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第四章
69:エネルギーに革命を!(2)
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数時間が経ち、辺りが闇に染まった頃。
錬とジエットはエスリの許可を得て、自由研究会のある東館の屋上へ出た。
板張りの地面に先ほど作った装置を置き、錬は夜空に輝く白い月を見上げる。少しだけ雲があるが、実験に支障はなさそうだ。
「これ……魔石と魔光石を銅線で繋いで輪にしてるの?」
ジエットが実験装置を覗き込む。
「そうだ。並びとしては、魔光石、枯渇した魔石、枯渇した魔石だな」
「枯渇した魔石って……明るく光ってるから魔力はあるんじゃないの?」
「いや、最初はなかったぞ。元は使用済みの魔石だ」
魔石は一度空になったらもう使えない。それがこの国において広く知られた一般常識である。
魔力の再充填が可能な事は錬が実験で確認しているが、それには使える魔石を消費しなければならないためやる意味はない。
だがそこで、月の光を使って魔石に魔力を充填する技術が現れたらどうなるか?
今までゴミとして捨てられていたものが、丸ごと資源になるのである!
「これはエネルギー革命の始まりだ。まさしく戦力差がひっくり返るほどの大発見だぞ……! ソーラーパネルならぬ、ルーナーパネルだな!」
「……ずいぶん楽しそうだね?」
「楽しいさ」
いつになく興奮しながら、錬は夜空の月を背に笑った。
「君が不安になるのはわかる。他の王子王女と比べて圧倒的に不利な状況だし、命が懸かっているからなおさらだ。だけど、君には俺が付いてる」
その言葉で、ジエットは視線を上げた。
「君を支持する人は少ないかもしれないが、他でもない俺が君を支持してる。魔石鉱山はなくとも、都市鉱山はある。王都中のゴミ捨て場と、この屋上こそが俺達にとっての魔石鉱山なんだ」
「あんちゃーん! 来たぜー!」
ふとパムの声が階下から届いた。
屋上から下を覗き見れば、木箱や麻袋を担いで魔法学園へ入ってくる貧民たちの姿があった。
「あの人達は……?」
「パムに頼んだんだ。枯渇した魔石があれば持ってきて欲しいって」
「それで、こんなに……?」
ジエットは驚きを隠せない様子だった。
それもそうだろう。何しろ貧民達はざっと百人以上いるのだから。ジエットの窮地を救うために、夜中にこれほど大勢が集まったのである。
「全員、君が救いたいと判断した人達だ。利害はあったかもしれないが、その上で彼らはジエットを支持してくれている。これでもまだ不安か?」
「……」
ふるふる、と小さく首を横に振るジエット。
「なら、テラミス王女への返答は決まったか?」
「……お断りします?」
「そうだ!」
錬は固く拳を握り締め、彼女の前に突き出した。
「俺が欲しけりゃ奪いに来い、返り討ちにしてやるよ。とでも書いてやれ!」
「そう……そうだね! うん、そうするよ! よぉし、見てろお姉様……っ!」
元気を取り戻したのか、ジエットはいつものやんちゃな少女の顔で笑うのだった。
***
王宮で一騒動あった翌朝。
ゾルダート伯爵領にある聖堂教会の客室でテラミス=ディーネ=ヴァールハイトが目覚めると、侍女のメリナがお盆を手に入ってきた。
「テラミス様、お食事でございます」
寝ぼけ眼でベッドから起き上がり、お盆に載せられた白パンとチーズに野うさぎのロースト肉をジト目で睨む。
「……いらないわ。今朝はあまり食欲がないの」
「ではお飲み物はいかがですか?」
「いただくわ」
渡されたグラスを煽り、果実水で乾いた喉を潤す。
それから、お盆に残る封書に目を向けた。
「それは?」
「先ほど届きました、ジエッタニア様からの封書でございます。おそらく昨日送られました書状の返答かと」
「読み上げなさい」
「はい」
メリナはテラミスの目の前で封を開き、羊皮紙を広げる。
「これは……ずいぶんと汚い字ですね。本当にジエッタニア様が書かれたのでしょうか?」
「あの子は先日まで奴隷の身だったもの。きっと字を書く事もあまりなかったのではないかしら。それよりさっさと読みなさい」
「はい。親愛なるテラミスお姉様へ。このたびはお手紙をくださり誠に――」
「……前置きはいいわ。重要そうな部分だけ読んでちょうだい」
「それでは――『俺が欲しけりゃ奪いに来い、返り討ちにしてやるよ』だってさ。振られちゃったね、かわいそうなお姉様。ジエッタニアより、愛と憐憫を込めて。追伸、レンはあげないよ? ――以上です」
グラスが音を立てて割れた。慌ててメリナが破片を拾い集める。
「あんの愚妹がぁ……っ!」
青筋を浮かべて歯を軋ませ、テラミスは枕に拳を叩き付けた。
「いいわ、そこまで言うならどんな手を使ってでもレンを奪い取ってやろうじゃない……。メリナ!」
「はい」
「王立魔法学園に使徒を差し向けなさい!」
「暗殺するのですか?」
テラミスは首を横に振った。
「レンを拉致するの。殺しは厳禁よ」
「かしこまりました」
メリナは胸に手を当てて一礼し、拾った破片を手に下がる。
「ジエッタニア……わたくしを愚弄した事、後悔させてあげるわ!」
錬とジエットはエスリの許可を得て、自由研究会のある東館の屋上へ出た。
板張りの地面に先ほど作った装置を置き、錬は夜空に輝く白い月を見上げる。少しだけ雲があるが、実験に支障はなさそうだ。
「これ……魔石と魔光石を銅線で繋いで輪にしてるの?」
ジエットが実験装置を覗き込む。
「そうだ。並びとしては、魔光石、枯渇した魔石、枯渇した魔石だな」
「枯渇した魔石って……明るく光ってるから魔力はあるんじゃないの?」
「いや、最初はなかったぞ。元は使用済みの魔石だ」
魔石は一度空になったらもう使えない。それがこの国において広く知られた一般常識である。
魔力の再充填が可能な事は錬が実験で確認しているが、それには使える魔石を消費しなければならないためやる意味はない。
だがそこで、月の光を使って魔石に魔力を充填する技術が現れたらどうなるか?
今までゴミとして捨てられていたものが、丸ごと資源になるのである!
「これはエネルギー革命の始まりだ。まさしく戦力差がひっくり返るほどの大発見だぞ……! ソーラーパネルならぬ、ルーナーパネルだな!」
「……ずいぶん楽しそうだね?」
「楽しいさ」
いつになく興奮しながら、錬は夜空の月を背に笑った。
「君が不安になるのはわかる。他の王子王女と比べて圧倒的に不利な状況だし、命が懸かっているからなおさらだ。だけど、君には俺が付いてる」
その言葉で、ジエットは視線を上げた。
「君を支持する人は少ないかもしれないが、他でもない俺が君を支持してる。魔石鉱山はなくとも、都市鉱山はある。王都中のゴミ捨て場と、この屋上こそが俺達にとっての魔石鉱山なんだ」
「あんちゃーん! 来たぜー!」
ふとパムの声が階下から届いた。
屋上から下を覗き見れば、木箱や麻袋を担いで魔法学園へ入ってくる貧民たちの姿があった。
「あの人達は……?」
「パムに頼んだんだ。枯渇した魔石があれば持ってきて欲しいって」
「それで、こんなに……?」
ジエットは驚きを隠せない様子だった。
それもそうだろう。何しろ貧民達はざっと百人以上いるのだから。ジエットの窮地を救うために、夜中にこれほど大勢が集まったのである。
「全員、君が救いたいと判断した人達だ。利害はあったかもしれないが、その上で彼らはジエットを支持してくれている。これでもまだ不安か?」
「……」
ふるふる、と小さく首を横に振るジエット。
「なら、テラミス王女への返答は決まったか?」
「……お断りします?」
「そうだ!」
錬は固く拳を握り締め、彼女の前に突き出した。
「俺が欲しけりゃ奪いに来い、返り討ちにしてやるよ。とでも書いてやれ!」
「そう……そうだね! うん、そうするよ! よぉし、見てろお姉様……っ!」
元気を取り戻したのか、ジエットはいつものやんちゃな少女の顔で笑うのだった。
***
王宮で一騒動あった翌朝。
ゾルダート伯爵領にある聖堂教会の客室でテラミス=ディーネ=ヴァールハイトが目覚めると、侍女のメリナがお盆を手に入ってきた。
「テラミス様、お食事でございます」
寝ぼけ眼でベッドから起き上がり、お盆に載せられた白パンとチーズに野うさぎのロースト肉をジト目で睨む。
「……いらないわ。今朝はあまり食欲がないの」
「ではお飲み物はいかがですか?」
「いただくわ」
渡されたグラスを煽り、果実水で乾いた喉を潤す。
それから、お盆に残る封書に目を向けた。
「それは?」
「先ほど届きました、ジエッタニア様からの封書でございます。おそらく昨日送られました書状の返答かと」
「読み上げなさい」
「はい」
メリナはテラミスの目の前で封を開き、羊皮紙を広げる。
「これは……ずいぶんと汚い字ですね。本当にジエッタニア様が書かれたのでしょうか?」
「あの子は先日まで奴隷の身だったもの。きっと字を書く事もあまりなかったのではないかしら。それよりさっさと読みなさい」
「はい。親愛なるテラミスお姉様へ。このたびはお手紙をくださり誠に――」
「……前置きはいいわ。重要そうな部分だけ読んでちょうだい」
「それでは――『俺が欲しけりゃ奪いに来い、返り討ちにしてやるよ』だってさ。振られちゃったね、かわいそうなお姉様。ジエッタニアより、愛と憐憫を込めて。追伸、レンはあげないよ? ――以上です」
グラスが音を立てて割れた。慌ててメリナが破片を拾い集める。
「あんの愚妹がぁ……っ!」
青筋を浮かべて歯を軋ませ、テラミスは枕に拳を叩き付けた。
「いいわ、そこまで言うならどんな手を使ってでもレンを奪い取ってやろうじゃない……。メリナ!」
「はい」
「王立魔法学園に使徒を差し向けなさい!」
「暗殺するのですか?」
テラミスは首を横に振った。
「レンを拉致するの。殺しは厳禁よ」
「かしこまりました」
メリナは胸に手を当てて一礼し、拾った破片を手に下がる。
「ジエッタニア……わたくしを愚弄した事、後悔させてあげるわ!」
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