召喚勇者の俺が剣聖かラスボスを敵に回した時の生還法を述べよ。ただし俺はレベル1とする!

えいちだ

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第一章

01:伝説の始まり

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 冬の寒空の下、雄々しくそびえる赤レンガの建物。
 有名大学の門前で俺は赤本片手に立つ。
 ついにこの日がやってきた。
 そう――大学受験だ。
 この日のため、俺はこれまで必死にがんばってきた。
 好きなゲームは封印し、読む本は教科書と参考書のみ。
 予習復習は毎日欠かさず八時間やった。友達と遊ぶ時間なんてもちろんない。部活動なんてもってのほかだ。
 そんな修行僧のような苦しく窮屈な生活も、この受験に合学すれば終わりを告げる。
 親の期待にも応えられ、晴れて俺は自由の身となるのだ。
 無論合格の保証はない。
 教科書に載っていたあらゆる公式が頭に記録されているため受かる自信はあるものの、世の中に絶対なんてものは存在しない。だから否応なしに緊張してしまう。
 他の受験生達と共に敷地内を歩き、試験会場を目指す。
 大丈夫だ。俺ならやれる。合格できる!
 いざゆかん、夢のキャンパスライフをつかみ取りに!
 俺は瞑目して深呼吸を一つ。そしておもむろに試験会場の引き戸を開けた。
「ようこそお越しくださいました。勇者様」
 いきなり知らない女の子に笑いかけられ、俺は硬直してしまった。
 金髪碧眼に司祭とかが着ていそうなダボッとした白い服の子だ。
 なんだろう。外国人のコスプレイヤーか……? というか勇者ってなんだ、俺に言ってるの?
 いや、そんな事よりさっきまで大学の廊下にいたはずだ。なのに今はなぜか白い壁の荘厳な部屋に立っている。
「ええっと……ここって試験会場で合ってますか?」
「いえ? こちらは聖アルデム教団の大聖堂ですよ」
「あ、そうですか……すみません間違えました」
 頭を掻きながら踵を返す俺。しかし後ろも白い壁で覆われている。
 窓から見えるのは美しい草原と森と湖だ。しかも結構高い。たしか一階の廊下を歩いていたはずなのに、どうなってんだ?
「間違えてなどおりませんよ、勇者様」
「……勇者様って、もしかして俺の事ですか?」
「はい。わたくしは勇者様を召喚した聖アルデム教団の聖女、ラーティと申します。どうぞお見知りおきを」
「はぁ……。俺は大野勇おおのいさむです」
「オオノイ=サム様?」
「いや、名前は勇です。大野は苗字で」
「イサム様ですか。良いお名前ですね」
「……どうも」
 生返事をする俺。
 なんだこれ? ドッキリか? イタズラにしては手が込んでるけど、試験日の受験生にやるとか鬼畜じゃねぇ?
 そんな俺の心境などどこ吹く風とばかりに、ラーティと名乗った少女はにっこり笑った。
「イサム様。急な事で驚かれるのも無理はありません。ですが魔王デイザールを打ち倒し、世界に平和を取り戻すため、勇者様のお力をお貸し願いたいのです」
「はぁ……」
「ご協力いただけますか?」
「はぁ……」
「ありがとうございます! とっても嬉しいです!」
 あ、まずい。驚きすぎてよくわからない事に巻き込まれそうになってる。
「えっと……要するに俺は魔王を倒す勇者として異世界に召喚されたって事ですか?」
「仰る通りです」
「喚んだのが君?」
「はい。あ、わたくしの事はどうぞラーティとお呼びくださいね。イサム様」
「……あの、元の世界に戻してくれません?」
「もちろんお戻し致しますとも。魔王デイザールを倒せば、召喚契約により元の世界へ戻す事ができます」
「いや、受験があるので今すぐ戻りたいんですけど……」
「残念ながらそれは召喚契約により不可能です。でもご安心ください。魔王討伐を果たした暁には無事お戻しする事ができます!」
 そうか……魔王を倒せば元の世界に……ね……。
「なん――」
「はい?」
「なんっつー事してくれたんだっ!?」
「あんっ」
 勢い余ってラーティの肩を引っつかんでしまったが、今の俺にはそんな余裕などありはしない。
「いけません、イサム様。そういう事はもっと親密な関係になってからで……」
「そういう事言ってんじゃないんですよ! 受験があるんですよ!!」
「ジュケン……とは何でしょう?」
「受験は受験だよ! テストだよ! 大学へ入学するための登竜門! そんな日になんで魔王討伐なんかしなきゃならないんですか!?」
「魔王デイザールは人類を滅ぼさんと、各国に魔物の群れを放っています。このままでは罪なき人々が皆殺しになってしまうのです」
「いや、そっちにも事情はあるんでしょうけど、なんで俺!? 別の人に頼んでくださいよ!」
「この召喚にお応えくださったのはイサム様です。あなたに世界の命運がかかっているのです」
「受験には俺の命運がかかってんだけど!?」
「なんと! そのような大事を差し置いてまでわたくしの召喚にお応えくださったとは……! 我らが守護神アルデム様、感謝致します」
 くっそ、このやろ! 勝手に都合良く解釈して神様拝んでんじゃねぇぞオイ!
 そんな時、突然足元に無数の幾何学模様が浮かび上がった。
「えっ……これは!?」
「今度はなんだよ!?」
 一瞬にして視界が光に染まり、まぶしさに目を瞑る。
 数十秒後、光が消えて再び目を開くと、驚きの声が上がった。
「おお! 召喚できたか!」
「はっ。成功したようです、陛下」
 俺の前で話しているのは、黒ローブを着た魔法使いみたいな爺さんと、それから王様っぽいおじさんの二人だ。
 さっきまでラーティと二人だけで、こんな連中はいなかったはず。それによく見れば風景も変わっている。草原と森と湖に囲まれた白い壁の大聖堂にいたのに、今度は石造りの広間にいるようだった。
「よくぞ来てくれた、勇者達よ!」
 王様っぽいおじさんは俺とラーティを見ながら腕を広げた。
「余はレイマール王国の王、エルドラ=ゼント=ルーヴィス=レイマールである!」
 なげぇ。五秒で忘れそうな名前だ。
「ラーティさん、あんたの知り合い?」
「……」
 ふるふる、とラーティは首を横に振る。彼女の王というわけではないらしい。
「貴殿らを召喚したのは他でもない! 邪帝王ドロメア=バスティスソロス=イア=ゾルトゥーラを打ち倒し、この世界を救って欲しいからだ!」
 なんかさっきも似たような話を聞いたな……。魔王が邪帝王になってるけど、親戚か何かかな? あと名前なげぇよ。
 ちらりと見ると、案の定ラーティはぷるぷる肩を震わせていた。
「あの……お尋ねしてよろしいですか?」
「もちろんだ。何でも聞くがよい」
「もしかしてわたくし達は、勇者として召喚されたのでしょうか……?」
「まさに」
「異世界に?」
「貴殿らのいた世界と異なるという意味では、その通りだな」
「なんて事をしてくれたんですか!?」
 ラーティは目を吊り上げて声を荒げた。
「どうしてわたくし達がその……邪帝王? とやらを倒さなければならないのです!?」
「邪帝王ドロメアは我ら人類を滅ぼさんと邪悪なる魔物どもを幾度も送り込んで来ている。このままでは人々が皆殺しにされてしまうのだ」
「そちらも事情はあるのでしょうが、わたくし達は元の世界で魔王デイザールを倒すという使命があるのです! こちらの意志を無視した勝手な異世界召喚は神が許しませんよ!」
「えぇ~!?」
 ぶったまげる俺。
 盛大にブーメランを投げたなこの子……。その理屈だと俺の意志を無視した異世界召喚で今頃神様ぶち切れてんじゃねぇの?
 だが世界の命運が懸かっているとなれば王様もすぐには引き下がらない。
「勇者殿、何卒頼む! 我ら人類の未来のため、邪帝王ドロメアを――がはっ!?」
「!?」
 突然王様の土手っ腹に穴が空き、俺は目を剥いて仰天する。
 そこには死体を継ぎ接ぎしたような薄気味悪い触手モンスターがいた。
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