エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第五章

105:輝ける未来へ

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 久しぶりの王都に、錬は心が躍る想いだった。

 ローズベル公爵領も決して悪くはなかったが、やはり商店の規模も人々の喧騒も大きく違う。

 何より貧民街が、読んで字のごとく貧民の街――ではなくなっていた。

 かつて崩れかけの小屋が林立し、ボロを着た者達が住んでいたその場所は、今や平民街と大差ないほど発展している。一時期はハーヴィンの暴政により治安が悪化していたようだが、テラミスは後始末をよくやってくれたようだ。

 そんな賑やかな街並みを一人で散策していると、例の服屋で見慣れた猫獣人の後ろ姿を見つけた。

「やあ、パム」

「あんちゃん!?」

「おお、大賢者様じゃねぇか。戻って来てたのか」

 パムと店主がそろって振り返り、笑顔を見せる。

「大賢者様はやめてください……。それよりパムは何してるんだ?」

「そうそう、あんちゃん聞いてくれよ。服屋のおっちゃんと布の仕入れ値の交渉をしてんだけど、それじゃだめだの一点張りでさー」

「だめに決まってんだろ。こいつぁ商売なんだぜ?」

 何やら話が紛糾しているようで、仕方なく錬は仲裁に入る事にした。

「パム……あんまり値切るなよ?」

「違う違う! 逆だ。猫の嬢ちゃんはもっと安く買えって言いやがるんだよ」

「はい……?」

 想像の斜め上の話に錬はキョトンとしてしまった。

「今までのメーワク料ってやつだ。素直にアタイの好意を受け取って子どもに良いもん食わせてやれよ、おっちゃん!」

「ありがてぇ話だが、それにしたって相場の半分近くはやりすぎだぜ?」

「利益が出るんだから別にいいだろ」

「慰謝料は別でもらってるのにさすがにだめだっての。なぁ大賢者様よ?」

「いやぁ……どうでしょうねぇ、はは……」

 どうやら違う意味で紛糾していたらしい。なんだかんだでちゃんと和解はできたようで、一安心である。

 これ以上面倒事に巻き込まれまいと、錬はそそくさとその場を後にするのだった。





 王立魔法学園は復旧が進み、授業は再開されていた。

 錬が向かった時にはすでに放課後だったが、魔獣研究会に顔を出すとノーラと目が合った。

「レンさん!」

「なんだ、やっと戻ったのか貴様」

 どういうわけかそこには椅子に座って本を読むカインツの姿もあった。読んでいるのも魔獣の絵が載った手描きの図鑑のような本である。

「なんでカインツがここにいるんだ?」

「貴様が大砂蟲を倒したと聞いてな。奴がいなければおそらくスタンピードはもう起きない。ならばシャルドレイテ侯爵家の者として、歴史あるこの魔獣研究会を社会に役立てるため活動再開させるべきだと思ったのだ」

「……という建前なんだな? ノーラさん」

「そうですね」

 朗らかに笑うノーラである。

 カインツは不機嫌そうに眉を寄せたが、別段否定するつもりもないらしい。

「それよりレンさん、聞いてください! すごい発見をしたんですよ!」

「何を発見したんだ?」

「魔獣が属性石を食べると変異種になるという事実から、色々と調べてみたんです。そしたらすごい事がわかったんです!」

「だから何を……?」

 興奮して要領を得ないが、それだけの大発見をしたのだろう。

 ノーラは深呼吸して心を落ち着けた。

「つまりですね。火炎石や結晶貨などの属性石は、過去に存在した魔獣の化石ではないかという仮説を立てたんです。一般的な魔獣が体内に核石を持つように、火の魔獣は火炎石を体内に持っていたのではないかと。それを検証するため海外の書物をカインツ様に取り寄せていただいたところ、魔石鉱山には火の魔獣がかつて生息していたという証拠があったんです!」

「なるほど……」

 魔石鉱山にかつて魔獣がいたなら、核石がゴロゴロ発掘されなければおかしい。しかし見つかるのは火炎石ばかりだ。そう考えればノーラの仮説は的を射ていると思える。

「火の魔獣が魔石鉱山に……か。もしかしたらそいつらが生きていた頃は活火山だったのかもな。って事は、結晶貨は空の魔獣が、水の属性石は海の魔獣が持ってたりするのか?」

「……!」

 一瞬ノーラが目をかっぴらいた。

 ずり落ちた眼鏡を直す事もせず、慌てて持っていた写本を紐解く。

「ノーラさん? 急にどうしたんだ……?」

「いえ、レンさんの仮説を調べているんです。水の属性石がもし本当に海にあるなら、王国の未来を左右するほどの大発見ですよ。急いで資料を集めないと……!」

 ノーラは取るものも取らず、大慌てで魔獣研究会を後にする。

 残された錬は、半ば呆けたように彼女の出て行ったドアを見つめていた。

「なぁ、カインツ。ノーラさんって性格変わった……?」

「いや、あれが本来の性格だな。昔から学者肌なのだ、ノーラは。宮廷魔法使いなんぞよりそちらを目指した方が案外大成するかもしれん」

 そう言って苦笑するカインツは、まるで憑き物が落ちたかのようだった。





 一通り王都を堪能した翌日の朝。

 錬は王宮で開かれる戴冠式に出席する事となった。

 赤絨毯が敷かれた大聖堂を白い法衣で着飾ったジエットが歩き、主祭壇の前に立つテラミスが厳かに王冠を被せる。

 列席しているのはエスリやカインツらジエッタニア王女派の貴族に加え、ゾルダート伯爵やゼノン団長などテラミス王女派の貴族や聖堂教会の者達だ。

 バルコニーの外も含めて基本的に皆貴族ばかりだが、中には新米宮廷魔法使いリックのような平民出の者も少数ながら参列していた。胸元に勲章らしきものが付けられている辺り、本当に筆頭魔法使いになれたのかもしれない。

 大司教がジエットに向けて王としての覚悟を問い、貴族達の祝辞を受ける。

 そして最後にあいさつするとなった時、ジエットはアラマタールの杖を地面に打ち付けた。

「皆に告げておきましょう。私が王位に付いてまず成すべき事、それは奴隷制度の廃止です」

 静まり返る皆を一望し、錬に向かって柔らかく微笑む。

「例えばあちらにいる大賢者レンは、財産も、家柄も、魔力も、人権も、何一つ持たない奴隷の身でありながら、数々の魔法具を生み出しました。生まれの如何や一点の資質のみで、人はその後の生き方を運命付けられるべきではありません。私は必ずやり遂げます。この世界から奴隷という地位を排除してみせると! ヴァールハイト王国の未来のために!」

「おおおお――――ッ!!!!」

 拍手喝采が巻き起こり、ジエットを称賛する声が上がる。

 そうして無事ジエッタニア女王陛下が誕生し、戴冠式は幕を下ろした。





 その後、ジエットと二人で王宮を歩いて回る事にした。

 石造りの城内はどこを歩いても花瓶や絵画などの芸術品が飾られており、外に出ても色とりどりの花に覆われた庭園が広がっている。

 これらを重機もなしに人力で造り上げたのだから、この世界の人々はある意味すごいと言える。

 そうして童心に還って探検していると、ジエットが楽しげに錬の方を向いた。

「皆応援してくれてたね」

「ハーヴィン派だった貴族は全員バルコニーの外に追いやられてたからな。今後ジエットが何かしようとする時、立ちはだかるのもそいつらだ。君は反対する連中をなだめすかして政策を進める事になる」

 以前ハーヴィンも言っていたが、奴隷とは労働力であり、奴隷制度とは経済基盤でもあるのだ。それを取り上げるとなれば、今まで恩恵を受けてきた連中が猛反発するのは容易に想像がつく。

「そっか、大変なのはこれからなんだね……」

「いやぁ大丈夫じゃないか?」

「えっ?」

 ジエットが目を丸くした。

「奴隷が労働力というなら、それを機械に置き換えてしまえばいい。連中にも恩恵があるんだから反対する理由なんてすぐに吹き飛ぶさ」

 魔石エンジンと付与魔法スイッチにそれを可能とするポテンシャルがある事は前世で経験済みだ。それに人が手作業でやるよりも遙かに効率的にできる事は紡績機や自動織機が証明している。

 全部を手作業でやっていたこの世界にしてみれば、それらはオーバーテクノロジーもいいところ。もはや旧態依然の奴隷制度など風前の灯火と言っていい。

「ま、俺一人じゃ手が足りないけどな。エスリ先生から学園で教鞭を取らないかとも言われてるし、魔法具の作り手を増やしていけば何とかなるだろ」

「王都中が賢者だらけになっちゃうね」

 ジエットはやんちゃな子どものような笑顔になった。

「頼りにしてるよ? 大賢者様」

「お任せください、女王陛下」

「ジエットでいいよ」

「君もな」

 ジエットは照れたように顔を赤くし、そっと錬の頬に唇を押し付けた。



 了



 ***************



 ここまで読んでくださってありがとうございました。

 楽しんでいただけたなら嬉しいです。



 えいちだ
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感想 6

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みんなの感想(6件)

fazeey
2023.04.04 fazeey

完結、お疲れ様でした。

次回作楽しみにしております。

2023.04.04 えいちだ

お付き合いいただきありがとうございました!
また次回作でお会いしましょう。

解除
fazeey
2022.10.17 fazeey

『死中に活』で路はいらないかと。
文系は苦手で微妙に間違って覚えているとい設定なら別ですが。

2022.10.17 えいちだ

誤字脱字報告ありがとうございます!
間違って覚えていたので勉強になりました!

解除
らせつ
2022.09.26 らせつ
ネタバレ含む
2022.09.26 えいちだ

ありがとうございます!
なんせブラック企業ですから、それはもう悪どい人間に違いないですよね!

解除

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