってる!?」

「おっと、そろそろ時間だ。カインツが怒り出す前に行こう」

「ごまかさないで!」

 赤面するジエットに追いかけられ、錬は学園前までダッシュする。

 そこには豪華な竜車とドレスを着たエスリ、その前で足をトントン打ち付けるカインツの姿があった。

「遅いぞ貴様ら」

「す、すみませんカインツ様……!」

「悪い、ちょっと立て込んでたんだ」

 カインツは足を打ち付けるのを止め、錬を睨んでくる。

「貴様は相変わらず無礼な物言いだな。僕が侯爵家の人間だという事を忘れていないか?」

「なら敬語に直した方がよろしいでしょうか?」

 錬が礼儀正しく胸に手を当てて言うと、カインツは一瞬呆気に取られたが、すぐに表情をわずかに緩めた。

「……いや、そのままで構わん。貴様のような奴には粗野な口調がお似合いだ」

「素直じゃない奴」

「ほざけ」

 言葉をぶつけ合いながらも、ふと互いに笑みがこぼれる。出会った頃からすると、カインツもずいぶん丸くなったものだ。

「ほらほらあなた達、仲良しなのは結構だけれど出発時間よ」

 エスリに言われて竜車へ乗り、扉が閉められる。

「気を付けてね!」

「ああ、行ってくる!」

 ジエットの見送りに、錬は窓から手を振り返すのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...