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第三章
45:こんにちは、お仕事!
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「やぁ、おはよう」
錬が気さくに手を挙げて笑いかけると、パムは口元と猫耳をひくつかせた。
今日は日曜日だったので、ジエットと一緒に貧民街へ繰り出したのだ。
「どうした?」
「どうしたもこうしたもあるか! 昨日の今日で何しに来やがった!?」
「世間話でもしようかなって」
「オマエらと話す事なんかないぞ! 帰れっ!」
「えー、でも手土産を持ってきたんだけどな」
「手土産?」
「ああ。来る途中に焼き芋が売ってたから買ってきた」
錬は麻袋に詰め込まれた焼き芋を開いてみせる。
錬の知るサツマイモとはまた違うようだが、焼きたては香ばしい匂いを放っている。
パムの喉から唾を飲み込む音が聞こえた。
「……何のつもりだ?」
「だから手土産だって」
「はんっ、オマエらの施しなんざ要らねーよ! なぁ皆!?」
「ボク欲しい……」
犬獣人の少年が耳を垂らし、すがるような目でつぶやいた。
彼だけではない。他の獣人達もよだれを垂らし、腹の虫を鳴かせている。
「オレも……」
「食べたい……」
「わ、私も欲しい……」
「オマエら本気か!?」
「だってこの三日間何も食べてないじゃん」
「パム姉、昨日も稼げなかったしさ」
「おなかペコペコだよ……」
「うぎぎ……!」
パムは顔を引きつらせ、髪を掻き毟る。
「わぁった! わぁったよ! 世間話くらいなら付き合ってやる。でも元はと言えばオマエらがいなけりゃ飯は食えてたんだからな。礼は言わねーぞ!?」
言ったところで、パムが腹の虫が鳴いた。
「とりあえず食べながら話そうか」
錬が笑って言うと、パムは悔しげに赤面するのだった。
「はい、どうぞ」
ジエットが焼き芋を配ると、獣人の子ども達は目の色を変えた。
皆、むせび泣きながらがっついている。三日食べていないというのは本当らしい。
「おいしい?」
「うっ……ふぐっ……」
「慌てて食べて喉に詰めないようにね」
一心不乱に焼き芋を食べる彼らを見ながら、錬も適当な地面に腰掛ける。
「君は食べないのか?」
「……フンッ」
ホクホクの焼き芋を手にしたまま、パムはふて腐れたようにそっぽを向く。
「それで? 何の話がしたいんだよ?」
「君らが得意な事とか聞いてみたくてな」
「得意な事……?」
「そう。何かないか?」
パムは焼き芋をひとかじりし、考え込む。
「う~ん……別にないな。布を織ったりはできるけど、別に得意じゃないしなぁ」
「布を? 作れるのか?」
「できるぜ。奴隷やってた頃は毎日織ってたし」
「そういえば君はゴーン商会で働いてたんだったか」
「アタイだけじゃないぜ。ここにいる奴らは皆アイツのところから一緒に逃げてきたんだ」
ここにいる子ども達は三十人くらいである。
これだけの人数が一斉に逃げても、街に流通する衣服の価格が保たれていた。ならばゴーン商会で働いている奴隷の数はもっと多いはずだ。
つまり大勢の奴隷を集めて布を織らせる事で、安価な衣類を生産できていたのだろう。
「ゴーン男爵の野郎は領地こそ持ってないけど、金だけはたんまり抱えててさ。王太子様の提案で、奴隷を使った工場とかいうのを始めたんだ」
(なるほど、社長の入れ知恵って事か……)
工場制手工業は、前世の歴史だと十五世紀末頃から発達していったらしい。
文明水準としてはヴァールハイト王国と同程度だが、この世界ではまだ誰も大規模にはやっていなかったようだ。
「それにしても、布か。たしか縦糸に横糸を交互に通して編んでいくんだったっけ?」
「よく知ってるじゃないか。オマエもやった事あるのか?」
「小学生の時に家庭科で少し」
「ショウガク……?」
「あぁ、いや。何でもない」
お茶を濁す錬に、パムは首を傾げる。
「でもあれめんどくさいんだよなぁ。糸を紡いで布ができるまで何十日もかかるし」
「糸を作るところからできるのか?」
「そりゃできるさ。それができなきゃ殴られるんだから」
「殴られるのか……」
予想はしていたが酷い職場である。ゴーン商会もまたブラック企業という事だ。
「ちなみに糸はどうやって作るんだ? 綿や羊毛か?」
「綿は高級品だな。ゴーン商会でも扱ってはいるみたいだけど、アタイらが糸にしてたのはもっぱら羊毛や麻だ」
「それはどうやったら手に入る?」
「牧場で買うか、農家で買うかだな。だけどどこも専属契約してるだろうから、たぶん個人じゃ少量しか売ってくれないぜ」
「専属契約?」
「貴族とか紡糸ギルドだよ。まぁ紡糸ギルドはゴーン商会の大量生産で潰れちまったけど。織布工ギルドもそろそろやばいらしいし、今はどこもゴーン商会が独占してるだろうな」
「そうなのか……」
パムの布作りの知識を仕事に活かせるのではないかと思ったが、なかなか上手くはいかないものである。
「糸が欲しいのか?」
「欲しいっていうか、糸作りができれば商売になりそうだなって思ったんだよ」
「そこまで質を求めねーなら、イラクサでも作れるぞ」
「イラクサ?」
「知らないのか? その辺に生えてる草なんだけど」
パムは周りをキョロキョロと見回し、近くに生えていた雑草を一本摘み取る。
「これがイラクサだ」
「本当にその辺に生えてるんだな……。でもこれをどうやって糸に?」
「やり方はいくつかあるけど、まずこいつの茎の皮を剥いで、ヘラを使って中の繊維を取り出すんだ。それを洗って細かく割いて、乾燥させて、撚りを掛ければ糸の出来上がり」
「へぇ、そんなので糸ができるんだな」
「実際にやると大変だぜ? 細かい作業が多いし、草の汁が手に付くとかゆいんだよ。そうやって繊維を取り出して、糸車で糸にして、布を織るんだ。そっから先は針と糸で縫えば、ようやく服の完成さ。一着作るのに大体三ヶ月くらいかな?」
「……苦労してたんだな」
「そうさ。なのにそれだけ苦労して作ったって、アタイらの待遇は何一つ良くならねー。飯はまずいし、量も少ない。病気になっても休ませちゃくれねぇ。毎月死人が出てたけど、上の奴らはそんな事お構いなし。だから逃げたんだ。逃げて、ゴーン商会に復讐してやろうってな!」
パムは鋭い目付きで歯を軋ませる。
「もしかして、犠牲者の中に親しい人でも?」
「いたさ! 大勢! 今この瞬間だってアタイの仲間は苦しんでる!」
「助けに行かないのか?」
「助けたいさ。だけど魔法使いが相手じゃ……」
言われて錬はわかった気がした。
これは抗議活動なのだ。仲間を助けるための。
「なるほど。だからゴーン商会の服ばかり盗んでたのか」
「止めても無駄だぜ。邪魔するなら同じ奴隷のオマエらでも容赦しねぇ」
「いや、止めないよ。むしろ応援する」
錬の言葉に、パムは訝しげな表情を浮かべた。
「……アタイらの仲間になるって事か?」
「少し違う。君達のグループに所属するわけじゃなく、あくまで外部の人間として協力したい」
「外部ってなんだ? 盗んだ服をオマエらが買い取るとかか?」
「それも違う。今のやり方ではゴーン商会ではなく、街の商店に嫌がらせしているだけだ。復讐の矛先が間違っているし、いつか捕まって悲惨な目にあうだろう。だからやり方を変える事を提案する」
「何をどうするんだよ?」
「経済戦を仕掛けるのさ」
「経済戦……?」
錬はうなずいた。
「ゴーン商会は大勢の奴隷を使って、服をどこよりも安く製造販売して金を稼いでる。でもそこへもっと安い服が流通しだしたら、どうなると思う?」
「そりゃあ……服が売れなくなって、儲からなくなる?」
「そう。それが経済戦だ」
「でもどうやって……? オマエの言う通り、ゴーン商会は奴隷を大勢使って服を量産してるんだぞ?」
「心配いらない。君らがノウハウを提供してくれるならな」
服は布から、布は糸からできている。だからまずは糸の製造を機械化するのだ。
「パム。ゴーン商会以外で糸の売り先はあるか?」
「それなら織布工ギルドとかだな。一般人にも需要はあるけど、大口はギルドの方がいい」
「なるほど。じゃあジエット、自由に使える金はいくら残ってる?」
「ちょっと待ってね」
ジエットは皮袋の紐を解き、中を覗く。
「金貨一枚と小金貨四枚と……あとは銀貨がいっぱい」
「結構あるな」
「スタンピードの時の報酬でカインツ君から金貨二枚もらったからね」
パム達に協力を求めるなら、まず彼女らの生活基盤を整えてやらねばならない。
この国の物価を見ると、贅沢しなければ銅貨一枚で一食分の食糧が買える。
パムの仲間は約三十人。一日三食として、一ヶ月当たりに必要な食費は銅貨でおよそ二千七百枚。
(大銀貨にすると四枚ちょっとか。これならいけそうだ)
頭の中で計算し、錬はうなずいた。
「よし、ならパムには糸の作り方を手ほどきして欲しい。これは正式な仕事の依頼だ」
「金をくれるって事か?」
「もちろん。教えてくれている間、君らが盗みをしなくても生活できるくらいは払う。俺達には君の力が必要だ」
「アタイの力が……!?」
必要と言われた事が嬉しかったのか、パムは顔を赤くしてそっぽを向いた。
「し、仕方ねーな! あんちゃんの頼みなら手伝ってやるよ!」
***
「……盗賊がいるだと?」
副商会長から報告が来たのは、ドルエスト=ゴーン男爵が邸宅できらびやかな衣装を眺めていた時だった。
「はい。男爵様の商会を狙い撃つようにして商品を盗む者がいるとの事でございます」
「盗賊の情報は?」
「大きなローブにフードで顔を隠しているとの事で素性はわかりかねますが、獣人の可能性が高そうですな」
「獣人だと……?」
「左様です。先日平民街の系列店で被害にあった際、通りすがりの者が追いかけて盗品を取り返したそうなのですが、調べてみると獣人特有の毛が付着しておりましたので」
「獣人の盗賊となると、もしや逃亡奴隷の類いか?」
「おそらくは。以前うちの工房から数十名の獣人奴隷が逃げ出しましたので、あるいはそいつらの可能性もあるのではないかと」
「ふん。飼ってやった恩を仇で返すとは、野蛮な畜生どもめが……」
ゴーン男爵は持っていた衣装を放り、いらだたしげに壁を叩く。
「平民街に私兵どもを巡回させよ。次に盗みを働いたら即座に捕らえられるようにな」
「はっ、ただちに」
副商会長は深々と頭を下げた。
錬が気さくに手を挙げて笑いかけると、パムは口元と猫耳をひくつかせた。
今日は日曜日だったので、ジエットと一緒に貧民街へ繰り出したのだ。
「どうした?」
「どうしたもこうしたもあるか! 昨日の今日で何しに来やがった!?」
「世間話でもしようかなって」
「オマエらと話す事なんかないぞ! 帰れっ!」
「えー、でも手土産を持ってきたんだけどな」
「手土産?」
「ああ。来る途中に焼き芋が売ってたから買ってきた」
錬は麻袋に詰め込まれた焼き芋を開いてみせる。
錬の知るサツマイモとはまた違うようだが、焼きたては香ばしい匂いを放っている。
パムの喉から唾を飲み込む音が聞こえた。
「……何のつもりだ?」
「だから手土産だって」
「はんっ、オマエらの施しなんざ要らねーよ! なぁ皆!?」
「ボク欲しい……」
犬獣人の少年が耳を垂らし、すがるような目でつぶやいた。
彼だけではない。他の獣人達もよだれを垂らし、腹の虫を鳴かせている。
「オレも……」
「食べたい……」
「わ、私も欲しい……」
「オマエら本気か!?」
「だってこの三日間何も食べてないじゃん」
「パム姉、昨日も稼げなかったしさ」
「おなかペコペコだよ……」
「うぎぎ……!」
パムは顔を引きつらせ、髪を掻き毟る。
「わぁった! わぁったよ! 世間話くらいなら付き合ってやる。でも元はと言えばオマエらがいなけりゃ飯は食えてたんだからな。礼は言わねーぞ!?」
言ったところで、パムが腹の虫が鳴いた。
「とりあえず食べながら話そうか」
錬が笑って言うと、パムは悔しげに赤面するのだった。
「はい、どうぞ」
ジエットが焼き芋を配ると、獣人の子ども達は目の色を変えた。
皆、むせび泣きながらがっついている。三日食べていないというのは本当らしい。
「おいしい?」
「うっ……ふぐっ……」
「慌てて食べて喉に詰めないようにね」
一心不乱に焼き芋を食べる彼らを見ながら、錬も適当な地面に腰掛ける。
「君は食べないのか?」
「……フンッ」
ホクホクの焼き芋を手にしたまま、パムはふて腐れたようにそっぽを向く。
「それで? 何の話がしたいんだよ?」
「君らが得意な事とか聞いてみたくてな」
「得意な事……?」
「そう。何かないか?」
パムは焼き芋をひとかじりし、考え込む。
「う~ん……別にないな。布を織ったりはできるけど、別に得意じゃないしなぁ」
「布を? 作れるのか?」
「できるぜ。奴隷やってた頃は毎日織ってたし」
「そういえば君はゴーン商会で働いてたんだったか」
「アタイだけじゃないぜ。ここにいる奴らは皆アイツのところから一緒に逃げてきたんだ」
ここにいる子ども達は三十人くらいである。
これだけの人数が一斉に逃げても、街に流通する衣服の価格が保たれていた。ならばゴーン商会で働いている奴隷の数はもっと多いはずだ。
つまり大勢の奴隷を集めて布を織らせる事で、安価な衣類を生産できていたのだろう。
「ゴーン男爵の野郎は領地こそ持ってないけど、金だけはたんまり抱えててさ。王太子様の提案で、奴隷を使った工場とかいうのを始めたんだ」
(なるほど、社長の入れ知恵って事か……)
工場制手工業は、前世の歴史だと十五世紀末頃から発達していったらしい。
文明水準としてはヴァールハイト王国と同程度だが、この世界ではまだ誰も大規模にはやっていなかったようだ。
「それにしても、布か。たしか縦糸に横糸を交互に通して編んでいくんだったっけ?」
「よく知ってるじゃないか。オマエもやった事あるのか?」
「小学生の時に家庭科で少し」
「ショウガク……?」
「あぁ、いや。何でもない」
お茶を濁す錬に、パムは首を傾げる。
「でもあれめんどくさいんだよなぁ。糸を紡いで布ができるまで何十日もかかるし」
「糸を作るところからできるのか?」
「そりゃできるさ。それができなきゃ殴られるんだから」
「殴られるのか……」
予想はしていたが酷い職場である。ゴーン商会もまたブラック企業という事だ。
「ちなみに糸はどうやって作るんだ? 綿や羊毛か?」
「綿は高級品だな。ゴーン商会でも扱ってはいるみたいだけど、アタイらが糸にしてたのはもっぱら羊毛や麻だ」
「それはどうやったら手に入る?」
「牧場で買うか、農家で買うかだな。だけどどこも専属契約してるだろうから、たぶん個人じゃ少量しか売ってくれないぜ」
「専属契約?」
「貴族とか紡糸ギルドだよ。まぁ紡糸ギルドはゴーン商会の大量生産で潰れちまったけど。織布工ギルドもそろそろやばいらしいし、今はどこもゴーン商会が独占してるだろうな」
「そうなのか……」
パムの布作りの知識を仕事に活かせるのではないかと思ったが、なかなか上手くはいかないものである。
「糸が欲しいのか?」
「欲しいっていうか、糸作りができれば商売になりそうだなって思ったんだよ」
「そこまで質を求めねーなら、イラクサでも作れるぞ」
「イラクサ?」
「知らないのか? その辺に生えてる草なんだけど」
パムは周りをキョロキョロと見回し、近くに生えていた雑草を一本摘み取る。
「これがイラクサだ」
「本当にその辺に生えてるんだな……。でもこれをどうやって糸に?」
「やり方はいくつかあるけど、まずこいつの茎の皮を剥いで、ヘラを使って中の繊維を取り出すんだ。それを洗って細かく割いて、乾燥させて、撚りを掛ければ糸の出来上がり」
「へぇ、そんなので糸ができるんだな」
「実際にやると大変だぜ? 細かい作業が多いし、草の汁が手に付くとかゆいんだよ。そうやって繊維を取り出して、糸車で糸にして、布を織るんだ。そっから先は針と糸で縫えば、ようやく服の完成さ。一着作るのに大体三ヶ月くらいかな?」
「……苦労してたんだな」
「そうさ。なのにそれだけ苦労して作ったって、アタイらの待遇は何一つ良くならねー。飯はまずいし、量も少ない。病気になっても休ませちゃくれねぇ。毎月死人が出てたけど、上の奴らはそんな事お構いなし。だから逃げたんだ。逃げて、ゴーン商会に復讐してやろうってな!」
パムは鋭い目付きで歯を軋ませる。
「もしかして、犠牲者の中に親しい人でも?」
「いたさ! 大勢! 今この瞬間だってアタイの仲間は苦しんでる!」
「助けに行かないのか?」
「助けたいさ。だけど魔法使いが相手じゃ……」
言われて錬はわかった気がした。
これは抗議活動なのだ。仲間を助けるための。
「なるほど。だからゴーン商会の服ばかり盗んでたのか」
「止めても無駄だぜ。邪魔するなら同じ奴隷のオマエらでも容赦しねぇ」
「いや、止めないよ。むしろ応援する」
錬の言葉に、パムは訝しげな表情を浮かべた。
「……アタイらの仲間になるって事か?」
「少し違う。君達のグループに所属するわけじゃなく、あくまで外部の人間として協力したい」
「外部ってなんだ? 盗んだ服をオマエらが買い取るとかか?」
「それも違う。今のやり方ではゴーン商会ではなく、街の商店に嫌がらせしているだけだ。復讐の矛先が間違っているし、いつか捕まって悲惨な目にあうだろう。だからやり方を変える事を提案する」
「何をどうするんだよ?」
「経済戦を仕掛けるのさ」
「経済戦……?」
錬はうなずいた。
「ゴーン商会は大勢の奴隷を使って、服をどこよりも安く製造販売して金を稼いでる。でもそこへもっと安い服が流通しだしたら、どうなると思う?」
「そりゃあ……服が売れなくなって、儲からなくなる?」
「そう。それが経済戦だ」
「でもどうやって……? オマエの言う通り、ゴーン商会は奴隷を大勢使って服を量産してるんだぞ?」
「心配いらない。君らがノウハウを提供してくれるならな」
服は布から、布は糸からできている。だからまずは糸の製造を機械化するのだ。
「パム。ゴーン商会以外で糸の売り先はあるか?」
「それなら織布工ギルドとかだな。一般人にも需要はあるけど、大口はギルドの方がいい」
「なるほど。じゃあジエット、自由に使える金はいくら残ってる?」
「ちょっと待ってね」
ジエットは皮袋の紐を解き、中を覗く。
「金貨一枚と小金貨四枚と……あとは銀貨がいっぱい」
「結構あるな」
「スタンピードの時の報酬でカインツ君から金貨二枚もらったからね」
パム達に協力を求めるなら、まず彼女らの生活基盤を整えてやらねばならない。
この国の物価を見ると、贅沢しなければ銅貨一枚で一食分の食糧が買える。
パムの仲間は約三十人。一日三食として、一ヶ月当たりに必要な食費は銅貨でおよそ二千七百枚。
(大銀貨にすると四枚ちょっとか。これならいけそうだ)
頭の中で計算し、錬はうなずいた。
「よし、ならパムには糸の作り方を手ほどきして欲しい。これは正式な仕事の依頼だ」
「金をくれるって事か?」
「もちろん。教えてくれている間、君らが盗みをしなくても生活できるくらいは払う。俺達には君の力が必要だ」
「アタイの力が……!?」
必要と言われた事が嬉しかったのか、パムは顔を赤くしてそっぽを向いた。
「し、仕方ねーな! あんちゃんの頼みなら手伝ってやるよ!」
***
「……盗賊がいるだと?」
副商会長から報告が来たのは、ドルエスト=ゴーン男爵が邸宅できらびやかな衣装を眺めていた時だった。
「はい。男爵様の商会を狙い撃つようにして商品を盗む者がいるとの事でございます」
「盗賊の情報は?」
「大きなローブにフードで顔を隠しているとの事で素性はわかりかねますが、獣人の可能性が高そうですな」
「獣人だと……?」
「左様です。先日平民街の系列店で被害にあった際、通りすがりの者が追いかけて盗品を取り返したそうなのですが、調べてみると獣人特有の毛が付着しておりましたので」
「獣人の盗賊となると、もしや逃亡奴隷の類いか?」
「おそらくは。以前うちの工房から数十名の獣人奴隷が逃げ出しましたので、あるいはそいつらの可能性もあるのではないかと」
「ふん。飼ってやった恩を仇で返すとは、野蛮な畜生どもめが……」
ゴーン男爵は持っていた衣装を放り、いらだたしげに壁を叩く。
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