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第五章
91:トロイの木馬
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混乱が収まった後、ひとまず獣人達には砦の周辺で待機してもらう事となった。
三千人もの難民を砦へ招くのは難しいため、聖堂騎士達が手分けしてテントを設営して食糧や水を運んでいる。
錬達はその間、砦の一室で何度目かの会議をしていた。
「俺達は以前、魔石の流通制限で窮地に陥れられました。魔力のない俺達にとって魔石は生命線でしたからね。でも程度の差こそあれ、それはハーヴィンだって同じはずです」
ハーヴィンとテラミスは王都中の魔石を競うようにして買い占めていた。
魔力持ちにとっても魔石は魔力源となるため、一つでも相手より多く持てばそれだけ継戦能力が高まるのだ。
そこを叩く。
「しかしバエナルド伯爵領まではかなり距離があるぞ。今から準備して間に合うか?」
カインツの苦言にゼノンも同調した。
「ここから伯爵領までは徒歩なら一週間はかかる。先の戦で逃げた者どもは、逃げ切るため何としてでも道中で騎竜を入手するであろう。そうなればこちらが軍を動かすより早く着くと見た方がよいはずですな」
「こっちは竜騎兵がいっぱいいるだろ。あいつらが今から走れば余裕じゃねーのか?」
パムの主張に皆が顔を見合わせる。
「パム、軍を動かすってのはそう簡単な話じゃない。ローズベル公爵家の竜騎兵は五百人いるから、動かすにはその人数分の準備をしないといけないんだ。人や騎竜の食糧や水の準備が必要だし、武器や防具の点検もしないといけない」
「だったら少人数で行けばいいんじゃねーか!?」
カインツはため息を漏らした。
「やれやれ、この猫獣人は魔力だけでなく頭まで空っぽのようだな」
「はぁっ!? ケンカ売ってんのかオマエ!?」
「相手は魔石鉱山を有する伯爵軍だぞ。少人数でどうやって戦えというのだ」
「そ、そんなもん……あんちゃんならバシッとやってくれるだろ!」
「バカを言え。いくら大賢者などと呼ばれていようとそんな奇跡のような真似ができるわけあるまい。だろう、レン?」
「――そうだな。少人数ならいけるかもしれない」
「は?」
唖然とするカインツ。他の皆も絶句している。
「……本気か貴様?」
「本気も本気だ。だって敵は奴隷を肉壁にするような奴らだぞ? 軍隊を引き連れたって、どうせまともに戦えない。だったら少人数でいく方がいいだろ」
「ほらみろ! あんちゃんならできるって言ってるぞ!」
「……ふん」
ギロリと睨まれたが、錬は素知らぬ振りでごまかしておいた。
「貴様の理屈はわかったが、具体的にどうやるつもりだ? おそらくだが相手は城や砦にいると思うぞ」
「まぁ戦争中だしな」
以前見たバエナルド伯爵の屋敷にいてくれれば楽だが、そんなはずもないだろう。
「三属性の魔石銃を使えば砦の破壊くらいは簡単だろうけど、人質も巻き込むからそれはできない。となれば潜入だな」
「それなら使徒を使ってはいかがかしら?」
テラミスの提案に、錬は目を閉じて熟考する。
使徒は聖堂教会の暗部だ。暗殺や諜報を主として行う者達なら、潜入は得意分野だろう。
しかしそれ以上の妙手が錬の中にはあった。
「サポートに何人か同行してもらうのはありだと思います。でもやっていただく事はあまりないかもしれません」
「……というと?」
「トロイの木馬だ」
前世ではマルウェアとして知られる名だが、元はギリシャ神話のエピソードである。
ギリシャが守りの強固なトロイと戦う際、巨大な木馬に兵を忍び込ませて内部に侵入し敵を打ち倒した事からその名で呼ばれるようになったそうだ。
「トロイとは……?」
首を傾げる彼らを前に錬は席を立ち、胸に手を当てた。
「要するに俺を人質にする作戦です。俺は内部に潜入できるし、人質も殺されない」
「レン!?」
ジエットが青ざめた。
椅子を蹴倒すようにして立ち上がり、涙目で錬を見つめてくる。
「だめだよ、そんな――」
「話は最後まで聞いてくれ」
手で制すると、ジエットは口を噤んだ。
「君の言いたい事はわかる。何度も俺ばかり危険な真似はするなって言うんだろ?」
「……うん」
「君の言う通り、俺だけではこの作戦の成功は難しい。だからジエット、一緒に来てくれ」
「私も?」
「そうだ。ジエットの助けが必要なんだ。手を貸してくれないか?」
錬が真面目な顔で言うと、ジエットは一転、満面の笑みを作った。
「任せて!」
三千人もの難民を砦へ招くのは難しいため、聖堂騎士達が手分けしてテントを設営して食糧や水を運んでいる。
錬達はその間、砦の一室で何度目かの会議をしていた。
「俺達は以前、魔石の流通制限で窮地に陥れられました。魔力のない俺達にとって魔石は生命線でしたからね。でも程度の差こそあれ、それはハーヴィンだって同じはずです」
ハーヴィンとテラミスは王都中の魔石を競うようにして買い占めていた。
魔力持ちにとっても魔石は魔力源となるため、一つでも相手より多く持てばそれだけ継戦能力が高まるのだ。
そこを叩く。
「しかしバエナルド伯爵領まではかなり距離があるぞ。今から準備して間に合うか?」
カインツの苦言にゼノンも同調した。
「ここから伯爵領までは徒歩なら一週間はかかる。先の戦で逃げた者どもは、逃げ切るため何としてでも道中で騎竜を入手するであろう。そうなればこちらが軍を動かすより早く着くと見た方がよいはずですな」
「こっちは竜騎兵がいっぱいいるだろ。あいつらが今から走れば余裕じゃねーのか?」
パムの主張に皆が顔を見合わせる。
「パム、軍を動かすってのはそう簡単な話じゃない。ローズベル公爵家の竜騎兵は五百人いるから、動かすにはその人数分の準備をしないといけないんだ。人や騎竜の食糧や水の準備が必要だし、武器や防具の点検もしないといけない」
「だったら少人数で行けばいいんじゃねーか!?」
カインツはため息を漏らした。
「やれやれ、この猫獣人は魔力だけでなく頭まで空っぽのようだな」
「はぁっ!? ケンカ売ってんのかオマエ!?」
「相手は魔石鉱山を有する伯爵軍だぞ。少人数でどうやって戦えというのだ」
「そ、そんなもん……あんちゃんならバシッとやってくれるだろ!」
「バカを言え。いくら大賢者などと呼ばれていようとそんな奇跡のような真似ができるわけあるまい。だろう、レン?」
「――そうだな。少人数ならいけるかもしれない」
「は?」
唖然とするカインツ。他の皆も絶句している。
「……本気か貴様?」
「本気も本気だ。だって敵は奴隷を肉壁にするような奴らだぞ? 軍隊を引き連れたって、どうせまともに戦えない。だったら少人数でいく方がいいだろ」
「ほらみろ! あんちゃんならできるって言ってるぞ!」
「……ふん」
ギロリと睨まれたが、錬は素知らぬ振りでごまかしておいた。
「貴様の理屈はわかったが、具体的にどうやるつもりだ? おそらくだが相手は城や砦にいると思うぞ」
「まぁ戦争中だしな」
以前見たバエナルド伯爵の屋敷にいてくれれば楽だが、そんなはずもないだろう。
「三属性の魔石銃を使えば砦の破壊くらいは簡単だろうけど、人質も巻き込むからそれはできない。となれば潜入だな」
「それなら使徒を使ってはいかがかしら?」
テラミスの提案に、錬は目を閉じて熟考する。
使徒は聖堂教会の暗部だ。暗殺や諜報を主として行う者達なら、潜入は得意分野だろう。
しかしそれ以上の妙手が錬の中にはあった。
「サポートに何人か同行してもらうのはありだと思います。でもやっていただく事はあまりないかもしれません」
「……というと?」
「トロイの木馬だ」
前世ではマルウェアとして知られる名だが、元はギリシャ神話のエピソードである。
ギリシャが守りの強固なトロイと戦う際、巨大な木馬に兵を忍び込ませて内部に侵入し敵を打ち倒した事からその名で呼ばれるようになったそうだ。
「トロイとは……?」
首を傾げる彼らを前に錬は席を立ち、胸に手を当てた。
「要するに俺を人質にする作戦です。俺は内部に潜入できるし、人質も殺されない」
「レン!?」
ジエットが青ざめた。
椅子を蹴倒すようにして立ち上がり、涙目で錬を見つめてくる。
「だめだよ、そんな――」
「話は最後まで聞いてくれ」
手で制すると、ジエットは口を噤んだ。
「君の言いたい事はわかる。何度も俺ばかり危険な真似はするなって言うんだろ?」
「……うん」
「君の言う通り、俺だけではこの作戦の成功は難しい。だからジエット、一緒に来てくれ」
「私も?」
「そうだ。ジエットの助けが必要なんだ。手を貸してくれないか?」
錬が真面目な顔で言うと、ジエットは一転、満面の笑みを作った。
「任せて!」
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